なんですが、颯とエージェントがイチャつく話ではありません。
ざっくりあらすじ
颯は仮面ライダーのエージェントであるノアに恋をしている。VIPルームで、ルーイにノアのことをどう思っているのか、好きな人はいないのかなど相談するが、ルーイは興味なさそうに否定的なことばかり言う。エージェントに何もしないのかと聞かれた後、颯はバレンタインデーに告白するつもりだと答えた。
颯
ノアのことが好き。ルーイは友達。
ルーイ
恋愛には興味ない。後ろで親のように颯を見守る。
ノア
ゲーム通りのイメージのエージェント。
立場上、自由恋愛は推奨されない。
僕は、僕には好きな人がいる。それは隣に座ってエナドリを飲んでいるルーイ……を、カウンター越しで接客しているノアさんだ。
仮面ライダーのエージェントであるノアさんを好きになっていいのか、すごく悩んだ。僕がウィズダムで1人のお客さんと親密になれないのと同じように、1人の仮面ライダーと特別な関係になんてなれないだろうから。頭では分かるのに、それでも好きだという気持ちは捨てられなかった。
隣にいるルーイは僕が呼んだわけではなく。いつからいるのかは分からないけど、とにかく僕が来る前からここに座ってエナドリを飲んでいたみたい。
隣に座った僕を横目でチラッと見て、すぐにまたスマホに視線を戻していた。何をしているのかは分からないけど、いつも通りにゲームしているんだろうな。
ルーイと会うのはクリスマス以来で、1ヶ月ぶりぐらいかな? 前までは「げ」って感じの顔をされてたけど、今はもうそんな顔をされなくなった。
約束を思い出してから、僕たちの関係はちょっとだけ変わった。ルーイは僕と会っても逃げなくなったし、話してくれるし、優しくなった気がする。
僕はルーイとオンラインでたまに遊んだり、電話で話すことも増えた。困ったことがあると、何かとルーイを頼るようになったからなんだよね。ウィズダムシンクス以外で頼れる年上の男の人がいないから、つい。
ノアさんを眺めるついでにルーイを眺めていて、気づいたことがある。ノアさんは、ルーイのことが好きなんじゃないか? ってことだ。
ルーイの方はよく分からないっていうか興味なさそうにしてるんだけど、ノアさんはルーイによく話しかけている。
僕だっているのに! ……なんて、念を送るだけじゃダメだから何度か割り込んだけど、効果ナシ。僕の方を見てくれても一瞬で、すぐにルーイの方を向く。さすがに泣くかも。
ノアさんが仕事に戻ったのを見計らって、僕は独り言を装ってルーイに文句を言うことにした。
「ノアさんてば、ルーイにばっかり話しかけるから、つまんないなー」
隣から返事はない。
「何か言ってよー」
「……るせーな、何だ」
「ノアさんがルーイばっかり構うから、つまんないって言ってんの!」
何で2回も同じことを言わなきゃならないんだろ。僕が羨ましがるのもどこ吹く風、ルーイは相変わらずスマホを見ている。
ゲーム以外興味なさそうに見えるけど、実際ノアさんのことどう思ってるんだろう? 好きだなんて言われたら本当に泣いちゃうかも。
「ねえ、ルーイ! 相談したいことあるからVIPルーム行こ!」
「行かねー」
「そこを何とか! ゲームしてていいから! おいしいコーヒー淹れてあげるから! お願いします!」
「チッ……。聞くだけだぞ」
「やった! ありがと!」
ノアさんに許可を取って、VIPルームにルーイを引き摺り込んだ。追加のカフェラテとエナドリと、ルーイが好きそうなスナック菓子も注文しておいた。あとそれと、もうひとつ。
「ノアさん。ルーイにコーヒー淹れてあげたいんだけど、キッチン借りていい?」
「どうぞ。颯さんとルーイさん、最近仲良くなりましたね」
「そう見える?」
「はい。何か仲良くなるきっかけがあったんですか?」
「まーね。約束してたことがあって、それをやっと思い出せたんだ」
ルーイとの約束についてもう少し詳しく話したい気持ちもあったけど、約束をペラペラ喋るわけにもいかない。おいしいコーヒーを飲ませてあげたいし、冷める前にルーイの所に行かなくちゃ。
「で、何なんだ、相談って」
部屋に入ってすぐ、そう言われた。追加で注文したものは、もうテーブルの上に置かれている。レオンさんがいつの間にか運んでくれたのかな?
