俺とオマエと、僕とキミと   作:星ぽてと

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あらすじ
ライダーサミット終了後、Qの誘いで娯楽地区で行われている鏡の迷路&キッチンカーフェスティバルに行くことになった才悟、阿形、ルーイ、颯。不思議な扉の目撃情報があったので確かめに来たのだが、場内放送でリバルの声が流れたことでカオスイズムが関わっていると判明する。それぞれ別の入り口から鏡の迷路に入り、ゴール前で同じカオスワールドへ飛び込んだ。カオスワールド内での鏡の迷路、その先の偽りの世界でライダー5人で力を合わせてガオナの群れやリバルと戦う。

一度書いてみたかった「滅亡迅雷風メンバーでカオスワールド調査&バトル編」です。

ルーイ=滅
才悟=亡
颯=迅
阿形=雷
Q=暗殺ちゃん

都合により、第二部以前の話です。
ゲーム中とは異なる設定、捏造あり。
予めご了承ください。


ヨセアツメイトの冒険

 原色の看板が目立つ雑居ビル群の中で、ぽっかりと空いたスペースで賑わうパステルカラーのキッチンカー達。ジューッと肉が焼ける音と匂いに食欲をそそられ、焼き菓子の甘ったるい匂いに当てられ、ルーイは若干気分が悪くなった。

 流行りのものから昔ながらの定番まで揃うこの会場は、娯楽地区で行われている鏡の迷路&キッチンカーフェスティバルである。そもそも何でこんなところに来なきゃならないんだ。前を歩く4人――才悟、阿形、颯、Q――の後をついて歩きながら、1時間ぐらい前のことを思い出した。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 ――1時間前

 

「さて、次の予定が差し迫っていますので、私はここで失礼いたします」

 ライダーサミットも終盤に差し掛かった頃。閉会の合図がまだにも関わらず、高塔戴天は靴を鳴らして颯爽と会場から立ち去って行った。

「高塔戴天はいつも途中で帰ってしまうな。内容は理解出来ているんだろうか?」

「今日は長く参加してた方だけどなぁ……。後で伝えるべきなのか?」

 魅上才悟はノートに書き留めていた手を止めて疑問を口にし、阿形松之助は頬を指で掻きながら眉を八の字に寄せて笑った。

「もうやんなくていいだろ、こんな集まり。いちいちここまで来るの面倒くせーし。やるとしてもリモートで十分だ」

「うーん、それは言えてるけど……たまにこうして集まるのも楽しいと思うなー。その方が現状把握しやすそうだし。ね、ノアさん」

 欠伸混じりにもっともらしいことを言って自己主張するルーイに、一部同意しながらノアの肩を持とうとする颯。話を振られたノアは穏やかな微笑を浮かべて口を開いた。

「そうですね。リモートでの開催を検討してもいいかもしれませんが、やはり月に一度はこうして集まって、皆さんの様子を伺いたいです」

「だよね! 僕もそう思う! って、リーダーじゃない僕が言ってもしょうがないか」

「いえ、そう言って頂けるのは嬉しいです。皆さんにご足労頂いてるのは事実ですし……」

「面倒なことさせてる自覚はあんのかよ」

「まあまあ、ルーイさん……」

 憤るルーイを阿形が宥めるのは、実はライダーサミット中ではよく見られる景色だ。

 今回のライダーサミットの参加者は魅上才悟、阿形松之助、ルーイ、颯、高塔戴天の5人。どのクラスも個性的で曲者揃いだが、比較的物分かりのいい面々が集まっていた。滞りなく会議が進み、概ね理解出来たため戴天も遠慮なく途中退室出来たのだろう。

「では、戴天さんも帰られましたし、今回のサミットは……」

「お邪魔するよ。やっと会議終わったの? 待ちくたびれたんだけど」

 ノアのサミット閉会の宣言を遮って入って来た、若干不機嫌そうな声。全員が出入り口の方へ目を向けると、スラムデイズのメンバーであるQが中に入って来た。

「お前……いつからいた? 今日は野暮用だったんじゃねーのかよ」

「今来たところだよ。高塔戴天と出入り口ですれ違ったし、もう終わったんでしょ? 面白い話聞いたから教えてあげようと思って、来ちゃった☆」

「えーっ、何? 面白い話って? 何かわくわくすること?」

 颯は目を輝かせて、話の続きを促した。Qの言う「面白い話」とは、大体ロクなことにならない……気がする。結果としてはキレイにまとまっても、途中経過がよろしくない。

「今、娯楽地区で期間限定で鏡の迷路やってるんだよ。単に鏡張りってわけじゃなくて、音と光の最新技術で万華鏡のような世界を演出してるんだって。つまんなそ〜って思ってたんだけど、SNS見たら変な噂が出回ってるんだよねー。何だと思う?」

「知るかよ」

「もーっ、真面目に答えてよ」

「君がわざわざここに来たということは、俺たちをそこに連れて行きたいんじゃないのか? カオスイズムが関わっているのか」

「ふふっ。さすがだね、魅上才悟。僕が見込んだだけのことはあるよ」

 満点の回答で気を良くしたQは素直な笑顔を見せた。

「と言っても、不思議な扉を見たとか、迷路に入った人が帰って来ないとか、噂レベルなんだけどね」

「帰って来ないって……そんな噂が出るならもう怪しいんじゃないのか。火のない所に煙は立たないって言うだろう」

「阿形松之助、君も案外頭がいいんだね。噂が出たってことは恐らく本当なんだろうって、僕もそう思ってるよ。運営はこれを逆手に取って集客してるから、どんどん人が集まってるんだ。運営がカオスイズムか、その手先だと思わない?」

 才悟と阿形は神妙な面持ちで頷いて同意を示していた。颯は何を考えているのかいまいち掴めないが、ルーイはこの後訪れるであろう展開に嫌な予感を覚えていた。

「ってことで、今からみんなで行こうよ! キッチンカーもいるから流行りのスイーツとかも食べられるんだって!」

「カオスイズムと関係があるなら、行くべきだ」

「まだ断定は出来ないが、少しでも可能性があるなら確かめる必要はあるかもな」

「面白そうだし、僕も行ってもいいよ。まだ出勤の時間じゃないしね」

 ルーイは片手で顔を覆った。迷路の話を出された時点で予想していたが、人嫌いで超インドア派のルーイが最も嫌う展開となった。チラと指と指の隙間から様子を伺うと、隣の席にいる颯と目が合った。

「ルーイも行こうよ! カオストーンあるかもしれないし!」

「俺は……」

「もちろん行くよね。このノリで1人だけ行かないなんて、ありえないでしょ」

 大声で颯に促され、Qから退路を断たれ。断る方が面倒なのでため息を吐いて諦めるしかなかった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「ねえ、あっちに会場限定ジェラートあるって! 行ってみようよ!」

「いいねー! 何味にする?」

 連れ立って歩くQと颯を、残りの3人で見送った。

 迷路をぐるりと取り囲んだキッチンカーには、それぞれ行列が出来ていた。Qが言っていたとおり、テレビやSNSで話題のスイーツが多く揃っていた。もちろんそれだけではなく、ラーメンやハンバーガーといった小腹を満たせそうなファストフードもある。

 それらのキッチンカーよりも目立っているのが、子どもの甲高い声と注意を促す親の叫び。普段から賑やかな娯楽地区だが、今日の景色は普段とは少し違うものに見えた。

「じゃあ、俺たちは……」

「帰るか」

「いやいや、それはさすがに……」

 阿形も別にここに留まりたいわけではないが、帰ろうとするルーイを一応引き止めた。チッと舌打ちしたところで意味はないのだが、出てしまったものは仕方がない。

「あいつら2人で楽しんでやがるし、俺はいなくてもいいだろ」

「そもそも俺たちの目的は迷路ですよ。2人が戻って来るまで、飲み物でも買って座って待ちましょう」

「しゃーねーな、適当に……ってオイ、魅上は?」

 側にいたはずの才悟がいつの間にかいない。元々口数が少ないし、普段から気配も感じにくいので、いなくなっていたことに気づかなかった。

 辺りを見回して探すと才悟はハンバーガーを頬張っていて、店主らしき中年男性が優しい眼差しで微笑んでいるのが見えた。まるで子を見守る親のようだ。

「才悟……ハンバーガー好きだったっけかな?」

 そういう阿形も弟を見るような眼差しで才悟の方へ歩いて行った。

 残ったルーイは今度こそ本当に帰ろうとしたのだが、タイミングが良いのか悪いのか、Qと颯が戻ってきた。

「あれ? ルーイだけ? 才悟と松之助は?」

「あっちにいる。お前らもう戻ってきたのかよ」

「ルーイってば帰ろうとしてたでしょ。相変わらず薄情なんだから」

「すごいんだよ、ジェラートのキッチンカー! レジと受取口が3つあるから提供時間めっちゃ早くて、並ぶ時間も短かったんだ! あれはイベント慣れしてるプロだねー」

 甘い物に舌鼓を打つ2人の顔はとても幸せそうなものに見えた。

 天気は晴れ、と言っても汗ばむ陽気ではない。カップを持つ手の体温と時間経過で溶けかかってきているが、そこそこ大きなジェラートが2つずつ鎮座している。

 颯の方は白とボルドー、Qの方はライムミントとレモンイエロー。偶然か必然か、それぞれのイメージカラーを表しているかのようだ。

「ルーイは何も買わないの? 何か探しに行く?」

 才悟はハンバーガーを食べ、阿形もそれに付き合って食べていた。いつものことながら、ルーイは朝からまともな食事をしていなかった。特に食べたいものがあるわけではないが、腹は減っている。

「鏡の迷路とキッチンカーフェスティバル、みんな楽しんでる? 運営からお知らせだよ」

 気だるい口調の放送が始まり、ルーイは勢いよく顔を上げた。スピーカーから聞こえてくる声のみで、周囲に放送席はないので誰が喋っているのかは分からない。しかし、聞き覚えがある声とこの口調。自由の仮面リバルのものに間違いない。Qも気づいたようで、怪訝そうな顔をしてルーイの方を見ていた。

「このイベントは今日が最終日だよ。キッチンカーは売り切れ次第終了だから、気をつけてね。ああ、それと迷路も少し早めに入り口閉めるから、やりたい人はお早めに」

「何? この放送。本当に運営? 気持ち悪い喋り方だなー」

「アッハハハ! ウケるー! リバルに聞かせてやりたいなー! どんな顔するんだろ」

「同感だな」

「え? 2人の知り合い?」

「知り合いも何も、これは自由の仮面リバルの声だよ」

「えっ……うそ、カオスイズム?」

「噂レベルが一気にクロになったね。本当にカオスイズムが一枚噛んでたんだ。声だけとはいえ、アルセブンが表に出てくるなんて滅多にないっていうか初めて聞いたよ」

 話している間に、才悟と阿形がキッチンカーから離れて戻ってきた。ルーイが阿形の隣に並んで歩きながら、何事か話している。

 いつの間にかQと颯の側を離れて、才悟と阿形を呼びに行っていたようだ。阿形の表情が驚きを伴いながら険しいものに変わり、そこから察するに先ほどの放送の声について話したのだろう。

