八崩賢 極致のシーア 作:蟲の月
ーー"力"って、なんだろう……?
クルミを素手で握り潰せる事が出来るなら、力がある事の証明になるのだろうか。
確かに世間一般で見れば、クルミを素手で握り潰せる人間は十分に力があると言えるだろう。
そして例えクルミを握り潰す瞬間を見せなくとも、皆クルミが握り潰せる物であるという事自体は疑わない筈だ。
だってそれは当たり前の話だから。
例えクルミを握り潰す事の出来る人間が少数でも"クルミは力があれば握り潰せる"という常識が皆の心の中に根付いているのだ。
だから、クルミを握り潰すという行為に誰も疑問を抱かない。
なら、ダイヤモンドは?
クルミと同じようにダイヤモンドを握り潰せると豪語する人間が現れた場合、他の人間達はどのように反応するだろうか。
『ダイヤモンドを握り潰せる』と言うと、人は『そんな事出来る筈がない』と必ず口にする。
『やってみたのか』と問うと、これまた必ず『やらなくても分かる』と返される。
だってそれはあり得ない話だから。
たかだか数十キロ程度の握力しか持たない人間が、素手でダイヤモンドを握り潰せる筈がない。というのが世間一般の常識なのだ。
人間という種にそこまでの力はない。
その行為は、この世界の常識に反している。
だから、ダイヤモンドは誰にも砕けない。
それなら、ダイヤモンドを素手で握り潰す人間が実際に現れた場合、常識という毒に頭まで浸かった彼等は、一体どういった反応をするのだろう。
クルミを素手で割る人間のように褒め称えるのか。
何か仕掛けがあるに違いないと疑うのだろうか。
それとも、お前は人間じゃないと糾弾するのだろうか。
人間にクルミを握り潰せる"力"があるということには疑問を持たない癖に、ダイヤモンドを握り潰す"力"はある筈ないと一方的に決めかかる。
人間の常識の範囲内で語られる"力"を遥かに超越した場合、それは"力"ではなく他の"何か"へと変貌する。
手品やマジックといった、彼等にとって納得のいく理屈によって丸め込まれ、適当なカテゴリの中へ無理矢理収めされられるのだ。
人の定める"力"という窮屈な定義の中に抑え付けられている獣。
無限の可能性を秘める幻想の尽くを、死に至らしめる鳥籠の世界。
それが彼等にダイヤモンドを砕かせないでいる。
しかし、現実は無情である。
認めたくはないが、確かにそれらは当たっているのだ。
現代社会においてクルミを素手で握り潰す事の出来る人間などほんの一握り程度しか居ないだろうし、ダイヤモンドを握り潰せる程の握力を持った人間は空想の中にしか存在しない。
人は獣より速く走る事なんて出来やしないし、鳥のように空を自由に飛ぶ事だって出来ない。
ビルを跳び越える跳躍力もなければ、銃弾の一斉射撃に耐えられる耐久力もない。
人の扱う"力"など、地球規模で見てみれば無いに等しいレベルの僅かなものでしかないのだ。
なら、もし。
砕けないダイヤモンドを素手で握り潰す事が出来たなら。
獣より速く走る事が出来て、鳥より上手く空を飛ぶ事が出来るなら。
この世の常識から何もかも解き放たれて、絶対的な"力"を思うままに振るう事が出来るなら。
何者にも左右されず。
何物にも囚われない。
想像が世界の理を塗り替えて、夢と幻想が共存している舞台へ赴く事が出来るなら。
そんな理想の世界なら。
ーー俺はきっと、ダイヤモンドをも握り潰す事が出来る。
◆
懐かしい夢を見た。
かつて在った狭苦しい地獄を想起した。
しがらみやルールにがんじ絡みにされて、個人の強烈な意志や思想は危険な代物だと批判される。
皆が平等な型に整えられている、何の特徴もない画一化されたコンクリートジャングルの檻の中。
俺はそんな世界が大嫌いだった。