ルーイは広々としたソファに腰掛けて、器用に箸でスナックを摘んで食べている。僕の方は一切見ていない。僕はルーイの前にコーヒーカップを置いて、隣に座った。
「ルーイは、ノアさんのことどう思ってるの?」
「はあ?」
今日初めて、ルーイの顔を正面から見た。ずっとスマホを見ていた顔がやっとこっちを向いたと思ったら、何でそんなことを聞くんだって言いたそうな顔をしている。あと、すごく面倒くさそう。
「別にどうとも思ってねーよ」
「ほんとに?」
「何度も聞くな。……まさかと思うが」
じっ……と、こっちを見るルーイと数秒見つめ合った後、気があるのかと言われた。目を逸らして、囁くような声で。
「うん、好きだよ。それで、ちょっと話聞いてほしくて」
ルーイは短くため息を吐いていた。この手の話題はきっと苦手なんだろうなあ。何だか気まずそうにしているけど、全然そんなことはないから気にしないでほしい。
「何かさ、ノアさんてルーイにばっかり話しかけてるよね。僕もノアさんと話したいのに、全然こっち見てくれない。だから、ノアさんはルーイのことが好きなのかなって思ったんだ」
「んなわけねーだろ」
「何で断言できるの?」
「何でって……」
ルーイが呟いたのが聞こえたけど、その続きはなかった。金魚みたいに口をパクパクとさせていて、声には出ていなかったからだ。そんなに困らせるつもりはなかったんだけど……。
「ノアさんがルーイのこと好きじゃないっていうならさ、どうしてルーイにばっかり話しかけるんだと思う?」
「知るか」
「もー。ちょっとは考えてくれてもいいのに」
「聞くだけだって言ったろ」
「ちぇっ。……ないとは思うけど、実はノアさんと付き合ってるとか」
「ねーよ。何度も言わせんな」
何を聞いても「ねーよ」って言われるだろうから、もう聞くのはやめよう。ルーイはノアさんのこと、そういう目で見てないって分かっただけでも十分な収穫だったかな。
「じゃあ、さ。ルーイは好きな人いないの?」
はあ? って、また面倒くさそうな顔をされた。
せっかくVIPルームに来たのに、これで終わりなんてもったいない。好きな人がいるって話したんだから、ルーイの恋バナも聞いてみたい。いないって言われて終わるだろうけど。
「……いねーよ、そんなの」
「……え、何その微妙な間。もしかしているの? 好きな人」
意外な反応に驚いた。だって即答しなかったし、何かそわそわしてるし。いるときの反応じゃないの、これ?
「えっ、いるの? 誰⁉︎」
僕とルーイの共通の知り合いで、女の人なんてノアさんしかいないんだけど、さっき否定されたばかりだ。ノアさんじゃないとしたら、誰?
「……いねーって言ったろ」
「嘘だ! いるときの反応だったもん! 誰⁉︎」
「チッ……危なっかしくて目が離せねーヤツがいるだけだ」
「えーっ! そんな人いるの⁉︎ 目が離せないって……恋じゃん⁉︎」
否定するのが面倒なのか諦めたのか、どっちもなのか、ルーイはため息をひとつ吐いてから答えてくれた。ルーイもちゃんと女の子に興味あったんだ!
