音と共にある人生   作:Taku-One

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第20話_合宿_1

 

 たった2日間の夏休みが明け、合宿が始まった。

 

「それでは、休み前の練習で宣言していた通り、まずは十回通しをやろうと思います」

 

 バスで移動して合宿所に着き、荷物をおろして早々、これだ。

 まだ自分の寝る部屋すら見ていない。楽器が手元に届いた瞬間に練習開始の号令がかかった。

 滝先生の頭の中は脳みそではなく音みそが詰まっているに違いない。

 

 滝先生の言葉に、部員たちの顔が僅かに強張った。

 十回通し。これ、最初に練習内容を聞いたときには、僕はなんて非効率で前時代的な練習だと思ったのだが、吹奏楽部経験者の話というか秀一の話を聞くと、そうでもないようだ。

 

 確かに疲れるし、時間効率は悪いのかも知れないが、後半になってくると疲れてくるのがむしろ良いのか不思議と一体感が生まれたり、指揮のタイミングや音の出だし、合わせにくい細かな部分を肌で感じ取れるようになってくる、らしい。

 とのことだった。僕はこういった根性練習的なのは信じていないのだが。

 もう少しロジカルでスタイリッシュな練習をしたい。

 秀一もキツイことは間違いないと言っていたし。

 

 滝先生の手が上がり、ゆっくりと振り上げられるのが見えた。

 皆が一斉に息を吸い込む。一瞬の後、トランペットの華やかな音がホールの中に響き渡った。

 

 と思ったら、数秒で滝先生の拳が握られた。音楽が止まる。

 十回通しは普段の合奏と違い、大きなミスならまだしも、曲の途中で細かい指摘のために頻繁に止めたりしないと聞いたのだが。

 滝先生には珍しい少し戸惑った表情をして、僕の方を見ている。え、僕?

 

 「……大槻くん、何ですか、それ?」

 

 何故か部員の多くがビクリと肩を震わせた。

 周りの部員の反応が何か変だ。怯えているというか……なんかトラウマでもあるのか?

 

 「はい? こちらこそ何のことですか? 何かミスっちゃいましたか?」

 

 周りもいきなり演奏を止められてざわざわしている。ついに大槻が叱られるのが見られるのか!? などと期待するちかおもいる。僕は、今のちかおの言葉を、心に深く刻み込んだ。

 プールをドタキャンした罪で後頭部をしばき倒した直後だが、後で思い出したときにはまた粛清しよう。

 

 「いえ、逆です。この3日間で何か特別な練習でもしましたか? 音の質が飛躍的に向上しているように聞こえるのですが」

 

 「え、いや、特に……ああ、マウスピースを新しいのに交換したのでそのせいですかね」

 

 「マウスピース? それだけであんなに違いを?」

 

 「いやー、昨日ついに自分でも納得の出来の自作マウスピースが出来ましてね。満を持して合宿に持ってきたんです」

 

 と、見事なドヤ顔を披露するが、滝先生は俯いて何かを考えるだけで良い反応をしてくれない。

 横を向いても麗奈は食い入るように僕のマウスピースを見るだけで褒めてくれない。

 周りの部員も僕を遠目にひそひそするだけ。大っぴらに褒めてくれたのは、「マウスピースを自分で作れるなんて、すごいです! 透理くん!」と遠くの低音パートの中で拍手してくれている緑だけだ。

 やはり彼女は天使の生まれ変わりだろう。

 

 「すみません、合宿が始まってすぐで恐縮ですが、合宿の練習スケジュールを組み直すかも知れません。大槻くん、自由曲のソロパートの部分を吹いてくれませんか? 曲のバランスが崩れている恐れがあります。バランスが崩れているまま通し練習をしても意味がありません」

 

 確かに自作マウスピースでかなり音の向上を実現できたのは確かだが、そこまでやるほどかな?