「放送の声がアルセブンの1人だって、本当なのか?」

「もしそれが本当なら、放って置くわけにはいかない。被害者が出る前に倒すべきだ」

 それぞれの復讐心や正義のため、阿形も才悟も黙っていられないようだ。

 信念は違っても、カオスイズム打倒を志すのは他の3人も同じ。倒すべきだという才悟の発言を否定するものは誰もいなかった。

「アイツは直接手を下すようなヤツじゃねーが、何しに来たんだ?」

「不思議な扉が目撃されてるし、手下にカオストーンをばら撒かせたのかもね。最終日だから見に来たとか、そんな感じかな?」

 リバルの下で働いてきた経験と、今までの傾向からそう分析出来た。

「僕たちがいることにまだ気づいてないはずだから、向こうから来てもらおっか。あの迷路、出入り口に一応監視カメラがついてるみたいだから、迷路に入ればアイツも気づくはずだよ」

「運営本部に行ったら他の人も巻き込んで大騒ぎになっちゃうもんね。人目につかない場所で戦うべきだし、迷路に入るのは僕も賛成」

 今も扉が開かれているのだとしたら、巻き込まれた被害者も救わなければならない。Qや颯の意見を誰も否定しなかった。

「監視カメラに手振ってやろっかな〜♪ すっ飛んできたりして♪」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 ――運営本部室

 

 放送を終えたリバルは、一仕事終えたと言わんばかりに椅子に座ったまま溜息を吐いて、大きくのけ反った。運営代表者から是非と言われて放送してやったが、性に合わないと思った。

「僕が言うのもなんだけど、キミも大概イカれてるよね。帰って来ない人がいるって噂まで出たのに、中止するどころか集客に利用するなんて」

「リバル様からの依頼を無下にするわけにはいかないので……」

「まあ、僕もムチャぶりした自覚はあるよ。そろそろ成果を出さなきゃいけないとはいえ、候補生20人程捕まえろなんてさ。誰でもいいなら簡単なのに、そうじゃないから難しいんだよね。で、どうなの?」

「お察しの通り厳しい状況です。今日中に20人いくかは……。今現在もリバル様の部下の方に配ってもらってます」

「……ま、仕方ないか。昨日までに16人は確認したし、集まんなかったら約20人ってことで勘弁してもらおっと」

 大幹部の座に就いているとはいえ、ただ胡座をかいているばかりでもいられない。

 大幹部アルセブンとは一括りの仲間のようだが、互いに干渉し合わない性質を持つ。競い合うことがなければ、助け合うこともない。

 ただし、大幹部より下の幹部からはその地位を脅かされる、いわゆる下剋上の危険性はある。だから一定の成果は出し続けなければならない。上には上の悩みがあるということだ。

「さてと、じゃあ僕も遊びに行こうかな」

「迷路出入り口の監視はされないんですか?」

「ぶっちゃけ飽きた。親子連ればっかだし」

 こっちが求めているのは20歳前後の独身なんだよね。まるで恋人探しでもしているかのような思考だが、カオスライダー候補とするなら自然とそうなる。

「おや、あれは? 監視カメラに手を振ってる人、良さそうじゃないですか」

「どれ?」

 代表が指差したその先。モニターに映るのは、一見すると無邪気な笑顔で手を振る栗毛の青年。見覚えのあるこの顔は考えるまでもない、Qだ。音声は聞こえないので当然のように読唇術を試みた結果。

「……はぁ⁉︎」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「気持ち悪い放送お疲れ様〜♪」

 迷路入り口に取り付けられた監視カメラに向かって手を振りながら、Qはご機嫌な笑顔とともに毒を吐いた。

 虚空に向けられた愛想は独り言のように見えたのか、才悟は首を傾げている。

「Qは一体誰と喋ってるんだ?」

「うーん、会話してるわけじゃないけど……そもそも見てるかも分かんないのに、よくやるよね」

「挑発して誘き出すのはいいと思うが、そんな上手くいくものなのか?」

「監視カメラ見てたら悪口言われたことに気づいて飛んでくるだろうよ。リバルのヤローは、口パクだけでも相手が何て言ったか読み取れるヤツだ」

 ルーイが知っているのだから、Qも当然知っている。リバルが読唇術を得意としていることを。だから、音声が入らないであろう監視カメラに向かってあえて「気持ち悪い放送お疲れ様」などと言い放ったのだ。Qの声が聞こえても聞こえなくても、リバルにだけは正確に悪口が届く。

「それにしても、気持ち悪い放送って、もしかしてさっきの僕の感想から取った?」

「他にないでしょ。さーて、何が出てくるかなー」

 颯の不満そうな顔もどこ吹く風。Qは先陣切って鏡の迷路に突入して行った。言い出しっぺだけあって、純粋に楽しみだったのだろうか。残り4人もQの後に続いた。

「あれ? 入り口4つあるみたい。どうする?」

 鏡の迷路が始まるのかと思ったら、等間隔に並んだ扉が4つ現れた。扉の上にはA〜Dのアルファベットが書かれていて、それぞれ違う入口を表していると思われる。さすがに入口が4つもあるとは想定外だ。

 集団行動で一つずつ攻略するか、戦力を分散して効率を重視するか。戦闘能力に不安があるライダーはいないので、ここは皆の答えが一致するだろう。

「数打ちゃ当たんだろ。ここからは別行動で行くぞ」

「そうだね。全員で1つずつ回るのは効率悪すぎるし。じゃあ、誰がどこに行く?」

 短時間の話し合いの結果、Aに才悟、Bに阿形、CにルーイとQ、Dに颯が行くことになった。ルーイとQは同じクラスだからという理由で一緒に行くことになった。

「あーあ、みんなで迷路入りたかったな〜」

「お前まで楽しみにしてたのかよ」

「だってさー、こうして遊びに行くことってないじゃん! クラスが違うと特にさ」

「まあ、確かに……。たまには戦い抜きで、みんなで遊びに行ければいいな」

 仮面ライダーにさせられたから出会っただけで、それがなければ恐らく知り合うことすらなかっただろう。

 端から見れば仲のいい5人組に見えるかもしれないが、間にある繋がりは決して強固なものではない。ルーイ以外は何やら話し合って笑っている。

「……Q、行くぞ」

「はーい。じゃあね、みんな。死なないように頑張ってね」

 そっちも頑張って! また後で! とか言う声が聞こえたが、ルーイは振り返らなかった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「扉を抜けたら、そこはカオスワールドでした……なんてことはないか」

 音と光の最新技術で万華鏡のような世界を演出しているという触れ込みだが、あながち大袈裟な表現ではないようだ。

 合わせ鏡のように模様を映し合い、無機質な世界を光とともに彩っていく。花が咲くような演出は悪くないのだが、自分自身の姿があちこちに映るのは気になる。

 プロジェクションマッピングの要領で水面に映る波紋を表している箇所もあり、まるで本物のように見える。思わずそこを触れてみたが、当然そこは鏡。ひやりとした表面に水はなく、手に波紋の映像が投影されるだけだ。

「あはっ。本物だと思ったの? よく出来てるよね〜」

「……いちいちうるせーな」

 ルーイは自分の行動をごまかすように親指の爪を噛んだ。

 先を歩くQは、終始機嫌良さそうに笑っている。いつもこうなら可愛げもあるというのに。絶対に口にはしないが。

「ここ、雰囲気が少しカオスワールドに似てるね」

「そうかもな。カオスワールドのキラキラしい破片が飛んでるのと、この鏡に映った模様。もうカオスワールドに迷い込んだ気分だ」

「ふふっ、まだ現実だよ。……扉、あるのかな?」

「とりあえず、ゴールを目指すぞ」

 無駄話もそこそこに、出口を目指してひたすら歩く。

 全面鏡張りなので自分がどこに立っているのかも見失ってしまうし、何度も正面からぶつかってしまうこともあった。カオスワールドへの扉を見つける以前に、この迷路から抜け出すのも難しそうだ。

 Qはイライラしているルーイの様子を面白そうに眺めている。一応所々に順路表示は出ているが、鏡の迷路が予想以上に難しいのが悪い。

 もうこうなったら扉など出て来ないでほしい。何事もなくゴールして外に出たい。帰りたい。

「何ッでこんな所で出て来やがるんだよ!」

 などと思いながら歩いていると、事態は望む展開とは違うものになりがちなのである。

「あれ? ここってもしかして、ゴール直前? あそこにゴールって矢印があるよ」

 Qが指差した先には案内板が立てられていて、「ゴール」と書いてある。

「ゴールにたどり着いた参加者にばら撒いてたってことかな? 無作為にっていうより、たぶん選んでるんだろうけど」

「チッ……帰りてぇ」

「そういうわけにもいかないでしょ。見つけちゃったんだから」

 せめて第二世代のカオストーンだったら多少のやる気も出てくるのだが。文句を言いながら、2人は扉の中へ飛び込んだ。

 

 扉の中のカオスワールドは、現実と同じく鏡の迷路になっている。現実の方は光輝く眩しい世界だったのに対し、カオスワールドの迷路は全体的に暗く、最小限の光しかない。

「ここが[[rb:カオス > 混沌]]だとしたら、現実は[[rb:コスモス > 秩序]]ってところかな? 何だか気持ちまで暗くなりそう……って、あれ? 何か服の色が変!」

 Qは壁の鏡を見て、自分の服や髪の色が変わっていることに気づいた。髪の色は栗毛色からシアンブルーに、パーカーは白から黒に、トップスとボトムスは黒から白に。肌と目以外の全ての色が反対色になっている。

 ルーイも同様に色が反対色になっているのだが、色があまり合っていなくて、何だかチグハグな印象を受ける。一言で言うと

「あはっ。ルーイってば何その格好。色のセンスがおかしくてダサいよ」

「俺だって好きでこんな格好になったんじゃねーよ」

「服が変わったってことは、第二世代のカオストーンだね。色だけが変わるって初めてのパターンだ。2Pカラーみたいで面白いかも!」

「何一つ面白くねー。さっさと回収するぞ」

 と言っても、事前情報が何もない。どこの誰が、何を思ってカオスワールドへの扉を開いたのか。説得して自分の意思でカオスワールドから脱出させなければならない。

 力づくでは解決出来ないのがカオスワールドの面倒なところだ。事情を知らない赤の他人が急に説得を試みるのはさすがに無理がある。

「確か、第二世代のカオストーンって案内役みたいなのいるよね。今回はいないのかな?」

「ここだよ。ここにいるよ」

「えっ?」

「こっちだよ、こっち。鏡の中!」

 鏡にはルーイとQが映っている。鏡に映っているなら全く同じ動きになるはずなのに、鏡の中の2人の動きは全く違う。実際にそこにいるかのように、思い思いに動いている。

「ど、どうなってんの? 鏡なのに、どうして……」

「どうしてって言われてもね。そういう世界だからとしか言えないよ」

 鏡の中のQは楽しそうに笑っている。人をからかうときに見せる笑顔と仕草は、本人とそっくりそのまま同じだった。

 ルーイも鏡の中の自分と向き合っていたのだが、単刀直入に言うと不愉快極まりない。腕組みをして、謎の自信に道溢れた顔と佇まいで立っている。自分の顔なのに見てて腹が立ってきた。