「そんなんじゃねーよ」
「絶対恋だって! ねえ、どんな人? ルーイを夢中にさせるなんて、すっごい可愛い子? ルーイ以上のゲーマー?」
「恋じゃねーし夢中になってねーし、可愛くもゲーマーでもねー」
「全否定⁉︎ じゃあ、どんな人かだけ教えてよー。興味あるなー」
話を聞くだけだったのに、急に話を振られてルーイはすごく嫌そうな顔をしてるけど、知りたいものは知りたい。
「俺とは正反対のうるせーヤツだ」
「そうなの?」
何か意外だなー。僕がこうして騒いでいるとルーイはすぐにうんざりした顔をするのに、そういう女の子が好きなんだ。おとなしめの子が好きそうっていう僕の予想とは違う答えだった。
「告白とかしないの?」
「だから、そういう相手じゃねー」
「じゃあ、どういう相手?」
ほとんど手元のスマホに向けられていた視線が、スッと僕の方に向けられた。じっと見つめられて何か言われるのかと思えば、そんなことはなく。
何か言いたそうだな? と首を傾げてみてもルーイは何も言わず、そのまま視線を外された。
「俺のことはどうでもいいだろ。お前はどうするんだ? エージェントに何も言わないのか」
「えっ。う、うん。そりゃもちろん、告白したいなって思ってるよ」
話題を逸らすためだろうけど、話の続きを促されたようで、僕はちょっとだけ驚いた。
もうすぐバレンタインデーだから、僕はノアさんにチョコレートを渡して告白するつもりでいる。
チョコは用意した。当日はウィズダムでもバレンタインイベントがあって忙しいから、ノアさんをデートに誘うことは出来ない。このVIPルームで好きですって伝えれば、誤解もなく正確に伝わるんじゃないかなって思うんだけども。
「やっぱ告白の練習はしておくべきだよね。当日噛んじゃったらカッコ悪いし!」
「そうだな」
「だよね! ってことで、練習に付き合って! ルーイのことノアさんだと思って言うから!」
「断る」
「そんなこと言わないでよー! 僕たち友達でしょ!」
「友達だからって恥ずいことに付き合わせんな!」
「友達ってとこは否定しないんだありがとう!」
ルーイ相手に練習するのは僕も恥ずかしいし嫌だけど、他に練習出来そうな相手もいない。
ウィズダムのみんなには知られたくないし、ぬいぐるみ相手じゃ反応がないから、いいか悪いかも分からない。他の友達相手だと噂されるかもしれないし、だから、頼れるのはやっぱりルーイしかいない。
「じゃ、まずは普通に『好きです』って言ってみるから。いくよ」
「勝手に始めようとするな! エージェントに見られたら何て言い訳……」
「VIPルームなんだから、ノックもなしに入って来ないよ」
「ならエージェントを呼んで俺は消える。練習するより好感度上げた方がいいだろ!」
いつになく早口で拒否された。ルーイは僕の告白の練習台にされるのがよっぽど嫌みたいだ。
備え付けの電話の受話器を持たれる前に、僕は後ろからルーイの上着の裾にすがりついて引き止めた。ルーイが必死なのと同じように、僕だって必死だ。
「待って待って! 1回だけでもいいから!」
「『も』って何だよ、何度も付き合わせる気だろ!」
「そうだよ悪い⁉︎」
そんなこんなで引っ張り合っていたら、僕たちはバランスを崩してソファーから床に落ちてしまった。
ガタガタと色んなものが落ちた音が聞こえたけど、テーブルの上の飲み物なんかは無事みたいだ。そのことに安堵しつつ下を見ると、うつ伏せになっているルーイがいた。
「重い。どけ」と言われてやっと、僕はルーイを下敷きにして跨る形になっていたことに気づいた。
「ご、ごめん。大丈夫?」
「いーから早くどけ」
ルーイは床に手をついて上半身を起こそうとしていた。僕も起きようとしたけど、ソファーとテーブルの隙間は狭くて、体のあちこちをぶつけたから少し痛い。動きがゆっくりになるのは許してほしい。
「ルーイさん、颯さん、どうしたんですか⁉︎」
VIPルームなのに、ノックもなしにドアが開かれた。血相を変えて飛び込んで来たのはノアさんだった。
「ノアさん、どうして……」
ルーイは受話器を持ってなかったし、まだ呼んでなかったと思うんだけど。
「どうしてって、電話が鳴って出てみたら大きな物音が聞こえたから、慌てて来たんですよ。ケンカでもしてるのかと思ったのですが……」
見ると、電話機が床に落ちていて受話器が外れていた。僕たちが倒れた拍子に電話機も一緒に床に落ちたのかもしれない。受話器を上げるとカウンターに繋がる仕組みだったんだ。
で、用事かと思ったら大きい音が聞こえてびっくりしてここまで来た、と。
「ケンカなんてしてないよ。驚かせたみたいでごめんね」
「おい、いつまで乗ってんだ。どけっつってんだろ」
不機嫌なコメントともにルーイが起き上がった。僕の下からルーイが現れたことにノアさんはすごく驚いたみたいで、口に手を当てて固まっている。
「えっ、ルーイさん、どうしてそんなところに……」
「コイツに引っ張られたんだよ」
「だからごめんって〜」
ルーイの機嫌を損ねちゃった。って言っても、機嫌いいとこなんて見たことない気がする。……否定されなかったけど、僕たち友達だよね?
