八崩賢 極致のシーア   作:蟲の月

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9/手繰り寄せる地獄

 

 

 

 

『なあシュラハト、知ってるか。八門遁甲って術はなーー』

 

 

 そうやって無邪気に笑いながら、嬉しそうにこちらに語りかけてくる友の姿を幻視した。

 これは今より先の未来のお話。いつか訪れる未来のお話。

 いつも仏頂面で身体を虐め抜いている男と同一人物とは思えない程に、その表情には笑顔だけが浮かべられていた。

 燃え盛り朽ちてゆく何処かの村。

 苦悶の声を上げ炎に包まれていく人間を尻目に、俺とソイツは言葉を交わしながら歩いていた。

 

 

『ーーーー。ーー!』

『ーーーーーー? ーー、ーー?』

 

 

 二人で並んで歩く。

 本当に他愛のない会話をしながら、火の粉舞う村をただひたすらに歩き続けている。

 俺とソイツは決して相性の良い性格ではなかった。

 同族の行く末を案じ可能性の世界を見続けて行く俺と、同族など知った事かと我が道を突き進んで行くソイツ。

 決して相性の良い性格ではなかったが、不思議なことに一緒に居る事が多かった。

 どちらから近付くでもなく、気が付くと二人で居ていつの間にか話し込んでしまっている。

 

 

 ーーどうしてだろうか。

 

 

 その理由は薄々気付いていた。

 ソイツと共に過ごしていると、俺が遥か昔に失ってしまった"ある感情"が蘇ってくるのだ。

 扱う魔法の特性上、あらゆる物を見聞きし知り尽くしている俺にとって、俺が知り得ない物は新鮮以外の何物でもなかった。

 世界が広がって行くのが分かる。

 全知と名乗っていた事がいかに愚かしい事だったのか。

 

 

『……その話。もっと聞かせてほしい』

 

 

 気が付けば、そう言っていた。

 その時のソイツの顔が忘れられない。

 俺がそう言った次の瞬間、ソイツは何とも表現し難い笑顔を浮かべて、俺に色々な話を聞かせてきたのだ。

 

 

『ーーっていう術なんだぜ! 俺の『身躯を昇華する魔法(ルシフェラーゼ)』みたいだろ?』

『そうか。そんな面白い魔法があるんだな』

『魔法じゃない、術だ。まあどっちも同じようなもんだけど』

『大陸を破壊出来たりする魔法もあるのか?』

『大陸なんかよりも! 星一つを消し飛ばせる魔法だってあるんだぜ!』

『それは……魔王様でも難しいな』

『ああ! 驚いただろ? 信じられないだろ?』

 

 

 本当に楽しそうにソイツは笑った。

 他の魔族と話す時とは違う。

 純粋に会話を楽しむという時間がここでは過ぎていた。

 ソイツのする話はどこまでも魂が込められていて、まるで自らの誇りである魔法を語る時のように楽しそうに話していた。

 

 

 ーー地上最強の生物の素晴らしさを……。

 ーー未来視? あぁ、そういえばあの作品じゃ……。

 ーー波紋とか幽波紋の魔法を一緒に開発……。

 ーーあぁ、そうだ。俺はあの人たちに憧れたんだ……。

 ーーだから俺は"力"を愛しているんだ……。

 ーーここは『葬送のフリーレン』っていう作品の……。

 ーー全部が決まってる展開だなんて、俺たちが作られた存在だなんてクソ喰らえだよな、シュラハト。

 ーー俺と一緒に、こんな世界ぶっ壊しちまおうぜ……!!

 

 

 ここまで熱量のこもった語りは人類でしか見られない物だと思っていたが、意外と身近でも見られる事が出来たらしい。

 人の血肉を喰らいながら友と談笑する日々は、俺にとって間違いなく有意義な時間そのものであった。

 いや、有意義なんて物じゃない。

 俺は、本当に楽しかったのだ。

 ただ己の本音を語り合う日々を、知らない事を知る学びを。

 ソイツの口から語られる何もかもが光り輝いて見えた。

 

 

『ぶっちゃけ俺は魔族の事なんてどうだって良いけどさ、お前と話すこの時間だけは結構好きなんだぜ』

『……あぁ、俺もそうだ』

 

 

 そう言ってソイツは笑った。

 つられて俺も笑う。

 満月を見上げて血酒を嗜む。

 誰も触れない二人だけの国。

 これは、今よりずっとずっと先のお話。

 数多ある可能性の内の一つのお話である。

 

 

 

 

「こいつは……とんでもねぇな」

 

 

 現在進行形でエルフの里を蹂躙している膨大なエネルギー波を見て、フランメは思わずそう呟いた。

 目の前の純粋な"力"としか形容出来ないその攻撃は、神話の時代の大魔法使いに師事しているフランメですら恐怖を覚えてしまう程、凄まじい物だった。

 頑丈な地盤が衝撃によって捲れ上がり、エネルギー波に触れる事で粉微塵と化し虚空へと溶けて行く。

 触れた物全てを削り取る、まさに破壊に超特化した攻撃だ。

 

