八崩賢 極致のシーア 作:蟲の月
「◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️!!!」
声にならない声が大きく轟く。
人類の手の及ばぬ領域。前人未到の大舞台。
シーアとリヴァーレが次なる戦場に選んだのは、遮る物が一切ない天空のステージだった。
魔法によって昇華された身躯と、悠久の中で鍛え上げた鋼の肉体を以って二人の戦いは音速を悠々と超えていく。
ーー負けたくない。負けたくない。絶対に負けたくない!
傍から見て超々々高速に見えるこの戦闘は、しかし二人にとっては地獄の遅さだった。
魔法によって極限まで鋭敏化した五感。
限界を超越した肉体と精神の更なる酷使。
過集中状態による体感時間の変化。
脳に流れ込んでくる膨大な情報量とそれの処理。
そして、超スピードによる飛行を続けているせいか、空気は粘性を持った液体の如く身体に纏わりつき、まるで水中をもがき進むかのような錯覚を二人にもたらしていた。
ーー遅い! 遅すぎる! 何もかもが着いてこねえ!
究極に研ぎ澄まされた意識は、相手の体捌きや筋肉、魔力の微細な変化も容易く目に捉える事が出来た。
しかし肉体が追い付いてこない。
意識ばかりが先行し肉体はその後を着いて行く。
遅々として進まぬ世界の中を、もどかしい気持ちで駆け抜けながらシーアは拳を振るい続ける。
それに、世界の極致を突き進む彼らの敵として立ち塞がるのは、何も対峙する相手だけではないのだ。
身を任せる超スピードも、身を委ねる大気も、異常なまでの熱量として二人に牙を剥き、戦闘が始まってしばらく経つと二人の身体は炎に包まれ燃えていた。
ーー息苦しい、それに身体がめちゃくちゃ熱い!
全身の細胞の一つ一つが発火してるんじゃないか。
そう錯覚してしまうほどの熱量が、シーアとリヴァーレの二人を常に襲い続けている。
並の存在ならばこの移動速度だけで塵と化してしまうが、しかしこの二人にとってそれは脅威足り得ない。
この二人を脅かせるのは、常識の枠を超えた物理現象でも、非常識な幻想の法則でもなく、たった一つの拳だけだ。
「ハッッ!!」
森羅万象を殴り飛ばすシーアの拳が、リヴァーレの歪みに歪んだニヤケ面目掛けて、真っ直ぐに繰り出される。
音を置き去りに、そして空気を超圧縮して放たれた業火の拳は、しかし後一歩のところでリヴァーレには届かない。
リヴァーレの目にも、容易に捉えられていたから。
「◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️!!」
全身を炎に飲み込まれていて表情が見えないにも関わらず、俺にはリヴァーレの考えている事が手に取るように理解出来た。言葉にせずとも真っ直ぐに伝わってくる。
"この程度か?"
揺らめく炎が俺にそう語りかけてくるようだ。
段々と薄暗くなって行く天空を、たった二人で駆けながら、限界というハードルを乗り越えに乗り越えて行く。
魔法を手繰る手を止めず、そして思考と肉体は更に加速させて、必死にリヴァーレへと喰らい付く。
数多の拳のやり取りを交わしていく中、不意にリヴァーレの身体がよろめいた事を俺は見逃さなかった。
「シィッッッッ!!」
魔法によって強化され、名刀など比にならないレベルにまで至ったシーアの手刀が、リヴァーレの無防備な首元目掛けて繰り出される。
「…………!」
手刀が当たるか当たらないかの刹那。
血に塗れたリヴァーレの口元が、まるで三日月のように歪んで行くのをシーアははっきりと見てしまった。
耐えがたい悪寒が全身を駆け巡る。
魔法によって底上げされた危機察知能力が警鐘を鳴らす。
これは取り返し用のないミスだと、半ば直感的にシーアは理解した。
「まずっ……」
「取ったッ!」
凄まじい勢いで俺の手刀を振り払ったリヴァーレの右腕は、これまた凄まじい勢いで反対側に翻ると、俺の無防備な腹部にその拳を叩き付けた。
反射的に九の字に折れる俺。
リヴァーレは膝から崩れ落ちる俺の顔面に、イカれた威力を内包した膝蹴りを叩き込んできた。
そのあまりの激痛に身体が飛び跳ねそうになるも、それを冷静に抑え、リヴァーレから距離を取ろうと身を捩った。
しかし、リヴァーレは俺の頭から伸びる二対の角をガッチリと掴んでいるようで、上手く距離を取ることが出来ない。
何度も何度も何度も。イカれた威力の膝蹴りを、俺の無防備な顔面目掛けて叩き込んでくる。
ーーこれ、前にミリアルデと戦った時にも喰らったな!