ーー俺は、ダイヤモンドを握り潰せる。
そんな想いを抱きながら、前の世界で俺はどんな末路を迎えたんだろうか。
思い出そうにも、その時の記憶なんて一向に出て来ない。
俺の中に眠っているのは『かつて恋焦がれた物語』だけ。
でも、それだけで良いんだ。
その物語を持って来られたから、俺はこの世界で第二の人生を謳歌出来ているんだ。
物語のキャラクターに脳みそを焼かれたから、俺は俺らしく振る舞う事が出来ているんだ。
この想いを外へ反映出来る世界に生まれ落ちて、それを自在に振るう事が出来る奇跡に感謝しか抱けない。
だから。
『愉快な顔をしているなシーア。力一辺倒だけで俺を倒せると思っていたなら、それは見通しが甘いと言わざるを得んな。力だけが戦の勝敗を決める要因ではないと知れ』
その何処かから響いてくる忌々しい声に、とてつもない憤怒を覚えてしまう。
力一辺倒だけでは俺は倒せない。
その言葉は、俺達の『力』と『魔法』と『物語の思い出』の想いを見下し嘲笑する、許し難い暴挙に他ならなかった。
俺にこんな素晴らしい奇跡を魅せてくれた全ての物を、そんな簡単な言葉だけでまとめるんじゃねえ。
何が力一辺倒では倒せない、だ。
それなら意地でも倒してやる。
俺に宿ってくれている『力』だけを使って、お前をボッコボコに叩きのめしてやるよ。
技術も術理も、ありがとう。
でも今だけは眠っていて欲しい。
俺達を馬鹿にしたこのノッポをぶっ飛ばすその瞬間を、特等席から眺めていてくれ。
『着いてこれるか』
赤い弓兵が背中で語る。
その雄々しい背中を瞳に焼き付ける。
決して叶わぬ世界平和を、しかし誰よりも本気で追い求め続けた『正義の味方』の後ろ姿だ。
俺は力強く返事をして、隣を通り過ぎた。
『エライぞ。その体格でよく上がってきた』
地上最強の生物から芽吹いた片割れの怪物。
俺と同じく『力』だけを追い求め、並外れた特訓や常軌を逸したトレーニングを己に課す修羅の漢だ。
俺がこの体格でここまで来れたのは、俺に力を貸してくれた『魔法』や『物語の先人達』のおかげなんだ。
俺の背中を押してくれた貴方達の力添えがあったからこそ、俺はここまでの『力』を手に出来たんだ。
だから、感謝しか抱けない。
首が折れそうな程に見上げなければならない大柄な漢に目を合わせ、俺はその場を立ち去った。
『圧倒的な力ってのは、つまらないもんだ』
とある世界の一つの極致。
あまねく全てをワンパンで沈め、生物の範疇から半ば逸脱している怪人にとっての理不尽そのものだ。
彼はその圧倒的な力故に、孤独を感じていた。
自らと比類する者のいない退屈と絶望に、持ち得る全てを出し切る事の出来ない不完全燃焼の生活に。
そんな世界の極致へと至った漢に、俺は憧れた。
限界を越える為に肉体に掛かったブレーキをぶっ壊し、神に仇なす忌むべき拳と称された上位存在への反逆者。
俺もその高みへと至ってみたい。
遥かなる景色を眺めてみたい。
俺の遥か先を歩いて行くその漢の背を追って、俺は再び歩き出した。
「……ふう」
全ての先人達が俺の事を見守ってくれていた。
大きく頼もしい背中を向け、決して多くを語る事はないけれど、それでもその背中から伝わってくる物は確かにあるのだ。
彼等の軌跡は、今も俺の心の中で生きている。
ならば、一体何を恐れる事があるというのか。
もはや慣れ親しんだ魔力の加工を身体の中で行い、それを全身に巡らせて魔法へと昇華する。
生まれ落ちてからずっと一途に使い続けてきた魔法に、厳かな儀式の如く祈祷し、そしてこの身を捧げた。
夢とロマンを叶えてくれる、俺の魂の半身よ。
どうかこの俺に、あの忌まわしき軍神リヴァーレを打ち倒すだけの『力』をお与えください。
「
ドクンと、心臓が跳ねたその次の瞬間。