 

「見た感じボロボロだったが……あれでまだ余力があったって事なのか」

 

 

 フランメが思い返すのは、つい先程までの事。

 魔王軍に襲撃されていたエルフの里。そこで生存者を探す為に歩き回っていた際、たまたま魔族とエルフが戦っている所に遭遇したのだ。

 ボロボロになった状態で樹木に身を預け天を仰ぐエルフと、そのエルフに手をかざす魔族。

 それを見た瞬間、反射的に手が動いていた。

 瞬間的に魔力を解き放ち、尋常じゃない程の魔力を込めて、今まさにエルフを殺さんとする魔族に向けて撃ち放った。

 その魔族が私の攻撃に気付いていたか気付いていなかったかは分からないが、それでも攻撃をまともに喰らった事だけは確かだった。

 手応えがあった事からもそれは間違いない。

 しかし、驚くべきはその後の展開だ。

 私の放った攻撃が徐々に押し返されてきたのだ。

 激流の如き魔力の奔流の中から、しかも不意打ちされてまともに攻撃を喰らったというのに、奴は絶命する事なく私の攻撃を押し返してきた。

 いや、あれは押し返すなんて生優しい物じゃない。

 今まであっさりやられていたのは何だったんだ。と思ってしまう程、異次元の力で抵抗し始めてきたのだ。

 そこから先は一瞬だった。

 抵抗と呼ぶにはあまりにも巨大すぎる"力"が、瞬く間に里を包み込んであまねく全てを消し飛ばしてしまった。

 

 

「イタチの最後っ屁って訳でもなさそうだしな。あんなチビの癖して破壊力は大魔族並ってか……めんどくせえ」

 

 

 苦虫を噛み潰したような表情でフランメは呟いた。

 フランメの攻撃をモロに受けて無事な魔族などそう居ない。

 しかも、あの攻撃は本気で放ったのだ。

 全力ではなかったが、本気には違いなかった。

 あの不意打ちを喰らって生き延びた時点で、奴の事を頑丈なタイプの魔族だという認識に切り替えていた。

 しかし、それだけならば何も問題はない。

 ただ頑丈なだけの魔族なら、それこそ死ぬまで攻撃を繰り返せばいつかはケリがつくからだ。

 問題はーー。

 

 

 ーーこの異常なまでに荒々しい"力"。並の魔族や魔法使いに出せる火力の域を遥かに超えてやがる……。

 

 

 彼女の頭を悩ませていたのは、奴の圧倒的な破壊力だ。

 フランメの本気の攻撃を直接受けてなお倒れない打たれ強さと、里一つを容易く塵にしてしまう程の超火力。

 奴の身体に通用する攻撃はそれこそ全力の攻撃しかないだろうし、逆に相手の攻撃は私にとってはどれも致命傷になってしまう。

 

 

「馬鹿みたいな力に……イカれた打たれ強さか」

 

 

 それは、まさに最強の盾と最強の矛。

 それのどちらか片方しか持っていないのなら、まだ対処のしようはあったというのに。

 

 

「お前にはどう見える?」

 

 

 ふと、フランメは傍にいたエルフに話しかけた。

 あの時、例の魔族によって殺されかけていたエルフをここまで担ぎ上げて避難させていたのは、何を隠そうフランメなのだ。

 大岩に背を預け、崩壊していくエルフの里をぼんやりと眺めているボロボロのエルフは、フランメの言葉にこう返した。

 

 

「……半分は当たりでもう半分は外れね。あの魔族は確かにとんでもない程の力を持っているけど、耐久力は精々ゴーレム程度しかない」

「ならどっちも当たってるじゃねえか。ゴーレム並の耐久力って言ったらそれこそ優れた戦士の攻撃か、威力を振り絞った攻撃魔法でしか貫けないだろ。何が精々ゴーレム程度なんだよ」

「貴方にとっては、その程度無いも同然でしょう」

「…………」

「さっきの攻撃は確かにあの魔族に届いている筈よ、直前まで戦っていた私だからこそ分かる。あの時点で、彼に貴方の攻撃を受け止めるだけの力は残っていなかった」

「なら、あのチビはとっくにくたばったってか? それなら目の前で起きている現象はどう説明する? この現象があのチビの仕業だって事は明白だろ」

「……えぇ、そうね」

 

 

 ここに避難してからずっと座り尽くしているエルフーー名前はミリアルデと言うらしいーーは興味なさげにそう言葉を吐き出すと、静かに瞳を閉じた。

 気を失った……訳ではないらしい。何かを懐かしんでいるような物悲しげな表情を浮かべ、ただ静かに佇んでいた。

 その何もかもを諦めた世捨て人のような雰囲気に、フランメは知らずの内に飲み込まれていた。

 何かしら攻略の糸口を掴めると思っていたフランメは、いきなり沈黙したまま何も言わないミリアルデに食ってかかろうとしたが、その諦観に包まれた在り様を見て手を止めてしまったのだ。

 

 

 ーーこいつは本当に師匠(せんせい)と同じエルフなのか……?

