遊園地からの帰り道に、これまでにあったことを話すルーイと颯の話。
「これまでにあったこと」は、私が今までに書いてきた小説での出来事で、シリーズのまとめ話のようなものです。
クリスマス関連以外、ゲーム中での出来事は語っていません。
↓下記小説について語っています(時系列順)
テメーの大事なものを守りやがれ!
君がお前がどう思っているかは知らないけれど
クリスマスのお礼
ヨセアツメイトの冒険
僕には許されなかったチョコレート
まるで、冷たくて暗い海の底にいるみたいだ
キミとお出かけ【工場夜景】
翼の消失と再生するまでの物語
遊園地でのイベントチケットを客から貰ったとき、颯の頭の中に真っ先にルーイの顔が思い浮かんだ。誘うなら、絶対にルーイしかいない! と。
ガジェモンで有名な会社のゲームイベントなんて、絶対に喜んでくれるはず。渋々でも時間通りに来て、着いて早々別行動をしようとしたのも予想通り。
新作先行体験イベントでは、最後の1秒まで諦めない戒くんの姿を見ることも出来た。昔と変わらない姿にしみじみとしたものを覚え、遊園地でのイベントが終わったのだった。
「イベント楽しかったね。来てよかったでしょ?」
颯は隣を歩いているルーイに話しかけた。ルーイは瞬きを何度も繰り返して、目をこすっていた。ふあー……と大きめの欠伸も出て、眠気を一切隠そうともしない。
「まーな。しかし、すげー人混みだった。酔わなかったのが奇跡だ……」
「あ、そういえば人に酔ってたことあったね。紬さんを助けてくれたお礼に、僕がエナドリの差し入れに行ったとき!」
「あ? あー……いつの話してんだよ。だいぶ前じゃねーか」
いつだったか、ルーイが仮面カフェにコーヒーデリバリーを頼んだら、何故か颯が届けに来たことがあった。
2人でゲームセンターで少し遊んだ後、ルーイがアジトに帰る前にカオスワールドへの扉を見つけた。そこへ、コーヒー代をまだ貰っていなかったと連絡をよこした颯を巻き込んで、カオスワールドの主だった結人を助けたついでに、紬との仲を取り持った。
2人でカオスワールド探索へ行ったのは、これが初めてだった。この件をきっかけに、ルーイと颯は少しずつ関わりを深めていった。
「ほんと、懐かしいって思えるくらい、色々なことがあったよね。このときのルーイ、かっこよかったな。『テメーの大事なものを守りやがれ!』って」
「……忘れろ」
「えー、何で? かっこよすぎて見惚れちゃったよ!」
「俺のキャラじゃねー。誰だそれ」
「ルーイだよ!」
照れているのだろうか。ルーイは颯の方を見ようともしない。
確かに、普段のルーイからは想像も出来ない形相だった。だからこそ、かっこいいと思った。もっと知りたいと思った。エナドリの差し入れに行った際、静流相手にマウントを取ろうとしたのも、今思えば滑稽だとすら思える。
「お前その頃、俺のこと忘れてただろ」
「クリスマス前だったからね。もしかして、まだ根に持ってる?」
「執念深くて悪かったな。……楽しみにしてたらしいっつったろ。あのとき」
「どのとき?」
「ウィズダムに行ったときだ。当日電話で……」
「あっ、当日予約してくれた日だ! びっくりしたけど、来てくれて嬉しかった!」
ぱあっと颯の笑顔が輝くのに反して、ルーイは気まずそうな顔をした。ウィズダムに行こうとして、颯に電話をかけた際に言った一言「お前を指名したい」を思い出していたからだ。
颯に会いに行くつもりで電話したのだから、間違いではない。間違いではないが、間違えたと思った。他に言いようもあったろうに。
「皇紀さんの料理を食べてお酒を飲んで、色んな話して、楽しかった。高そうな名刺入れまで貰っちゃって、僕たち大人になったんだなーって……しんみりしちゃった」
ルーイと颯の出会いは子どもの頃。同じ病院に入院していたという縁があった。
ルーイは颯と再会する前に、失われた記憶のほとんどを取り戻していたが、颯は戒のことも含めて、過去のことはほとんど忘れたままだった。
カオスイズムに記憶を奪われて改ざんされて、仕方のないことだとは分かっていた。それでも、クリスマスの約束を覚えているのは自分だけという寂しさは拭えなかった。
「僕の方が先に退院して、クリスマスの後に病院に行ったら、戒くんはもう退院した後で……約束を果たせなかったのは、僕もすごく後悔してた。ごめんね」
そう言って寂しそうに笑う颯に、ルーイは何て言葉をかければいいか分からなかった。
確かに、「何で覚えてねーんだ」と憤りを覚えていた。しかし、颯は昨年のクリスマス前に、自身の記憶が封印されたカオストーンに触れた。そして同じ病院に入院していた戒に、クリスマスにラテアートを振る舞う約束をしていたことを思い出したのだった。