頭の中に様々な先人達の戦いの場面が流れ込み、それと同時に人智を超えた『力』がこの身に流れ込んできた。
異常なまでに熱をもった情報と、先人達の抱いてきた激情がこの身を飲み込み、そして身体を作り替えた。
鬼神の如き暴力が身に宿る。
身体に満ち満ちる力は凄まじく燃え滾っているのに、俺の心はそれとは正反対に酷く落ち着いていた。
冷静に力を御しているこの瞬間にも、異常なまでの『力』がこの幼い身躯に入り込み続けているのだ。
そしてこの荒ぶる『力』が、魔力で構成された己の身体の全てと瞬く間に置き換わって行き、俺という存在を更に上の領域へと押し上げてくれる。
置換、再構成、置換、再構成。
肉体性能と身体能力が急激に上昇していく。
かつての比ではないくらいに。
ああ、ようやく彼等と並び立てるのか。
世界の極致が見えてくる。
不可能を可能にする奇跡の所業。
現実を夢に塗り替える幻想の到達点。
その神の御業を全身で体感して、魔法という神秘の本質を改めて深く理解する。
「ふふっ」
ありがとう幻想。ありがとう世界。
先人達の背を追いかけ辿り着く。
俺はシーア。極致の名を冠する魔族。
前人未到の『力』の玉座に座る者。
森羅万象を拳一つで殴り飛ばし、物理法則の全てをイメージによって捻じ曲げてゆく理不尽の獣そのものだ。
◆
「ほう…………!」
目の前に悠然と佇んでいる『力』の塊と相対し、そのあまりの迫力に思わず感嘆の声が漏れた。
俺が繰り出した超高速の殴打。
それはシーアが先程俺に向けぶつけてきた連打を、そっくりそのまま返しただけの攻撃だった。
シーアと比べて体格的に大きく勝る俺が扱えば、それは上から叩き付けられ抜け出す事の叶わない拳の牢獄と化す。
その牢獄から抜け出すには、拳を引き戻す際に発生する僅かな隙を見逃さない動体視力と、己のイメージする動作を寸分の狂いもなく再現するボディコントロールが必要になる。
馬鹿げた『力』だけでは出来ない事を知れ。
と、そんなメッセージを含んだ攻撃のつもりだったが、目の前の男はそれを真っ向から打ち破ってきた。
「まさか、その身に宿す力だけで俺の殴打から無理矢理抜け出すとはな……!」
シーアは己の内に眠る強大な『力』に物を言わせて、リヴァーレの連撃を力尽くで振り解いたのだ。
技術や術理に身を委ねた理の戦い方ではなく、竜やゴーレムのようにパワーで全てを薙ぎ倒す乱雑な戦い方の極みだ。
「まさに力の極致だ、お前は」
「はっ! 俺を誰だと思っていやがる」
「武や術理といった小手先の技術など、お前にとってはむしろ枷になるのやもしれんな……! すまなかった。所詮は力一辺倒だけの小童かと侮り、あろう事かお前に無駄な枷を押し付けようとしてしまった」
「ああ、死ぬほど不快だな。戦闘中であるにも関わらず、この俺に塩を与えるような真似をしやがった。それは俺を"下"に見ている事と同義だろ」
「お前の怒りも理解出来る。対等な戦士の戦いに水を差すような真似をしてしまった俺が悪いのだ」
「…………」
「シーア、お前を認めよう。純粋な力の強さに於いて、俺の戦った者でお前の右に出る者は一人として存在しない」
「それでいいんだよリヴァーレ。
もう俺を見下す事なんて許さねえ、それが出来るのはたった一つ。俺を拳で打ち負かした時だけ……だッッ!!」
力の極致を体現したシーアの全力右ストレートが、対峙するリヴァーレの顔面目掛けて振り抜かれた。
反応する事すら出来ず、まともに喰らうリヴァーレ。
拳から発生したソニックブームに包まれ、奴は身体を地面に擦り付けながら遠方へと吹き飛んで行く。
それを視界の端に収めながら、シーアは手のひらに魔力を込めて、紙屑のように飛ばされるリヴァーレ目掛け、鋭く魔力の弾を撃ち放った。
何度も何度も、執拗に撃ちまくる。
