《Testament of the Last Warden - 世界が歩み始めた日》   作:ケン3ヴァルデン

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夜明け

瓦礫と灰が残る城下の広場に、徐々に人々が集まり始めていた。

夜になっても混乱はまだ冷めやらず、いくつかの通りで火の手が上がり、暴徒と秩序の境界があいまいになっていた。

 

だが、確かな変化も、そこにあった。

 

王が倒れた。

支配の象徴が、崩れ去った。

 

空白は暴力を呼ぶ。

だが、炎を止めるのもまた、意志を持った者の声なのだ。

 

エリオットは、剣も玉座も持たぬまま、その広場の中心に立っていた。

鎧はない。王冠もない。だが胸元には、蒼く揺れる灯火がある。

その両脇に、セリスとフレイ。

 

知の導を掲げた女と、地べたから立ち上がった男。この三人の姿に、人々は静かに視線を向けていた。

しかし恐れもある。

王子であったエリオットが、本当に「変わった」のか、見定めようとする視線。

 

そんな中で、彼は一歩、前に出た。

声は震えていない。だが、かすかな緊張がその胸にあるのは明らかだった。

群衆のざわめきが思わず止む。

 

「……皆。聞いてほしい」

「私は、この国の王子だった。

あの王の血を引き、あの玉座に座ると定められていた。けれど私は、王にはならない。

いや──なるとしても、それは、かつての“王”とは違うものだ」

 

彼は深く息を吐き、真っすぐに前を見据える。

 

「この国は、今まで“支配”されてきた。

声を奪われ、血を流し、ただ従うことが正義とされてきた。だがそれは、間違っていたんだ。

火は、人を導くためにあるものだった。支配ではなく、寄り添うために燃える灯火であるべきだった」

 

そのとき、彼の胸の火が一層強く揺れた。

 

「だから私は、提案する」

 

その声は、確信を帯びていた。

 

「王という存在に、絶対の権力は与えない。

 この国の“民”が声を持ち、王と共に歩む組織──“評議会”を立ち上げる。私はその一席に過ぎず、あくまで民と並び立つ者である。知の代表、民の代表、技術と魔法の代表……この国に生きる全ての人が、未来を語るための椅子を持つ」

 

止んでいたざわめきがぽつりぽつりと広がる。

驚き。困惑。そして、希望の気配。

 

「私は……その民の一人として、この国を再び築く。焼けた街に新たな火を灯し、誰かの涙に気づける国を作りたい」

 

振り返ると、セリスが微笑んでうなずいた。傷だらけでなお、輝く瞳でしっかりと言葉を見据えている。

 

「私たちは過去に目を閉じてはならない。かつての末路を、王の暴走を、忘れてはならない。

記録し、語り継ぎ、間違わぬように歩むこと……それが、未来をつなぐということなのです」

 

次にフレイが歩み出る。

彼の声は粗野だが、確かな熱がこもっていた。

 

「……こいつは王には向いてねえ。だが……誰よりも、王に相応しい。こいつは人の言葉に耳を傾けるし、間違いを認めることもできる」

 

「俺は民衆の代表として、評議会に立つ。エリオットがまた間違ったら、俺が殴ってやる。……それが、ほら、兄貴分の役目ってもんだろ?」

 

群衆の中から、笑いが漏れる。

 

少しずつ、だが確実に。

広場に集まった人々の顔に、表情が戻り始めていた。

 

幼子を抱いた母が、そっと頷く。

老兵が剣を杖代わりに、静かに拳を握る。

 

その光景を見ながら、エリオットは最後に言った。

 

「──灯火は、皆にある。私だけじゃない。

君たち一人ひとりが、火を持ち、それをどう燃やすか選べるんだ」

 

「だから、この国の未来を……共に創ろう」

 

その瞬間、誰かが拍手をした。

それに続き、次第に大きな拍手が広がっていく。

 

風が、蒼い火を揺らした。

もはやそれは王家の魔法ではない。

人の意志が生んだ、新たな時代の“灯火”だった。

 

そしてこの日──

王なき王国は、民と共に歩み出した。

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