「こいつらが案内役……。何なんだ、このムカつく面構えは」

「自分の顔だろ。他人を煽るときにどんな顔をしてるか、自覚ねーのか」

「見えねーんだからどんな顔か自覚してるわけねーだろ。何で俺が俺に煽られるんだよ」

「先に喧嘩売ってきたのはお前だろ」

「お前だ」

「お前だっつってんだろ」

 本物のルーイと鏡の中のルーイの喧嘩が始まってしまった。面白いのでこのまま眺めていたいところだが、そうもいかない。

「もー、ルーイってば黙ってなよ」

「……」

「……」

 本物のルーイが黙ると、鏡の中のルーイも黙った。本物と同じポーズを取り、さっきまで好き勝手動いていたのが嘘のようだ。鏡の中のQも、何も言わずにおとなしくしている。

 しばらく沈黙が続き、居心地の悪さを感じてきた頃、ルーイが鏡を見ながらぽつりと呟いた。

「……こっちが喋らないと、コイツらも喋らないのか?」

「そうだ。俺たちは質問されたことにしか答えない」

「さっき、僕がルーイに対して言ったことに反応しなかったのも、鏡に向かって言ってなかったから?」

「そうだよ」

 鏡に上手く質問することが出来れば、カオスワールドについての情報が手に入るということだ。ルーイとQは顔を見合わせた。

「歩きながら質問してみようか? カオスワールドを開いた人を探さなきゃならないし」

「……だな」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 ルーイ達がカオスワールドへ入ってから10分程経った後、別の入り口から迷路に入った才悟、阿形、颯がゴール直前で合流していた。

「どうする? もう飛び込んじゃう?」

 颯が指差したのは、カオスワールドへの扉。3人はほぼ同時にここに辿り着いたのだが、ルーイとQの姿が見えない。まだ辿り着いていないのか、もう飛び込んだ後なのか。

「カオスワールドを開いた人を一刻も早く助けに行くべきだ。あの2人なら無事だろうし、待っている場合ではないと思う」

「そうだな……。あの2人は扉を見つけたらすぐに飛び込むだろうし、俺たちも行くか」

「だよね〜。あの2人は他人を待つタイプじゃないもんね〜」

 スラムデイズに対する評価は、どのクラスも似たようなものらしい。

 カオスワールドへ飛び込むと、ルーイ達と同様に鏡に映った自分との出会いを果たした。ついでに服と髪の色が変わっている。

「何これ、変な色……」

「色を反対にしたらこうなるってことだよ。白は黒に、赤は緑に」

 鏡の中の颯が律儀に答えた。颯の髪色はペールグリーンに、スーツはダークグリーンでインナーは黒、アクセサリーはシルバーに変わっていた。同系統の色でまとまっているので変ではないが、違和感がある。

 才悟と阿形の服装は主にモノトーンなので、色が反対になっても変には見えない。ただ、それぞれの印象が大きく変わって見えた。

「色がちょっと変わるだけでも、人の印象って変わるんだね」

「そうだな。まるで違う服を着てるように感じるよ」

颯と阿形が喋っている間、才悟はじっと鏡の中の自分を見つめていた。

「鏡の中の颯は喋っていたが、俺は喋らない。なぜだ?」

「それはキミが喋らないからだ」

「俺が喋ればキミも喋るのか?」

「そうだ」

「それはなぜ? 言いたいことを言えないのか?」

「質問されたことにしか答えられないからだ。言いたいことは特にない」

 ……などと、延々と鏡と喋り続けている。普段からなぜ? と他人に質問してばかりの才悟だから、ここで放っておくと永遠に会話が終わらなくなってしまう。

「才悟! その辺で終わりにしとこ!」

「後は……颯に任せていいか? 俺がやったら鏡と喧嘩する自信がある」

 ルーイが既に鏡と喧嘩をしていたが、阿形がそれを知る由もない。心得たと言わんばかりに、颯は2人に向けて頷いた。

「何を聞こうか……そうだ。カオスワールドの主と僕たち以外で、ここに入ってきた人はいる?」

「さっき2人組が入ってきてたよ」

「きっとルーイ達だ! ねえ、そこまで案内してよ」

「ダメだよ、ここは迷路なんだから。ゴールは自分で見つけないと」

「ちぇ、教えてくれたっていいのに」

「答えを先に知ったら面白くないよ」

 鏡に敵意はないが、善意もなさそうだ。とにかく、先に進むしかない。

 もうその辺にしておけと先程止められたにも関わらず、才悟はまた鏡に話しかけていた。

「キミは俺の知りたいことを教えてくれるのか?」

「内容による」

「どんなことなら教えてくれるんだ?」

「このカオスワールドのことについてなら教えられる」

 才悟が何か喋ろうとする前に、今度は隣にいる阿形が口を開いた。

「このカオスワールドは誰が開いたんだ?」 

「ここは自責の念に駆られた1人の男によって作られたカオスワールド。自分のせいで子どもを死なせてしまったと思い込み、後悔と反省の自問自答を繰り返した結果出来た世界だ」

「子ども……? 自分の子どもってこと? どうしてそうなっちゃったの? 何があったの?」

「この迷路を作ってる最中に、不幸な事故があったんだよ。大型トラックが機材を積んで現場に出入りしてるときに、後方不注意でね。急に駆け寄ってきた子どもにドライバーは気づくのが遅れたし、親も追いつけなかった。後はどうなったか、想像つくよね?」

「それは、まあ……」

 阿形の後に颯が続き、カオスワールドが開かれた経緯を知った。「自問自答を繰り返す」ことが反映された結果が、この鏡の迷路を作り出したのだろうか。

 カオストーンに魅入られた理由が子どもを亡くしたことなら、幸せだった頃に戻りたいと願ったのかもしれない。

「どうして鏡の中の僕は、そんなに楽しそうなわけ?」

「だって僕には関係ないし? 僕はウィズダムシンクスの一員だよ。人命よりも情報と真実を重視するのは当然じゃないか」

 鏡の中の颯はカラカラと笑ってみせた。情報と真実を重視するのは当たっているが、人命を軽視したことはないつもりだ。こんな鏡程度にウィズダムシンクスの何が分かるというのか。

「不幸な事故だった。けど、それだけじゃ片付けられない何かがあるんだな」

「やっぱりそう思ったか。さすが復讐に燃える鬼だな」

「誰が鬼だ、と言いたいところだが……。このカオスワールド攻略には、その事故が大きく関わっているんだな」

「そうだ。赤の他人が説得するのは、無理だろうな」

 自分が同じ立場だったら、何かを、誰かを呪わずにはいられない。

 現に、阿形は全てを奪ったカオスイズムに激しい怒りを持ち、復讐することを望んでいる。幸せな日常を唐突に奪われたら、悲しみが恨みに転ずることは理解しているつもりだ。人の心は簡単ではない。

 2人が鏡の言葉に心を乱されている間に、また才悟が鏡に話しかけた。

「その人は、この迷路のゴールにいるのか? 1人で?」

「迷路の先にいる。だが、1人じゃない。親子が幸せに暮らしている。だから邪魔をするべきではない」

「それは違う。辛くても現実で生きるべきだ。この世界にいてはならない!」

「なぜ? 辛いのなら、逃げてもいいはずだ」

 正義のヒーローとして、人助けをすることを生きがいとしている才悟。彼の信念はいつだってブレない。

 カオスワールドにこのまま閉じこもっていたら、カオスに取り込まれて現実に戻って来れなくなる。それだけは阻止しなければならない。確固たる信念があるから、才悟は惑わされない。

「この世界の主が何を考えているかはまだ分からないが、ここにいたら復讐も何も出来ないじゃないか。早くここから連れ出してやらないと」

「余計なことをするなよ。望んでここにいるんだぞ」

 阿形は復讐するための力を誰よりも、何よりも欲している。自分だったら……物騒な話だが、自分の殻に閉じこもるよりも、直接復讐しようと真っ先に動き出すだろうと想像した。

 この世界の主に加害者へ直接復讐するよう勧めるつもりはないが、子どものために出来ることは他にも沢山あるはずだ。

「情報や真実より大事なことだって、沢山あるよ。こんなところに閉じこもってたら、何も見えなくなる。外に出るべきだよ」

「外に出る? 子供はもういないのに、現実で生きろって?」

「だから、さっきからそう言ってるじゃん!」

「そうだったね」

 颯は自分の身の危険を顧みないときもあるが、カオストーンに魅入られた人を放置したことは一度もなかった。打算があることは否定出来ないし、時に残酷な真実もある。

 それでもカオスワールドを開いた主には偽りの世界ではなく、現実の世界で生きて真実と向き合ってほしい。颯は常にそう願っている。

「出口はどこなんだ? そして、ルーイとQはどこに……」

「……その2人の居場所でよければ、案内しよう」

 三者三様の考えに思うところがあったのか、鏡の中の才悟がそう申し出た。鏡の中の阿形と颯も、心なしか満足そうに笑っているような気がする。

 鏡の中の才悟が指し示したのは、行き止まりに見える鏡の先。手を伸ばしてみたら、すり抜けた。不思議なこともあるものだ、と思ったがここはカオスワールド。何でもありの世界だ。

 3人で鏡の先へ進むと、その先に広がっていたのは、やはり鏡の迷路。遠くにルーイの後ろ姿が見える。Qの姿はない。どうしたものかと思ったが、とりあえず3人はルーイの元まで走った。

 背後から急に聞こえてきた複数の足音に驚いて振り向くと、別の入り口から入ったはずの3人がいた。ルーイの細い目がわずかに開かれた。

「お前ら……何でいるんだよ」

「ルーイ! 無事でよかった! みんな同じ扉からカオスワールドに入ったんだよ。鏡の中の僕たちが、ルーイの居場所を教えてくれたんだ」

 ねっ。鏡を見ても、何も映っていない。あれ? と思って周囲を見渡すと、鏡らしき壁には何も映っていない。

「この壁は鏡じゃないの?」

「鏡だと思うが、何も映らない理由を俺に聞くな」

「ルーイさん、1人か? Qは?」

「ああ……訳あって、一旦外に出させた。鏡の迷路を作ったのは高塔の関連会社らしいな。末端の末端とはいえ、戴天も把握はしてるだろう。ビデオ通話でいいから設定しろと走らせた」

「それなら、わざわざ外に出なくてもライダーフォンで高塔戴天に繋げばいいんじゃないのか?」

「他にも用事頼んだんだよ。遊んでやるのと引き換えにな」

 ルーイは面倒くさそうに、欠伸混じりで才悟の質問に答えた。

 ついでのように3人に不躾な視線をやり、カオスワールドの影響で髪や服の色が変わっている感想をぽつりと呟いた。

「……お前らもずいぶんと変な色になったな」

「ルーイが一番変だよ。何か、全然合ってない」

「うるせー。全身緑のやつに言われたくねーよ」

 雑談もそこそこに、再び集まった4人はひとまず周辺を調査することにした。

 鏡と喋らなくて済むのはいいが、ヒントをくれる存在もいなくなってしまった。どこを進めばいいか分からないが、とりあえず迷路を進むしかない。

「ねえねえ、ルーイも鏡の自分と話したんでしょ? どんな感じだった?」

「あんなムカつくヤローとは二度と会いたくねーな」

「自分のことじゃん! おもしろーい!」

「いや、でも……分かるなあ。俺も少し腹が立ったし」

「あー。言われてみれば、僕もちょっとムカついた」

 鏡の中の像はいなくなったが、本人が現れてかえってうるさくなったような気がする。後ろにいる3人を見て、ルーイは少しイラついた。

「おい、テメーら。騒ぐんなら……」

「あそこに誰かいる」

 才悟が指差した先、ルーイの背後に人影が見えた。後ろ姿なので、顔は見えない。

 カオスワールドを開いた主だろうか。4人はそこまで走って行った。すると、足音に気づいた人影がこちらへ振り向いた。

「顔が……ない?」

 目、鼻、口といった、顔を形成するパーツが何もない。のっぺらぼうがそこに佇んでいた。

 カオスワールドの主じゃないのか? 敵か? 正体不明の存在を前にして、4人は身構えた。

 のっぺらぼうは4人の方に向き直った。顔がない以外は、普通の人間と変わりない。髪も生えていて、服も着ているし靴も履いている。

 何をするつもりか相手の出方を窺っていると、相手の顔に口が生えてきた。何か言うことがあるのか。

「……誰だ? どこから入ってきた?」

 カオスワールドの主の声なのだろう。男の声がルーイ達4人に質問を投げかけてきた。まだ敵意という程ではないが、警戒心を感じさせる声色だった。

「表のカオスワールドへの扉から入ってきた。テメーこそ誰だ。相手に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀ってもんだろーが」

 ルーイは物怖じせず、いつも通りの調子で答えた。

「……お前たちに構ってる場合じゃない。早く大地を……助けに行かないと……」

「今更何を言っているんだ」

 すると、男の前にもう1人の男が現れた。どうやら鏡の中にいるようだが、顔がある。蔑むように、ニヤニヤと笑っている。

「大地は死んだ。建設中の迷路を見に行って、現場に出入りしてた大型トラックに轢かれてな」

「死んでなんかない! 大地は生きてる!」

「見てただろ、トラックに轢かれるところ。助けられる距離にいたのに、助けに行かなかった。足がすくんで動けなかったんだろ?」

「それは……」

「子どもの命より自分のことを優先した。お前はただの弱虫だ!」

「じゃあどうすればよかったんだよ! 子どものためとはいえ、俺だって痛いのは嫌だし死にたくない!」

 自問自答を続けた結果、自分自身から責められることとなった……とでも言うのだろうか。

 鏡の中の像は質問されずとも、自由に喋っている。何が面白いのか、三日月のように目を細めて笑っていた。

「……子どもを助けられなかったことだけじゃなくて、自分の弱さも責めていたのか」

「この人は悪くないと思うよ……。痛いのも死ぬのも、誰だって嫌だよ」

 延々と続く責苦に、阿形と颯は同情的だった。しかし、これはカオスワールドを開いた本人ではない。これを放っといて出口を探しに行っていいのか、どうしたものかと考え込んでいると。

「ま、それはそうだねー。きっと誰もこの人の弱さを否定することは出来ないよ」

「この声は……颯?」

「え? 何?」

 この場に相応しくない、颯の明るい声が聞こえた。才悟は隣にいた颯を見たが、颯はきょとんとして才悟を見ている。

 お互いに見つめ合ってきょとんとしていると、颯の背後の鏡の中に颯が現れた。颯だけではなく他3人も突然現れて、各々好き勝手に喋り出した。

「弱さを自覚しているなら、強くなるしかない」

「それが出来れば苦労しないだろ。出来ないからこいつは苦しんでいるんだ」

「いっそ、トドメを刺してしまうか」

 質問されたことに答えていただけの時と違って、鏡の中の像たちからは明確な悪意が感じられた。

 男自身の鏡の中の像から、ルーイ達4人の鏡の中の像から悪意を向けられ、男の味方は誰もいないという絶望的な状況。

「弱さは罪じゃない。あの人を追い詰めるのはやめろ!」

「ふん、正義の味方気取りか。おめでてーやつだな。俺たちを黙らせたいなら、壊せばいいだろ。出来るものならな」

 鏡の中のルーイが、腕を組んでまたあの自信に満ちた笑顔を見せた。

 才悟は何とも思わなかったが、少し離れたところで見ていたルーイは密かに苛立っていた。そして、追い打ちをかけるように他の鏡の中の像たちも一斉に喋り出した。

「壊すことで解決するものもある、ということか」

「気に入らなければ壊すしかないな。たぶん、こいつらにはそれくらいの力がある」

「壊すのって簡単だし、思いっきりやると気持ちいいよね!」

 さっきから壊す壊すと、まるで誘導されているかのようだ。この鏡の迷路を壊すという発想は、さすがになかった。

 生身では無理だが、仮面ライダーに変身すればきっと……。才悟は徐に懐からリングを取り出した。

「壊せというなら、俺が壊す。そして、あの人を救ってみせる! 変身!」

 ずっと側で見ていた阿形と颯は、突然変身した才悟に「えっ」と驚いて固まった。ルーイは相変わらず少し離れたところで傍観している。動く気はなさそうだ。

 才悟はカオスイズムと戦うときと同様に、鏡の中の像に向けてパンチを繰り出していく。ガシャンガシャンとガラスが割れる音が響く。鏡にヒビが入り、亀裂が走るとそこから光が漏れてきた。

「これで最後……この一撃で終わりだ!」

 最後はその場で高く跳んだ。殴り続けて空いた穴目掛けて、渾身のキックが放たれた。才悟の必殺技・ファイナルライディングシュートだ。

 狙い通りに命中し、鏡の壁全体に亀裂が入った。ピシピシと軋む音が聞こえ、鏡の破片が落ちてきた。そうなると後は早いもので、ガラガラと音を立てて鏡の迷路は崩れ去った。迷路が崩れたことで鏡の中の像たちも、のっぺらぼうの男も消えた。

 崩れ去った迷路の後に現れたのは、教育地区によく似た住宅街。これでカオスワールドの真の姿が明らかになった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

「よくやったな、魅上。お前の活躍のお陰で迷路を壊せた」

「人助けのためなら、これくらい当然だ」

 どこからか現れたルーイに労われ、才悟は変身を解いた。

 鏡の迷路は侵入者を先に進ませないための罠で、どうやら鏡の中の像たちが導いてくれたらしいと、才悟も途中で気づいていた。

「ルーイってば、変身するのが面倒だからって才悟にやらせたんだね」

 だから遠くにいたんだ。颯は不満そうに口を尖らせて言った。

「……ま、俺たちも人のことは言えないか。才悟1人で何とかなりそうだと思って、何もしなかったしな」

 颯も阿形もルーイの態度には呆れたが、自分たちも似たようなものだと思うとあまりルーイのことは言えなくて、曖昧に笑うしかなかった。

 教育地区によく似たこの住宅街は、カオスワールドの主が住んでいるところを再現しているのだろうか。

 改めて住宅街周辺を見ると、普通の民家が立ち並んでいるようだが、人の気配はまるで感じない。どこの家もカーテンが閉まっていて明かりもないので、無人だと思われる。

 一軒だけ明かりがついている家があるので、そこにカオスワールドの主がいるのだろう。

「さてと、ここからが本番だ。カオスワールドの主に敵とみなされたら、ガオナが出てきて戦うことになるだろうな。戦闘については特に心配してないが……」

 ルーイ、才悟、颯、阿形。個人の戦闘能力に不安要素はない。問題は、カオスが完成する前に脱出させられるかどうかだ。

「デリケートな問題のようだし、他人の声なんて届かないだろうな……」

「説得は無理でも、本人と話す価値はあると思う」

 主の心情を想像すると、阿形が言うように他人が何と言ったところで雑音でしかない。しかし、これまでの経験を振り返ると、カオスワールドを開いた本人と話しをするのは重要な要素だと言えるだろう。

「それに、Qが戻ってくるのを待っている場合じゃない」

 だからこそ才悟は、説得できないと分かっていても話をするべきだと主張した。

「何もしないでこのまま待ってるのも嫌だしね。とりあえず呼んでみよっか」

 ピンポーン。颯は玄関についているインターホンを鳴らした。すると、中から足音が聞こえてきた。軽快に廊下を走ってくる音、おそらく2人分だ。

 ガチャっとドアが開けられた。そこにいたのは6歳くらいの男の子と、20代の若い男性。男の子の父親だろう。ということは、この男性がカオスワールドを開いた本人だ。

「わあ、お客さんだ!」

「大地、パパはこの人たちと話があるから、中で待ってなさい」

「えー、僕も話したいよー」

「大人同士の難しい話をするんだから、あっちに行ってなさい!」

「ちぇー」

 男性は子どもを家に残し、後ろ手に玄関のドアを閉めて外に出てきた。険しい顔つきだ。その顔は、顔のない男を責め立てていた鏡の中の像と同じ顔だった。

 男性は、ルーイ達が外から来た侵入者だとすぐに分かったようだ。

「誰ですか、あなたたちは。何の用ですか?」

「俺は魅上才悟。人助けをする仮面ライダー屋だ」

「仮面ライダー屋? そんなものは呼んでない。ここは私と大地のための世界なんだ。出て行け!」

 どうやら聞く耳すら持ってもらえないようだ。しかし、だからといってこのまま家にこもらせるわけにはいかない。

「えーっと、そうだ! 子どもの遊び相手! なってあげられるよ! ずっと2人でいるってことは、1人で休む時間とかないんじゃない? 子どもだって、親以外と外で遊ぶのもいい刺激になると思うよ!」

「……確かに1人で休む時間は少ないが」

「そいつは心配だな! それなら、これからみんなで外に遊びに行きませんか? お子さんが嫌だと言ったら無理強いは出来ませんが……」

 颯の提案に阿形が乗っかり、全力で引き止めた。口下手なルーイは後ろで事の成り行きを見守っている。

「パパ! 僕、外に遊びに行きたいよ! ずっと家にいるとサッカーも出来ないし、つまんない!」

 話が聞こえていたらしく、子どもが玄関のドアを開けて外に出てきていた。

「……そうだな、お前はサッカーが好きだったな。それじゃあ、遊びに行くか」

「やった! ボール持ってくるね!」

 子どもは大喜びで外に行く準備を始めたようだ。親は向き直り、申し訳なさそうに才悟に語りかけた。

「すまないが、付き合ってもらってもいいか。仮面ライダー屋の方々」

「もちろんだ。困っている人を助けるのが、仮面ライダーの使命だ」

 ぐっと胸の前で握り拳を作り、才悟は何の躊躇もなく宣言した。

 まだ二十歳にもなっていないというのに、子守も難なく引き受けられるとは頼もし過ぎる。引き止めに成功して、颯と阿形はこっそり笑い合った。

「僕は仮面ライダー屋じゃないけど、言い出しっぺなんだから協力しないとね。僕のことは颯って呼んで」

「阿形と言います、よろしく。こっちはルーイ。あなたのことは何と呼べば?」

「中村です。中村浩平。子供の名前は大地です」

 こうしてカオスワールドの主、中村浩平とその子ども、大地を家の外に連れ出すことに成功した。

 浩平の顔を見たところ、まだカオスは進行していないようだ。少しは余裕がありそうだが、Qの到着まで間に合うだろうか。

 浩平の案内でたどり着いた公園で、大地は早速サッカーをしようと才悟たちを誘った。とりあえず子どもの相手は才悟と阿形に任せ、ルーイと颯は浩平からカオスワールドを開いた経緯など、情報収集をすることにした。

「……浩平さん、仕事しながら子育てって大変じゃない? 仕事って何してるの?」

「広告代理店のしがない営業マンですよ。どれだけ提案しても企画を通すのが難しくてね……」

「あー、自分がいいと思っても、相手がいいと思うかは分かんないもんね。予算とか見込みとか、色々考えなきゃならないんでしょ?」

 ラウンジで女性相手に接客をしている颯は、さすがに話を進めるのが上手い。雑談を交えて相手の情報を引き出すのはお手のものなのだろう。人見知りで口下手なルーイには一生かかっても真似出来そうにない。