 まぁ滝先生が言うんならとりあえずやってみるか。

 

 「では少し中途半端ですが、自由曲118小節目から、皆で合わせましょう」

 

◇ ◇ ◇

 

 初っ端からなんか面倒なことになったな。とパーカッションの井上順菜は思った。

 合宿の始まりだからと気合を入れて臨んだというのに、うちらパーカスとは関係の薄いトランペットソロの確認をするという。

 肩透かしを食らうのも仕方ないと言えた。というか、開始数秒で何を確認するというのか。部員の多くが困惑の表情を浮かべていた。

 

 ソロの直前には一度シンバルを叩くポイントはあるが、今回の話の肝はそこではないだろう。

 滝先生の言うこともイマイチ意味が分からなかったのもあったので、ある意味油断していたとも言える。

 大槻くんについても、あの再オーディションでの心震える演奏には感動したが、それに慣れてからは、同じ1年なのにすごい子がいるなあと言う程度だった。

 

 「では、合わせます。イチ、ニ、」

 

 サン、シ、と滝先生が手を振り上げると、皆が118小節目からソロ部分に続くハイテンポなメロディを奏でる。

 私もシンバルを響かせリズムを取る。

 そしてそのメロディを低音が締めると、一気に静寂が訪れた。

 

 滝先生が手のひらを大槻くんへと差し出す。ソロパートだ。

 

 ……

 

 その孤高で突き抜けた音を聞いた瞬間、順菜は頭を殴られ視界が真っ白になったかのような衝撃を感じた。

 その衝撃から立ち直ると、いつの間にか辺りは夜になっており、ひとり三日月を見上げているような気分に陥った。

 いや分かっている。今は昼間で、ここは合宿所のホールだ、月など見えるはずもない。今のは突然叩きつけられた大槻くんのトランペットの音に白昼夢でも見せられたのかも知れない。

 

(いやいやそんなことある!?)

 

 順菜は混乱した。

 音楽は表現力が大事だとよく言われる。最近来てくれたプロのはしもっちゃんもよく言う。

 しかし相手に具体的なイメージまで叩きつけるなんてどんなスタンド攻撃なんだよ、と少し混乱した頭で思う。

 だがその力強くも少し切ない音は、確かにこの場を支配していた。誰もが耳をそらせず、引き込まれる暴力的な魅力を放っていた。

 

 この自由曲のソロパートは長い。1フレーズどころか、1分以上ある。

 しかしまだ半分も過ぎていないのに、ソロを支えるホルン、チューバなどの音が消えている。

 そちらに目を移すと多くの部員が目に涙を浮かべ、嗚咽を漏らし、まともに演奏など出来ないような状況だ。

 気づけば順菜自身も涙を流していたことに気付いたが、このメロディを聞いている今はそんなことはどうでもよく感じた。

 最後まで粘っていたユーフォの音色も途切れ、場は完全なるソロパートとなった。

 

 大槻くんは気付いていないのか、それでも最後までメロディを吹き上げる。

 こんな美しい音楽があるのか。

 こんなにも心惹かれる音楽があるのか。

 順菜自身はパーカッションで、金管とは遠う音色を使うが、そんなことは関係なく、この音楽に追い付きたい、この音楽に参加したい、楽しみたい。

 そんな気持ちが次々に胸に湧き上がり、心臓に暖かい火が灯った気がした。

 

◇ ◇ ◇

 

 「関西大会直前にバランスが完全に崩れたのを嘆くべきか、これで会場の度肝を抜く事ができると喜ぶべきか……大槻くんはどう思いますか」

 

 滝先生は、目に入った涙だか汗だかを拭いながら言った。

 

 「……滝先生らしくないですね。僕が言うのもちょっと違うかもしれませんけど、そんなこと考えている暇があるなら、すぐにでもバランスを調整する手段を模索すべきだと思いますよ」

 

 滝先生に反発するようなことを言ったからか、隣の麗奈が詰るような視線を向けてくる。いや、そんな目で見られても、そう言うしか無いじゃん。

 

 僕の音は、僕の想定以上に向上しており、影響力も甚大だったらしい。

 演奏中に裏メロとか伴奏が次々に脱落していくとか思ってもいなかった。正直僕としてはホラー映画でひとり取り残されていく主人公の気分だった。

 以前も少し思ったことがあるが、この自己評価と他者評価のズレは、いずれどうにかしないといけないのかも知れないな。

 前世によく読んでいたラノベでも鈍感系・勘違い系主人公ってあんまり好きじゃなかったし。

 

