八崩賢 極致のシーア   作:蟲の月

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4/魔族、招集

 

 

 時の流れは思ったより早いもので、俺がこの世界に転生してから数年の時が経とうとしていた。

 

 最初の頃は人間や魔物をサンドバッグにして魔法の上達を図っていたが、あまりやり過ぎると厄介な連中に目をつけられる為、今は大人しく一人で鍛錬に励んでいる。

 早く身体が成長してくれれば、魔法と並行して肉弾戦も実戦で鍛え上げられるというのに……。

 しかし残念なことに、俺の肉体はまだ発展途上なのだ。

 転生したての頃と比べれば身体はゆっくりと成長してきているが、それでも中学生程度の体格しかない。

 まあ、小柄でもリーニエのようにバリバリ肉体を駆使する派の魔族も居るには居るんだけどね。

 俺は基本的に、範馬勇次郎やブロリーのような圧倒的筋肉パワーでゴリ押す修羅道の如き戦い方を選んでいるのだが、いかんせん体格面に関する理想と現実のギャップの差が大き過ぎて、その在り方を実現出来ていないというのが現状だ。

 身体の成長なんて望んですぐに得られるものじゃないし、焦った所で良いことなんて何もないんだけど。

 まあ、俺の身体の問題については時が解決してくれるので、今はとりあえず『魔法』に絞って研究をするとしようか。

 

 今のうちに魔法を極めておけば、俺の身体がバキバキのムッキムキに成長し切った時に、更に魔法でパワーブーストを掛けることが出来るから、無駄にはならないだろうし。

 仮に無駄だったとしても、俺は魔法を使うのが楽しいからそれはそれで良いのだ。

 そして今のうちに習得しておいた方がいいものとして、戦闘技術なんかも入ってくるだろうか。

 以前試しにやってみた『ドレス』もそうだが、ありとあらゆる武の術理を子供の内から溜め込んでいれば、大人になった時に振るう暴力により磨きがかかるかもしれない。

 まあ武の術理を知ろうと言っても、俺はそれら全てを網羅した上でパワーに物言わせた戦いをしてみたいので最終的にやることは同じと言える。

 

 

 ーー詰まる所、圧倒的暴力による蹂躙。

 

 

 結局これに帰結するんだよね。

 まあ今は『魔法』に絞って研究をするつもりだから、『技術』やら『身体』やらは一旦置いておく。

 魔法の研究と一言で言っても、その内容は多岐に渡る。

 新しい魔法の開発から実践、そしてその結果を元にした改良などが研究の主な目的と言えるだろう。

 

 そしてこれからやる研究と言うのは、俺の相棒たる『身躯を昇華する魔法(ルシフェラーゼ)』を強化する為の術式構造の改造だ。

 もっと簡単に表すなら、アップグレードとも言う。

 魔法を開発して即終了! 終わり! 解散! とならないのが魔法の面白い所で、開発した魔法を扱うのにも当然練度というものがある。

 使えば使うほど慣れてより上手く扱えるようになるし、逆に初めて使う魔法は勝手が分からず手探り状態からスタートすることになる。

 勿論俺は自分の魔法を魂の半身として愛情を持って接しているから、この魔法に対する理解や練度は当然の如く高水準だ。生を受けてから今までこの魔法を一途に鍛え続けていたのだから当たり前と言える。

 

 

「一途に、か……」

 

 

 そう、一途にだ。

 今にして思えば、俺は産まれ落ちてから一度も他の魔法をメインで使ったことはなかった。

 ビーム魔法や他の攻撃魔法を使おうと思えば使えたはずなのに、一度も主軸に置くことは決してなかったのだ。

 何故か? 決まっている。

 

 

 ーー無意識に抱く魔法への誇りだ。

 

 

 俺は自らの魔法『身躯を昇華する魔法(ルシフェラーゼ)』を何よりも至高のモノだと考えている。

 その思考が前提にあるからか、他の魔法を使うことに抵抗は無くとも、他の魔法を主軸に据えることを良しとしなかったのだ。

 これは前から思っていたことだが、魔族の魔法に対する気持ちはとても真摯の一言に尽きる。

 俺が物に対して愛着を持ちやすい可能性も無きにしも非ずだが、記憶の中にある魔族たちは全員己の魔法に対して強い誇りと矜持を持っているので、きっとこれは魔族特有の考え方なのだろう。

