本作は、人気艦隊育成ゲーム「艦これ」の世界観をベースにしつつ、ホラーとミステリーの要素を融合させた二次創作です。
深海棲艦と艦娘たちの戦いの裏に隠された、知られざる真実と犠牲の物語を描いています。
私自身、戦争や兵器、そして人の“心”に強い興味を持ち、この物語を通してその一端に触れていただければと思っています。
不定期投稿となりますが、どうぞお付き合いいただければ幸いです。
渋谷千立
雪が解け、春の息吹を所々に感じる2025年3月頭。
私は、戦争時はまだ子供で直接その記憶を持たない者として、“艦娘”という存在の真実を求め、ある男性のもとを訪ねていた。
秘書と言うには若すぎる少女の案内を受け、通されたのは小さな応接室。そこには、四十代前半の落ち着いた雰囲気を纏う男性が一人、ソファーに座っていた。
私に気づくと彼は穏やかな笑みを浮かべながら立ち上がり、
「ようこそおいでくださいました。坂巻です」
と言いながら握手を求めてきた。
きれいに伸びた背筋、適度に鍛えられた肉体。年齢より若々しい印象もあるが、その瞳の奥には戦いの深い影が宿っているように見えた。
「本日は取材をお受けいただきありがとうございます。よろしくお願いします」と私は彼と握手をかわす。
「いえ、こちらこそ。よろしくお願いします」
「どうぞ、お座りください」と彼に促され、向かいに座る。
互いに挨拶を交わし、雑談に興じていると、ドアがノックされた。
先ほどの少女が手にお盆を持って入ってくる。
その上には二人分のコーヒー。まだあどけなさの残る顔で笑顔を振りまきながら我々にコーヒーを配ると、軽やかに「じゃあねー」と出て行った。
彼は申し訳なさそうに頭を掻きながら苦笑した。
「礼儀知らずですみません」
「いや、まだ子供なのに仕事を手伝って立派ではないですか。娘さんですか?」
「いいえ」と彼は答えた。
「では?」と私が尋ねると、彼はぽつりと、
「彼女は元艦娘です」と告げた。
艦娘。私がここに取材に来た理由。人類の守護者。
しばしの沈黙。彼女が、と私。
「ええ」と彼。
「そろそろ本題に入らなければ」
「では、取材を始めさせていただきます」
「ああ、はい。よろしくお願いします。今回の取材は、彼女たち艦娘について、提督だった私の話が聞きたい、とのことでしたよね?」
私は肯定し、話を続けた。
「私は戦争時はまだ子供で、直接の記憶はありません。艦娘たちのことは、深海棲艦に対抗するために造られた人類の守護者である、ということしか知られていません。ですが、戦争が終わり復興が進んだ今、彼女たちの真実にもっと迫りたいと思いました」
彼は少しだけ目を伏せ、口調を落として語り始めた。
「では、お話ししましょうか。彼女たちのことを」
どこからお話ししましょうか、と彼は言った。
私は、では初めから。深海棲艦の出現と艦娘の登場から話して頂きたい。
そう言うと、彼はわかりました、と頷き語り始めた。彼女たちのことを。
ことの始まりは2013年2月某日、皇族付きの占い師からある予言が下された。
「深海より異形の侵略者がやってくる」と。
誰もが半信半疑だった。そんな創作物のようなことがあるか、と。
しかし、万が一を考え、少数ながら人員が割かれ、対策チームが発足。来るかもしれない侵略者への対策を研究し始めた。
そして数日後、奴らは現れた。海の底から、水平線の向こうから。
最初は誰もが信じられなかった。
本当にか、と。
我々が混乱している間に、奴らは凄まじい勢いで世界を侵略していった。
まず海が抑えられ、すぐに空も抑えられた。
辛うじて通信衛星は機能し、各国との対話は可能であったが、海と空が抑えられた今、日本で物理的な交流に使えるのは、奴らの戦闘機の届かない超高高度を飛ぶ航空機のみ。それでも安全とは言えなかった。
奴らが地上に向けて侵攻を開始してようやく、人類は応戦を始めた。
奴らは硬く、強く、小さかった。小銃は効かず、対人兵器では通用しない。戦車砲の直撃でようやく小型の異形を落とせる程度だった。
奴らを倒すには、圧倒的な物量でもって土地ごと吹き飛ばすしかなかった。
我々は自国に爆撃を開始した。奴らもろとも吹き飛ばすために。
ミサイルで、野砲で、爆撃機で。
たったの1か月で人類は総数の3割を失った。
日本は総人口の2割を亡くし、国土の3割は更地になった。
そうしてやっと、奴らを海に押し戻すことに成功した。犠牲は大きかったが、我々は歓喜した。奴らに勝てるのだと。
だが、それはぬか喜びだった。
奴らの名は深海棲艦。海の底より来るもの。陸地でも活動可能ではあるが、彼らは水棲である。
彼らは海でこそ真価を発揮した。
奴らとの海上での戦闘は地獄そのものであった。
日本が誇る護衛艦は数日で半数が沈み、在日米軍の部隊も壊滅。ほとんどが海から帰らなかった。
人も兵器も弾薬も、無限ではなかった。
今はまだ再上陸を許していないが、いずれ尽きる。
その時はもう対抗できない。
人々の不安が増す中、突如、彼女たちは現れた。
2013年4月23日、艦娘、抜錨。
奴らが現れてすぐ、対策チームは大幅に人員を増強し、国をかけての研究を始めた。
あらゆる分野から、それこそオカルトのようなものまで、使えそうならば使った。
ありとあらゆる知識と科学とオカルトと他多数のごちゃ混ぜ。
その結果完成したのが彼女ら。
開発期間1か月強。人造人型艦船、艦娘である。
彼女たちは少女の姿をしながら、過去の大戦時の軍艦としての記憶を持ち、
艦と同等の強度、火力、馬力を持っていた。
彼女らの活躍は目覚ましいものであった。
瞬く間に日本近海の制海権を奪い返し、反撃に出た。
だが奴らは数が多い。倒しても倒しても湧いて出る。
最初は優勢だった戦況が、拮抗に落ちるまでそうは時間がかからなかった。
人類では奴らを駆逐できない。
主戦は艦娘らに移っていくのは当然のことだった。
彼女らが万全に戦えるよう、軍は支援を進めた。
艦娘の戦闘経験を数値化し、レベルの概念を体系化した。
全艦に能力の底上げをする改修、一部の艦娘には更なる強化、第二改修の実用化も成功した。
それでも苦戦は続いたが、提督との絆により、軍艦としての能力の上限を突破した艦娘も現れ始めた。
我々の努力と彼女らの奮戦により、長い膠着状態からやっと光が見えてきた。
そして遂に2018年8月15日、奴らとの戦争に終止符が打たれた。
我々の勝利で。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
本作は、架空の戦争と人型兵器を題材にしたホラー・ミステリーですが、そこに人の儚さや絆を描きたくて書きました。
特に艦娘という存在の裏側にある“犠牲”と“願い”に焦点を当て、皆さまに少しでも胸に響く物語になれば幸いです。
不定期の投稿となりますが、続きも気長にお待ちいただければ嬉しいです。
感想やご意見もいただけると励みになります。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
渋谷千立