《Testament of the Last Warden - 世界が歩み始めた日》   作:ケン3ヴァルデン

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第二章エピローグ

 

《再編ヴァルデン手記》

 

―雷は今も、世界の縁を照らす―

 

ひとつの国が、王を失った。

正しき意志の剣が、腐敗を断ち切ったあの日。

だが私の記録には、それと並行して燃え上がったもうひとつのものがある。

それは灯火ではなく雷だった。

 

革命の喧騒が南方で巻き起こる頃、北の森にもまた、ひとつの咆哮が響いていた。

天に裂け目が生まれ、大地は赤い稲妻に焼かれ、逃げた者たちは“神の怒り”と震えた。

 

静寂の森に、またひとつ灯が生まれた。

それは神ではなく、魔でもなく、ただ人として生きようと足掻いた一人の少女の名だ。

 

彼女の名は、リン・イゼリア・ナヴェラ。

雷の落とし子。

紅嵐の神。

畏敬と共に名付けられた自らの名を冠する地の中心に立った彼女は、決して最初から救いを望んでいたわけではなかった。

 

その歩みは祝福ではなかった。

幾度となく人を拒まれ、己の力を疎まれ、

それでも尚、彼女は自らの意志でその地に立った。

誰の命令でもなく、誰の賛美でもなく。

 

私は思い出す。

あの紅い雷がこの世界を走った時――

あれは我々が作り上げた“理の枷”を焼き尽くす光だった。

 

我々にとっても雷は破壊の象徴だった。

その音は祈りを焼き尽くし、命の意味すらもかき消した。

 

雷もまた、言葉を持ち、心を映すものだったのかもしれない。

彼女は怒りの中に立ち、力の中で溺れ、そして祈りに触れた。

祈ることを拒んだかつての者と同じように。 

 

いや、祈れなかった者が、いつしか祈りを知っただけなのだ。

 

その地に集った者たちは、彼女を“神”と呼んだ。

だが私の眼には、彼女は“ただの少女”に映っていた。

迷い、傷つき、悔い、涙し、

それでもなお、目を逸らさずに在り続けた者――。

 

力とは何か。

祈りとは何か。

浄化とは何を指し、命の価値とはどこにあるのか。

 

答えは与えられなかった。

されど、少女は歩みを止めなかった。

 

紅い雷――

それはかつて制御しきれず手放した“超えた技術”であり、そして今は、一人の少女の意志を映す祈りのかたちとなった。

 

雷は、未だ世界の縁に留まっている。

革命の光も、森の稲妻も、同じ空に繋がっている。

誰もが祈りを忘れ、誰もが力に怯えるこの世界で、わずかな者たちが、わずかな意思を貫いた。

 

森に再び光が灯る。

失われた対話が戻り、生命がその流れを取り戻し始めた。逃げ惑っていた民は、ひとつの名の下に集い始めた。

 

イゼリア。

それは少女の名であり、雷の名であり、

そして――

「祈りを知った者」の記憶そのものだ。

 

そしてその記録の断片を、

私は静かに綴ることにする。

もしこの記録を、遠い未来の誰かが読むのなら、願う。

 

彼女を、神としてではなく、

ただ一人の“選ばなかった者”として記憶して欲しい。

風の声が止んだとき、

雷の言葉だけが、遠くでまだ、鳴っているのだから。

 

選ばれたのではない。

選び続けた者だった。

 

―私はその記録をここに

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