耐えがたい激痛と灼熱感と衝撃。それらの感覚が顔面を迸る中、俺はぼーっとそんなことを思い出していた。
あの時、俺はどうやってこの攻撃を凌いだんだっけ?
ただひたすら拳を振り回していたら、いつの間にかミリアルデが手を離してて、それで抜け出せたんだっけか。
「お前らは人の角を掴むのが好きだなオイッ!!」
「髪の毛を掴むより、角を掴む方が簡単だから仕方あるまいっ!」
酒の臭いをプンプンと漂わせているエルフの横顔を脳裏に思い浮かべて、シーアは力強くそう叫んだ。
そして、眼前に迫るリヴァーレの膝小僧を見つめながら、魔力探知を駆使してリヴァーレとの距離感を把握する。
膝蹴りの連撃が止んだタイミングに合わせ、今もニヤニヤと俺を見下しているだろうリヴァーレの顔面に向け、思い切り拳を繰り出した。
「それにっ、角という持ち手があることで、こんなことも出来るからなあ!!」
拳を繰り出した直後。頭上から力強い声が降ってきた。
頭部に激痛が走り、同時に視界が一瞬で横に流れる。
結果的に、俺の繰り出した拳は虚空を捉えた。
虚空を捉えたと言うより、俺の身体が急激に横に引っ張られたことによって狙いがずれてしまったのだ。
では、何に引っ張られたのか。
それは勿論リヴァーレだ。
一体、どこを掴んで引っ張ったのか。
それは当然、俺の頭から天に向かって生える二対の角だ。
「オオオオオオオオオオオッッッッッ!!!」
「……ぐっ、……あっっ……は!?」
俺の角を掴んだリヴァーレは、はじめて野球バットを買ってもらった少年の如く、乱暴に俺の身体を振り回し始めた。
素振りのような生易しい振り方じゃ決してない。
ただ一方向に振るのではなく、四方八方にブンブンと振り回す無茶苦茶な振り方だった。
それは、例えるならまるでヌンチャクのような。
リヴァーレの極限まで鍛え上げられた鋼の肉体に、ヌンチャクとして見立てた俺の身体をぶつけ、捻じ切れるまで振り回し続ける鬼のような行為。
俺はリヴァーレのこの行為を知っていた。
かつて紙面越しに見た光景そのものだった。
この世界に生まれ落ちてすぐ、そこいらの人間に試したことのある技だった。
ーーこれって『ドレス』じゃねえか!
