《Testament of the Last Warden - 世界が歩み始めた日》 作:ケン3ヴァルデン
それは、誰にも読まれることのなかった記録。
血と灰と、崩れた文明の残骸の中で、ただ一人――書き続けた者がいた。
その男の手記は、やがて瓦礫の下に埋もれ、
誰にも開かれることなく、永い時を耐えた。
人々が剣を取り、言葉を失い、魔を恐れた時代――
それでも、その書は黙して在り続けた。
『ヴァルデン手記』第一行
「滅びの灯しにて」
これは、声なき者の記録。
過ちを繰り返し、名を棄てた者の、最後の独白だ。
私はアレク……・ヴァル……私はかつて……
(文字が掠れている。紙の上に、滲んだ墨痕が残る)
私達は、いや私は生み出した。
この広く、広大な世界を覆い尽くす火を。
その火に、名を与えた。守護、秩序、進歩……そして、救済。
人々は信じていた。知は光だと。秩序は救済だと。
されど、燃え尽きたのは敵ではなく、私達自身であった。
信じた理は、ただの業と成り果て。
あれは光ではなかった。火だった。
すべてを焼き、残るものを試みる試練の炎となった。
造り出した者たちの手は、いつしか命を計り、選別する秤となった。
私はかつて神に憧れ、神を模した。
神のふりをした………。
(文字が掠れている。紙の上に、滲んだ墨痕が残る)
ゆえに、私はこの筆を執り、残そうと思う。
これは懺悔ではない。これは、証だ。
己の手で火をつけた者が、それでも何かを信じた記録。
見届ける者すらいなくなった、終わりの果てに遺す、最後の言葉。
……願わくば、
この手記が届く先に、まだ歩く者が在らんことを。
『ヴァルデン手記』第一行
「灰より歩むものへ」
これは、名もなき傍観者の記録。
世界が焼け落ちたそのあとで、私はただ、歩いていた。
何かを為すでもなく、為せるとも知らず、ただ、見つめていた。
かつてのある男が手記に残した言葉がある。
「希望を託す」と。
……だが、あの男の言う希望とは何だ?
誰もが死に、声が絶え、空が黒く染まったあとに、
空っぽの世界で、自らの行いを呻くだけの男の記した言葉に。
私は、ただ拾い集めた。
いつかの誰かの怒り、かつての誰かの涙、どこかの誰かの祈り。
それらを、こうしてあの男と同じ様に手記として書き記してきた。
それが例え無駄な事だとしても。
私は、語らない。導かない。
ただ、見たことだけをこの手記に記す。
これは記録だ。
いつかの過ちの記憶と、これからの歩みの証。
そして、世界が再び歩き出した――その始まりの、証明でもある。
『再編ヴァルデン手記』
その名の通り、これは“やり直し”の手記だ。
あの男が世界を作り、壊した。その同じ轍を踏ませぬために。
誰かがまた、希望と呼ばれるものに、手を伸ばせるように。