 だからこそ、彼等はその永い人生の中で、己の魔法を究極のモノにまで仕上げるのだ。それが自らの魔法を至高のモノと信じて疑わない彼等の唯一の望みだから。

 そんな魔族だからか、魔法以外にも興味や熱意のある物には人生を懸けて探究するという特徴がある。

 人類史に刻まれる殆どの悲劇とは、彼等魔族の人生を懸けた追求や研究が結果として、人類に対して破滅的な結果をもたらしただけに過ぎないのだ。

 俺にとっての力のように。

 マハトにとっての罪悪感や悪意の探究のように。

 魔王にとっての人類との共存のように。

 その魔族たちの熱く真摯な想いによって、凶悪な魔法や痛ましい悲劇などが何度も生まれてきた。

 魔法の全盛であるこの幻想の世界にて、最凶最悪と称される魔法はこの世に何種類も存在している。

 

 

 ーー『人を殺す魔法(ゾルトラーク)

 ーー『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)

 ーー『服従させる魔法(アゼリューゼ)

 

 

 代表的な魔法を挙げるなら、今羅列した魔法は必ず入るだろう。

 確かにこれらの魔法は強い、異常なまでに。魔族として生まれた俺ですら素直に恐ろしいと思う程だ。

 人類史の中で最も多くの人間を屠った魔法に、あまねく全てを黄金へと変える魔法。そして条件付きだが、相手を永遠に服従させることの出来る魔法。

 これらの魔法を極めれば、魔法使いの頂点に君臨することも難しいことじゃないのかもしれない。

 

 

 ーー人類の魔法史を塗り替えた『銃』の如き大発明。

 ーー万物を黄金化させる不治の呪い。

 ーー数多の英傑の亡骸を操る不死の軍勢。

 

 

 どれも大魔族の扱う魔法に相応しい凶悪な性能だ。

 ……でも、それじゃあダメなのだ。

 ただ強いだけの魔法を会得して最強の座へと至っても、そこにはロマンなんてない。自分の本当にやりたい事から目を背け、偽りの力で身を固めて頂へ辿り着いても虚しいだけだ。

 そんなの何の面白味もない。

 ロマンや夢を叶えてこその人生だろう。

 だからこそ、俺は『身躯を昇華する魔法(ルシフェラーゼ)』を作ったのだ。

 力とは最高のロマンだから。

 ありとあらゆる障壁をその手でぶっ壊し、身一つで世界を塗り替える力を手に入れる己を夢想する。

 あぁ、力とは何て素晴らしいモノなのだろうか。

 力、力、力。

 好きという気持ちが魔法の質をさらに上げ、出来るという思い込みが不可能を可能に押し上げてくれるのだ。

 

 

 ーーなんて愛おしい。

 

 

 俺を俺たらしめてくれる物は、この世にたった一つだけ。

 愛と勇気だけがヒーローの友達だと言うのなら、俺の友達は力だけで良いと思う。寧ろそれ以外は余分に過ぎないのだ。

 何だか色々と話が脱線してしまった。

 この魔法をさらに強固なモノに仕上げる為に、早速当初の目的である魔法の研究へと取り組むとしよう。

 魔法の研究と言っても、今回の場合は身体をメインに使った研究になるので座学などといったお勉強はあんまり必要ない。必要ないと言うと語弊があるが、今回に限ってはあまり必要ないのだ。

 無駄に魔力消費の多い箇所を見つけて、それを出来るだけ魔力消費が少なくなるように修正し全体とのバランスを取る。ムラをなくすと言った方が分かりやすいか。

 修正した魔法を身体に掛けて戦って具合を見てみて、ダメだったら良い塩梅になるまで何度も繰り返し魔法を掛けて戦う。そういった研究が主になるだろう。

 これが先程言ったアップグレードだ。スキルツリーで言うところの、魔力消費量を減少するみたいなやつ。

 術式構造を作り替えて調整する作業だけど、実際にやるとなると少し難しい。俺はバーッ! と全力を懸ける豪快なやり方が好みなのだが、これは細かい調整を効かせて仕上げるモノなので繊細な作業を求められるのだ。