有り得ない。知ることは絶対に出来ない。だってそれはこの世界には無いものだからだ。
リヴァーレが"ソレ"を識っている筈はない。
だから、これはどうしようもないくらいに偶然だ。
リヴァーレが独自に生み出し、練り上げ、悠久の積み重ねの中で昇華した、リヴァーレだけの必殺技。
派生も贋作でもなく、これがリヴァーレの生き様の結晶なのだ。ああ、それは何て美しいんだろう。強いのだろう。
これを『ドレス』と言うのは簡単だが、この技を独自で編み出したリヴァーレの軌跡と努力を、『ドレス』という一言でまとめるのは何だか勿体無い気がした。
しかしそれは、紛れもなく『ドレス』であった。
リヴァーレの純粋な力と、悠久を生きてきた中で磨かれた武術。それらを以て、『ドレス』を再現していた。
興奮は絶えない。しかし、すぐに考えられなくなる。
超々々高速下の戦いによる余波。
度重なる戦闘の疲労。
血塗られし軍神リヴァーレとの本気の殺し合い。
これらの要因が、徐々に俺から魔法を引き剥がして行く。
魔法によって極致へと昇華されたこの身体ですら、アイツの攻撃を受けるたびに甲高い悲鳴を上げるのだ。
だからこそ、どうにかしてこの猛攻から身を守らねばならないが、しかしそれを簡単に許してくれるほど、リヴァーレも『この技』も甘くない。
「吹き飛べッッ!」
「…………!?」
リヴァーレの服飾の一部と化していたシーアが、突如としてとんでもない勢いで下方へと投げられる。
もし投げられたのが常人ならば、自分の向いている方向すら分からなくなっていただろう。
しかしシーアに掛けられた魔法は、術者本人に確かな位置と平衡感覚を正常に伝えていた。
それは確かに伝わっていたが、隕石の如く落下するシーアが取れる行動など、この状況ではそう多くない。
シーアは数秒先に来たる衝撃と激痛を夢想しながら、凄まじい勢いで地上へと激突した。
「…………痛ってェ」
燃え上がる地獄の業火に包まれ、甲高く騒ぐ有象無象の声をぼんやりと聞きながら、シーアはそう呟いた。
どうやら、どこかの人里に落下したようだった。
ジェット機のように空を駆け巡り、無我夢中でリヴァーレと拳を交えていたからか、自分が今どの辺りにいるのかをシーアは全く把握していなかったのだ。
聞くだけで欲求を刺激される人類の声を聞きながら、シーアは先の一連の流れを思い出していた。
「ははっ……まさか『あの技』を実際に喰らうことになるなんてな」
範馬の系譜が扱う『力』と『技』の極致。
やはり俺の直感は間違っていなかった。
アイツと初めて邂逅した時に幻視した、地上最強の生物の印象はやはり間違いではなかったのだ。
この世界で、俺の記憶の中の先人たちに比類し得る存在は、恐らくアイツを除いて他にいないだろう。
軍神の名を冠する魔族は伊達じゃない。
俺はこの時、魔法でも武器術でもなく、たった一つの拳だけで戦士の極致へと至ったリヴァーレの事を、心からかっこいいと感じた。
「ーー!? ーー、ーーーーーー!」
「ーーー。ーーーーー!!」
気が付くと、俺の隕石の如き落下によって出来たクレーターの外側から、人類の泣き喚く声がキャーキャーとうるさく響いていた。
どうやら人里の連中が異変に気が付いたらしい。
まあ、一山いくらの有象無象なんかどうだっていいや。
誰が何人死のうとも、里がどれだけ壊滅しようとも、今の俺の目にはたった一人しか映っていない。
地上最強の生物を彷彿とさせるあの男。最初は、俺以上に絶大な暴力を振るえるアイツを、決して認められなかった。
でも今は違う。心の底から認められる。尊敬出来る。
そしてそんなアイツは、この俺を殺そうと、死力を尽くして向かってきてくれているから。
今は、俺もただひたすらそれに応えたいんだ。
「まだ、俺はやれるからな……」
足に力を入れるだけで激痛が走る。でも立ち上がる。
血が流れすぎて意識がぼやける。魔法でねじ伏せた。
深く息を吸っても常に息苦しい。考えない事にした。
鬼のような怪物が降りて来る。俺は負けない。