凄まじい爆発と地響き、そして衝撃がリヴァーレの居る場所から発生し、周囲に伝播する。
爆発による煙でリヴァーレの姿は捉えられないが、シーアの第六感には奴の魔力の揺らめきが確かに感じられていた。
まだ、くたばってはいない。
まあ当然か。この程度でくたばるような奴じゃないのは、一度拳を交えた時から分かっていた事だ。
じゃあさっさと追撃でも仕掛けるかな。
そう思い、大空へと飛び上がった瞬間。爆煙の中から大きな魔力の爆発が発生した。
黒い煙の尾を引いて、リヴァーレが超高速で空中に居る俺の元へと駆け上がってくる。
「何て顔してんだよ、この戦闘狂が」
滑るように空を飛んでるんじゃない。
リヴァーレは階段ダッシュでもするかのように荒々しく大気を蹴り付ける事で、無理矢理空へと躍り出てきたのだ。それも、目を大きく見開いた満面の笑みで。
大気を蹴り付けて空を駆ける。そんな力技を扱う魔族が俺以外にも居たという事実に驚いてしまうが、すぐに意識を切り替える。
今のリヴァーレから伝わってくる気迫は、先程拳を交えていた時よりも遥かに重く刺々しい。
「シーアッッ!!」
頭から血を流し、目元を真紅に染めたリヴァーレが、何かに狂喜乱舞しながら俺に向けて拳を振り抜かんとする。
ダンッ! と、踏み込みの音が大きく響いた。
ここは空中で足場になる物など何も無いというのに、奴は純粋な脚力だけで空気を捉え、仮設の足場として踏み込みに利用したのだ。
凄まじい肉体性能と身体能力の持ち主だ。
流石未来で『血塗られし軍神』と人類から恐れられ、更に自らを『魔族最強の戦士』と自負しているだけはある。
でも、そいつは。
この俺が居なかったらの話だろっ!
「おおおォッッあぁッッ!!!」
これは、どちらが最強かを決める真っ向勝負だ。
相手を屈服させるまで絶対に終わらない。だから。
受けもしないし防ぎもしない。逸らしもしない。
ただ真正面から、俺の信じる拳をぶつけるだけだ。
◆
ーー激突する軍神と鬼神。
空と太陽が落ちる。
不動の大地が割れ、絶対の天地が崩れ去る。
それはまさに、世界の終わる日。
「……シュラハト……シュラハト!」
耳に飛び込んでくる凄まじい轟音の中から、自らの名を呼ぶか細い声を僅かに聞き取った。
さっきまで隣に居た筈のソリテールが、いつの間にかあんな遠く離れた場所へと吹き飛び転がっていた。
突風によって飛来してくる木片や石ころに身体を打たれながら、シュラハトはソリテールの元へと近付き保護魔法を掛ける。
「無事か?」
「これが無事に見える?」
「いいや、酷い有様だな」
シュラハトは、高速で荒れ狂う石礫に身体を打たれて、全身傷だらけとなったソリテールを見ながらそう呟いた。
シーアとリヴァーレという二大巨頭が全力でぶつかり始めた今、その二人を中心に放たれる衝撃波は、並の生物が耐えられる領域から完全に逸脱していた。
当然、その衝撃波によって周囲に齎される被害も、今までにない未曾有の物になるだろう。
山より高く伸びる破壊の煙。
瞬く間に地方を巡る衝撃の余波。
銃弾を超える速度で飛散する瓦礫。
渓谷より深く抉られた大地。
二人の殺し合いによって齎される被害の一つ一つが、この大陸中で発生した様々な自然災害の域を遥かに超えていた。
そんな爆心地の近くに居ながらも、シュラハトとソリテールが軽傷で済んでいるのは、単にシュラハトが未来を観測し対策を取っていたからだ。
並の魔族や魔法使いならば、あっという間に死んでいた。
「やっぱりイカれてるわね、あの二人。それに魔王様の命令も果たす事が出来なくなってしまった。ここまで大事になってしまったら、もう魔王様の命令がどうとかの次元じゃないもの。私達の命だって危ういわ」
「そうだな。これはもはや天災だ」