 それと独学で魔法を習得してきたから手探りでやらなければならないというのもある。だって魔法を教えてくれる先生なんていないし。

 まあ、俺は魔法をいじるのは好きなので特に不満はない。

 これをどんどん繰り返していけば、いずれ最小限の魔力だけで最大限の効果を発揮出来るようになるだろう。

 後はそれと並行して、魔力量の増大を図る鍛錬も取り入れていくつもりだ。

 魔力はあって困るものじゃないし、あればあるほど良い。何より魔族としてのステータスにもなる。俺は自分以外の魔族に会ったことがないからイマイチピンと来ないけどね。

 

 

身躯を昇華する魔法(ルシフェラーゼ)

 

 

 いつものように身体に魔法を掛け、仮想敵として定めた樹木に向かって真っ直ぐに拳を突き出す。

 バキリと重い音を鳴らしながら、樹木はまるで割り箸を折るかの如く簡単にへし折れた。

 重く、鋭く、速い突き。

 並の人間や魔物なら、ここで決着が着いてしまうくらいには強烈な一撃だった。

 当然、そのワンアクションだけで攻撃の手が終わってしまうほどこの魔法は甘い代物じゃない。

 身体能力や動体視力を上げるだけと言えばそれまでだが、未だうなりの止まらない魔力の質や量を観測すれば、これがそんな生易しいモノじゃないことなど容易に分かる。これは"魔族"の魔法なのだ。

 人類が扱う強化魔法など比べ物にならないくらい、荒々しく凄まじい力をシーアにもたらしていた。

 

 

「フンッッ!!」

 

 

 有り余る力をそのままに、新たに見定めた樹木に向かって貫手を繰り出す。

 まるですぐ近くに大砲が放たれたのではと錯覚するほどの轟音を立てながら樹皮を貫き、その勢いのまま抉り、木片を辺りに撒き散らしながら反対側にシーアの腕が露出した。

 樹木を貫いた体勢を維持したまま、魔力を大きく練り上げて樹木に強化魔法を掛ける。『ドレス』の練習の時、練習台となった人間に掛けた魔法と同種のものだ。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉッッッッ!!」

 

 

 力に物を言わせて、地に深く根を張る樹木を無理矢理引っこ抜く。

 雑草をむしる時のような、ブチブチッと千切れる感触が何だか気持ち良かった。

 引っこ抜いた樹木に手を添え、思いっきり彼方へと投擲する。

 気分はさながら桃白白だ。まあ俺は投げた柱に乗らずとも空を飛べるんだけどね。だって魔族だし。空なんていつの間にか飛べるようになってたからね。

 なんてくだらないことを考えながらも、俺の身体は地を這うような低姿勢で駆け回り、次なる目標へ向けて攻撃の準備を進めていた。

 宙へ投げ出された樹木を視界に収めつつ、魔力を込めた腕を鞭のようにしならせながら第二、第三目標の樹木を次々と薙ぎ倒して行く。

 こちらに倒れてくる数本もの樹木を斜め上に向かって蹴り飛ばし、未だ宙に浮いている樹木へとぶつける。

 銃弾より速く空を駆ける樹木は、ぶつかると同時に軽い破裂音を響かせながら木っ端微塵に砕け散った。

 

 ……砕け散ったのだが、今回の目的はそこじゃない。

 今の一連の流れをもう一度シミュレーションし、自らに掛けられた魔法の効力について解析を開始する。

 サーモグラフィーで熱を視覚化するように、身体全体に掛けられている魔法を見るのだ。やっていることはチャクラを視覚化出来る写輪眼と同じと考えると、ちょっとだけかっこいい。

 

 

 ーーいくぜェ! コマンド実行!

 

 

 解析解析解析ィ!