「こんなもんじゃないさ」
俺の後を追って、リヴァーレが隕石のように降ってきた。
その血に塗れた顔には、満面の笑みと、ほんの少しの必死さと、僅かな悲哀の色が浮かべられていた。
そんなアイツの顔を見て、俺の中に何かが湧き上がる。
アイツも、俺に負けたくないと必死に喰らい付いているんだ。俺とアイツは今、同じ想いを抱いているんだ。
「そうだよ、こんなもんじゃない」
胸の奥に湧き上がるこの暖かい気持ち。
もしかしたらこれが、正真正銘『友愛』ってヤツなのかもしれない。友情を超えた、拳でしか作れないパワータイプの絆。
「こんなもんじゃないッ! 俺たちはこんなもんじゃないだろリヴァーレッ!」
燃え上がる里。陽の降り注ぐ綺麗な地。
思ったより大きい声が出たことに自分でも驚きながら、シーアは猪のように突っ込んでくるリヴァーレ目掛けて、真っ直ぐに拳を突き出した。
リヴァーレの堅牢な腹筋に当たり、爆ぜる。
しかし奴は吹き飛ばない。苦しそうに血反吐を吐きながら、だけど力を振り絞って持ち堪えていた。
そして、そのまま返す刀で反撃してくるリヴァーレ。
恐ろしく研ぎ澄まされた純粋な突き。
「あっ……ぐぅっ……!?」
それを避けることは出来なかった。
魔法を掛けて肉体を昇華していても、誤魔化しきれない疲労がじんわりと滲み出てくるのだ。
元より酷使に酷使し続けた身体だ。魔法によって無理矢理支えているとは言え、戦闘がここまで長引けばこうなるのも当然だろう。
俺の無防備な腹部に、奴の鋭い突きがモロに入った。
込み上げてくる吐き気。
激痛よりも何よりも、まず真っ先にそれが来た。
その次に、謎の哀愁。そして歓喜。友愛。
楽しさだけは過去最高潮なのに、なのに……。
なのに、どうしてこんなに悲しいんだろうか。
俺とリヴァーレが拳を交わすたび、嫌でもこの戦いが終わりに近付いていくのが分かる。
どれだけこの戦いが楽しくとも、終わりは必ず訪れる。
その終わりが俺の死による物なのか、リヴァーレの死による物なのか。それはまだ分からない。
ただ、残された時間は少ないと。それだけは何となく理解出来た。
「ああ、楽しいなあ。本当に楽しいよ、リヴァーレ。そしてそれと同じくらい……哀しいよ。俺たちにはもう時間が残されてない。猶予だってない」
「……それでも、まだ踊れるだろう?」
「そうさ、まだやれる。時間が残されてないからって、勝つことを諦めた訳じゃない。俺には……」
リヴァーレが駆ける。
馬をも超えるスピードで俺に迫り、拳を振り抜く。
並の存在からして見れば高速の接近。しかし、超々々高速の戦闘を掻い潜ったシーアから見れば、それは毛虫の歩みの如き速度でしかなかった。
リヴァーレの拳を真っ向から振り払い、力強く叫ぶ。
「俺には夢があるからだ!」
強くなる。この世界の誰よりも強くなる。
記憶の中のあの人たちみたいに。
世界の極致へ至る。
力の頂点に君臨する。
その為に、俺の先を進むリヴァーレを打ち倒し、この世全ての戦士を凌駕して、歴史に俺と言う暴力を刻み込む。
そうしたら、そうしたら。
今度は、やった事ない事をやってみよう。
自分勝手に、傍若無人に生きていこう。
「なら、この程度で死んでくれるなよ。シーア」
そんな俺の叫びを聞いて、リヴァーレは儚く笑った。
いつもの獰猛な笑みじゃない。それは巣立ちする子を見守る親のような、そんな親愛と寂しさを含んだような笑みだった。
ーードクン。
心臓が高鳴った。
突如として大気が軋み始め、悲鳴を上げる。
異常の兆しは、リヴァーレの息遣いの変化だった。
先程までの荒々しい『動』の雰囲気とは違う。それは酷く心を揺さぶられるような、恐ろしいまでの『静』。
リヴァーレの身を焦がすような威圧感は鳴りを潜めたというのに、未だ脳内の警鐘は鳴り止むことを知らない。
それも、先程拳を交えていた時よりも遥かに強く、やかましく警鐘を鳴らしているのだ。
ならばこれは、ただの静寂ではなく、次の攻撃の為の予備動作ということーー!