「お二人とも、最近仲良くなったと思ったら想像以上に仲良くなってたんですね。邪魔者は消えるので、どうぞ続けてください」
「え?」
「大丈夫です、お二人のことは誰にも言いませんから! 多様性の時代ですし、偏見はありません!」
ノアさんはさっきから僕たちの顔を一切見ようとしない。見てはいけないものを見てしまったような反応だ。何かすごい誤解されたような気がする。
「オイコラ待て誤解したまま立ち去るな!」
「そうだよ誤解だよノアさーん!」
ルーイも普段出さない大声でノアさんを引き止めていた。ルーイって焦ると早口で、声も大きくなるんだな。新しい発見だ。
「なんていうか……事故だよ事故! バランス崩して落ちただけだから」
「そもそも、なぜ2人一緒にバランスを崩して落ちたんですか……?」
「そ、それは……ルーイに頼みたいことがあったんだけど、聞いてくれなくて……」
告白の練習をしたかったなんて言えるわけがないから、少し濁して言うしかなかった。別に嘘は言ってないし。
チラと横目でルーイを見ると、小さくため息を吐かれた。しょーがねーな、って思ってそう。
「……ダルいから断るって抵抗したら床に落ちた。そんだけだ」
実際には恥ずかしいことに付き合わせるなって言われたんだけど、ダルいのも事実なんだろうな。
ルーイの証言でノアさんは納得したらしく、「そうだったんですね」と頷いた。
「お二人とも大丈夫ですか? 怪我はしてないんですか?」
「ぜーんぜん大丈夫! どこも痛くないよ」
「それならよかったです。それじゃ、私は戻りますね」
ごゆっくり。ノアさんはテーブルの上に置かれていた空の食器類をまとめて抱えて出て行った。
もう少し話したかったな。でも、ノアさんは仕事中だし、忙しいんだろうし。強く引き止めることは出来なかった。
「ったく。あんなののどこがいいんだ?」
「あんなのって……!」
ルーイは爪を噛みながら呟いた。もしかしたら独り言だったのかもしれないけど、あんなの呼ばわりは聞き捨てならない。
「すっごい素敵な人じゃん! いつも親切で優しくて、困ってる人を見捨てないし、僕たちライダーのサポートも一生懸命やってくれるし、こんないい人なかなかいないよ!」
「それはまあ……そうだが。力説すんなよ」
「ノアさんのこと『あんなの』って言われたからには黙っていられないよ」
「へぇ……」
ルーイは興味なさそうに僕の話を聞いている。
「お前も誰か1人に執着することがあるんだな」
「ルーイは誰か1人に執着しそう」
「……俺のことはどーでもいいっつったろ。勝手に分析すんな」
案外図星だったのかも。さっと気まずそうに目を逸らされた。クリスマスの約束をずっと気にしてたルーイだから、そう思ったんだ。
「バレンタインデーに告白しようと思ってるんだ。ここで。それでさ、一緒に来てくれない?」
「は?」
「VIPルームで告白してる間、待っててほしいんだ」
女の子と接することは慣れてるけど、告白なんてしたことがない。関係を先に進めたいっていう気持ちがあれば、今の関係を壊したくないっていう気持ちもあるんだ。
ルーイはまた、ため息を吐いた。
◆◇◆◇
「ノアさん。あの、僕……ノアさんのことが好きです! 僕と付き合ってください!」
言っちゃった。ノアさんのために選んだチョコレートを差し出して、僕はとうとうノアさんに想いを伝えた。心臓がもう、ヤバい。ドキドキどころかドクッドクッて感じで、このまま壊れちゃいそうだ。
2月14日の午前0時に、僕は仮面カフェのVIPルームを予約していた。そこに注文を聞きに来たノアさんを引き止めて、告白した。
ちなみに、一緒に来るように頼んでいたルーイはというと、面倒くさがりながらもちゃんと来てくれた。外で待ち合わせて、僕の後に入店してもらった。ルーイにはVIPルームの外で待っててもらう約束だからだ。