 一方通行が打ち止めの脳内電気信号を操作する場面をふと思い出し、彼になりきったつもりで叫んだ。

 まあ、これが失敗したところで妹達が暴走する恐れもなければ、眉間に銃弾をぶち込まれる心配もないからね!

 自らの身体を解析するだけの楽な作業だ。余裕余裕。

 そうして解析をかけて見つかった異常や不具合、素人だった頃の俺が組んだ乱雑な術式などを片っ端から修正していき、形を整えていく。

 魔法の鍛錬を積み重ね、ある程度場数を踏んでくると、素人だった頃の粗さが酷く目につくようになるのだ。

 それを修正して磨き続けていけば、十年後には今よりももっと強力な魔法が使えるようになる。百年後には更なる領域に至ることが出来る。

 そしていずれ究極の魔法として完成されるのだ。

 これは悠久の時を約束された魔族やエルフにだけ許されたやり方だが、人類にも出来ない訳じゃない。俺たちは個人で魔法を研鑽し続けるが、彼等は世代単位で積み重ねていくことが出来る。これは俺たちにはない魔法の紡ぎ方と言えるだろう。

 短命な人間はその殆どが魔法を完成させる前に死んでしまうが、彼らは子を儲け、次代に繋ぎ、そして魔法を託すのだ。

 当然だ。人一人の人生じゃ到底魔法の高みへ至ることなんて出来はしないだろうから。

 

 そこでふと思った。

 人類ですら理解出来る程の洗練された美しい術式構造を持つ『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を生み出したクヴァールは、一体どれほどの修練を積んだのだろう、と。

 それは永い永い時間をかけたはずだ。本来人類には理解出来るはずのない魔族の魔法を、人類が理解出来るレベルにまで洗練させ整えたのだから。

 フリーレンが『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』の研究解析に大きく貢献したということもあるだろうが、それは元から美しく整えられたシンプルな術式だったからこそ、研究解析がよりスムーズに進んだのだと俺は思っている。シンプルで汎用性の高い構造はどんな分野でも参考にされやすいのだ。実際、作中でもソリテールが言ってたことでもあるしね!

 つまり、クヴァールさんまじパネェ! ということだ。

 同族である魔族から腐敗の賢老と呼ばれ畏れられている理由が少しだけ分かった気がする。

 魔族界のアインシュタインではないだろうか? 六歳の子供にも分かるように説明出来なければ〜ってやつ。

 ……いや、違うか。似て非なるものだった。そもそもクヴァールの『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を人類が「何コレ強すぎるでしょ!」って勝手に解析しただけだしな。

 

 

「うーむ」

 

 

 解析及び調査を終え、その結果を何度も反芻し確認する。

 ここで「多分大丈夫だろ、ヨシ!」とか現場猫案件まっしぐらの甘い確認をしてしまっては、いざ殺し合いをするとなった時に予期せぬトラブルに見舞われてしまう可能性があるのだ。

 その可能性を限りなく低くするために、最終確認は徹底して行わなければならない。

 術式が暴発して自爆なんてしてしまった日には、俺はきっと自分を許せないだろう。主に恥ずかしさで。

 そんな光景を脳裏に思い浮かべてみるも、力の極致に至るべき魔族の最期にしてはあまりに情けない光景だった。

 新たに組み上げられた術式を隅から隅まで見直し、抜かりがないことを何度も確認するとそこでようやく魔法を解除する。

 

 

「……げ」

 

 