 「……全くその通りですね。皆さん、始まったばかりで本当に申し訳ないのですが、10分休憩を取ります。その後、自由曲のソロパート周辺をもう一度練り直しましょう。少し音楽性が変わってしまうかも知れませんが、こちらの方が音楽の魅力は格段に上がると思います。……では一旦解散で」

 

 その後、僕は滝先生にもう一つの別のホールに連れ出され、僕が吹いては、滝先生は楽譜とにらめっこ、僕が吹いては、滝先生は楽譜に書き込みという10分間を過ごした。

 長い10分間だった。というか、明らかに10分を超えていた気がする。相手がかわいい女子ならこの二人きりの空間も楽しめたのかな。

 そんなことを考えながらぼーっとしていると、滝先生に話しかけられた。

 

 「大槻くんは先ほど、演奏の変化はマウスピースを自作のものに新調したからだと言っていましたね」

 

 「えっ……ええ、はい。昨日漸くまともな物が出来上がりまして」

 

 「それは、どういったものなんですか? 他の人にも同じ様にオーダーメイドで作ることが出来るのですか?」

 

 「いやぁ、まだまだそこまでは無理ですね。長年付き合った僕の唇と、体の構造をベースにやっていたので、それを他人でってなると今回以上の時間とコストがかかると思います」

 

 それに何と言っても、このマウスピースを使いこなせる口周りの筋肉と、腹筋、横隔膜、そしてそれらを自在に動かせるようにトレーニングを頑張ったことが今につながっていると思う。

 誰にでも出来ることではないのだ。

 

 でも。

 

 「でも、この技術と楽器を皆に与えることが出来るなら、それはとてもいいことだと思ってます。僕の夢の一つですかね」

 

 夢なんて具体的に抱いて認識したことなどなかったけど、このときは、ぽろっと自然と口に出た。

 滝先生は一瞬きょとんと意外なことを聞いた様な顔をしてから、柔らかく笑った。

 

 「それは素晴らしい夢だと思いますよ。私も陰ながら応援しています。……でも夢の前に今はまずこの編曲作業からですね」

 

 最後の一言がなければいい話だったのに。

 

◇ ◇ ◇

 

 元のホールに戻ると、滝先生が休憩だと宣言したのにも関わらず、誰一人休まずに自主練習に励んでいた。

 先生と僕が戻ってきたことに気づくと、皆が僕に視線を注ぐ。その視線の強度はいつもの麗奈が部員全員分居るかのようだ。正直少し気圧されるものを感じた。

 

 「皆さん、やる気ですね。では自由曲を通しながらバランスを調整していきましょう」

 

 そう言いながら、滝先生は壇上に上がっていく。そして時間を無駄にできないとばかり、さっさと自由曲の指揮ポジションにつく。

 この余計なことに時間を割かない滝先生の態度は、僕としては好感を持てる。

 

 「自由曲ソロ前のフォルテシモ、そしてシンバルをより強調しましょう。ユーフォ、ティンパニ、シンバル、音の質を保てる最高音量でお願いします。そしてその後はゆっくりと消えるように音を下げて。ここのソロ前の間の休符も少し長く空けましょう、数秒なら演奏時間を延ばす余裕はあります。大槻くんは私のゆっくりめ指揮を良く見てから入ってください。よりソロが強調される形になる」

 

 ……

 

 「ホルン、ユーフォ、ここはもう少し押し出してきてください。トランペットの音しか聞こえていませんよ。ただしあくまでトランペットソロを支える感じで」

 

 滝先生は10分間で考えたとは思えない構想を次々と部員に指示する。

 

 「大槻くんはソロの終わり、楽譜よりも少し強め長めにビブラートをかけて延ばしましょう、次の小節にはみ出す位の気持ちで。音量が下がったタイミングで木管が被せる形で入ってくると良いと思います」

 