 

 

 私が師と仰ぐエルフと、目の前のエルフでは身に纏う雰囲気にだいぶ違いがある気がした。

 ミリアルデのまるで死人のような佇まい……それはただ生きながらに死んでいる、全てを諦めた不老長寿の辿る末路。

 感じた違和感の正体は死への捉え方だ。

 目の前のエルフは自らの死を忌避すべき物とは捉えていない。いつ死んでも、いつ殺されてもきっと彼女はその結末をすんなりと受け入れるのだろう。

 その在り方が師匠(せんせい)とは違うのだ。 

 

 

「戦いにしか生き甲斐を見出せない修羅はね、本当に恐ろしいものなのよ」

 

 

 閉じていた瞳を開き、ミリアルデは唐突にそう呟いた。

 その言葉が何を含んでいる物なのか、それはフランメには分からない。ただ、悠久を生きるミリアルデが、今までの人生の中で培った経験からその言葉を告げたのだという事だけは分かった。

 

 

「要領を得ない言い方ばっかだなお前。結局、何が言いたいんだ」

 

 

 具体的な事を何一つ言わず、訳のわからない事ばかり口にするミリアルデを前に、フランメは苛立ったように口調を荒くした。

 

 

「貴方はあの攻撃を耐え切った理由が彼自身の耐久力にあると思っているようだけど、私は違うと思うわ」

「……じゃあ、なんだ。あのチビは根性とか気合いとかで私の攻撃を耐え抜いたって言いたいのか?」

「さあて……その答えは本人に直接聞いてみるといいわ」

「おい」

「私達、既に見つかっているようだしね」

「……」

 

 

 その言葉を聞いて、フランメは敵の解析に費やせる時間が残り少ない事に気が付いた。

 相手はどれだけの実力を持っているか分からない強力な魔族。

 ミリアルデの言葉を聞きすぐさま魔力探知をしてみると、確かに重苦しい力の塊が私達の居る場所へ猛スピードで近付いてきているのが分かった。

 有効な対処法など未だ思い付いていないが、どうやら戦闘は避けられそうにないらしい。

 

 

「はあ……とんだ厄日だな」

「同感ね」

 

 

 一人の人間と一人のエルフ。

 二人はこれから訪れるであろう地獄のような激闘を夢想して、ただ溜め息を吐く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 原始の地球を思い出させる光景。

 眩い閃光と地を揺るがす衝撃、そして膨大な"力"としか形容出来ない巨大なエネルギー波が、一瞬の内にエルフの里を消し飛ばす。

 無惨に損壊されたエルフの死体も、燃やされ朽ち落ちた家屋も、それらの惨状を引き起こした魔族でさえも諸共に蒸発した。

 驚くべき事に、それらの絶対的な破壊をもたらした攻撃は、たった一人の魔族の手によって放たれた物だった。

 並の魔法使いでは、里一つを木っ端微塵に消し飛ばす事なんて出来やしないだろう。

 それこそ神話の時代の大魔法使いか、人類の魔法など比にならないレベルの魔法を手繰る大魔族にしか出来ない事だ。

 それは、まさに神話の再現。

 

 

「はあっ、はあっ……や、やったぞ……!」

 

 

 自らを消し飛ばさんと迫る強力な攻撃を、シーアは己の内に眠る魔力を全て使う事によって押し返す事に成功していた。

 膝から崩れ落ち、四つん這いの体勢になって息を激しく切らしながらも、シーアは満足げな表情を浮かべて己の眼前を見つめていた。

 彼の目の前に広がるのは、視界いっぱいの死で覆われた荒野だ。

 シーアのエネルギー波によって地表は深く大きく抉り取られ、その爆発の衝撃によって立ち並んでいた家屋や木々は粉微塵と化し、遥か向こうに見える山々まで続く破壊の跡を大地に強烈に刻み込んでいた。

 この地でエルフ達が紡いできた軌跡も、彼等が感じていた歓喜と悲哀も全て引っくるめてシーアが消し炭にしてしまったのだ。

 

 

「…………はははっ」

 

 

 もはや生の気配を感じる事も出来ない荒れ果てた光景を見て、シーアの心に湧いてくるのは罪悪感などでは決してない。

 歓喜、そして達成感。

 それらだけがシーアの心を満たしていた。

 自らの"力"を全て振り絞って放った抵抗が、このエルフの里を木っ端微塵に吹き飛ばす程の威力を誇っていた事。

 死を間近に感じる程の強大な危機を自力で乗り越えた事で、以前までの自分に掛かっていたリミッターの様な物をぶち壊せた事。

 死線を潜り抜けた事で、肉体的にも精神的にも成長しつつあるのが嫌でも理解出来る。

 かつての自分と比べ、間違いなく数段階昇華している。一皮剥けている。どんどん強くなっている。

 

 

「はははははははっ!! これが俺の力だッ! 俺が引き起こした光景だ!」

 

 