部屋の外に心強い存在がいるとはいえ、僕はノアさんの顔を見る勇気がなくて、目を閉じて俯いていた。ノアさんがどんな顔をしているのか、僕がどんな顔をしているのかも分からない。差し出した腕は、緊張でまだずっと震えたまま。チョコレートを受け取ってもらえる気配もない。
「ありがとうございます、颯さん」
ああ、怖いな。
「気持ちを伝えてくれて、とても嬉しいです。……でも……ごめんなさい。お付き合いは出来ないです」
ノアさんの声も、少し震えていた。断られるのは怖いけど、断る方も勇気がいる。
僕は腕を下ろした。何となく、そんな気はしていたけど、僕の想いは届かなかった。
「エージェントは中立な立場でいなければならないので、仮面ライダーのどなたかとお付き合いなんて考えられません。そして……私は、コスモス財閥の跡取りです。交際相手を私一人の意思だけで決めることは、出来ないのです」
僕は顔を上げてノアさんを見た。ノアさんは申し訳なさそうに眉を八の字に寄せて、泣きそうな顔をしていた。俯いて、僕の方は見ていない。伏目がちに佇むその姿を、ただキレイだなと思った。
「そっか……。ごめんね。困らせちゃって」
「いえ……。颯さんの気持ちは、本当にとても嬉しいんです。応えられなくてごめんなさい」
「ううん、いいんだ。正直に答えてくれてありがとう。じゃあさ、一つ聞いてもいいかな?」
「何でしょう?」
「好きな人はいるの?」
「いませんよ」
ノアさんははっきりと断言した。ライダーの誰かと付き合うなんて考えられない、交際相手は選べないっていうのは分かった。
でも、それは「立場」を聞かせてくれただけで、他に好きな人はいるんじゃないかと想像していた。
「本当? ルーイのこと好きなんじゃないの? ルーイとよく話してたし、見てた気がするんだけど」
「いえ……実は、ルーイさんに相談してました。颯さんのこと」
「僕のこと?」
意外な答えにびっくりして、まじまじとノアさんの顔を見た。ノアさんは一つ頷いてから、ゆっくりと話してくれた。
「はい。レオンから『もしかしたら颯様から想いを寄せられているのでは』と言われて……お二人が一緒にいるところを最近よく見かけるので、ルーイさんに相談したんです」
「そうだったんだ……。で、ルーイは何て?」
「『話聞いてやるだけで、知らないふりしてればいいだろ』と。続きがありそうだったのですが、私が先に言ってしまったので、続きは聞けませんでした」
「続き?」
「ええ。『颯さんを傷つけるようなことはしないので心配しないでください』と言いました」
ルーイは知っていたんだ。ノアさんの気持ちも、立場も。だから、僕がノアさんのことを好きだと話したときに、あまりいい顔をしていなかったんだ。
告白を止めなかったのは……僕の性格を考えた上でのことかな。僕は無駄だと言われておとなしく引き下がれるほど、聞き分けのいい性格じゃない。
「別に心配してないと言っていましたが、ルーイさんはいつも颯さんのことを気にかけて、心配していますよ」
「……知らなかった、そんなの。全然気づかなかった」
いつも見守っててくれたなんて。
「颯さん、本当にごめんなさい。気持ちに応えられなくて……」
「ううん。僕こそ、困らせてごめんね。それと、ありがとう。ルーイとのこと、教えてくれて……」
「お礼を言われることではないですよ」
「あと、僕の分のカフェラテ注文していい?」
「はい、もちろんです。すぐに持って来るので、待っててくださいね」
注文を聞きに来たところを引き止めていたんだった。最後は困ったように微笑んでいたけど、ノアさんは何も悪くないから気にしないでほしいと思う。
ぼすっとソファーに深く腰掛けた。今まで立ちっぱなしで、緊張の糸が解けて、一気に脱力した。はあ〜っと盛大なため息が自然と出て来た。
ああ、僕は……。
ガチャっと、VIPルームなのに遠慮なくドアが開かれた。見ると、そこにいたのはルーイだった。慎重にコーヒーカップを運んでいるなんて、見慣れない景色だ。
僕の分のカフェラテらしく、テーブルに置かれた後、僕の前に差し出された。ルーイは何も言わずに、僕から少し離れて隣に座った。