 喋るのはコイツに任せるか。ルーイはとりあえずスマホを取り出して、アプリを開いた。まだバッテリーに余裕がある。

「やることが多いから残業も多くなりがちで……。あの子はワガママも言わずに、我慢してたんでしょうね。あんなに楽しそうに笑っているところは久しぶりに見ました」

 才悟と阿形と、サッカーに興じている大地。楽しそうに、無邪気に笑っている。活発な子どもだったのだろう。

 あれが浩平の願望から作られたものだなんて、信じ難いくらいだ。子どもはもうこの世にいないという現実を改めて突きつけるのが、辛い。

「我慢してた、か……。子どもなりに気を遣ってたんだね。本当は、お父さんともっと一緒に遊びたかったのかな」

「本格的に転職を考えるべきですかね。給料は安くなっても、残業がほとんどない仕事とか」

「うーん、僕からは何とも……。ルーイはどう思う?」

 スマホを忙しなくいじっているところを唐突に話しかけられて、ルーイは視線だけを颯に向けた。こんな時にスマホ? と颯はむくれてルーイのスマホ画面を覗き込んだ。

 画面に映っていたのは、メッセージアプリのトークルーム。ゲームでもやっているのかと思ったら、Qへのメッセージ送信を試みているのが分かった。どおりで高速のフリック入力音が聞こえてくるわけだ。

「連絡出来たの? 早く戻って来てくれると……。ていうか、分かるかな? 僕たちの居場所」

「……。もうそろそろ核心に迫れ」

「分かってるよ。そんなに慌てないで」

 もはやこのカオスワールドは、浩平にとっての現実となっているようだ。育児と仕事を両立させるために転職を検討するほどに。ずっとこの世界で生きていくという強い意志さえ感じられる。

「ところで、大地くんだっけ。すごい元気そうだけど、交通事故に遭ったんだってね。ここに来る前、鏡の迷路の中で聞いたんだ」

「……それで?」

「後悔するのも自分を責めるのも分かるよ。大好きな人が僕のせいで死んじゃったりしたら、僕も自分を責め続けると思うから。でもね、何をしても死んじゃった人はもう戻ってこない」

「一体何の話を……? もしかして、颯さんの大事な人の……?」

「僕はさっきから浩平さんの話しかしてないよ。僕もこんなこと言いたくないんだけど……」

「あそこで遊んでる子どもは、お前の妄想だ」

 言いにくそうにしている颯の後を、それまで黙っていたルーイが引き継いで続けた。

「ルーイ……」颯は、安心したようにほっと息をついた。

「さっき自分で言っていたように、ここはお前が子どもと過ごすために作った世界。交通事故で子どもを亡くしたという現実を受け入れられないお前が作った、偽りの世界だ」

「偽りなんかじゃない……。あの子は、あの子は今もこうして生きて!」

「……俺には、親からまともに構ってもらった記憶がない。親から大事に思われて……お前の子どもは……幸せ者だな」

「……」

 ルーイが自分の過去について他人に語るのは珍しい。というより、初めて見たかもしれない。

 カオスイズムによって記憶を奪われたから覚えていないのか、それとも本当に愛されていなかったのか。

 そのどちらかは分からないが、心を痛めていそうなルーイの表情に、颯は自分の胸まで痛くなってきたような気がした。

「お前の子供は、もういない。死んだんだ。……受け入れろなんて、無茶なことを言うなと思うだろうが」

「死んでない! 大地は生きてる! これからも……これからも一緒に生きるんだ!」

 発狂してもがき苦しむ浩平の顔面から、淡い虹色の光が漏れ出した。

「もういない」「死んだ」というストレート過ぎる言葉が、浩平の心に鋭く突き刺さったのだろう。両手で頭を抱えて、天を仰いで涙するその姿は、赦しを請うようにも見える。

 これにはさすがにルーイも焦った。颯はもう見ていられなくなったようで、固く目を閉じて顔を逸らした。

「しまった……!」

「も、もしかして……トドメ刺しちゃった感じ……?」

 浩平の叫び声が聞こえたようで、遠くで遊んでいた大地が戻ってきた。後ろから才悟と阿形も追いかけてきている。2人とも異変に気づいたようで、顔つきは険しいものに変わった。

「パパ! どうしたの⁉︎」

 大地が心配そうに浩平の体に纏わりついて、呼びかけた。しかし、浩平は答えない。まるで大地の存在に気づいていないように、何事かを呪文のようにぶつぶつと呟いている。

「パパに何したの⁉︎」

「……こいつの妄想のくせに、親子ごっこを続けるつもりか?」

「パパは、パパは、本当に僕のパパだ! 妄想だなんて……」

「……大地、君の足元が……」

 才悟が大地の足元に纏わりつく黒い霧のようなものに気づいた。かと思ったら、大地自身から黒い霧のようなものが出ていた。

 大地の顔も見えなくなるほどの濃い霧が、大地の全身を覆う。ガオナ出現の前兆のように見えて、一同は不吉な予感を覚えた。

「僕のパパだ、僕の……。この世界ヲ作ッタ、僕のパパダ! ヨクモアルジヲ! ユルサナイ!」

 子どもの高い声が、段々と低くノイズがかった声に変わっていった。

 大地の身長よりも大きく伸びた黒い霧が晴れて、中から現れたのは人間の子ども……ではない。これまで仮面ライダー達の前に何度も立ちはだかってきた、カオスワールドに棲む正体不明の化け物。その中でも一際強い存在が現れた。

「ガオナクスになった⁉︎」

「これは……この気配、強い! これは、ただのガオナクスじゃない!」

 予想外の展開に才悟と阿形は驚きながらも、いつでも動けるように身構えている。

 目の前のガオナクスは、体中いたるところに青いカオストーンの破片が埋め込まれているようだ。きらきらと光るそれは一見キレイだが、ガオナクスの力の供給源。

 浩平のカオス化を一刻も早く止めなければならないのに、厄介な相手が現れた。

「やれやれ、やっと始まったの? 待ちくたびれたよ」

 鏡の迷路とキッチンカーフェスティバル会場で聞いた、運営の放送と同じ声が聞こえてきた。

 チッと、ルーイは舌打ちした。Qが戻るより先に、面倒なヤツが来たか。

「リバル……!」

「つまんないから、何かけしかけてやろうかなーと思ってたとこだよ。やあっと面白くなってきたじゃん」

 何が面白いのか、リバルは袖で口元を隠しながらケラケラと笑っている。

「ルーイが説得に失敗しちゃったから、こうなったんでしょ? 可哀想にね。ほっときゃいいのに。ここでずっと子どもと暮らすって言ってたんだからさ。その方が幸せってもんだよ」

「そんなことはない」

 ルーイを煽っていたリバルに、才悟が反論した。急に流れを遮られて、リバルは不愉快さも隠さずに顔を歪めて、才悟に食ってかかった。

「は? 何で断言出来んの?」

「人は一人では生きていけない。現実には浩平さんを支えてくれる仲間がいるはずだ。悲しみのあまりずっと閉じこもることは、きっと仲間の望むことではない。

 仲間が望むことは、浩平さんが前に進んで強くなることだと思う。だから後ろを振り返ってはならないんだ。偽りの世界にあの人を閉じ込めるなど、俺が許さない!」

「何コイツ、うざっ。ていうか誰? 僕はアルセブンの1人だよ。そんな態度取って許されると思ってんの?」

「俺は魅上才悟。ジャスティスライドの仮面ライダーだ。俺もお前を許すつもりはない。変身!」

 言うが否や、才悟は仮面ライダーに変身してリバルへ立ち向かった。阿形と颯も触発されたようにリングを取り出す。

「アルセブンにカオスイズム……俺がここで倒す! 変身!」

「僕も負けてられないね。宗雲へのお土産になる情報、倒す前に吐き出させないと! 変身!」

 才悟の長過ぎる口上後の変身に、阿形と颯の同時変身。アツイな……今は日曜朝か? などと、ルーイだけがほんやりと考えていた。

 リバルにちょっかいを出されたのはルーイのはずなのだが、なぜか周りが熱くなってルーイ自身は逆に冷めていた。

 しかし、1人だけ変身しないわけにもいかない。「変身」とぼそっと呟いてひっそりと変身した。

「行くぞ!」

「ふん、まあいいや。遊んでやるよ!」

 リバルも大怪人へと姿を変え、腕を横一線に振った。するとどこからともなく、ガオナとガオナクスの群れが現れた。

「お手並み拝見。コイツらを倒せたら、僕が直々に遊んでやるよ」

 ガオナの群れを盾にするように、リバルは後ろへ下がった。

 才悟、阿形、颯の3人は、打ち合わせもなしに各々が目の前の敵と戦い出した。それぞれ離れた場所で、干渉し合わない戦いをするのならばいいのだが……。

 阿形の鬼火で才悟の目が眩んだり、才悟が蹴り飛ばした敵が別の敵に当たって颯の狙いがずれたり、颯が放った技に阿形が巻き込まれたり、戦場はもうぐちゃぐちゃになっていた。この3人で戦うのは初めてだから、連携が取りづらいというのもあるが……。

「テメーら、闇雲に戦ってんじゃねーよ」

「俺は向かってくる敵を倒しているだけだ。闇雲じゃない」

「だからって味方がいる方に蹴り飛ばすやつがあるかよ」

「俺も邪魔するつもりはなかったんだが……」

「なーんか上手く戦えない……クラスが違うから?」

「それ以前の問題だろ」

 個々の能力は高いのに、連携は上手くいかない。漫画などでよくある展開に、ルーイは呆れたようにため息をついた。

「……そんなに言うなら、ルーイが指示出ししてよ。見てたんなら、僕たちの得意不得意も分かったんじゃないの?」

「は? 俺がかよ……」

「それはいいな! 何か策があれば、ぜひ!」

「コイツらを倒せるのなら、指示に従おう」

 じっ……と6つの目に見られると、何も悪いことをしていないのに居心地の悪さを感じてしまう。

 指示出しなど得意ではないし面倒くさいが、このメンバーではたぶん司令塔なしで戦うのは無理だ。

 そして、その司令塔になれそうなのも自分しかいないと、ルーイも分かっていた。

「……仕方ねー。ひよっ子ライダーどもに格の違いってやつを見せてやるか」

 蠍の尾を模したライズが、不敵な笑みを浮かべたルーイの背後から現れた。左右に大小2尾ずつ、合わせて4尾のライズが容赦なくガオナ達に襲いかかる。

 ガオナ達をあっという間に一ヶ所に集めていくその手腕は、さすがであるとしか言いようがない。既に動き出しているライダー達に向けて、ルーイが叫ぶ。

「阿形! 魅上と颯の援護だ! 適当に攻撃と牽制、ガオナの数を減らせ! テメーら2人は上からダブルで技叩き込んで一気にキメろ!」

 見たところ、ルーイ以外は前衛系の戦い方を得意としている。ルーイ自身は後方支援に徹し、阿形を壁役、必殺キックを得意とする才悟と颯を攻撃の要として組み立てた。ライダー達は心得たと言わんばかりに頷いて、それぞれ配置に着く。

