あー死ぬなこれ(諦め)   作:クイーンズの坊や

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よく誤字報告で「放射性のクモ」じゃなくて「放射線を浴びたクモ」じゃね? って来るんですが、映画「スパイダーバース」の中で「放射性のクモに噛まれた時から~~」というお決まりの自己紹介があるので誤字ではありません

さて、初投稿です


古い聖堂のブロシェット

 スパイダーマンが好きだった。大学時代の友人に連れられて映画館に赴き、スクリーンで躍動する彼を見て心の底から惚れ込んだ。それから公開された映画はほぼ全部見たし、コミックだって買って読んだ。

 

 そのせいだろうか、こうして自分がスパイダーマンになった今、自分の記憶がグチャグチャになることがある。俺自身が戦ったことが無いヴィランの事を、自分自身が倒したのではないかと思ってしまったりとかな。

 

 とはいえ、それを悪い事だと俺は思わない。しばらくすれば間違いに気付くことが出来るし、もう二度と見る事の出来ない作品としてのスパイダーマンを思い出させてくれるから。

 

 スパイダーマンは……ピーター・パーカーは、偉大だ。彼らの声も顔も、もう既にうっすらとしか覚えていない。けれど確かに、彼らは俺が勇気を出すキッカケになる。

 

「俺も、そんなヒーローになれるのかねぇ」

 

 クライスラー・ビルの天辺からNYを見下ろしながらそんな事を呟く。なんともまぁ、良い眺めだ。一生の内にこんな場所から自分の生まれ育った街を眺められる人間が何人居るだろう。

 

 俺は、幸運だ。力もある。

 

「だから、そんなヒーローにならなきゃなんだよなぁ」

 

 ふと後ろに気配を感じた。守れなかった人達の気配、1人1人を明確に感じ取った。きっと、彼らの望みなんだろうなと思う。望みに、期待に応えて……俺はスパイダーマンを、親愛なる隣人を全うしなきゃ、なんだろう。

 

「おっと」

 

 スパイダーセンスと遅れて警察無線に感アリ。どうやらまた俺の出番らしい。ここから30ブロック先で強盗だと。俺の近くで強盗なんて運がないね。

 

「まったく本当に、退屈しないねこの街は」

 

 念のためウェブシューターにボンベをセットしなおす。うん、ガタが来てる様子も無いね。継戦可能っと。

 

 深く大きな深呼吸をして、クライスラー・ビルから背中を下にして倒れるように飛び降りる。窓に映る赤と青のイケてるスーパーヒーロー! 我ながらカッコいいね本当に。

 

「ふぅ……よし、やってやるとしようじゃないか」

 

 

 


 

 

 

「うおっ!?」

 

 全身が刺すような感覚に襲われて飛び起きる。グッスリとなんか懐かしい夢を見ていた気がするけどちょっと全部吹き飛んだ。

 

「この……これ、この感覚――冗談だろおい」

 

 一瞬何かの病気を疑った、だがかれこれ十数年この体に付き合ってきた俺には解る。この全身を逆なでされるような感覚、冗談みたいだがスパイダーセンスだ。

 

 嘘だろってくらいあまりにも特異。この前の一件やメイ叔母さん達の時のような痛みは無い。だが全身にこんな風に影響を及ぼされるのは間違いなく初めてで……間違いなく、何かとんでもないことが起ころうとしてることは想像に難くない。

 

「あークソ! ナノテクスーツはまだ修復が終わってねぇってのに!!」

 

 とりあえずノーマルスーツを急いで着る。朝食は――適当にそこらへんに転がってたバナナの皮を、半ば引き千切るように剥いて口に放り込む。

 

 バナナを咀嚼しながら窓を開け、試作品も含めた各種ガジェットを装備する。ナノテクスーツも修復途中とはいえあって損は無いはずだからウェブシューターに格納しておく。これで最後にマスクを被れば。

 

「ハハッ今日もカッコいいぜ、流石スパイダーマン」

 

 鏡を横目に窓から飛び出せ、スパイダーマン。今もうるさいこのスパイダーセンスに従い、最短距離を最高速でぶち抜いていけ。

 

 

 


 

 

 

「噓でしょ……!?」

 