「ふられちゃった」
自分の気持ちをごまかすように、僕はあえて明るく振る舞った。ルーイの方を見たけど、相変わらず手元のスマホを見ていて、僕の方は見ない。
「エージェントは中立じゃなきゃダメだから、ライダーの誰かと付き合うなんてムリだって! まあ、そうだよねー。贔屓はよくないもんね。僕だって、ウィズダムのお客さんと特別な関係にはなれないし」
「……」
「それに財閥の跡取りだから、結婚相手も1人では選べないんだって。ノアさんて親しみやすいから忘れがちだけど、僕とは立場が違うんだよね。ほんと、すっかり忘れてた!」
「……」
「告白、断られちゃったけど……慎重に、言葉を選んでて……応え、られなくてッ……ごめんなさいっ、て……。ほんと、やさし……」
「……」
「……何か言ってよ」
「気の利くことなんか言えねーから黙ってんだろ。……全部、吐き出せ。聞いててやるから」
「うん……ありがと」
◆◇◆◇
ルーイは何も言わずに、僕の話を全部聞いてくれた。僕は泣きながら喋っていて、よく分かんないことを口走ってなかったか、今更恥ずかしくなってきた。
「ノアさんに受け取ってもらえなかったチョコ、一緒に食べない?」
「んな重いモン、食うわけねーだろ」
「重い? 甘いじゃなくて?」
「アイツのために買ったモンだろ。念が篭ってそうで食いたくねー」
「ルーイって意外にそういうの気にするよね」
リアリストっぽいのに、占いの結果をすごく気にしてたよね。目に見えないものは切り捨てそうなのに、無視出来ないし苦手なのかな。
「気持ちを伝えたことも、そもそも好きになったことも、許されないことだったのかな。チョコを受け取ってもらえなかったってことは」
「どう思うかはテメーの勝手だろ」
「うん……そうなんだけど」
立場の違いがこんなに重いものだなんて、知らなかった。想像もしなかった。
ノアさんに受け取ってほしくて、僕の気持ちを受け入れてほしくて選んだチョコレートも、全部無駄だったのかな? そもそも最初からこの気持ちを切り捨てていれば、ノアさんを困らせることも、僕が泣くこともなかった?
「……全部無駄だったのか、お前の今までの行動は」
「え?」
「エージェントのために、色々やってきただろ。その全部が無駄だったのか?」
心を読まれたのかと思ってびっくりした。改めてルーイから……僕以外の他人から無駄だったのかと言われると、そうじゃないと叫びたくなった。
「……ううん。無駄じゃない。無駄だったことになんかしたくない。この気持ちはすごく大切なものなんだ……」
誰かが否定できるものじゃないんだ、僕のこの気持ちは。苦い思い出になっちゃったけど、今日この日の出来事とノアさんへの想いは、ずっと忘れたくないものなんだ。
「なら、それでいいじゃねーか」
「うん。ほんと、ありがとう……。今、ルーイがいてくれてよかった」
興味ないフリをして、ルーイは人のことをよく見ている。なんだかんだと、悩める人に道を示している気がする。さすがスラムデイズのリーダー……って感じ? もうちょっと優しい言い方をすれば完璧だと思うんだけどな。
「気持ち、切り替えていかなきゃね。1回寝てまた起きたら、ウィズダムでバレンタインイベントやるんだ。みんなを楽しませるために、笑顔で行かなくちゃ!」
まだまだ空元気だけど、お仕事はちゃんとやらなくちゃね!
僕なりの決意表明のようなものだったから、あえて大きい声で言ってみたんたけど、ルーイは何も反応してくれなかった。チラッとこっちを見たくらいで、何も言わない。
「ルーイも好きな人いるんだよね? 今度相談にのってあげるね!」
「……はいはい、どーも」
来るかどうかも分からない未来の約束をして、僕はチョコレートを一粒食べた。
診断メーカーのお題から何とか捻り出して書いた話。颯とエージェントの話と見せかけて、やっぱりルーイと颯の話。私見だが、エージェントとライダーの恋愛はありえない。