 拳を強く握り締め、雄叫びを上げながらシーアは喜びを噛み締める。

 あの伝説の超サイヤ人や、怪人を一撃でぶっ飛ばすヒーローのような圧倒的な破壊には及ばないが、それでも俺も大地に癒えぬ傷跡を刻む事が出来た。

 惑星を消し飛ばす気弾。

 衛星を破壊するくしゃみ。

 やはり、俺と彼等では振るう力の規模と質が違うのだ。

 あの人達にはまだ、遠く遠く及ばない。

 しかし今は、これで良い。

 焦っては得られる物も得られないからだ。

 とりあえず、今は目先の事から処理するかーー。

 

 

「なあ、フランメ……お前なんだろ」

 

 

 ここから遠く離れた里の外れ。

 そこに弱々しい魔力を二つ感知した。

 片方はよく分からないが、もう片方は恐らくフランメの物だろう。いや、きっとそうだ。

 先程俺が喰らったあの攻撃。あれは原作で『クソみたいな驕りと油断の魔族達』を屠った時と同質の攻撃だと今になって理解した。

 大地を抉る程の強力な攻撃を一瞬の内に放ち、三人の魔族を同時に瞬殺して見せたあの恐ろしいまでの攻撃。

 その攻撃を以て俺を殺しかけたのだろう。

 やはり、人類の魔法の開祖の名は伊達ではない。

 しかし俺が今も捉え続けている彼女の魔力は、まるで消えかかっている蝋燭の火のように弱々しく揺らめいている。

 俺達魔族と比べてあまりにも少なすぎる魔力量。だがそれは言葉通りの意味ではない。

 彼女は自らの魔力量を偽って少なく見せる事で、魔力によって敵の力量を測る魔族の油断を誘っているのだ。

 この戦場に残っている僅かな魔族はそれを知らないだろう。

 それを知っているのは唯一、俺だけだ。

 フランメの卑怯な戦い方を知っているのも、魔法使いを愚弄するその在り方も、俺だけが知っている事だ。

 

 

身躯を昇華する魔法(ルシフェラーゼ)

 

 

 膨大な力をこの身に降ろし、そして支配する。

 今まで何度も繰り返し行ってきた、もはや一つの儀式と言っても過言ではない一連の流れだった。

 岩盤を陥没させる程強く大地を蹴り飛ばして、隼の如き速度で目的地へと一気に跳ぶ。

 空気が身体に纏わり付き、粘性を持った液体のように感じられるまでぐんぐんと速度を上昇させる。

 目まぐるしく後ろに流れて行く景色。

 しかしその速さに惑わされる事などない。

 エルフの里に訪れる前の俺だったら、どうだろう。

 この速さに反応出来ただろうか。対応出来るだろうか。

 この里での戦いを経て、俺はより高みへと近付いた。

 フリーレンによって対魔法使いの戦い方を学び、ミリアルデから圧倒的な暴力を受け流す技術を身体で教えられ、フランメの攻撃に死を垣間見た。

 その死に包まれて行く中で、俺は純粋な"力"に触れる事が出来たのだ。

 

 

「あれが、"力"そのものなのか」

 

 

 先程、フランメの攻撃を押し返した時の感覚は未だ手に残って離れない。

 枯渇した魔力を振り絞った程度でフランメの攻撃を押し返せる物なのか……? もしかしたらあれは、俺が死に全力で抗う為に死に物狂いで暴れ続けた結果、偶然手に掴めた物だったのかもしれない。

 でも、それを偶然掴めてしまったからこそ、俺が未だ知らない謎の領域がある事を知ってしまった。

 この身を更に昇華出来る可能性があると理解してしまった。

 徐々に捉えた魔力の元に近付いて行ってるのが分かる。

 これだけじゃまだ足りない。

 もう一度、生と死のギリギリの所まで行ってみれば何かが掴めるかもしれない。

 淡い期待を胸に宿しながら、ゆっくりと拳を構えた。

 

 

「フランメッッッッ!!」

 

 

 地面に着地する瞬間、思いっきり魔力を放出し速度にブーストをかけ、振り上げた拳を高速の勢いに乗せて地面に叩きつける。

 陥没する地盤。それは生物の出せる力の範疇では無い。

 土砂が巻き上げられ宙を舞い、辺りを薄茶色の世界へと変貌させる。

 視界には土砂しか捉えられない。でも、俺の第六感には確かに揺らめく魔力の塊が捉えられていた。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

 身体を素早く捻り、フランメが居るであろう場所に向けて素早く左脚を振り抜いた。

 鞭の先端の如き鋭い蹴り。

 当たれば身体は真っ二つに引き千切れ、掠っても致命傷は免れないイカれた暴力を含む蹴り足は、しかし僅かに加えられた力によって軌道を巧みに逸らされた。

 

 

「ミリアルデ……! 片割れの魔力はお前だったのか」

「そんな事よりも、私に気を取られてていいのかしら?」

 

 