「……君が何を考えているかなんて私には到底分かりっこないけど、これだけは聞かせて欲しい。これは私達魔族の為になる事なのよね?」
「…………」
「シュラハト」
吹き荒ぶ突風の中で、二人の魔族は言葉を交わし合う。
どんな状況でも落ち着いた様子のシュラハトとは違い、ソリテールの佇まいからは微かな殺気が漏れ出ていた。
納得のいく答えを貰わなければ、ここで殺す。
そう全身で主張しているようだった。
「自分達が作った箱庭を上から眺めているだけの理不尽」
「…………」
「何もかもが定められている残酷な世界」
「…………」
「ただ筆を走らせているだけで、この世界を自らの所有物だと勘違いしている忌まわしき存在」
「何言ってるの?」
「全ての存在を、命を、この世界に生きる者達の想いを。
その尽くを否定する残酷な世界の仕組みを、シーアの『力』を使ってめちゃくちゃにぶち壊す。自分の人生を"自分の意志"だけで決められるように。俺達はこの世界で生きているのだと証明する為に」
「私はあの二人の戦いが、魔族という種の為になるかどうかを聞いてるのよ」
「この戦いは、これからを生きて行く者達の存亡を賭けた戦いだ」
バンッ! と、何かの破裂する音がした。
その数瞬後に、頬に鋭い痛みが走る。
溢れ出る血を拭い目の前を見ると、ソリテールがこちらに手のひらを突き出していた。
「話が通じていないようね。友人だから殺されないとでも思っているのなら、それは大きな間違いよ」
「俺を殺しても意味はない。既に賽は投げられている」
「……シュラハト。私はね、ただ静かに暮らしたいのよ。魔法の研究や日々の生活がそれなりに送れていれば満足なの。敵を作らなければ尚良いわね」
「…………」
「だから、これが魔族全体の利になる事なのか、それともただの君の自己満足なのか。それをハッキリしてくれなきゃ安心出来ないわ。だって、この戦いは人類に魔族という種の危険性を知らしめるだけの愚策にしか見えないもの」
「仮にこれが俺の自己満足だとして、お前はどうする」
「魔王様の命令を下りて遠く離れた所に行くわ。血生臭い争いなんて私の居ない所でやればいい。これ以上私の平穏を乱されたくないのよ」
いつもの微笑みは何処へやら、ソリテールはシュラハトに強い憤りの含まれた眼差しを向けると、そのまま踵を返しこの場から立ち去ろうとする。
"今回の魔王様の命令、私は下りる"。
そんな拒絶を小さな背中で表しているようだった。
「お前のその考え方も、在り方も、その全てが定められている事だ」
「未来を観測出来る君の目から見れば、そう映るだろうね。でも私にとっては違うわ。私は私、それだけ」
「そうだ。この世の全てにおいて、最初から定められた物など決してありはしない。自分の意思はいつだって自分の下にあるべきだ」
「…………」
「この世界には、全てを自らの匙加減一つで決める事の出来る存在がいる。未来を見る事の出来る俺ですら、それに抗う事は出来ない」
「…………」
「そして俺はある瞬間までその事に気付いていなかった。この世の全てが自分の手のひらの中にあると滑稽な勘違いをしていた」
「まるで今は違うとでも言いたそうね」
「そうだ。結局俺も、この舞台を構成する装置の一つでしかなかった。この世界には理不尽で残酷な真実が隠されている。今を生きる全ての者の意志を、尽く否定するような残酷な真実が」
「君はそうやって他人を誘導するのが上手いね」
「そうやって?」
「作り話で、って事よ。君の言っている事が本当であると誰が証明出来るの? 悪いけど、私には質の悪い冗談にしか聞こえないわ」
「…………」
この残酷な真実を、誰が本当であると証明出来るのか。
俺以外では、シーアだけだ。
なら、他には?