昨年のクリスマスの朝と、当日予約したウィズダムで、颯は約束のラテアートを振る舞ってくれたのだから、もう謝る理由なんてない。
「……名刺入れ、使ってんのか」
カフェラテはまあまあ美味かった。そう言えば喜んでくれるのだろうが、またつれない態度で誤解させてしまうかもしれない。話題を逸すのが精一杯だった。
「実は、もったいなくて使えないままなんだ。時々箱から出して眺めてるよ」
「使えよ」
「だからもったいないんだってー! だってさあ、奇跡じゃない!? 病弱だった僕たちが、退院した後どこに行ったか分からなかった僕たちが、大人になって再会したんだよ!? ルーイが人混みで酔わなかったのより、ずっとすごい奇跡だよ!」
しかも仮面ライダー同士だよ! と息巻く颯の勢いに圧倒されて、ルーイは何も言えなくなった。
確かに奇跡だが、だからといって名刺入れがもったいなくて使えないとはならないだろう。せっかく贈ったのだから、ルーイとしては使ってほしいところではある。
「……いつか使えよ」
「うん! でも、もうちょっとだけ大事にさせて」
大事すぎて、まだ箱から出せないんだ。そう付け加えて笑うと、ルーイも少しだけ嬉しそうに笑った。
歩き続けて、景色が見慣れたものに変わってきた。娯楽地区の郊外から中心部まで、結構な距離があるはずなのに、話していると帰り道も短く感じる。段々と日も傾いてきた。まだまだ話し足りないのに、もう少しでも話す時間はあるのだろうか。
すると、見覚えのある広場に辿り着いた。ここは鏡の迷路&キッチンカーフェスティバルが開かれた場所だ。カオスイズム絡みのイベントかと疑ったQによって連れて来られたのだった。あの時はQの他、才悟と阿形も一緒だった。
「鏡の迷路、結構難しかったよね。演出も思ったより凝っててすごかったし、またやらないかなー」
「あ? あー、ここだったか。リバルのヤローをボコボコに出来たのはいいが、全体的に怠かったな」
「何言ってんの、めっちゃ仕切ってたじゃん! 即席チームで最初はバラバラだったのに、最後はみんなでライダーキック決めちゃったし。あのメンバーでまた遊びに行きたいなー。ねえ、行こうよ」
「やだね。どういうメンツだ」
颯は楽しそうに言っているが、あの日ほど疲れた日はないとルーイは思った。何しろ、戦闘面で統率を取れる者がいなかったのだ。
才悟や颯は他人に指示を出すタイプではないし、阿形はマッドガイのリーダーといっても、他クラスのライダーの特性を理解した指示を出せるほどの経験がない。だからルーイが指示出しをする他なかった。
苦しい戦いだったのに加えて、最後にライダーキックまでさせられた。そして、普段出さない量の声を出してものすごい疲労感に襲われたのを覚えている。
戦いが終わって、動きたくなくて胡座をかいて座っていたら、颯が寄ってきて少しだけ会話をした。そこら辺はまあ、いい思い出だ。後日、VIPルームに集まって報告会をしたことも。無理やりゲームセンターに連れて行かれたことも。
その後何があったかと考えて、2人それぞれ同じことを思い出し、異なる反応を示した。ルーイは横目でニヤニヤしながら颯の顔を見て、颯は両手で顔を覆った。
「その次はバレンタインだったな。まさかお前が、エージェントに惚れてるとは思わなかった」
「もう忘れて。吹っ切れたから」
今となっては、顔から火が出るほど恥ずかしい。自分から相談したこととはいえ、ルーイには全部知られていることが。
あの想いは決して偽物ではなかった。想いは届かずにあっさり振られたことで、すぐに吹っ切れたのも本当だ。ノアへの想いを知られたことではなく、振られた後にルーイの前で散々泣いたことが、今となっては恥ずかしい。
「後でこうして恥ずかしい思い出として語られるなんて、あの時は思いもしなかったな。ほんと恥ずかしい……。あ、そうだ」
VIPルームで告白の練習をしようとした時、ルーイに好きな人はいないのかと質問していたではないか。「危なっかしくて目が離せねーヤツがいる」と言っていたが、結局誰のことなのかは不明なままだ。
「ねえ、ルーイの好きな人って誰なの?」
「いねえっつったろ。興味ねー」
「えー。だって、『危なっかしくて目が離せねーヤツがいる』って……」
お前だ。とは、さすがに言えなかった。もちろんそういう目で見たことはないし、今も見ていない。今後もそういう目で見ることはない。
ただ、親のような目線がどうしてもやめられない。実際に親子ほどの歳の差があるわけでもないのに。昔、病院が同じだったという縁しかないのに。ルーイが持つ数少ない縁だからこそ、大事にし過ぎているのかもしれない。
「まあ、いいや。好きな人が出来たら、ちゃんと教えてね。応援するよ!」
「そりゃどーも」