 ミリアルデがそう告げるよりも早く、俺は上体を横に逸らしていた。

 熱を伴った眩い閃光が、先程まで俺の頭があった所を猛スピードで通過して行く。

 反射的に攻撃が飛んできた場所へ反撃を試みるも、俺の注意が外れたその隙を狙ってミリアルデは攻撃を仕掛けてくる。

 それと同時に膨大な魔力の波が、俺の逃げ場を潰すようにして壁のように三方に展開された。

 極められた武と研ぎ澄まされた魔法。

 その二つを前に俺はーー。

 

 

「ハアッッッッ!!!」

 

 

 ーー"力"。

 

 純粋な暴力を以て、武と魔法に対抗しようと思った。

 魔力を全方位に解き放ち、全てを薙ぎ払おうとする。

 しかしフリーレンから続く連戦の疲労からか、或いは魔力を使いすぎて底を突いてしまったのか、上手く魔力を解き放つ事が出来ない。

 

 

「チッ、魔力も限界か……!」

「ミリアルデ!」

 

 

 フランメが叫ぶ。

 ミリアルデは、そんな事言われずとも分かってると言わんばかりの表情で俺の鳩尾へ貫手を繰り出してきた。

 ミリアルデの指が鳩尾に触れた瞬間、込められていた魔力が爆発する。

 

 

「…………ッ!」

 

 

 苦悶の声が漏れる。

 激痛が俺の身体を蹂躙し、穿たれた内臓はとんでもない衝撃に千切れそうな程揺れていた。

 シーアは意識をそちらに向ける事をやめて、自らの内面の深奥に更に意識を注意させる。

 

 

『俺はッッ!! "力"だああああっッッッ!!!!』

 

 

 あの時、死の間際に感じ取れた純粋な"力"。

 死に物狂い且つ無我夢中でフランメの攻撃に抗っていたからこそ、偶然掴めたこの世の極致。

 俺がこの世界の最強に至る為に必須な要素。

 指向性を持たない魔力を、重く鋭く素早い"力"そのものへと変換させるには、この程度の危機じゃ足りないってのか……!

 

 

「うおおおおああああああっっっ!!」

 

 

 身体の奥底から魔力を爆発させる。

 届きそうなのに届かないもどかしさでイライラする感情を、搾り出した魔力に乗せながら一気に解き放った。

 展開された壁は俺の魔力の解放によって霧散し、ミリアルデは衝撃と共に転がり吹っ飛んでいく。

 

 

「……チッ。クソ馬鹿力が」

 

 

 凛としたフランメの声が俺の耳に入った。

 そう呟くフランメの遥か後方で、ミリアルデがフラフラとしながらゆっくりと立ち上がろうとしている。

 

 

「はあっ、はあっ」

 

 

 シーアは息を乱しながらも敵を冷静に観察する。

 フランメは万全の状態でこちらを見据えているが、警戒しているようで積極性はない。ミリアルデは満身創痍の状態だから、こちらも今すぐには動けないだろう。

 仕切り直しだ。そう思った。

 この隙に己の身体を解析に掛けてみる。

 以前まで無かった筈の"何か"が俺の身体の中に満たされているのが分かった。満たされていると言っても、少しだけ。

 しかし少量しか無いと言っても、この身体に漲る力は先程までの比ではない。

 この先程までとは、フランメに攻撃を喰らう前の事だ。

 死を垣間見る前と後。あの瞬間、己の身体に何かしらの変化が起きたのは間違いない筈なのだ。

 

 

「……あと少しで何かが掴めそうなんだ」

 

 

 幾多もの人間を殺して作り上げてきた、俺の魂の半身である『身躯を昇華する魔法』(ルシフェラーゼ)と、記憶に眠る漢たちの記録。

 そして、胸の内に抱く想いを現実へと変える魔法の性質。

 前者二つは揃っている。

 後者も、この世界の理として理解しているつもりだ。実際にその理を何度もこの身で体験しているのだから。

 問題は、あの時の自分でも驚く程の超々高火力を出したあの感覚を再現出来るかどうかなのだ。

 

 

「魔法とはイメージの世界、か」

 

 

 ははっ、これを再現するのが当分の目標になりそうだな。

 いずれ来るであろう辛く険しい研鑽の日々に想いを馳せながら、シーアはポツリと呟いた。

 しかしそれも、この戦場を無事に乗り越えられたらの話だ。

 ミリアルデに何かしらの魔法を掛けているフランメを見据えながら、シーアは再び気を引き締めた。

 

 

「なあフランメ、ミリアルデ。俺に足りないのは一体何だと思う?」

「…………」

 

 

 沈黙を貫くフランメ。

 一方ミリアルデは、いきなり声を掛けてきた俺を訝しむように顔を顰めると、ゆっくり口を開いてこう返してきた。

 

 

「唐突ね。しかも、何を言っているのか分からない」

「魔族に会話を期待するだけ無駄だ。耳を貸すな」

 

 

