《Testament of the Last Warden - 世界が歩み始めた日》   作:ケン3ヴァルデン

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刃の矛先

 

 

 転送の眩い光が消え、眼前に広がるのはかつての王都――混乱と戦火に包まれた市街地だった。瓦礫の山、逃げ惑う民、そして空に交差する赤と蒼の炎。

 

 「これは…」

 ティリアは一歩踏み出し、言葉を失う。

 

 セイロスはすぐさまドワーフたちと共に周囲を見回すと、近くで防衛線を張っていた衛兵に駆け寄った。

 

 「状況は!」

 「セイロス様!?なぜここ?…いえ、教徒どもと魔族が混ざって街を荒らしてます!現在指示系統は乱れ、民の避難も中途半端です!」

 

セイロスがいる事に驚愕する衛兵だがドワーフ達とティリアを見て何かしらの魔法を使っていると即座に判断して状況を伝える。

 

 「……通信球は生きているな」

 

 セイロスは腰から魔力通信球を取り出すと、魔力を流し込む。

 『セリス!セイロスだ!ドワーフの魔法でドワーフの一団と共に国へ戻ってきた、状況は混乱している。合流地点を指示してくれ!』

 

 通信の向こうでセリスが返す。

 『ドワーフの魔法?…後で聞くわ。今評議会のメンバーを地下通路に誘導してる。旧図書館跡へ向かって。そこから城内に戻るわ。』

 

 「ティリア、行くぞ。君の力が要る……」

 

 その時だった。

 

 「ティリア」

 

 声は、建物の隙間からぬるりと這い出るように現れた男のものだった。

 長い銀髪、男とも女ともつかぬ端正な顔立ち――レド。

 その手には黒く光る短剣が握られていた。

 

 「ひさしぶりだね」

 「レ――」

 

 振り返ったティリアの胸元に、刃が深々と突き刺さった。

 

 「っ!!」

 「ティリア!!!」

 

 セイロスの叫びが響く。

 即座に走り寄り、倒れかけたティリアを抱き留める。レドは何か呪文のようなものを口にしながらもう一撃を振るおうとするが――

 

 「やらせるかよォ!!」

 ドワーフの一人が斧を振るい、レドを跳ね除けた。

 

 「なんだこいつ……普通じゃねぇぞ!肉が……うねってやがる……!」

 

 セイロスは震える手でティリアの胸元から血のにじむ短剣を抜き、急所を逸れていたことを確認する。

 

 「大丈夫、致命傷じゃない……っ!」

 

 そして、顔を上げ、レドを睨みつけた。

 

 「君は……何者だ。」

 

 レドはゆらりと立ち上がり、顔に笑みを浮かべたまま何も言わず、指先から黒い影を這わせてくる。

 

 「3人ほど力を貸してくれ!こいつを、この場で仕留める!!」

 「望むところだ!」

 「他の者は、評議会の護衛へ! セリスたちを守ってくれッ!!」

 

 命を託す叫びと共に、魔力と鋼と意志が交錯する戦いの幕が、静かに、だが確かに切って落とされた――。

 

 

 瓦礫に背を預け、セイロスは震える手でティリアの胸の止血処置を施していた。

 応急の布を押し当てながら、もう片手には魔力を込めた光球――攻防のための小術を連続して放つ。敵の位置を測り、仲間の援護と牽制を同時にこなす――それはもはや“学者”の域を超えていた。

 

 「……ティリア、生きろ。絶対に生かす……!」

 「……セイ、ロス……?」

 

 うっすらと瞼を開けたティリアに声をかける余裕すらない。次の瞬間、怒号と金属音が響いた。

 

 「今だッ! 挟めッ!!」

 

 ドワーフの二人が左右からレドに斧を振るった。片や火花を散らす斧刃、片や重々しい踏み込みで石畳を割る突撃。だが――

 

 「……救いは……影の中から……祝福は……終焉の果てに……」

 

 レドは奇怪な呟きを口にしながら、身体を溶かすようにすり抜ける。

 風のような、影のような、明らかに“肉体”とは異なる動き。

 

 「くっ……こいつ……ッ!」

 

 ドワーフの一人が振るった斧を地に振り下ろし、振動で足場を崩そうとするが、それすらもレドは影と一体となって滑るようにかわした。

 

 「救世主は来た……黒き紋章は啓示……そして……この身もそのために……」

 

 ぶつぶつと呟くその声はまるで壊れた詩のようで、聞く者の心を削る。

 その隙に、レドの背後から黒い影が伸び、槍のような形となってセイロスとティリアに向かって飛来する。

 

 「させるかァッ!!」

 

 残ったドワーフの一人が体を張ってその影を受け止める。全身を強化した鉄鎧に黒い影が突き刺さり、音もなく装甲が腐食していく。

 

 「こいつ……ただの影じゃねぇ……魔法か、呪いか……!」

 「踏みとどまってくれ!」

 

 セイロスが即座に魔法陣を描き、ドワーフの防御に干渉して腐食を緩和する。

 同時に左手から放たれた光の槍がレドに向かって一直線に飛ぶ。

 

 レドは槍に向き直り、軽く指を鳴らした。

 

 「――その光は、もう古い」

 

 言葉と共に、闇がねじれ槍を呑み込む。光が影に飲まれ、まるで最初から無かったように空間から消失した。

 

 「……っ、やはりこれは……!」

 

 セイロスの額に汗が伝う。

 彼の放った魔法が通じない。いや、“魔法の法則そのものが侵されている”。

 

 「セイロス、こいつは“魔族”か!?」

 ドワーフが叫ぶ。

 

 「そうだ!外見はエルフでも、魂の構造が歪んでいる!操られている……もしくは……融合している!」

 「いい加減にしろォ!!」

 

 斧を握ったドワーフが、怒号と共に真っ向から切りかかる。レドは呟きながらも口元に笑みを浮かべ、影を鞭のように振るって応じる。

 

 血が舞い、石畳が割れ、影が伸びて光を覆う。その中でセイロスは――手を止めない。

 ティリアの手を取り、再び魔力を練り、準備を整える。

 

 「せめて……君だけはっ!」

 「……」

 

 かすかにティリアの唇が動く。

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