「俺たちに残された時間が少ないと言うならば、この全身全霊の攻撃を以て、この戦いにケリを付けるとしよう」
リヴァーレが厳かに告げる。
シーアにはその言葉の意味が分かっていた。
このまま泥臭い殴り合いで決着をつけるのも悪くはないが、どうせやるなら派手に散らせてやろう。
リヴァーレは暗にそう言っているのだ。だから、その為に全身全霊の攻撃を放つ準備をしているんだろう。
「上等っ……!」
そんなリヴァーレの覚悟の決まった様子を見て、シーアはより一層嬉しいと思えた。
無骨な殴り合いで決着をつけるのも良い。元より戦いなんて泥臭いものだ。だから、シーアはそれでも良かった。
でも、リヴァーレは全身全霊の一撃を、満身創痍の俺にトドメを刺すのに使ってくれるというのだ。
魔族最強の戦士、リヴァーレ。その最後の期待に応えなくて、何が戦士だ。何がライバルだ。
ならばこそ、俺も戦友として、最後まで全力でリヴァーレの想いに応えるまでだ。
「トバすぜ」
ーーお互いに死力を振り絞った、最大最強の一撃。
それを以て、この戦いに白黒つける。
ソリテールに襲われ、シュラハトに連れて行かれ、そこで巡り会ったリヴァーレとの戦いも、もうすぐ決着がつく。
思えば、災難とも幸運とも言えない奇妙な一日だった。
自らを高める為に人里を滅ぼし、そこに現れたソリテールと殺し合いに発展しかけ、シュラハトに連れて行かれ、挙げ句の果てにリヴァーレと命を賭した戦いを繰り広げている。
あまりにも濃すぎる一日だった。だが、後悔はない。今振り返ってみれば面倒だとも思わなかった。
出会いが物騒な物だったとはいえ、ソリテールと知り合えたのは、かつて『葬送のフリーレン』を眺めてきた俺としても嬉しい出来事だったし、シュラハトもそうだ。
リヴァーレにも、思い切り誰かとぶつかり合える楽しさを、気持ち良さを教えてもらった。だから、だから……。
「
もう終わらせよう。
歓喜と快楽と夢心地の中で、全部終わらせる。
このまま、なし崩し的に決着がついてしまうより、お互いの最大最強の一撃で雌雄を決した方が絶対良いから。
「一撃だ」
対峙するリヴァーレが、そう宣言する。
その表情からは、いつもの戦事を愉しむような微笑みと、ほんの少しの寂しさが含まれていた。
しかしそれも一瞬のことで、気が付いたら、息を呑むような荒く重々しい雰囲気へと変貌していた。
大気がずっしりと重くなり、軋み、悲鳴を上げる。
天地が崩れ、リヴァーレを中心に唸り始める。
血塗られし軍神リヴァーレの最大最強の一撃。
世界を崩す一撃が、今、繰り出される。
「◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️ッッ!!」
それは、例えるなら太陽の如き拳だった。
超強大な拳圧と、凄まじい断熱圧縮。それらによって生み出された炎が弾け、輝き、里全体を燦々と照らし出す。
拳の解放によって地上に具現化した人工太陽は、その余波で瞬く間に里を崩壊させると、次に矛先をシーアに向けた。
そんな全てを無に還すリヴァーレの拳を前に、シーアが取った行動は一つだけ。
回避は始めから選択肢にない。
防御なんて以ての外。そんなの身体が砕け散るだけだ。
つまり迎撃。ただ真っ向から迎え撃つのみ。
「◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️ーー!!」
シーアは獣のように吠えながら、固く握り拳を作って、そしてリヴァーレに向け思い切り拳を振り抜いた。
空気の破裂する音が十重二十重に響き渡る。
死にゆく人の声が不協和音のように伝わってくる。
灼熱の大気を纏い突っ込んでくる拳骨。それにシーアの拳が触れたのを最後に、激しい爆発が二人の影を飲み込んだ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
束の間の間。