 フランメが口を挟んでくる。

 魔族と会話するだけ無駄、か。俺も彼女らも同じ言葉を紡げるというのに、魔族というだけで一蹴されてしまうのか。

 会話をするに値しない存在は人類にも居るだろうが、そもそも魔族はその土俵にすら立てないのだ。

 魔族が言葉を手繰るのは人類を騙す為だ。という認識が、もう既にこの世界の常識として浸透している。

 神技のレヴォルテも原作で似たような事を言っていたが、言葉があるのに交流を拒む歪んだ認識を、俺は少し残念に思ってしまった。

 まあ、人類を騙すのが魔族の性である以上、その認識は決して間違っている訳じゃないんだけどね。

 

 

「足りないのは危機感だったんだ。自らを絶対の物として君臨させるのも良いんだけど、それじゃあ本当のギリギリの戦いに身を投じる事が出来ない」

「そう。別にどうでも良いわね」

「いいや、どうでも良くはないよ。ミリアルデにもフランメにも関係のある事だ」

「…………」

「これから生き残った僅かなエルフを皆殺しにする。辺りの人里も尽く滅ぼす、何も残さない」

「馬鹿力だけが取り柄の魔族がよく吠えるもんだな。人類の怒りを買った魔族がどうなるか思い知らせてやるよ」

「ああ、そうだ! それだよ!」

 

 

 フランメの静かな怒りが含まれた発言を受けて、相対する魔族は怯えるでも萎縮するでもなく、ただひたすらに喜んだ。まるで自らの望む物がようやく手に入る子供のように、純粋に。

 思っていたリアクションとはどこまでも違う反応を示すその魔族を見て、フランメは自らの怒りが空回りしている錯覚に囚われた。

 魔族と人類の精神構造は根本から違うという事を改めて思い知らされる。私達の常識が通用しない異質な種族こそ、目の前の魔族なのだ。

 言い表せぬ悪寒に抗いながら、奴の目を見据える。

 その瞳が写す色は、どこまでもドス黒い色だった。

 

 

「人類の『怒りを買い』そして『殺される』という危機感が、俺を更に上の領域まで連れてってくれる筈なんだ」

「イカれてるわね」

「何で。むしろ当然の帰結だろ」

 

 

 シーアはどうしてそんな簡単な事も分からないの? と言いたげな顔で首を傾け二人を見た。

 当然、彼女らから望む答えなど返ってくる筈もない。

 人類に俺たち魔族の考え方など理解出来ないだろうし、そもそも罪悪感など無駄な感情を搭載している時点で俺達より一周遅れているのだ。

 別に理解してもらおうと思ってないし、いいんだけど。

 

 

「人類の全てを敵に回す事になるわ」

「ああ、それが望みなんだよ」

「"それが望み"? やっぱり、貴方は全人類を敵に回すという恐ろしさが分かっていないようね。百戦錬磨の屈強な戦士や、神話の時代の魔法使いは貴方の想像を遥かに超えてくる。彼等は文字通り次元が違うのよ」

「大丈夫。そいつらを捻り潰してようやく、俺は上がれるんだ」

「…………」

「だから、頼むよ二人とも。ーー『身躯を昇華する魔法(ルシフェラーゼ)』」

 

 

 期待を込めて、二人に希う。

 自らの力を誇示するように、大きく地面を踏みつけた。

 割れる地盤。荒ぶる衝撃。舞い散る瓦礫。

 しかし、この程度では彼女たちは動揺などしない。

 悠久の時の中で経験を積み重ねてきたエルフに、いずれ人類の魔法の開祖に至る魔法使い。この程度の事象など、彼女たちには危機足り得ない。

 理解し難い物を見るような冷めた目でこちらを見ている二人に向かって、思いっきり拳を振り抜いた。

 以前の俺よりも圧倒的に速く、重く、そして荒々しい拳は無防備なフランメの顔面に突き刺さりーー。

 

 

「そこまでだ」

 

 

 ーーは、しなかった。

 俺と二人の間に、一人の魔族がいつの間にか佇んでいたのだ。

 気配はなかった、魔力探知にも反応はなかったのだ。

 それに構わず拳を振り抜こうとしたが、目に捉えたその立ち姿には見覚えがあった。知らず知らずのうちに、構えていた筈の拳が落ちていた。

 この世界に来てから見た顔じゃない。それよりもっと前、俺が俺でない時に知り得た『葬送のフリーレン(かつての記憶)』の中の登場人物。

 真っ黒のフードを深めに被り、そのフードの頭部の部分を両端から突き抜けるようにして、太めの角が三日月のように伸びているその男。

 

 

 ーー名を、全知のシュラハト。

 

 

 魔王の側近であり、未来を見る魔法を扱い、そして南の勇者との決戦で敗れる事になる大魔族だ。

 いつの、間に……? 

 いや、そもそも何故ここにこいつが?