 ソロ周りの演奏をイチから作り直すような指示が飛んだ。

 ここまで大胆に作り変えて大丈夫か? しかし滝先生は迷いなく音楽を作り変えていく。

 あの休憩10分間で新たな音楽を作り上げたと言うなら、滝先生は流石だ。

 それに応えるためにも、僕もより一層良い音を奏でなければ。

 

 「いいですね、大体形になりました。一度自由曲を通してみましょうか」

 

◇ ◇ ◇

 

 新たな『三日月の舞』は、明らかに今までの音楽性・表現力を上回っていた。

 それには午前終わり辺りに来た二人の講師陣も舌を巻いていた。

 橋本先生が来た時もそうだが、新任の木管パートのコーチにも今の北宇治の実力を把握してもらおうと、課題曲と自由曲の両方を披露したところなのだ。

 

 「相変わらず大槻くんは常識をぶち壊しながら進んでるねぇ。今のうちにサインもらえない?」

 

 おちゃらけた態度ながらもその実力を良く把握しているのは、橋本真博、プロのパーカッション奏者である。

 

 「滝先生から聞いては居たけど、北宇治は皆レベルが高いですね。……遅れましたが、初めまして、新山聡美です。滝先生からの依頼で木管パートの指導を担当することになりました。よろしくお願いしますね」

 

 こちらは部活では初見の女性だ。緩やかに巻かれたブラウンの髪をなびかせ一礼する姿は、清潔感のある美女といった感じだ、木管パート部員と、男子が色めき立っている。

 化粧品メーカーのCMとかに出ていても不思議ではない爽やかさだ。

 当然僕も少しテンションが上がったが、どこからか聞こえる『滝先生の彼女じゃない?』という根も葉もない噂に、隣の席でぐおぐおと瘴気を撒き散らしている麗奈のせいで素直に喜べない。

 

 「新山先生は若いですが優秀です。指示にはきちんと従うように」

 

 「優秀だなんて、褒めても何も出ませんよ」

 

 「いえいえ、本当のことを言ってるだけです」

 

 「まぁ! 滝先生にそう言っていただけると、嬉しいです」

 

 そういう意味深な会話をされると、僕のトランペットファーストのパートナーたる麗奈のメンタルが粉砕されるので、控えていただきたい。

 『これマジなやつ? マジなやつ?』とか言ってる先輩、一刻も早く口を閉じてください。

 いつもはアーモンド型の光に満ちた目も、今は死んだ魚の目もかくやというハイライトの消えた腐った目に成り果てている。

 せっかくの合宿なのに、彼女は集中して練習できるのだろうか。

 今のうちにフォローした方が良いかもな。

 

 「おい、麗奈、麗奈」

 

 肩を叩いてこちらに意識を向けさせる。

 

 「……なに」

 

 「新山先生だけど、滝先生の彼女とかじゃないぞ、彼女、既婚者だからな」

 

 その瞬間、麗奈の目は腐った魚の目から普段の輝きを取り戻した。

 

 「ホント!? 何で知ってるの? うそだったら只じゃ置かないから」

 

 「いや、単純に母親の知り合いってだけ。僕は行かなかったけど、母が新山先生の結婚式に出席してるよ」

 

 「……はあああぁぁぁ。よかった……。ってなんであんたが私が滝先生を……って知ってるの!?」

 

 「えっ、いや、麗奈それ隠してたの? 身近な人はほとんど知ってると思うよ」

 

 えっ、うそ!? というような顔をしているが、事実だ。

 というか気づかれていないと思っていたのか。その方が不思議だ。

 

 久美子とアイコンタクトを取る。――こちら、透理、無事麗奈のメンタル回復に成功しました。――了解、良くやってくれた透理。褒美に後でジュースを授与する。

 当然麗奈の状態を察していた久美子もあの状態の麗奈の面倒を見るのは頭を抱える思いだったのだろう。感謝の念を送ってきてくれた。

 

 そうして、時間は少し無駄になったが、漸くまともな合宿練習が開始されたのだった。

 だがまずは昼飯、と出鼻をくじかれたわけだが。

 

◇ ◇ ◇

 