 解析及び調整によって張り詰めていた緊張を緩やかに解いて行き、そこで初めて周囲を見回してついそんな言葉が漏れてしまった。

 鍛錬によって薙ぎ倒したり吹き飛ばしたりした大量の樹木の残骸や、所構わず暴れまくったことによる衝撃で大地に深い傷跡が残ってしまっていたのだ。

 今までも鍛錬によって、何度かこのような惨状を引き起こすことがあった為出来るだけ気を付けていたのだが、どうやら今回もやってしまったらしい。

 身体を動かすと知らず知らずのうちに加減を忘れてしまうのが俺の欠点なのかもしれない。

 まあそれもこれも、俺にこんな素晴らしい力を与えてくれるこの魔法がいけないのだ。力を与えてくれたのに、それを精一杯振るわないのはこの魔法に対して失礼と言うもの。

 一人で鍛錬する時はいつも樹木に向かって攻撃をしているから、俺の住んでる土地周辺だけ面白いくらいに木々が薙ぎ倒されている。まるで台風が通り過ぎた後かのように。

 数年しか住んでいないとは言え、ここが今の俺の居住区であることに変わりはない。片付けはきっちりしなければ、夜に気持ちよく眠ることが出来なくなってしまう。

 早速、倒壊した樹木を一纏めにしてビームで吹き飛ばそうかと考えていた矢先、強大な魔力を持った何者かが森の奥からこちらに向かって歩み寄ってくるのに気が付いた。

 

 

「この辺りに強力な力を持った魔族が住み着いていると聞いたが……お前がそうか?」

「誰?」

「俺はバザルト、玉座のバザルト。お前の名を言え」

「……シーア」

 

 

 ーーこいつは強い、格上だ。

 

 

 その魔族を一瞥しただけで直感的に理解した。

 頭ではなく、魔族としての本能が「こいつに逆らってはいけない」と警鐘を鳴らし続けている。

 筋骨隆々の大柄な体躯を、古ぼけた質素な鎧で包んだその魔族はシーアの前に現れると、唐突にこう言い放った。

 

 

「魔王様からの命令でな、近いうちにエルフの里を滅ぼしに行く。お前も俺達と一緒に来い」

 

 

 それは確認というより、半ば強制に近いものだった。

 巨大な筋肉の塊を身体に貼り付けまくったようなその巨体で、子供程度の背丈しかない俺を屈みすらせずにただ見下している。

 このバザルトとか言う魔族は、俺が命令を断るはずがないと考えているのだろう。

 ……悔しいし、認めなくはないがそれは実際当たっている。俺はバザルトの命令を拒もうとは思えなかった。これは魔族としての習性から来るものだろう。

 この場において、バザルトが上で俺が下。

 そしてその認識は魔力量の大小に起因するものだ。魔力量とは個人が扱う魔法とは違い、一目見て分かる力量の指標だから。

 いかに強大な魔法を使えようとも、どれだけ屈強な肉体を備えていようとも、俺がバザルトに敵わないものが一つだけある。

 

 

 ーーそれは生きてきた年月の差だ。

 

 

 この差だけはこれから先何があっても埋まらない。

 俺とバザルトの魔力量にはその差分の開きがある。

 バザルトが生まれ落ちてから鍛え上げてきた猛々しい魔力が、俺にバザルトの指示を聞き入れろと強く主張してくるのだ。

 魔族とは基本的に強い者が偉い。長い物に巻かれることを思考停止で受け入れるのが魔族としての本能なのだから。

 この魔族の世界において、力の無い者は良いように使われて朽ちるのがオチだ。

 

 

 ーークソったれが。

 

 

 こいつら魔族に良いように使われない為に力を付けたと言うのに、結局こうなってしまうのか。

 偉そうに俺を見下して続けているバザルトの眼を真っ直ぐに見据える。奴の兜の奥に隠されている淀んだ暗い瞳には、何の感情も表れていない。それを見て、無機質な虫みたいだと思わずにはいられなかった。

 思わず平伏してしまいそうな程の重苦しい圧とも言える何かを、バザルトは俺に向け続けている。

 それが魔族としての優位を示す為に敢えてやっているのか、将軍と称される程の力を持つ戦士が無自覚に放つ闘気故なのか。今の俺には分からない。

 

 バザルトの身体は俺より一回りも二回りも大きく、腕ははち切れんばかりの筋肉を蓄えていて、全身には大岩と見違える程の角張った筋肉を着飾っている。それらを形容するならばファンタジーゲームに出てくる敵役のオークのようだった。かと言って愚鈍な印象は受けない。

 この世界において全身筋肉ダルマは足が遅いと言うのは迷信で、真の筋肉ダルマはパワーに加えてスピードも兼ね備えているのだ。狂戦士と化したギリシャの大英雄や、伝説のスーパーサイヤ人を見れば分かるだろう。