 ミサイルだ。遥か上空、米粒よりも小さいけれど確かにミサイルが落下してきている。あの角度と速度、推定距離から計算すると――狙いはトリニティ総合学園だろう。とりあえずスパイダーセンスに流されるまま、出来るだけ速度を出すようにしてビルの谷間をスイングしていたが、それどころではないと一息に大きく空へ上がる。

 

 落下地点はとっさに見つけたビルとビルの隙間が10m程度かつ、左右どちらのビルも高さが同じくらいの小道。

 

 まずはビルの屋上と同じ高さになったタイミングで両方のビルに糸を射出し、しっかり掴む。

 

「そしたらあとは地面まで落下して――――着地のタイミングで全力で跳ぶッ!」

 

 限界まで張り詰めた糸の張力と、僕の超人的な脚力。この2つを組み合わせた大跳躍。気分は人間パチンコだね、アメイジングスパイダーマンのクレーンの中をこうやって射出されていくシーンめっちゃ良いよね。

 

 それはそれとして。当然、かなり高く飛びこそしたがあんな空高くにあるミサイルには届かない。だけど、この速度を乗せた状態であればこういう時の為に作っておいたガジェットが良い感じにミサイルに到達できるはずだ――僕の計算が正しければだけどね。

 

「行っておいで、ピム!!」

 

 ガジェットの名前はピム・ガジェット。小型のハッキングガジェット……お分かりの通り、モチーフはアントマン。虫系のヒーロー大好きなんだよね、僕。仮面ライダーとかも、良いよね。

 

「さぁて、ミサイルはピムに任せるとして僕は僕にできることをしなきゃね」

 

 すでに上向きの力は重力加速度によってゼロを越えてマイナス、つまり落下し始めている。だからスカイダイビングのように体を畳んで落下速度を上げ、落下の直前に再びスイングを開始する。アメスパのスイング良いよね。

 

 残念なことにピム・ガジェットにできるのはせいぜいがミサイルの爆発阻止。残念なことに爆発を阻止したところで、あのミサイルが高速で落下する質量爆弾に変わるだけ。どちらにしろ危険なのには変わりない。

 

 それに記憶が正しければだけど――

 

「今日はエデン条約の締結日、だったはず」

 

 エデン条約の発起人は今は行方不明の連邦生徒会長で、その連邦生徒会長の代理がシャーレ。つまるところ、恐らく落下地点に”先生”が居る。僕と同じキヴォトスの外から来た存在で、僕と違って一般人。ミサイルが爆発しなくても落下に巻き込まれた時点で死ぬだろう。

 

 ウェブシューターのボタンを押す。残量僅かなナノマシンスーツを頭部周辺に展開する。とりあえずHUD類と計算類はこっちに負担してもらう。

 

「起きてカレン! ミサイルの落下地点を常に予測してて!」

《了解しました、周辺地図のダウンロードを開始》

 

 ピム・ガジェットは軌道を可能な限り逸らさないようにしつつ起爆装置だけ潰すようにしてある。つまり落下地点はあのミサイルを撃った下手人の狙った場所にピンポイント。今日がエデン条約の締結日である事も考えると恐らく落下地点は――

 

《ミサイルの落下地点はトリニティ総合学園の古聖堂付近だと予測されます》

「予想通り、全く喜べないけどね! 全く!!」

 

 スイングしながら体を捻る。少しでも速度を出せ、少しでも早く着け。クソッタレ、絶対に、全員助けろよスパイダーマン。

 

 

 


 

 

 

 厳かな雰囲気の古聖堂。まだしばらく暇だからと”先生”はぶらついていた。やれゲヘナの風紀委員が取り締まろうとしたり正義実現委員が増援呼んで委員長(最高戦力)が来てしっかり叱って行ったりとなんともまぁ古聖堂の雰囲気とは似合わないどこかギスギスしつつも緩いような雰囲気。

 

 すでに両方の代表は到着した。報道によればゲヘナの風紀委員長も間もなく到着するとか。

 

”このまま何事もなく終わるといいんだけど――”

「あれ、なんだろうあれ」

 

 と、先生が呟いた時。一際大きなステンドグラスに何か影が映っているのに誰かが気が付いた。だんだん、だんたんと大きくなる影。

 

 ステンドグラスの割れる音。アイエエエエエエッ! スパイダーマン=サンのアンブッシュめいたダイナミックエントリーッ!!