「1人でやれなんて無茶言うなぁ。だが……」

 苦笑しながら、向かってくる相手を片っ端から倒していく阿形。広範囲に鬼火を飛ばしながら、ガオナ達の動きを制限する。

 せっかくルーイが集めてくれたのだ。才悟と颯の攻撃を成功させるためにも、一塊りとなった群れを崩すわけにはいかない。

「役目は果たすさ!」

 ガオナの数が段々減ってきた。颯は才悟に目配せし、才悟は応えるように頷く。

「行くよ才悟! 狙いは……」

「心得ている。全力で行くぞ!」

 2人の攻撃で全員まとめて倒せるように、中心部の辺りを狙う。ある程度数が減って、阿形が巻き込まれない位置にいる今が攻撃のチャンスだ。2人で同時に跳び上がった。

「ファイナルライディング…」

「トワイライト…」

 颯は更に上昇した。加速と急降下で威力を上げるつもりだ。

 才悟は飛行能力がないので、対空時間はほぼ一瞬。颯が合わせてくれるだろうと信じて必殺技を放った。

「シュートッ!」

「スカイドライブッ!」

 迷いなく一直線に、一つの塊となった敵に向かって高速で落ちていく。

 颯よりも低い位置で放った才悟に追いつくため、颯は更に加速。2人でタイミングを計ったかのように、ほぼ同時に必殺が炸裂、着地した。

 ガオナもガオナクスも必殺技を食らって跡形もなく消え去り、えぐれた地面が衝撃の強さを物語っていた。

「やった! やるね才悟!」

「君こそ。ここまでとは思わなかった」

 嘘のような鮮やかさに爽快感すら覚え、2人はハイタッチを交わした。離れた位置で見ていた阿形も驚き、ルーイは満足そうに笑っている。

「すごいな、ルーイさん。一瞬でこんな連携を組み立てられるのか」

「テメーらとは格が違うんだよ。ゲーマー舐めんな」

 視線を遠くへ移すと、リバルが悔しそうに口元を歪めているのが見えた。連携が取れないことを見込んで大量のガオナ達を呼び出したのだろう。

「今度はお前の番だ」

 才悟がすぐに体勢を整えて構えた。

「僕に構ってる場合? あいつのカオス、そろそろ完成しそうだよ」

「何?」

 気を取られて後ろを振り向いている間に、リバルは新たなガオナとガオナクスを呼び出した。

 前にはリバルと化け物の群れ、後ろにはカオス化が進行する浩平と、浩平を守るように立つガオナクス強化態。何とか押せそうな展開に持ち込めたと思ったが、状況は変わらないどころか悪化したような気さえする。

 とりあえず才悟と颯、阿形も駆けつけて3人でガオナの群れと戦っているが、全滅させるには時間を要する。

 Qのヤツ、まだ戻って来ねえのか! 心の中で悪態を吐いてもQは現れない。ルーイらしからぬそわそわした様子に、リバルはピンと来た。

「……もしかして、Qのこと待ってる?」

「あぁ?」

「Qだったら、ここに来る途中で会ったから倒しといたよ。何を企んでたか知らないけど、残念だったね」

 クスクスと愉しそうに他人を嘲笑うその仕草と表情は、見るものに不快な印象を与える。

 しかし、ルーイは気にも留めない様子で、余裕すら感じられる笑みを浮かべている。予想とは違う顔をされて、リバルは憤りを隠さなかった。

「何、その顔。仲間を倒されたってのに、何がおかしいのさ」

「フン……残念なのはお前だ、リバル」

「は?」

「もうすぐ来る」

 ルーイの手にはライダーフォンが握られていて、メッセージアプリのトークルームが表示されている。颯が浩平と話しているとき、あとどれくらいかかるといったメッセージをQに送っていたのだ。最後のメッセージにはこう書かれている。

「『今から行くよ!』やっと見つけたー!」

 Qの声が聞こえた、と思ったら獣のような咆哮が上がった。Qが浩平の側にいるガオナクス強化態に一太刀浴びせたのだった。

 ガオナクス強化態は反撃に転じるが、ライダーの中でも小柄ですばしっこいQの動きに翻弄されている。本来の力を出せないまま、ガオナクス強化態は断末魔の叫びをあげて消え去った。

「おせーんだよ」

「強そうなの1匹倒してあげたんだから、許してよ。ギリギリ間に合ったでしょ?」

 悪態を吐きあうスラムデイズの2人。お互い無事だと分かっていたので、何も心配していなかった。

「……何で生きてんの? 倒したはずなのに」

「意外にツメが甘いよね、リバルって。逆にどうして僕が死んだと思ったの? 見せかけることなんて簡単だよ」

 一旦カオスワールドの外に出ようとしたとき、鏡の迷路内部でQとリバルは遭遇していた。

 面倒な相手に会ったと思ったQは、とりあえず適当にやり過ごして逃げようとしたのだが、リバルはすぐに追いついてくる。「どこか隠れるところないの?」「アイツを騙すの手伝ってよ」などと質問して鏡を味方につけた。

 全面鏡張りの迷路では、一瞬で本人か鏡かを見分けるのは難しい。鏡の中の像が倒れたフリをしてくれて、周囲の鏡にも倒れたQの姿が映し出された。

 早く面白そうな方へ行きたいと思っていたリバルはろくに確認もせず、さっさと先に進んで行ったのだった。

 Qの到着が想定よりも遅れたのは、リバルの妨害に遭っていたからだった。

「それより、ビデオ通話繋いでんだろーな? とっとと説得しろ。あと、持ってきたものよこせ」

「はいはい。ほんと、人使い荒いんだから」

 そんなんじゃモテないよ。余計な一言ともに、Qはカオストーンを1つ、ルーイに投げた。真紅の炎のように力強く輝くそれは、吸い込まれるようにルーイの手中に収まった。

「カオストーン⁉︎」

「テメーと戦うには準備が必要だからな。Qには悪いが、戴天のとこまで走らせるついでに、アジトから持って来させた」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 鏡の中の像は、聞かれたことに答えるだけ。ならば、このカオスワールドについて質問すれば分かることもあるのでは?

「……このカオスワールドは誰が開いたの?」

「中村浩平っていう男だよ」

「どこのどいつだ、それは。歳は?」

「教育地区に住んでいる広告代理店勤務のサラリーマン。先日28になったばかりだ」

「俺と同い年かよ」

「正確には1年違いだ。お前は今年29だろ」

 ルーイとしては独り言を言ったつもりだったのだが、もれなく全てに返事をされる。

 うざいから全部Qにやらせるか。隣にいるQを見下ろすと目が合った。

「ルーイって、もうオジサンなんだね」

 うぜえ。とりあえず頭を1回叩いておいた。

「もー、何すんのさ!」

 いーからとっとと情報聞き出せ。こういうのはお前の方が得意だろ。と、ライダーフォンのメッセージアプリでQ宛に送信した。これなら鏡の中の像を喋らせずに済む。

 メッセージを確認し、Qは再びルーイを見た。何も言ってないのに、早くしろと苛立っているルーイの声が聞こえたような気がした。

「ふふっ、おもしろ〜い。それじゃ、カオストーンはどこで手に入れたの?」

「迷路のゴールに辿り着いたから、運営からカオストーンを受け取ったんだよ」

「カオスワールドを開いた原因は分かる?」

「この迷路を作っているときに近くを通りかかって、建設会社の大型トラックに中村浩平の子どもが轢かれて死んだからだよ」

「建設会社に子どもを殺されたってことか……。それなのに、1人でここに遊びに来たの?」

「子どもはこの迷路の完成を楽しみにしてたんだって。子どもの写真を持ってきてたようだったよ。一緒に楽しんだってことじゃない?」

「迷路を建てた会社の名前は?」

「虹顔総合建設株式会社。高塔の関連会社だよ。末端の末端だけどね」

 カオスワールドを開いたのは中村浩平、28歳。広告代理店勤務のサラリーマン。迷路の建設途中に子どもが建設会社の大型トラックに轢かれて死んでしまった。

 今日は子どもの写真とともに、子どもが楽しみにしていた鏡の迷路に入り、ゴールに辿り着いた。そこで運営からカオストーンを受け取ってそのままカオスワールドを開いてしまった。こんなところだろうか。

 俺たちだけで説得するのは難しいな。と、ルーイからメッセージが届いたが、隣にいるのにいちいち文字を打つのは面倒くさい。

「ルーイ、鏡を見なければいいんだよ。いちいち打つの面倒なんだから喋ってよ」

「……チッ」

 ここは互いの顔だけを見て話し合うしかないようだ。

「Q、一旦外に出て戴天を連れて来るか、ビデオ通話を繋げ。それと、アジトからカオストーンを何個か持って来い」

「えー、何で僕が?」

「とりあえず、戴天と話をさせる。高塔関連なら把握してるはずだ、たぶん何とかなる。リバルとやり合うなら小細工が必要だって、お前も分かるだろ?」

「分かるけどさー……」

 Qは不満そうに口を尖らせた。ルーイだって面倒だから外に出たくない。自分で言うのもなんだが、こういう立ち回りはQの方が信頼性がある。

「俺が外に出たら戻って来ないかもしれないだろ」

「それ自分で言うの?」

「あとお前の方が身軽で足が速い。パッと行ってパッと戻って来れるだろ」

「僕のことワガママだって言うけど、ルーイの方がよっぽどワガママだよ。しょうがないから行ってあげるけど、後で絶対遊んでよね」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「へぇー……さすが元幹部のカオスライダー……。相変わらず根回しがいいね」

「そりゃどーも。テメーに褒められても嬉しくねーな」

 リバルはチッと忌々しそうに舌打ちをし、口元からは悔しさが滲み出ている。

 その間にQは浩平の側まで行き、ライダーフォンを掲げて浩平に見せている。画面には戴天が映っている。

 あれはQに任せておくとして、問題はリバルとガオナなどの群れだ。アルセブン相手に戦力を分断されるのはよろしくない。雑魚の相手は雑魚がやるべきだ。

 おそらく出来るだろうと仮説は立てていたが、まだ実際にやったことはないことがある。

「記憶のために集めてたカオストーンだが、ただ持ってるだけじゃもったいねーからな。テメーらを倒す武器にならないか研究してた。特別に研究の成果を見せてやるよ」

 カオスライダー時代のルーイも、カオストーンをばら撒いて誘拐して、ライダーアカデミーへ入学させるなどをしていた。カオストーンの使い方も多少は心得ている。

 カオストーンを強く握って、イメージする。ガオナやガオナクスと戦えるライダーの姿を。

 すると、ルーイの前にガオナ出現の前兆に似た黒い霧が出現した。ルーイが握っているカオストーンによるものだと思われるが、これにはリバルもギョッとして目を見開いた。

 霧はルーイの背丈とほぼ同じくらいの高さになって、人型を形成しているのが分かる。やがて霧が晴れて全貌が明らかになると、ルーイは意地悪そうな笑顔で言い放った。

「名付けるなら、[[rb:幻影 > ミラージュ]]ライダーだ」

「は? 何、それ……。そんなこと出来るとか聞いてないんだけど」

 中から現れたのは、黒い霧で形成された仮面ライダーRUIにそっくりの人型。実体はあるが、心や感情は持たず、虚な目をしている。

 出来るか出来ないかは半分賭けだったが、初めてやったにしては上出来だ。幻影の方をガオナ達の方へ向かわせ、ルーイ自身はリバルと向き合った。

「フン……カオスの力を嫌う割には使いこなすじゃん。ライダーになって弱いものいじめするのも満更じゃないんじゃないの?」

「弱いものいじめしてるのはテメーの方だろーが。記憶を奪われたこともだが、俺がカオスイズムの手先にされてたことが一番許せねー。だからこそ俺は鍛えて、気に食わねー力を使いこなすことを選んだ。二度とテメーらに乗っ取られねーようにな!」

 カオストーンを力強く握ったルーイの右腕がわなわなと震え、蠍の尾を模した二対のライズがルーイの意思でうねり出す。出力を最大まで上げて、威嚇するように刃をリバルへ向けた。

 

