《Testament of the Last Warden - 世界が歩み始めた日》 作:ケン3ヴァルデン
だが少女は祈れず、癒せず、ただ雷を呼んだ。
「これは浄化だ」と声もなく叫びながら、燃え尽きるほどの怒りと共に。
少女にとって、力は復讐の剣。
果たしてその力は願いか呪いか。
彼女が抱く怒りは、守るための光か、それとも破壊の閃光か。
祈りを拒んだ刃は、静かに森を哭かせる。
焼かれた森の声は、まだ祈りを覚えている。
雷に染まったその手が、いつか誰かを癒す日が来るのなら――
世界は少女にその力の意味を問い続ける。
これは、力に溺れた者が力と向き合う、たった一度の祈りの記録。
雷鳴の彼方、答えなき問いが轟く。
静かに哭く森が見届ける、再生の予兆。
第二章プロローグ
《ヴァルデン手記》第二章
「雷鳴の森に祈りは沈む」
灰の空の下、森は声を失い、雷は嘆きを轟かせる。それは、滅びゆく世界の祈りだったのかもしれない。
ここにはひとりの少女がいた。彼女は祈っていた──否、祈るというよりは、ただ繰り返す所作。名はない。呼ぶ声もなければ、応える声もない。
彼女は森の奥で、土を抱きしめ、小さな苗を守っていた。森は彼女に言葉をかけず、雷は彼女の心に届かなかった。
だが、私は知っていた。彼女の祈りは、世界に届かぬ、儚き残響だということを。
それはかつての遺産、失われた調和の残滓。そして、その祈りは決して再生を願うものではなかった。
我々は力を創り出した。だがその力は、制御なき暴走となり、
この少女もまた、力だった。
灰に沈む森の奥深く、私はひとつの影を追った。影は静かに揺れ、声を発さず、ただ存在を消し去ろうとしていた。
その姿は、数多の“少女”のひとり。数を成す祈りの断片。忘却の化身。彼女らは、かつての我らの結晶であった。完璧を求め、調和を志し、世界の傷を癒すべく設計された。
だが、その祈りは鎖となり、檻となり、やがて呪いとなった。彼女らは言葉を知らず、名前を持たず、ただひたすらに祈りを続ける。祈りが祈りでなくなった瞬間、彼女らは、もはや生きてはいなかった。
それは、祈りを拒む者。雷を纏い、怒りを宿し、破壊の先に意味を求めるもの。
その気配は雷鳴の間に潜み、森の静寂を裂く。祈りの声なき世界において、新たな声が生まれつつあるのだと。
我々が創りし“祈り”は、破れ、滅び、静かにその幕を閉じる。だが、力は残り、刃となり、雷となり、再び世界を揺らすだろう。
いつの日か、誰かがそれを呼び覚ます。
私はただ記す。
記すことで、何かを繋ぐために。
雷鳴は、やがて“祈りなき嵐”となり、世界の深淵を穿つ。それが災いか、救いか。まだ誰も知らない。
それが希望となるか、呪詛となるかは、未来の誰かに委ねられている。
かつて奇跡を日常に変えた。
空を飛び、大地を耕し、病を癒し、命を延ばした。
わたしたちは神に成り代わった。
私たちは“理解できるもの”しか信じなくなった。
人々は、そこから「祈ること」を忘れた。
奇跡は当然となり、恩寵は権利に変わり、
祈ることより、制御することを選び、
与えることより、奪うことを選んだ。
これは、祈りと共に歩むべきだった。
それを切り捨てた日、私たちは“獣より賢い怪物”になった。
祈りが戻る日は来るのだろうか。
それとも――人類は、祈る資格すらも失ってしまったのだろうか。