「ねえねえ、スラムデイズのアジトってどこら辺? 夜景見ながら電話したことあったよね。この辺の景色が映ってたような気がするんだけど」
次から次へと話題がよく変わるものだと、ルーイは感心した。確かに、アジトからは高い雑居ビル、ネオン、街頭ビジョンなど、娯楽地区の中心部である繁華街の景色が見える。
あの時は深夜で、ルーイは二度寝から起きた直後で、颯は酔ったままウィズダムから帰宅した直後だった。
「ただきれいな景色を見たいなーって電話しただけだったのに、急に機嫌悪くなっちゃったよね」
「お前が変なこと言うからだろ」
「何て言ったっけ?」
「……お前のことどう思ってるって」
「あー、そういえば。ルーイって、僕のことあんまり対等に扱ってないよね」
「対等じゃなかったら何なんだよ」
「それが分かんないから聞いたんじゃん! あと、ルーイがライダーの力を嫌ってるって気づいたのも、この時だった」
それだけではなく、颯に今すぐ仮面ライダーをやめさせたいくらいだ。忌み嫌っているカオスイズムの力など、手放してほしい。そう出来ないのは、お互いに成すべきことがあるから。
一緒に工場夜景を眺めに行ったときも、颯のベルトが爆発して一時的に変身出来なくなったときも、秘めた思いの一部をルーイは語っていた。
「工場夜景を見に行ったときに、はっきり言ったね。ライダーの力が嫌いだって。その割にはめっちゃ使いこなしてて、カオスイズムもあっという間に倒しちゃったし」
「当然だろ。ヤツらのいいようにされてたまるか」
「僕も。普段聞けないようなこと話してくれて、やっと本当に友達になれた。そう思ったよ」
工場夜景の非日常感が、少しだけルーイの背中を後押ししてくれたのだろうか。もっと友達っぽくなりたいと言った颯に対して、遠回しでももう友達だと、お前に誘われたからここまで来たんだと、言うことが出来た。
そしてしばらくの間、大きな事件はなかった。それだけに、颯のベルトが爆発して変身出来なくなったのは、久しぶりに起きた大事件だった。
「……お前のベルトが爆発して怪我をしたと聞いたときは、マジでビビった」
「僕だってびっくりしたよ。しばらく変身出来なくなったし……怖かった」
アジトに帰ってきたランスからその話を聞かされたとき、ルーイは思考に耽ってしまった。怪我はどの程度なのか。爆発とは一体。カオスイズムの仕業なのか。
何より、颯自身は無事なのか。身体的にも、精神的にも。興味のないフリを装いながら、色々なことを考えていた。
「また、ルーイに助けられちゃったよね」
この力で記憶も真実も全て手に入れると啖呵を切っていた颯は、一体どこへ行ったのか。暗い声で、申し訳なさそうな様子が伝わってくる。
ルーイに怪我をさせてしまったからだろう。避けられると思っていた必殺技を、ルーイは颯の決意とともに受け止めてくれたのだ。
受け止めたのはルーイの独断で、別に負い目に感じることではない。そう感じさせることになってしまったのは悪いと思ったが、受け止めたのは正解だったと思っている。
「自分で乗り越えたんだろ。俺は何もしてねーよ」
「そんなことないよ! 今までいっぱい助けられた。ここ最近だけじゃなくて、昔入院してた頃も僕のことを励ましてくれたこと、あったよね。だから、つい頼りにしちゃうこともあって……」
いつも助けられてばかり。僕は何も出来ない。根底にはそんな思いがあった。
言葉に詰まって目を逸らした颯を見て、ルーイはこっそりとため息を吐いた。
ああ、本当に。コイツはバカだと思った。思った直後に、バカなのは俺かとも思った。
そういう思考にさせてしまうのは、単に自分の思いを伝えていないからだ。いつも颯の言葉に頷くだけで、自分から伝えたことはなかった。
「……あんま心配させんな」
一つだけ素直に伝えたが、どうしても照れ臭い。やっと搾り出した言葉だったが、颯の顔は見れなかった。この言い方では、さすがに気づかれたかもしれない。子ども扱いしていることを。
「えっ……うん……」
横目で颯の方を見ると、これでもかというくらいに目を丸くして驚いている顔が見えた。
聞き間違いかと思った。心配させるなって、それは友達に対して言うこと? ルーイの声と目つきが少し優しくて……そわそわする。
こうして一緒に歩くのも、遊びに行くのも、いつまでなのだろうか。今は仮面ライダー同士で、信念は違っても終着点はきっと同じで。気軽に連絡を取り合える仲にもなった。
だが、それは永遠じゃない。お互い歳を取れば、立場も考えも変わる。俺はいつまで、こうしてコイツの隣を歩けるんだろうか。
「ルーイ。これからもよろしくね」
「は、」
「遊びに行ったり、助け合ったり、もっともっと色んなことを経験していこうよ!」
これからも、ずっとずっと。仮面ライダーじゃなくなっても!