 本来、エルフの里襲撃に全知のシュラハトは駆り出されていない。いや、実際どうかは分からないが、少なくとも原作にそんな描写はなかった。

 なら考えられるのは、イレギュラー()の存在だ。

 俺というイレギュラーがエルフの里の戦いに介入してしまった為、バタフライエフェクト的な何かが起こってしまったのだろうか。

 いや、それにしては早すぎるが……。

 

 

「お前は……」

「既に知っている事を聞くのは、あまり賢い行動とは言えないな。シーア」

 

 

 ーーなんで俺の名前を。

 

 と言いかけて、口を閉じた。

 シュラハトの魔法の詳細など今更語る事ではないだろう。きっと、その魔法で俺の名前を知ったのだ。

 だとしても今ここで出てくる意味が分からない。

 フランメとミリアルデを殺す事に何か不都合でもあるのだろうか。

 

 

「シュラハト。どうしてお前がここにいる」

 

 

 シュラハトが俺の事を把握しているのはもう分かった。

 だから、とりあえず今一番の疑問を投げかける。

 他のやり取りなどシュラハトの前ではするだけ無駄だ。

 

 

「本来なら俺がここに出張ってくる事はなかった。厄介なイレギュラーが飛び込んできたと言えばお前なら分かるだろう?」

「なら、お前は狂ってしまったこの世界の道筋を本来の道筋に戻す為に来た……ってのか?」

「俺の魔法なら、お前が言う道筋とやらが狂ってしまう前に対処する事も出来た。それも理解している筈だ」

「…………」

「全てこれでいい。それが、この俺の出した結論だ」

「お前はーー」

「ーー敵に背中を向けるなんて随分と余裕だなオイ」

 

 

 フランメのドスの効いた底冷えのする声が耳に入った。

 瞬間、強い魔力のうねりを伴った眩い光が周囲を照らす。

 こちら側に向いているシュラハトの姿が逆光で黒く染まった。

 

 

「……人類の魔法の開祖、フランメか」

 

 

 シュラハトは、魔力を盾のように展開する事でフランメの攻撃を容易く防いでいた。

 その魔力の盾は、咄嗟に展開したとは思えないほど緻密で堅牢な仕上がりだった。

 大方、お得意の未来を視る魔法でフランメの攻撃を予知していたのだろう。だから、その攻撃を受け止める為の準備を早い段階でする事が出来たのだ。

 フランメの攻撃を顔色一つ変える事なく防ぎ切ったシュラハトは、緩やかに魔力の盾を解くと、対面する二人の人類に向かって声をかけた。

 

 

「フランメ、そしてミリアルデ。これ以上は意味の無い戦いでしかない。俺達は既に目的を達成し、お前達もこれ以上の消耗は望まないだろう」

「何が言いたい?」

「ここはお互い手を引こう。それが一番無難な落とし所だ」

「見逃してやるから、尻尾巻いてのこのこ逃げろってか?」

 

 

 シュラハトは目を瞑ったまま口を開かない。

 まるで、それ以上は語らずとも分かるだろう。と言わんばかりの表情だった。

 対するフランメはそのシュラハトの表情を見て、だんだん顔を険しくしていった。呼応するように魔力が荒ぶり始める。

 

 

「ここまで他人の領域を好き勝手に荒らしておいて、いざ劣勢になったらお互い手を引きましょうだぁ?」

「…………」

「バカか、テメェは。殺すぞ」

 

 

 そのフランメのあまりの殺気に、俺は思わず凍り付いた。

 人智を超えた力を持つ俺ですら、一瞬"死"を覚悟してしまうような怒気と殺気が、今のフランメを中心に渦巻いている。

 年若い人間が出せるような迫力じゃない。俺はこの時、フランメの内面に眠る才能の大きさを垣間見た気がした。

 

 

「このまま戦いを続けようものなら、お互い途轍もない痛みを抱える事になるだろう。勝つのが魔族であっても人類であっても、優秀な人材を死なせれば魔法の発展そのものが遅れてしまう」

「…………そういう事」

 

 

 ミリアルデは何かに気付いたようにそう呟いた。

 

 

「ここでの勝敗は、未来の人類と魔族に大きく影響する物になりかねないと……そう言いたい訳ね」

「そうだ」

「それは、さっき貴方達が話していた"イレギュラー"ってやつと何か関係があるのかしら?」

「…………」

 

 

 シュラハトは暫く間を置いた後、ゆっくりと口を開く。

 

 

「バザルトが死に、フリーレンは生き延びたのは別に構わない。それは決まっている事だからだ。だがミリアルデ……お前に関しては今のところ何とも言えないな」

「……そう」

 

 

 そのシュラハトの返答を聞いた後、ミリアルデはフランメに何かを耳打ちし、そして興味を失ったように踵を返し立ち去った。

 フランメはどうしても怒りが抑えられないようだったが、ミリアルデに連れられて渋々この場を後にした。

 二人がこの場を去り、沈黙だけが辺りを支配する。

 虫の鳴く声すら聞こえない……いや、そもそも生命が根こそぎ吹き飛ばされた死の土地に、鼓動を刻む者は今や二人だけだった。

 

 

「お前とあの二人の戦いを止めたのは、千年後の魔族の為だ。……そして何より、お前の為でもある」

 