何も聞こえなくなった。
何も見えなくなった。
何も感じなくなった。
何も分からなくなった。
意識は微睡みの淵にいるかのようにぼんやりとして、今が夢なのか現実なのかの区別もつかなくなる。
ただ一つ確かだったリヴァーレの姿も、激しい爆風と爆炎に包まれて姿を消してしまった。
己の信ずる魔法を以てしても、あのリヴァーレを倒せるかは分からない。それでもシーアは信じていた。己の魔法なら、例えどんな相手でも打ち倒せる筈だと。
「やっ、た……か?」
点滅していた視界がようやく機能を取り戻した時、シーアの目に飛び込んできたのは、苦々しい敗北を突き付ける非情な現実だった。
「シーア」
リヴァーレには歪な半身しか残されていなかった。
シーアの迎撃による衝撃。それらがリヴァーレの身体を伝播し、蹂躙し、そして針金のようにぐにゃりと捻じ曲げたのだ。しかしそれでも、リヴァーレは悠然と立っていた。
半身をぐちゃぐちゃに歪められ、破裂した水風船のように血を流し続けているリヴァーレは、幽鬼のようにゆらりとシーアに歩み寄った。
「ははっ、この化け物め……」
シーアはポツリと呟いた。
血溜まりの中をゾンビのようにフラフラと歩いているリヴァーレは、こんな瞬間でも気高く美しかった。
シーアは知らずのうちに圧倒され、つい見惚れてしまう。
それでも足掻こうと拳を構えるが、巨岩でも乗せられたんじゃないかと思うくらい身体が重い。全く動かない。
ふと腕に視線をやると、関節が逆方向に曲がっていて、肉が潰れていた。
「はあっ、はあっ……っ」
それを認識した途端、激痛が遅れてやってきた。
全身の細胞に熱をもった針を突き立てられているような。
砕いたガラスの破片を血管に流し込まれているような。
そんな激痛が、シーアの小さな身体を責め抜いている。
リヴァーレほどの戦士が半身をぐちゃぐちゃにされたのだ。いくら魔法を掛けているとは言え、リヴァーレと同等のシーアが五体満足でいられる筈がない。
「俺はこんなんだってのに、お前はタフだな……やっぱり強えや」
シーアは機能を放棄した拳を下ろし、立ち上がろうとするが、しかし足腰も同様に役目を放棄している。
何度立ち上がろうとしても、足腰に力が入らない。
シーアは尻餅を付いた体勢で、リヴァーレが歩み寄ってくるのをただただ眺めていることしか出来なかった。
「くそっ……立ち上がることすら出来ねえ」
フラフラとゾンビのように近付いてくるリヴァーレ。
リヴァーレは俺の元まで歩み寄ると、軽く引っ張るだけで捻じ切れそうな自らの腕を、俺に向かって伸ばしてきた。
万物を屠ってきたこの腕で、俺は一体どんな結末を迎えるのだろう。首を捻られて死ぬのか。或いはボッコボコに殴られて死ぬのか。
「俺の………………敗け、か」
その言葉を捻り出すのに、酷く時間が掛かった。
どんな末路を迎えても、俺は受け入れるしかない。
敗者が勝者に何かを望むなどあってはならない。
どちらが勝ってもおかしくない戦いだったとは言え、最後まで立っていたのはリヴァーレだ。俺は勝てなかった。
なら俺も、俺が今まで殺してきた有象無象のように、ただ殺され死んでいくだけだ。
そこまで考えたところで、ふと違和感に気が付いた。気が付いてしまった。
「何だ、この魔力は……」
俺のモノでもリヴァーレのモノでもない謎の魔力が、遠くの方で大きく力強く輝いて、光を放っていた。
大気が軋んで、悲鳴を上げる。
研ぎ澄まされた鋭利な魔力が、こちらを見つめている。
リヴァーレもそんな異常に気が付いたのか、足を止めてじっと虚空を見つめていた。
そして、次の瞬間。
視界が白一色に染め上げられた。
「あ、これやばっーー」
突如として飛来してきた極大の閃光が、瞬く間に二人の身体を飲み込み、そして大地ごと掻っ攫っていった。
黄金郷編は2027年に来るらしいですね!
フリーレンの中で一番好きな章なので超楽しみ!!
フリーレン界隈もっと盛り上がれ盛り上がれ……。