八崩賢 極致のシーア   作:蟲の月

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21/叛逆の狼煙

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 人と魔族。それは決して相容れない二つの種族の名前。

 互いに歴史に名を刻み込むほど優れた実力を有する、現代最高峰の魔法使いであるフランメとシュラハト。

 長時間の睨み合いの末、痺れを切らして先に動いたのは、またしてもフランメの方だった。

 

 

地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)

 

 

 シーアとリヴァーレ。その二人の死闘によって不毛の地と化した、大陸最北端に存在するかつて人里だったモノ。

 その荒れ果てた大地を、再び煉獄と紫電が蹂躙する。

 

 

「強力な魔法を二つ同時に操るとはな……」

 

 

 津波のように押し寄せてくる地獄の業火を前に、シュラハトが取った行動はただ一つ。それは上空へ逃げること。

 対人類に於けるこの戦法は、相手が戦士であっても魔法使いであっても有効だ。何故なら彼らは飛べないから。

 いくら優れた魔法の才を持つとは言え、フランメはどこまでいっても人間だ。当然飛ぶことは出来ない。

 そして彼ら人類が空を飛べるようになるのは、今からおおよそ千年後のこと。フランメはその頃死んでいる。

 

 

「空を飛ぶ感覚を知らないまま死んでいく気分はどうだ?」

「お前はあの世に飛ばしてやるよ」

 

 

 フランメが軽口を叩いたその直後。

 上空から尋常じゃない速度で落下してくる高魔力の紫電が、雨粒の如くシュラハトに向かって降り注いだ。

 その紫電の一筋一筋が、大魔族を容易く屠ってしまうくらいの威力を有しているのだ。

 いくらシュラハトと言えども、当たってしまえばひとたまりもないだろう。だが、それは。

 

 

「当たれば、の話だが」

 

 

 ここで、ついにシュラハトは禁忌を犯した。

 シュラハトの頭の中に眠っている"友の知識"。

 その知識の中には当然。友の心酔するパワータイプ以外にも、様々な力を持った人物が記録されている。

 例えば、未来視の力を持つ者たち。

 そんな未来視の力を持つ様々な人物たちの中で、暗黙の了解として広まっているモノが一つだけある。

 

 "未来で知り得た事象を、軽々しく披露してはならない"。

 

 これだけはどの人物も等しく守っていた。

 何故ならその行いは、歴史を大きく揺るがすバタフライエフェクトになりかねないからだ。

 彼らは世界と共に生きていく存在だからこそ、その世界の成り立ちを揺るがすような行いは決してしない。

 仮にそのような行いをする者が存在するならば、それは世界という大きな枠組みを、ただ一心に……ひたすらに憎んでいる者だけだろう。

 

 

「なるほど……便利なものだ」

 

 

 シュラハトの全身を包み込むように浮かんでいるのは、正六角形のみで構成された球体状の結界だった。

 それは現時点では存在し得ないオーパーツ。

 

 『防御魔法』

 

 この魔法は、今からおおよそ千年後の未来にて。

 『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』と対を成すように改良に改良を重ねられた、人類の叡智の結晶そのものだった。

 

 

「…………っ!?」

 

 

 対峙するフランメの瞳に、一瞬だけ驚愕の色が表れたのをシュラハトは見逃さなかった。

 紫電の雷と挟み込んで、追撃を仕掛けようとしたフランメの行動がピタリと止まる。

 しかし、それは時間にしてほんの一瞬程度のもの。

 だがシュラハトにとっては大きな隙だった。

 フランメの驚愕の色が薄まらぬ内に、シュラハトは手のひらに溜め込んでいた暴風を一気に解き放つ。

 

 

竜巻を起こす魔法(ヴァルドゴーゼ)

 

 

 零から百へ。極小から極大へ。

 シュラハトの手のひらにまで圧縮されていた暴風は、主の管理の元を離れるやいなや一瞬にして膨れ上がった。

 地盤を巻き上げ、あまねく全てを削り取る台風。

 堅牢な城砦ですら、この魔法の前では塵芥に過ぎない。

 

 

「チッ、なんださっきの魔法はっ! 魔法使いなら真っ向から戦いやがれ!」

「真っ向から戦っているじゃないか」

「空から降りてこいって言ってんだよ」

「ならお前も空に来ればいいさ」

 

 

 シュラハトの放った極大の竜巻は、しくじったと顔を顰めているフランメの元へと一直線に突っ込んだ。

 直撃し、巻き上げられ、空へと打ち上げられるフランメ。

 まな板の上の魚だな。シュラハトがそう思ったのも束の間、フランメはあらぬ方向へと魔法を撃ち出し始めた。

 

 

「…………ほう」

 

 

 フランメは自由に身動きの出来ない空中に投げ出されたにも関わらず、冷静に状況を判断して、適切な角度で魔法を撃ち放ち、その反動で姿勢を制御していたのだ。

 凄まじい平衡感覚と判断能力だ。

 彼女は魔法のセンスだけではなく、肉体を操作するボディイメージにもそれなりのセンスを有していた。

 優秀な師が付けば、格闘戦も並の戦士以上に出来るようになるだろう。やはり奴も人類の生み出したバグの一角か。

 流石、『人類の魔法の開祖』と後世の人間から持て囃されるだけはある。

 