 そして、才悟たち3人のライダー達の戦いも、そろそろ終わりを迎えようとしていた。

 突然現れた真っ黒のライダーに全員面食らったが、どうやら味方らしいと分かったのでそのまま戦い続けた。

 幻影ライダーはRUIにそっくりだが、戦闘力は本人の半分程度のようだ。ガオナにトドメを刺せずに苦労している様子が見てとれた。

 颯は上空からの攻撃でガオナ達の数を減らしていたが、少し離れたところでリバルと戦っているルーイを心配そうに見ていた。

 ルーイの強さは知っているし、負けるはずがないと信じているが、1人でアルセブンに挑むなんて無謀過ぎる。加勢しに行きたいが、ここを放って行くことは出来ない。

 そんな颯の様子を見かねて、浩平の説得に当たっていたQがカオストーンをもう1つ取り出して、思いっきり空中に投げた。

「颯っ!」

 バシッと颯が受け取ったものはカオストーン。Qがスラムデイズのアジトから持って来たもので、寒々とした冬の海を連想させる、暗くくすんだ青色のカオストーンだった。

「それで幻影ライダーを作ってみなよ! たぶん出来るから」

「作るって言ったって……」

「カオスワールドは何でもありだよ。自分の代わりにガオナと戦うライダーを想像して」

 颯は才悟と阿形の側に一旦着地した。そんな抽象的なことを言われても困る。

 Qの声は才悟と阿形にも聞こえていたので、ルーイにそっくりなライダーの正体も察しがついたようだった。そして、このカオストーンで何をするべきなのかも。

 

 リバルとルーイの戦いは、お互いの出方を窺って膠着状態となっていた。

 何度か交戦したことのある2人だからこそ、互いの手の内はほぼ知り尽くしている。全力を出して一気に叩き伏せられる相手ではないことも、裏をかいた行動を取ることが難しいこともよく分かっている。

「チッ……ルーイのくせに、しぶといなぁ……!」

 何もかもが上手くいかない。幹部候補生を集めることも、ルーイの作戦を崩すことも、今のこの状況も。全てがリバルの想定外。苛立ちだけが募っていく。

 リバルの苛立ちはルーイにも伝わっている。一方のルーイは焦りを感じていた。浩平のカオス化を止めるのはとりあえずQに任せたが、戦闘は思いの外苦戦している。チラチラと横目で見ていたのだが、幻影ライダーは大した戦力にはなっていなさそうだった。

「……ルーイーーーッ!」

 ルーイを呼ぶ颯の声が聞こえた。思わずバッと振り返ると、3人がこちらへ走って来ているのが見えた。ガオナの群れの相手は幻影ライダー達に任せたようだ。

「ッ、ルーイさん後ろッ!」

 ヤベェ……! 颯の声に気を取られて出来た隙を、リバルが見逃すはずがない。間合いを詰めるのとパワーチャージを許してしまった。

 至近距離で攻撃態勢に入っている。避けようがない!

「くらえ!」

 もう何度も食らったことがある、アルセブンの必殺攻撃。受け流せる距離ではない。

 ルーイは一応両腕で防御姿勢を取ったが、後方へ大きく吹き飛ばされた。意識はまだある。受け身の姿勢をとって地面に転がった。ダメージは多少抑えられたが、ルーイの変身が解除された。

「ぐ……クッ、ソ……!」

「トドメだ!」

 うつ伏せになったまま動けないルーイに向けて、リバルの攻撃が放たれた。確かにルーイに向けて放たれたそれは、間に割って入ってきた颯が受け止めていた。

「は? 何でコイツが……」

(は? 何でコイツが……)

 奇しくも、リバルの発した声とルーイの心の声が重なった。

 ルーイが後ろに吹き飛ばされたことにより、駆けつけていた3人との距離が縮まっていた。そのおかげで颯の飛翔による移動が間に合い、ルーイの前に立つことが出来たのだった。

 颯が攻撃を受け止めている間、才悟と阿形は横を一直線に駆け抜けてリバルを目指す。

「うッ……ヤバいかも……! ッうわあぁ!」

「……! はや、て……」

 同じ攻撃を受けて、颯も後ろへ倒れたと同時に変身が解けた。颯は仰向けで倒れ、丁度目の前にはうつ伏せで苦しそうに顔を歪めているルーイがいる。2人の視線がぶつかり、颯は眉を八の字に寄せて悲しそうな顔をした。

「ごめん……さっき……僕が、呼んだから……」

 呼ばなければ、こんな怪我させなくて済んだのに。そう言っているように聞こえた。

「……俺が」

「……?」

「……油断した……」

 お前のせいじゃないと言うことが出来ればよかったのに、最低限のことしか言えなかった。

「これで2人目。あとは五期生のお前たちか。まとめてかかってきなよ」

「才悟! 油断するなよ!」

「分かっている。お前はここで倒す!」

「ハッ、やれるもんならやってみなよ!」

 脱走した落ちこぼれ組が! 嘲笑しながら、リバルは2人と距離を取る。

 連続で必殺攻撃を放ったため力が残っていないと察した才悟と阿形は、互いに目配せして頷き合った。2人同時に飛びかかって拳を突き出すと、リバルが再び攻撃態勢に入った。

 まだパワーが残っていたのか! 読みが外れて驚愕に目を見開いていると、攻撃が放たれた。

 防御も出来ずに隙だらけのところに直撃をくらって、飛びかかるどころか逆に吹き飛ばされた。2人もルーイと颯がいる側で地面に叩きつけられ、変身が解除された。

「ふん、やっぱり落ちこぼれだね。僕の勝ちだよ、ルーイ。この程度で倒せちゃうなんて拍子抜けだよ」

 クスクスとリバルの笑い声が聞こえる。ライダー4人は地に伏せたまま、未だ起き上がらない。

 ご満悦といった表情を見せているリバルを、ルーイは薄目で見ていた。勝利を確信して酔いしれたような顔は見てて腹が立つ。それ以上に、ひどく滑稽なものに見えた。

 誰が勝って誰が負けたって? 寝言は寝てから言いやがれってんだ、この[[rb:道化師 > ピエロ]]が。

 

 このまま何もしないで負けを認める? ありえねー。まだゲームは終わっちゃいねー。

 最後の1秒まで、俺は絶対に諦めねー。こんなところで、こんなヤツにやられてたまるか!

 

 いつも自分に言い聞かせていることだ。ゲーマーとしての矜持、これだけは絶対に譲れない。

 ルーイは上半身を起こして、右手でグッパッと握り拳を作っては開いてを繰り返した。まだ力が入る。地面に両手と片膝をつき、ゆっくりと立ち上がった。

「……テメーら、まだいけるな?」

 パッパッと服の汚れを払う様は、普段通りのルーイのように見える。ただし、普段通りの気だるそうな顔ではない。獲物を狩る猛禽類のような鋭い目つきに変わっていた。

 なかなか見られない本気になったルーイの表情を真下で見た颯は、触発されたように飛び起きた。……実際はまだ体が痛むので、「イテテッ!」と悲鳴を上げてヨロヨロと立ち上がったのだが。

「もちろん! 諦めの悪さなら自信があるよ! 絶対に勝ってみせる!」

 予定とは違ってカッコ悪い立ち上がりとなってしまったのを誤魔化すように、颯はファイティングポーズを決めながら高らかに宣言した。

「そうだ! カオスイズムを倒すまで、立ち止まっていられるか!」

 次は阿形が立ち上がった。復讐心のみを原動力に立ち上がったようなもので、ダメージはまだ十分に癒えていない。

 が、カオスイズムを人一倍憎んでいる身として、アルセブンの1人を倒すチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。

「たとえ立ち上がれなくなっても……俺は負けない!」

 才悟が立ち上がり、4人全員が立ち上がった。

 才悟には守るべきものがある。現在は虹顔市の平和維持活動を行っているが、常に願っているのは世界平和。そのためにも、平和を脅かすカオスイズムは倒さなければならない。

 それぞれの信念を胸に、4人は横一直線に並んでリングをはめて、ベルトへ力を注ぎ込んだ。

「変身!」

 仮面ライダーRUI、颯、阿形、才悟。クラスも信念も異なる4人のライダーが光とともに再び揃った。

 万全ではないが、連携を取れるようになった今なら負ける気がしない。4人の間には信頼関係が芽生えつつあった。

 先に動いたのは、リバルと浅からぬ因縁があるルーイ。走りながら長い長い蠍の尾を鞭のようにしならせ、威嚇するように地面に打ちつけた。全てルーイの意思による動きだが、まるで尾そのものが生きているかのような力強さを感じる。

「さあ……勝負だリバル!」

「ルーイ……ッ! そこでおとなしく這いつくばってろよ!」

 ビリビリとした気迫、プレッシャーが空気を振動して伝わってくる。

 普段は無気力なルーイからは想像も出来ないほどの鬼気迫った表情だ。ルーイの変貌ぶりにリバルは冷や汗をかき、寒気すら感じた。

 問答無用とばかりにリバルの返事も待たず、ルーイは攻撃を仕掛けた。

 普段と同様のライズによる攻撃だが、ライズの大きさと動きの激しさは普段の比ではない。対象を無慈悲に貫く必殺技、チェインヘルバイトだ。ほぼ休みなく攻撃を仕掛けられて、リバルは防御に徹するしかない。

「攻撃が重い……! 何で……さっきと違う⁉︎」

「教えてやろうか?」

 こんな時でも、ルーイは普段と変わらず意地悪く笑っている。最後の一撃を放ったところで阿形が前に躍り出て、鬼式・紅炎獄を繰り出した。

「俺たちは仲間だ! クラスは違っても目指すものが同じなら、協力して戦えるんだ!」

 無数の紫炎が舞い上がった。炎の中を阿形が走り、リバルとの距離を一気に詰める。

「カオスイズムは全員ぶっ潰す!」

「調子に乗るなよ、落ちこぼれが!」

 阿形の鋭い爪がリバルを切り裂こうと攻撃を仕掛けるも、全てガードされてしまった。

 ルーイの激しい攻撃を受けた後でも、ガードする余力は残っているらしい。ついでのように飛んできたリバルの攻撃には虚をつかれたが、何とか受け流すことは出来た。見た目通りに物理攻撃が得意ではないのなら、押し続ければ勝機はある!