颯が屈託なく笑うから、ルーイは何か胸にこみ上げてくるものを感じた。泣くかもしれない。
眩しいと思っていた笑顔を直視出来るようになったのも最近だ。その明るさに何度も救われていた気がするし、今もまた暗い考えに陥りそうなところを救われた。
「一生、子守りさせる気か?」
ルーイは少し意地悪く微笑みながら、そう返した。憎まれ口を叩いても、実際は嬉しかった。まだしばらくの間は、隣にいられるのだから。
「子守りって、もしかして今までずっとそういう扱いしてたの⁉︎ 子どもじゃないし、5つしか歳離れてないんだけど!」
「5つもだろ」
対等に扱われていない気がするという違和感の正体が判明して、颯は頬を膨らませた。そういうところに庇護欲が湧くのだが、本人が気づいているかは定かではない。
不意に、颯は自分たちの影の距離の近さに気がついた。実際に密着しているわけではないが、夕日で伸びる2人の影は、隙間なく密着しているように見える。
仮面ライダーとして再会したばかりの頃は記憶がなく、よそよそしかったので、影も実際も人一人分以上くらいの隙間があったのに。今は入院していたあの頃と同じくらいに、物理的にも精神的にも距離が近くなった。
これからもきっと、2人で歩いて行ける。そう予感させる距離の近さだった。
「颯」
「えっ、何?」
「あー……」
名前を呼ばれて嬉しいのか驚いたのか、颯はキラキラした目をルーイに向けた。これからもよろしく、といったことを伝えたかったが、そんな目を向けられると余計に照れ臭い。
「何かあったら、すぐ言え」
だから、繋ぎ止めるようなことしか言えなかった。
「へへっ、頼りにしてるよ!」
「だから……勝手にいなくなんな」
「……うん。約束する」
子ども扱いされるのは嫌だが、ルーイの親目線はしばらく続きそうだと思った。まずは対等に扱ってもらえるように努力して、頼られるくらいに距離を縮めなければ。
「じゃあ、またゆびきり、しちゃう?」
「この前しただろ」
「いいじゃん! こういうのは何回やってもさ」
助けに行くだの、勝手にいなくならないだの、約束する内容がいちいち重い気がする。依存し合う仲ではないのに。
それでも小指を差し出してしまうのは、満更でもないからに他ならない。子どもの言うことならばと、つい甘やかしてしまうのが親というものだ。
「ねえ、明日は僕ん家でゲームしようよ!」
「は? ダル……。お前が来い」
「スラムデイズのアジトに行っていいの⁉︎ やったあ!」
予想しなかったお呼ばれに、颯は頬を紅潮させて目を輝かせた。あまりに素直な反応を見せられて、ルーイも悪い気はしなかった。
お菓子とジュース買ってかなきゃ!
スナック菓子の補充しとくか。
同じことを考えて、2人は明日に期待を寄せた。
シリーズのまとめ話で、pixivファクトリーで書籍化するにあたって書いた。
ルーイと颯の関係が正式に明かされても、元ネタのせいで親子扱いがやめられない。私の中ではこの2人はもうずっと親子。ゲーム中の2人の今後にも期待。
この話をもって、シリーズ完結としました。
読んでくれてありがとうございました!