 

「空を飛べた幸福を噛み締めながら死んで行け」

「……なっ、お前それはっ」

風を業火に変える魔法(ダオスドルグ)

 

 

 ……だったら何だ。それが何だと言うんだ。

 世界を後ろ盾に持つ英雄たち。

 勝つことを定められている出来レース。

 化け物を倒すのはいつだって人間だと、人間でなくてはならないと知識の中の吸血鬼は嗤う。

 

 

『◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️◽️!!』

『……テメェはっ』

 

 

 ふざけるな。

 そんなものが俺たちの負けるべき理由で、お前たちが勝つべき理由だとでも言うのか。

 悪は滅びる。正義は勝つ。

 魔族が悪なら、人類は正義?

 ならば最後には人類が勝つのか。

 くだらない。納得いかない。腹が立って仕方ない。

 何が正義だ。何が悪だ。

 世界は二元論で片付けられるほど簡単なモノじゃない。

 俺たちには俺たちの戦う理由があり、お前たちにはお前たちの戦う理由がある。

 魔族が人喰いのバケモノであるからと言って、それは人に倒されなければならない理由になどなり得ない。

 戦いの行方はいつだって、互いの信念を懸けて死に物狂いで掴み取って行くものだろう。

 それだけは絶対に、絶対に、絶対に。

 決められたものであってはならないのだ。

 

 

「俺たちを舐めるな……!」

 

 

 二人の魔法使いとしての力量は恐らく互角。そして肉体を動かすセンスがあると言ってもフランメは嵐の中。

 遠距離魔法で攻撃するにしても魔力の動きは誤魔化せない。フランメの攻撃の予備動作は既に把握してある。

 なら後は、この業火を身に纏った竜巻で押し潰すだけだ。

 自らの支配下に置いている業火の竜巻を、ゴミクズのように渦巻いているフランメに向けて一気に集中させた。

 柔らかい雪を握り締めて強固な雪玉にするように。

 粘度のある重い液体を素早く掻き混ぜるように。

 全てを燃やし尽くす業火の竜巻は、重く、深く、執拗にフランメの居る場所を蹂躙……していなかった。

 それどころか、手応えがまるで無い。

 先程まで、確かに己の手の内にあった業火の竜巻の支配権が、いつの間にか消失している。

 これは、まさか。

 

 

「ハッ、訳わかんねえって顔してんな」

「……フランメ。やはりお前か」

「私以外に誰が居るってんだよバカ。ヒヤヒヤさせやがって」

 

 

 業火を身に纏った竜巻は、フランメが居るであろう空間だけを上手く避けながら展開を続けていた。

 傍から見れば、業火の竜巻の中にぽっかりと穴が空いているように見えるだろう。

 しかしそれらは全て、シュラハトから業火の竜巻の支配権を奪取したフランメが、精密な魔力操作と神懸かり的な直感でコントロールしているものだった。

 

 

「だが、状況は何も変わっていないぞ」

 

 

 シュラハトは己の魔法を利用されたが、かと言ってそれがシュラハトの敗因になり得るかと言われればそうではない。

 フランメに用意した数ある内の手段を一つ失っただけであり、そして戦況はシュラハト優位のまま進行している。

 なぜなら、彼女は未だ空へと投げ出されたままだから。

 竜巻によって上空へと舞い上げられたフランメならば、自由落下でも十分致命傷になり得るだろう。

 だが、この程度で勝利を確信するほど、シュラハトはフランメを侮っていなければ己の実力を過信もしていない。

 故に。待つ。

 

 

「俺一人で戦っても意味がないからな」

 

 

 ここでの勝敗は俺たちにとって重要ではない。

 俺たちが望んでいるのは、『葬送のフリーレン』という舞台を片っ端からぶち壊してやることだ。

 フランメを殺してしまえば、彼女から派生するであろう様々なものが失われることになる。

 そしてその中には、まだ名も無き魔法使いフリーレンも居るだろう。この世界の主人公たるエルフの少女が。

 まだ大成もしていない魔法使いを殺しても意味は無い。

 それでは俺もシーアも納得はしない。

 原作開始時点の勇者ヒンメル一行。その頃完成されているであろう魔法使いフリーレンと箱庭の世界。

 『葬送のフリーレン』という物語が始まって、そしてそれをぶち壊してこその叛逆なのだ。

 

 

「さあ、さっさと起きてこいシーア。お前が来なければ何も始まらないだろう?」

 

 

 だからこそシュラハトは待ち続ける。

 この戦いが、ある意味で千年先に起こる大舞台の緒戦となることを彼は理解していたから。

 世界に反旗を翻す瞬間を二人で見届けたいと思ったから。

 だからこそ、シュラハトはただひたすら待ち続けるのだ。

 

 

 

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