「いいね! いい感じ! 僕らも行くよッ!」

「ダブルキックか。分かった!」

 興奮を抑えられない様子で、颯は思いっきり地面を蹴って飛び上がった。

 高度を上げて急降下、必殺技の体勢を整える。リバルが防御に集中して動けない今こそ、背後から急襲するチャンスだ。

 タイミングを合わせて才悟も飛び上がって回転し、ダブルキックを狙う。

「さっきのお返し! 吹っ飛んじゃえッ!」

「好き勝手にはさせない!」

 トワイライトスカイドライブ! 颯を象徴する肩翼のライズが煌めく。無邪気さと残酷さを併せ持つ笑顔が弾けたと同時に、別角度から才悟のファイナルライディングシュートが飛んできた。

 狙いどおりのダブルキックが炸裂。地面を穿つほどの強力な蹴りはさすがに効いたらしい。地面に倒れてうつ伏せになり、大怪人態も解かれるほどのダメージを負った。

「う……ぐぅッ……!」

「さあ! 最後はみんなでいっくよー!」

 颯の明るい声が周囲に響き渡った。そこまで話し合っていないので、何事かと3人のライダー達は一斉に颯の方を見た。

 颯は悪巧みを思いついた子どものような顔をして、白い歯を見せてにんまりと笑った。

「みんなで一緒にライダーキック! だよ♪」

 全員「は?」と思ったが、作戦としては悪くない。才悟と颯はいつもどおりに、ルーイと阿形は見よう見まねで飛び上がった。

「それじゃあいくよ! 本日限りの必殺技!」

「フルパワーだ! くらえ!」

「絶対に逃がしはしない……!」

「仕方ねー、超レアくれてやる!」

 颯の号令とともに各々体を回転させ、限界まで威力を高めた渾身の一撃を放った。加速しながら4人のライダーキックがリバルに向かっていく。

 リバルは悔しそうに顔を歪めて、歯噛みした。認めたくないが、残された選択肢は1つしかなかった。

 4人のライダーキックが放たれて着地したが、肝心の手応えがない。リバルの姿はどこにもなかった。

「……チッ、あのヤロー逃げやがったな」

 ルーイは変身を解き、苛立たしげに右親指の爪を噛んだ。やったことのないキックまでさせといて逃げてんじゃねーよ、などと勝手なことを思っていた。

 他の3人も変身を解いて、リラックスした表情を見せた。

「ま、結果オーライってことでいいんじゃない? とりあえず勝ったんだしさ」

「それよりも、Qの方はどうなったんだ? 説得は成功したんだろうか」

「あっ……そうだった! すっかり忘れてたな! 急いで戻ろう!」

 才悟と阿形が走り出したので颯も続こうとしたが、ルーイが動く気配がない。見ると、その場に胡座をかいて座り込んでいた。

「ルーイ、どうしたの? 行かないの?」

「疲れたし面倒くせーし、後は任せる。お前も早く行け」

 シッシッと手で追い払う仕草を見せたのに、颯は立ち去るどころかルーイの側に寄ってきて、同じように胡座をかいて座り出した。

「……おい、何でこっち来た」

「アルセブン相手に戦うのはさすがに疲れたね。しかもカオスワールドの中で、生きてるのが不思議なくらいかも」

「無視かよ」

「でもさ、すっごい楽しかった! 今度は戦いなしで、このメンバーで遊びに行こうよ!」

「…………」

 あんな激しい戦いの後でこんな顔が出来るなんて、大したヤツだ。キラキラと輝く目で笑いかけられると、多少の無理難題でも叶えてやりたくなる。そう思わせる類の笑顔だと思った。

「……俺は行かねーぞ」

「えーっ、行こうよ! ゲーセンとかカラオケとか、娯楽地区で遊べるとこいっぱいあるでしょ⁉︎」

「そういうことはQに聞け」

 戦闘が長引くことはあまりないので、さすがに疲れたらしい。ルーイは欠伸混じりで答えていた。つれない態度に颯は頬を膨らませたが、それも一瞬だった。

「そろそろ行こうよ。置いてかれたら、帰れなくなっちゃう」

 颯が立ち上がったので、仕方なくルーイも立ち上がった。

 手を差し伸べられては堪らないから、さっさと歩き出すか……。と思っていたら、いつの間にか後ろに回り込まれていて、背中を押された。ルーイの普通の歩きは、颯にとっては遅く感じるらしい。

 結局仲間のところまでこのまま歩かされて、恥ずかしい思いをした。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 後日、仮面カフェVIPルームにて――

 「じゃっ、みんなお疲れ様でしたってことで! カンパーイ!」

 各々が持っているグラスを掲げて乾杯とし、中身のジュースを傾けた。

 今日は祝勝会兼報告会として、鏡の迷路のカオスワールドに関わった5人が仮面カフェに集まっていた。「エージェントに報告するから全員来い」と呼びかけたのはルーイだった。

「みなさん、お疲れ様でした。大変だったみたいですね。無事でよかった」

 ノアがテーブルの上に料理を並べながら、ライダー達を気遣った。まさかライダーサミットの後に行った鏡の迷路で、そんな事件に関わっていたとは。

「カオスワールドへの扉を開いてしまった方も、無事でよかったですね」

「まあね。高塔戴天の説得は業務連絡みたいなもので、説得というより通達って感じだったかな。有無を言わせない雰囲気あったし」

 弊社関連会社社員が取り返しのつかないことをしてしまい、たいへん申し訳ない。きちんと本人から謝罪と償いをさせる。こちらからも誠心誠意対応させて頂く――など、当たり障りのないことしか言っていなかった。

「高塔戴天の言うことも間違ってなかったし、必要な対応だった。でも、本当に中村浩平を救ったのは魅上才悟、君の言葉だったよ」

 高塔からはテンプレートのような謝罪をされるだけで、改めて息子は、大地はもういないという現実を突きつけられるばかりで、どうしても受け入れられなかった。もう金銭のやり取りだけで済まされる存在になってしまったんだと。

 泣き続ける浩平に、才悟が言った。

 あなたが忘れなければ、大地はあなたの中で生き続ける。あなたは自分の子どものために出来ることを十分成し遂げた。もういいんじゃないか。あなたがこれ以上苦しむことを、誰も望んでいない。

 普段通りの、才悟の淡々とした声だったが、浩平の心には響いたようで、声を上げてしばらくの間泣き続けていた。

 泣き止んだ後は少しだけすっきりした顔になっていたので、気持ちの整理がついたのだろう。

「君がそう言うのなら、そうなんだろうな」

「何それ。違うって言うの?」

「いいや。人助けは難しいな。君は俺があの人を救ったと言ったが、よく分からない。あの時は、前に深水紫苑が言っていたことを思い出して言っただけだ。大事な人を失った人には、同じことを言ってやれば助けられるのか?」

「それは人によるとしか言えないな。人の心ってのは難しいものだ。だからあまり考え込むな。よかったじゃないか、浩平さんを外に連れ出せて。『ありがとう』って、言われてただろ」

 そう発言したのは阿形だった。才悟の疑問は尽きないが、浩平を救ったのは間違いなく才悟だった。

 浩平を救い、リバルを撃退し、残ったのは浩平から受け取ったカオストーンのみ。

「結局、このカオストーンはこの中の誰のものでもなかった」

「あーあ、僕だってリバルと戦って勝ちたかったよ。ガオナとだなんて全然面白くなかった」

 ルーイが持っている青いカオストーン。第二世代のものなので記憶が戻るかと期待していたが、この中に該当者はいなかった。とんだ肩透かしをくらったような気分だ。

「で、このカオストーンをどうするかだが」

「君に任せる」

「うちも第二世代は集めてないから、欲しい人が持ってればいいと思うよ」

 才悟と颯はカオストーンに興味を示さなかった。予想通りなので、特に驚きはない。

「阿形は?」

「カオスイズムを倒す力になるなら欲しいところだが、ルーイさんも同じじゃないのか?」

「俺は記憶が戻りさえすればいい。欲しいなら持ってけ」

「そうか……」

 阿形はルーイからカオストーンを受け取った。サファイアに似たきれいな青い石。じっと見つめていると吸い込まれそうな深い色だった。

「いや……やっぱり、俺も遠慮するよ。何かの拍子でなくしたら大変だしな。ノアが預かってくれないか?」

「分かりました。責任を持ってお預かりしますね」

 阿形からノアへ、カオストーンが手渡された。ルーイは何も言わずにその様子を眺めていたが、もう興味を失ったようで、箸でスナック菓子を食べ始めた。あまり美味しそうな顔はしていない。

「しんみりするのはこれくらいにして、パーティーを楽しもうよ! せっかくみんなで集まったんだからさ!」

 花が咲いたような笑顔で、颯が明るい声で言い放った。

 空気読めねーのか、コイツ。いや、ある意味読んでるのか?

 こういうのを鶴の一声とでも言うのか、場の空気が和やかなものに変わっていた。

「さすが颯さんですね」

「あ? 何がだよ」

「たぶん、ルーイさんと同じことを考えてますよ」

 空気読めるか読めないかってことか? ふふっと意味深に笑われたのが気になったが、理由を聞く前にノアは退室した。

「どうなることかと思ったけど、楽しかったよね! またこのメンバーで集まりたいなー。カオスワールドでも、遊びでも!」

「……おい、もう十分だろ」

 ルーイは苦虫を噛み潰したような顔をし、小声で反論した。何のためにわざわざ全員仮面カフェに集めたと思っているのか。

「そうだな、まあ悪くなかったな。あいつらといる方が落ち着くし、戦いやすいけど……」

「いい経験になった。今度はみんなでトレーニングをしよう」

「僕は全然面白くなかったんだけど。あと、トレーニングは嫌」

 わいわいとルーイ以外の面々で話に花が咲いた。

 ルーイは会話に参加せずに、スマホを見ている。SNSを見ていたら、虹顔総合建設のニュース記事が目に入った。鏡の迷路建設途中にあった事故の件だ。

 会社ぐるみで隠蔽工作をしていたらしく、当該社員はもちろんのこと役員も重い処分を受けた。更には高塔の傘下からも外されるらしい。

「ねっ、ルーイ!」

「……あ?」

 全く話を聞いていなかったのに颯に呼ばれてスマホから目を離したら、なぜか全員がルーイの方を見ていた。

「聞いてなかったの? このチームのリーダーはやっぱりルーイで、チーム名は何がいいかなって話してたんだ! 何がいいかな?」

「ちょっと待て。何だ、チームって」

「クラス結成は無理だから、チームかなって。そう言うだけなら制限ないし、いいじゃん! 僕たち、意外といいチームになると思うよ!」

 何でちょっとスマホを見てただけでこうなるんだ。Qを見ても、阿形を見ても、才悟を見ても、誰も異論を唱えてなさそうだ。

 つまり、孤立無援。チーム結成の話はまとまってしまったようだ。

「みんな、次に会うときまでにチーム名考えてきてね〜」

「えーっ、面倒くさいなー。ルーイ考えてよ、リーダーでしょ」

「だから何で俺なんだよ」

「リーダーはルーイさんしかいないと思うけど、チーム名かあ。難しいな」

「伊織陽真に聞いてもいいだろうか。俺一人では何も思いつかない」

 次の話が出たところで、そろそろお開きなのだろう。テーブルの上の料理と飲み物もいつの間にか空になっていた。

 全員で片付けを進めていたら、Qが「あっ!」と何かを思い出して立ち上がった。何事かと、全員の視線がQに集まる。

「後で遊んでって約束してたじゃん! ちゃんと言うこと聞いたんだから遊んでよ! 今からゲーセン行くよ!」

「何で今そんなこと思い出すんだよ」

 せめてアジトに戻ってから、颯のいないところで思い出してほしかった。颯なら絶対にこう言うに決まっている。

「えっ! それならみんなで行こうよ!」

 ほらな。絶対こうなると思った。ルーイは片手で顔を覆った。Qは構わずルーイの手を引っ張って立ち上がらせようとして、颯にまで急かされた。

 視線だけで阿形に何とかしろと訴えてみたが、「俺たちのことは気にしないで行ってきてください」「後片付けは任せろ」と、阿形だけではなく才悟からも見当違いなことを言われて見放された。

「さあさあ出発〜♪」

「ありがと! 2人も後でおいでよ! 娯楽地区のゲーセンに行くからさ」

「おいやめろ、押すな引っ張るな」

 Qに手を引かれ、颯に背中を押され。チーム結成といい遊びの約束といい、もはや抵抗しても無駄なことは明らかだった。それに、連れ立って歩くのは不本意でもゲームはやりたい。

「ボコボコにしてやるから覚悟しとけよ……」

 舌打ちして文句を言いながら、仮面カフェを後にした。




滅亡迅雷風メンバーでカオスワールド探検話。タイトルは「寄せ集め」+「mate(メイト・仲間)」で「ヨセアツメイト」。カタカナでゼロワン風サブタイトルを意識した。思いっきり戦ってもらった。長い。
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