《Testament of the Last Warden - 世界が歩み始めた日》   作:ケン3ヴァルデン

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第四章:残響の向こう側
第四章プロローグ


 

 

「残響の向こう側」

我々は、知によって全てを支配できると信じていた。

炎の流れさえ、天の巡りさえ、意志によって計算できると。

そして、それが正しさだと思っていた。

 

 

だが今、私はただ一人、焦げた地の果てに立ち、

かつての誇りが産み落とした“罪”の末路を見つめている。

 

南方荒野。

火の山が裂け目を成し、その先にあるのは、ただ“壊れた命”たちの巣。

魔物――。

あれは我々が作ったのだ。

 

私達は土を穢し、空を毒し、水を閉ざし、そして残された獣たちは変わっていった。

骨は膨張し、姿を変え、理を失って生きるものとなった。

知を与えられなかった“存在”。

ただひたすらに、そこに居る。

 

彼らは喰らうために動くのではない。意味もなく、ただ世界の苦しみに沿って動いている。

それを“怪物”と呼ぶのは簡単だ。

だが、これは私たちが落とした影だ。

 

火の奥に眠る竜と呼ばれる存在も、その波の中にいた。

彼女は語らず、裁かず、ただ見ている。

かつて私がやるべきだったことを、何も言わずに代わりに成していた。

 

そしてこの地の果てにも、“連なる者たち”がいた。

血も種も違えど、命を守ろうと寄り添った者たち。

力に呑まれぬ意志。

支配せず、ただ抗い、生きようとする灯火。

 

彼らこそ、かつて我々が見落とした“答え”かもしれない。

 

私は、もう指導者ではない。

創造者でもない。

ただ、終わりの記録者としてここにいる。

 

彼らによって人が滅ぼされたことは、当然のことだった。

あれは、私たちが作った刃だ。

そしてその刃は、持ち主を試した。

それに応えられなかった我々が斃れたのは、何の不思議もない。

 

けれど、もし。

もしもこの記録が、どこかに届くのなら。

この地に残された“意志”たちが、再び誰かと繋がるのなら――。

 

私は、最期にほんの僅かでも、未来を信じてみたい。

 

――アレクサンダー・ヴァルデン

 

 

――「あの者の声が、まだ、耳の奥で燃えている」

 

生まれたとき、空は黒く、大地は冷たかった。

兄も、姉も、母も、父も、何もかもが焼け落ち、ただ私だけが残された。

 

私は「力」として造られた。

崇高なる破壊の象徴。

燃え盛る世界に最後の爪痕を刻むための、しるし。

 

だが幼き私は何も知らず、牙も届かぬままに、壊れる音だけを聞いていた。

そして、生き残ってしまった。

 

……やがて、一人の男が私を拾った。

名を告げず、顔を伏せ、声に苦悶を宿したまま歩き続ける者だった。

 

彼は私を「罪の墓標」と呼んだ。

あるいは「慰め手」とも。

まるで私が、彼の咎を背負うために存在しているかのように。

 

夜毎、彼は火のそばで書を綴った。

灰に濡れた紙に、何かを吐き出すように。

 

私はその横でただ眠り、ただ見守った。

それが自分の役割だと、どこかで知っていた。

 

だが、ある朝。

彼は消えていた。

痕跡も、書きかけの頁も残さず。

まるで初めからいなかったかのように。

 

それから幾星霜。

私はこの温き泉の谷に身を留めた。

けれど、彼の声だけは消えない。

 

「お前が、生きてくれてよかった」

 

その言葉が、呪いのように胸を焼く。

 

私は竜だ。

破壊のために作られた存在だ。

だが私はまだ、誰も焼き払っていない。

牙も、爪も、誰にも届かせてはいない。

 

――なぜだろうか。

 

彼が、望まなかったからだ。

 

そして私は今も、あの者の足跡を探している。

罪を燃やすように、孤独を抱くように。

 

この世界の果てに、その名も知らぬ男の影を求めて――

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