 随所から感じられる歴戦の猛者の雰囲気を見れば、戦士としては十分に強すぎる相手であることくらい俺にも感じ取れる。

 だが、それだけだ。

 俺は正直な所、バザルトは勝てない相手じゃ無いと思っている。  

 『身躯を昇華する魔法(ルシフェラーゼ)』なら、バザルトが俺の攻撃を認識する前に殺せると、仮に無理だとしても致命傷を負わせるくらいなら出来ると本気で思っている。信じてると言っても良い。

 魔力量が少ないからと言ってそれが勝敗を決める訳ではないし、その他にも戦いを左右する要素はたくさんある。

 

 

『戦い方』

『相性』

『運』

 

 

 これらが噛み合えば余裕を持ってバザルトを倒せるだろう。最も、それらが無くても俺の魔法さえあれば事足りると思う。俺の魔法は世界一なのだ。

 作中でフリーレンは自分よりも魔力量の低い魔法使い11人に負けていると言っていた通り、彼我の魔力差だけが全てを決める訳じゃ無い。

 ……しかし、しかしだ。

 俺の頭とは別のところで、バザルトに逆らうべきじゃないと何かが主張し続けている。

 背筋が震え上がるような恐怖を今もバザルトから感じているのだ。

 これが抗いようのない魔族の性と理解しても、バザルトに恐怖を覚えてしまう自分の身体に怒りが湧いてくる。

 

 

 ーー俺こそが一番なのに。

 ーー何者にも負けない力を俺は生み出せるはずなのに。

 ーー俺の魔法にかかれば、こんなデカブツ一瞬でぶち殺せるというのに!

 

 

 頭でそう思っていても、実際に行動に移すことは出来なかった。

 胸の内から沸々と湧いてくる怒りに身を委ねようとも、魔族としての肉体が上位存在に刃向かうことを良しとしない。

 この厄介で融通の効かない肉体を、初めて忌々しく思った。

 

 

「何を黙っている。さっさと答えろ」

 

 

 戦うべきか、従うべきか。

 自尊心と魔族の本能が互いにせめぎ合っていて、上手く考えを纏めることが出来ない。

 内心の葛藤を悟られぬよう沈黙を貫く俺に、バザルトは重々しい威圧を更に強めながら口を開いた。

 

 

「命令に従わないのなら、ここでお前を殺す。

 優秀な魔法使いを多数保有するエルフの里を壊滅させるには、少なくない魔族の力が必要だ。自己中心的な魔族を大量に従えるには力による屈服か、死への恐怖を与えるのが一番手っ取り早い」

「参戦しなければ殺すと、魔族共の前に吊し上げるのか?」

「死にたくないのなら、エルフの里を潰すのに協力しろ」

「…………」

「答えろ。服従か、死か」

 

 

 相手は魔王軍の玉座のバザルトだ。バザルトに敵対するということは即ち、魔王軍も敵に回すということになる。

 魔王軍はエルフの里を壊滅させる為、刃向かう魔族は徹底的に屈服させ無理矢理にでも従えるはずだ。エルフの魔法使いを皆殺しにするにはかなりの戦力を投入することになるだろうから。

 ここでバザルトを殺しても、状況は良くなるどころか悪化する一方だ。

 ……。

 …………クソッタレめ。

 

 

「……参戦する」

「そうか。ならばさっさと着いてこい」

 

 

 その返答を聞くや否や、バザルトは興味を失ったように俺から視線を外し、無防備に背を向けさっさと歩き出してしまった。

 きっと俺のことなんか眼中にないのだろう。或いは、俺程度の攻撃なんて取るに足らぬと思われているか。どっちにしろ相手にされていないことに変わりはない。

 その無駄に大きいバザルトの背中を見て、強化した拳を叩き込んでやりたい衝動に駆られるが、今はまだ機じゃない。

 

 

 ーーいつか絶対ぶち殺してやる。

 

 

 シーアはそう強く決意しながら、鬱蒼と生い茂る森の中へ溶けてゆくバザルトの後を追っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




このデカブツがァ……!!
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