 滝昇は、部員に昼食休憩と、早めのホール集合の指示を伝えると、橋本、新山とともに食堂へと向かった。

 まずは腹ごしらえと、皆ワンプレートの料理を持って席に座ったが、トレーに乗った食事は三者三様だった。

 滝は全ての料理を平均的に、そしてお茶。橋本は大盛りのご飯とにこれまた器の限界まで入れたスープ、おそらくおかわりも視野に入れているだろう。

 新山は少なめのご飯とサラダ、と女性らしいラインナップだ。

 

 「それにしても滝くん、しょっぱなから聞いてたスケジュールと違うけど、どうしたの? まぁなんとなく事情はわかるけど」

 

 「いえ、当初はお伝えした通り、お二人が来るまで十回通しで部員の体と頭を温めておこうと思ったんですよ。まぁその予定は、練習始めの最初の1小節目で破綻したんですが」

 

 「僕もびっくらこいたよ。あれなに? 男子三日会わざれば刮目して見よ! とか言うけど、ホントに三日であれだけ音が変わってるなんて、どういうこと?」

 

 「それが、彼自身が言うには、自分に合う自作のマウスピースを設計したそうで、その御蔭で音が向上したようです。私も半信半疑だったのですが、眼の前で市販品のマウスピースと、彼自作のマウスピースのリップスラーの違いを見せられて、何も言えませんでしたよ」

 

 「まぁ! あれだけの奏者なのに楽器製作もできるんですか? しかも高校生なのに!」

 

 「ええ、まあ、橋本先生は少しはご存知かと思いますが、大槻くんは色々と規格外で、楽器開発者のお父様と、プロトランペット奏者のお母様の間に生まれ、彼自身もその才能を両方とも開花させたような子なんですよ。才能で語るのは彼の努力を見るに失礼に当たると思うので、普段はそういう話はしないのですが」

 

 「えっ、もしかしてあの子って……大槻静理さんの息子さんなんですか?」

 

 「ええ、そうですが、何か?」

 

 「いえ……それならあの演奏も不思議ではないなと思いまして」

 

 「新山くんは静理さんに頭が上がらないからなぁ! 学生時代のあれやこれや色々と面倒見てもらってたし……」

 

 「余計なことは口に出さないでください。痛い目を見ますよ」

 

 といいつつ、橋本のつま先は既に痛い目を見ているのだった。

 

 「それはそれとして、大槻くんはうちの大学にスカウトしても構わないですか? いえ、静理さんに許可とか取ったほうが良いんですかね?」

 

 優秀な新山を北宇治の外部指導員として招聘するに当たり、滝は部員のスカウトを自由にして良いと条件を出していた。

 新山は京芸大の客員教授の立場を持っており、教鞭は取らないが、将来有望な学生との交渉窓口のような仕事をしていた。

 

 「ええ、もちろん。話を持ちかけるのは自由にして構いませんよ。ただ、彼の進路希望では音大は第3志望となっているので、少し難しいかも知れませんが」

 

 「そうなんですか? 彼ほどの力量があれば音大に進むのが自然だと。……もしかして、既にプロの楽団から声がかかっているとか?」

 

 「ええ、御名答です。いくつかの楽団から招待を受けているそうです。それに、彼自身は楽器製作の道に進むことも考えているようで、まだまだ進路は決めかねているようですよ」

 

 「大槻くんほどの奏者が楽器職人ですか。もったいないというかなんというか……」

 

 「新山くん、進路は生徒自身が決めるもんだよ! それに彼はまだ高校1年生なんだから、まだまだ可能性を狭めるのは違うんじゃない?」

 

 「……ええ、そうですね。あまりにも才能にあふれている生徒をみて、少し焦ってしまっていたようです。そうですよね、進路は生徒の気持ち次第ですものね」

 

 でも、と、滝は新山が続けようとした言葉に心の中で同意した。高1で既に輝かしいばかりの才能を見せている大槻くんを見ると、その将来に期待せざるを得ない人は大勢いるのではないかと。自分も含めて。

 とりあえず新山がダメ元でも大学のパンフレットを渡して勧誘しようとしているのは察した。

 

 

 

 

 

 

 

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