誰も居ない。
この世界の理不尽な仕組みも、残酷な真実も、俺達二人を除けば誰も知らないのだ。
俺がこの真実に気が付けたのは、未来を見通す魔法のお陰だった。魔法の持つ特異性故、気が付く事が出来たのだ。
なら何も持たないソリテールには、一体どうやって気付かせればいい? どうやって証明すればいい?
「さようなら、私はもう行くね」
「どうにも」
「…………?」
「どうにも俺は、他人に言葉を使って説明するのが向いていないらしい。未来を観測出来る事にかまけて、独りよがりな行動ばかり取っていたせいかもしれない」
「…………」
「信じてくれ、とは言わない。お前にとって荒唐無稽な話である事は百も承知だ。だが、これだけは頼む」
「…………」
「これからもシーアと共に居てやってくれ。アイツは嫌がるだろうが、きっとその日々の中で気付く事がある筈だ。お互いに」
「それは未来を見据えてのアドバイス?」
「お前にもいつか真実を話す。そして今言えるのは、この戦いは未来の魔族の為の布石になる物だ。間違いなく」
「そう」
たったそれだけを呟くと、ソリテールはシュラハトから視線を振り切って再び歩き出した。
その顔には不満の色がありありと浮かんでいた。
「……ソリテール」
あれだけ周囲に甚大な被害を齎していた二人の戦いの余波は、気が付くといつの間にか落ち着いていた。
シーアとリヴァーレ。
二人の戦いは天災の具現化とも言える大規模な戦闘から、徐々に泥臭い肉弾戦へ移行しつつあった。
「…………」
シュラハトは緩やかに保護魔法を解除すると、先程ソリテールと交わした会話の内容を脳裏に思い起こす。
シュラハトの話をどう受け取ったのか、それはソリテール本人にしか分からない事だ。
でも今はまだ、それでいい。
バタフライエフェクトはいつだって、気に留める事もバカバカしい小さな事柄から派生する物なのだから。
血潮を振り撒きながら狂喜乱舞している未来の友を眺めながら、まだ見ぬ未来へと想いを馳せた。
フリーレン2期始まりましたね! 良かったです!早くゲナウの話と黄金郷編が見てみたいぜ……。
↓以下めっちゃどうでもいい話。
ややこしい話なんですけど、シーアは技術や武の術理などを全て網羅した上で力に物言わせた戦い方をしてみたいんですよね。まあ、つまり範馬勇次郎です。最後に究極のパワーゴリラになるつもりなんです彼は。身体は子供ですけどね!
ちなみに魔法の本質とは「究極の思い込み、自己暗示」だと作者は勝手に思ってます。ユーベルが作中で体現していましたね! つまり「私は最強」とアホみたいに思い込めば実際に極致に至れる程強くなるんじゃね? って感じです。魔法がどれだけ融通効くかは分かりませんけど! 魔法を無視してゼンゼの髪を切れたユーベルの実績があるからね! しょうがないね!