 

”え――”

「厳かな雰囲気のところ突然悪いね!!」

「なんだ!? トリニティの連中の奇襲か!?」

「ゲヘナの連中でしょう!?」

「僕はどっちでもないんだけど!! それはそれとしてちょっと失礼!」

 

 キヴォトスの生徒は頑丈だ。それはもう頑丈だ。だから今日はちょっと雑に扱わせてもらう。

 

「カレン」

《救助対象者の弾道計算及びミサイルの落下時間計算は完了済みです、HUDに表示します》

「ありがとう、それと残りのガジェットも総動員して古聖堂を中心に既に仕掛けられた爆薬が無いかの探索、排除もさせて」

《了解しました》

 

 スパイダーセンスに頼った半ば脊髄反射ともいえる行動をカレン(AI)を用いて確実なものにする。爆薬の探索をさせているのに関しては完全にNYでの経験から来ている。あんなミサイルを使うようなヴィランは大体爆発を派手にさせようとするものだからね。

 

「うひゃぁ!?」

「お母さんにも投げられたことないのに!!」

 

 ウェブをくっつけて投げ飛ばす、ウェブをくっつけて投げ飛ばす。次々にスパイダーマンは生徒を古聖堂の外に投げ飛ばしていく。外から見てる生徒達もビックリ。だって急に周囲が糸だらけになったかと思ったら上から生徒が降って来るんだから。

 

 1人1人――という訳ではなく、時には数人まとめて投げてたのであっと言う間に全員投げ終わり。さて残るは先生1人。

 

”え、えぇ……?”

「ごめんね”先生”? 説明は後でするから、ちょっと失礼するよ」

”うわぁ!? え、ちょぉッ!?”

 

 先生を片腕で、尚且つ出来るだけ優しく抱き上げるスパイダーマン。紳士とかではなく単純にギークでナードだから女性に触れるのが怖いだけである。その顔でギークでナードはちょっと無理ある気もする。

 

”いきなりなんな――うぇへぇっ!?”

 

 いきなり生徒を投げるわ自分を抱き上げるわでなんだお前はと文句を言おうとスパイダーマンの顔を見る先生。そんな彼のマスク顔の向こうに落下してくるミサイル。流石の先生もこれにはビックリ。

 

「どうして僕がこんな事するか解った? それじゃ、口閉じといてね舌噛んじゃうから」

”!!”

 

 口を閉じてコクコクと頷く。その頷きを見たかどうかのタイミングでスパイダーマンは駆け出した。

 

 

 


 

 

 

 轟音。衝撃波と瓦礫を背中に受けながら古聖堂から飛び出した。

 

「なに今の!?!?!?!?」

「うわぁ! コイツ!! コイツが私を投げたんだ!!」

「コイツって……え、スパイダーマンじゃない?」

「私スパイダーマンに糸付けてもらった! もうこの服洗わない!!」

「古聖堂になんか刺さってる……!?」

「”先生”お姫様抱っこされてない?」

 

 賑やかすぎるなちょっと。まぁ、間に合わなければこの賑やかさが無かったと考えれば悪い気分はしない。とはいえまだスパイダーセンスはビンビン、はー全くこっちの世界も暇しないね。

 

「それじゃあ、おろすね」

”は、はい……”

「怪我は……なさそうだね、良かった。それじゃあ生徒の皆のことは任せるよ」

”は、はい……”

「多分だけどもう一波乱あるからね」

”は、は……え?”

 

 ムズムズ(スパイダーセンス)。いつの間にか顔の高さに握られた右手には1発の弾丸が入っていた。手の平がちょっと痛いし、普通にヘッドショットは僕死んじゃうからやめてほしいんだけどなぁ。

 

 見れば白ずくめのガスマスク集団がワラワラと出てきている。ヴィランかな?

 

「やぁやぁガスマスクのお嬢さん達、マスク越しでも分かるくらい不機嫌だけどどうしたのかな? ミサイルも爆薬も作動しなくてビックリしてたり?」

「――やれ」

「あれ、もしかして図星かな」

 

 はぁ、本っ当に暇しないね。

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