《Testament of the Last Warden - 世界が歩み始めた日》 作:ケン3ヴァルデン
【再編ヴァルデン手記】
門番はついに、その扉を開いた。
誰が為に。何の為に。
語られざる使命を胸に、ただ、扉を開いた。
それは人知の届かぬ禁忌の機構。
あらゆる種が知らずして拒んできた、
最初の扉。
だが、鍵はずっとそこにあった。
集合体精製機、精霊を生み出す装置。
かつて病を癒すものでも、力を与えるものでもなかった。
しかし彼らはそれに未来を見出した。
彼女は遙か昔、誰にも祈られぬままにその座を捨てた。
祈られぬ神は、守護者にすらなれない。
だから彼女は選んだのだ。
後に続く者へ、その雷を託すことを。
終わりが来る、世界に。
だが、始まりもまた、そこから生まれる。
古き禁忌は未来への架け橋となり、
赤黒き炎に焼かれた蒼い英雄は、人々の願いと共に立ち続けた。
誰もが“救世主”を欲した。
だがそれは、もはや誰か一人の名ではない。
人類そのものが、試されている。
それが、この世界に灯った最後の希望か、あるいは新たなる絶望か。
それすらも、未だ知る者はいない。
人はーー覚醒へと至った。
*
傷は深く、癒えぬ者もいたが、それでも朝は訪れる。風は穏やかに流れ、遠くで鍛冶槌の音と、精霊の囁きが交じり合う。
そんなある日の中庭。
セイロスの背に、声が飛ぶ。
「ねえ、セイロス」
「……うん?ああ、ティリアか。どうかしたかい?」
振り返った彼の手には、書類の束がある。
だがティリアはそれには目もくれず、腕を組んで彼をじっと見つめた。
「…エルフ相手には“変質者”みたいに熱心なのに、ドワーフにはそんな態度じゃなかったよね」
「ふふ、観察眼が鋭いね」
セイロスは鼻で笑い、肩をすくめた。
「美というのはね、種族ごとに異なる。エルフは可憐で美しい。まるで精霊がそのまま姿をとったように繊細だ。それに比べてドワーフはその筋骨と鍛錬の技、手にした鉄槌に宿る誇りが美しいんだよ」
「……へぇ?」
「人には人の、ドワーフにはドワーフの、エルフにはエルフの美がある。それに好みの問題でもある。僕は君たちエルフが好きなんだ。」
セイロスはさらりと、詩を朗読するように言ってのけた。ティリアは少しの間、ぽかんとして彼を見つめていたが――
ふいに顔をそらし、耳まで赤くして言った。
「~~~っ! やっぱり変質者じゃない!」
そう叫んで踵を返したティリアの耳は、ずっと真っ赤なままだった。
セイロスは肩をすくめ、歩き出した。
*
――暗い。
その場所は、どこまでも沈んだ闇だった。
灯の一つも点らないのに、そこには無数の黒い鏡が並び黒い眼のようにこちらを睨んでいる。
金属の匂いと、焼け焦げたなにかの残り香。かすかに聞こえる、何かの稼働音。
そして、その中心。
「……足りない……まだ足りない……」
呻くような声が、低く、どこか歪んだリズムで漏れ続ける。
ひとりの男が、深い椅子に沈んでいた。
背中は丸まり、身体は痩せ、髪は抜け落ち。
その手――いや、爪はすでに赤黒く染まり、親指からは血が滴っていた。
それでも彼は、なおも爪を噛むことをやめない。
「種の……限界を超えるには……」
「血ではない……思考でもない……記録の外に……在る……!」
ぶつぶつ、ぶつぶつ、脈絡もなく呟き続ける男の胸元には、朽ちかけた名前が揺れていた。
「Dr. I. Mazov」
仕事忙しくて更新出来んズラ