 

 沈黙が辺りを支配し幾分が経った頃。

 フランメとミリアルデが立ち去っていた方角を眺め続けていたシュラハトが、唐突にそう呟いた。

 千年後の魔族の為に、そして俺の為に戦いを止めたとシュラハトは言った。

 あまり多くを語らないシュラハトに期待は出来ないが、わざわざコイツが出張ってまで戦いを止めた理由はどんなものか何となく気になった。

 

 

「どういうことだ?」

「優秀な魔族の戦士をここで失う訳にはいかない」

 

 

 ピキリと、何かが切れる音がした。

 シュラハトの声を聞いた瞬間、一瞬だけ俺の中にドス黒い感情が生まれたのを自覚した。

 優秀な魔族の戦士をここで失う訳にはいかない……?

 それは、つまり。

 

 

「あ? 俺がフランメとミリアルデに敗けるって言いたいのか?」

 

 

 あのまま戦闘に入っていたら、俺は殺されていた。

 シュラハトは暗にそう言っているのだ。

 何者より剛く、何者より逞しく。

 そんな力の頂への到達を夢見る俺にとって、戦う前から敗北を突き付けられる事など認めたくなかった。

 勘違いして欲しくないのだが、俺は別に敗けるのが嫌だという訳じゃない。……いや、正直めちゃくちゃ悔しいけど、問題はそこじゃない。

 敗北は確かに死ぬほど悔しいが、それを糧にまた一段階上に成長出来るだろうし、そもそも敗北を知らぬ最強などハリボテの脆い存在でしかない。

 敗北や経験に裏付けされた理論こそが、力をより巧く扱えるのだ。

 だから、敗けるのは別にいい。

 俺が本当に許せないのは、戦わずして勝敗を決め付けられる事だ。

 未来を観測出来るシュラハトが「お前は敗ける」と暗に口にしたのだから、もしかしたらそれは当たっているのかもしれない。いや、実際……当たっているのだろう。

 でも、それはシュラハトの言葉ではなく俺自身で体感しなくては意味がない。

 どうせ本当に敗けてしまうなら、死力を尽くした上で敗れた方が口で言われるより何倍もマシだった。

 

 

『お前とあの二人の戦いを止めたのは、千年後の魔族の為だ。……そして何より、お前の為でもある』

 

 

 ふと、先程シュラハトに言われた言葉が脳裏を過ぎる。

 千年後の魔族の為、そして何より俺の為だと。

 きっとシュラハトは、俺個人の矜持を取るよりも魔族全体の利を取る事を選んだのだ。それが後の魔族の為になる事だから。

 未来を観測出来るシュラハトがそう選んだのだから、これは魔族にとって正しい選択なんだろう。ぶっちゃけ俺は魔族の事なんてどうでも良いけど。

 魔族にとって利のある行動。つまり、巡り巡って俺にとって利のある行動にもなるという事だ。……多分、知らんけど。

 俺はそう自分に言い聞かせ、無理矢理納得する事にした。

 シュラハトがここに現れた以上、俺はもうコイツの手のひらの上で踊るだけの哀れな人形に成り下がっているのだ。

 そして俺がここで渋々引き下がるのも知っているから、こんなスカした顔をして無防備に立ち尽くしていられるのだろう。

 ああ、コイツ気に食わねえ。

 

 

「自らの"力"に絶対の自信を持つのは良い。魔族ならば己の信ずる物に対しては真摯であるべきだ。そしてそれは魔法の質にも繋がるだろう。それは俺も同感だ。だが、それは物事を客観的に見るなという事じゃ無い」

 

 

 沈黙を貫く俺を見て、未だ納得しかねていると判断したのかシュラハトはそう告げてきた。

 

 

「彼我の戦力差を冷静に見極め、適切な判断が出来ない者は勝手に死んで行く。お前の言う力の極致に至る者は一体どちらなんだろうな」

 

 

 ご丁寧にも俺が目指す力の極致を引用しての説得である。

 うるせっつの。こっちは渋々だけど納得してんだよ。

 

 

「あーもう分かってるよ、本当にいけ好かない男だな」

「聞き飽きたよ」

 

 

 俺の言葉を聞くと、シュラハトはもう慣れた事のように言葉を返し、そしてどこかへ向かって歩いていく。

 荒れ果てた不毛の大地をゆっくりとたった一人で進んでいく様は、彼の扱う魔法を表しているようでどこか少し寂しげに映った。

 幾千幾万もの未来を観測し、その結末を一人で選び続けていく男は一体、何を思って何を見ているのだろう?

 紅く染まった満月の下を、ただひたすら歩き去って行くその男の背中は……何だかとても悲哀に満ちていた。

 

 

 ーーこれが、俺とシュラハトの初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フランメの口調難しい……何度読んでもNieRのカイネにしか聞こえないです。
あと「フランメ」って打つと「マエリベリー」って変換されて「シュラハト」って打つと「YouTube 」に変換される謎現象が地味に面倒くさいです。


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