とある艦娘の願い   作:渋谷千立

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03――名簿に記された一つの記号。それは彼女が“消された存在”であることを示すと同時に、今なおどこかで生きているという可能性を示していた。
その手がかりを求め、私は次なる場所へ向かう決意をする。たとえその先に、国家が覆い隠そうとしてきた深い闇が待っていたとしても――




名簿2

私は、名簿を読み進めていく。

 

「この名簿、何か妙だな。」

 

私はページをめくりながら言った。

 

「名前の横にある識別コード、『13甲』『13乙』と続いているのに、『14』の番号がまるで抜け落ちている。それどころか、『15丙』がいきなり現れてる。」

 

御子柴は薄く笑いながらも、言葉には重みがあった。

 

「そうなんだよ。通常なら連番で記録が残っているはずだが、この空白は意味深だ。」

 

「どういうことですか?」

 

「つまりだ、この名簿には隠された部分がある。公にはされていない艦娘、存在そのものを抹消された個体たちの記録が、この空白の中に隠されている可能性が高い。」

 

「じゃあ、不自然な空白は意図的に作られたもの…?」

 

「その通り。これは“消された者たち”の痕跡だ。彼女らの存在を消し去ろうとした勢力がいたということさ。」

 

私はしばらく言葉を失い、暗澹たる思いに襲われた。

 

「……つまり、私たちが追っている真実は、もっと深い闇の中にあるということか。」

 

御子柴は静かに頷いた。

 

「そうだ。これから先は、覚悟して進まなければならない。」

 

 

 

覚悟。本当に私にはそれがあるのだろうか。

 

薄暗い部屋の空気が胸を締め付ける。目の前の名簿に記された不自然な空白が、私の心を重くする。

 

これから先、どれだけの真実を知ることになるのか。

 

それは光なのか、それとも闇なのか。

 

恐怖と好奇心が交錯する中で、私は自分自身に問いかけた。

 

「本当に、進み続ける勇気があるのか?」

 

だが、答えはもう決まっていた。

 

真実を知るために、私は歩みを止めるわけにはいかないのだ。

 

 

 

私は名簿を読み進め、最後のページに差し掛かった。

そこには「試作群01〜05」と記された欄があった。

 

一行一行、目を凝らす。

 

「識別01:適合(機密)」――

その文字を見た瞬間、心臓が跳ねた。

これは、最初に完成した艦娘の記録に違いない。

 

隣には「識別03:不明」とだけ書かれている。

その曖昧な記述が不気味でならなかった。

 

最初の艦娘たち――試作段階で何があったのか。

そして、識別03は一体何者なのか。

 

私は目を伏せ、深く息をついた。

この名簿は、まだまだ隠された秘密を抱えている。

 

だが、その秘密を解き明かす覚悟は、すでに私の中で芽生え始めていた。

 

 

 

私は名簿のページをめくり、視線が「識別03:不明」の文字に釘付けになった。

その曖昧な記述が、胸の奥で何かを揺さぶる。

 

しばらく沈黙を守っていた彼女が、静かに口を開いた。

「識別03――彼女は、まだ生きている。」

 

その言葉は重く、部屋の空気を凍りつかせた。

 

「そんなことが…」私の声は震え、思わず彼女の顔を見た。

 

「ええ。戦時中の試作艦娘の一人。消された者たちの中で、今もなお……存在している。」

 

彼女の瞳には確かな意志が宿っていた。

 

「だからこそ、君に会いに来たのかもしれない。」

 

私の中で、真実の扉が少しずつ開かれていく音がした。

 

 

 

「いったいどこに……」

 

私が思わずつぶやくと、彼女はわずかに目を伏せて言った。

 

「わからない。けれど、どこかで生きている。感じるんだ。彼女は、私の姉妹艦だから」

 

「姉妹艦……? つまり、本当の姉妹だったってことか?」

 

彼女は首を振る。

 

「血はつながっていない。ただ、同じ時に、同じ工程で造られた存在……そういう意味での“姉妹艦”だ」

 

彼女は言葉を選ぶように、少し間を置いた。

 

「でもね、それでも確かに絆はあった。共に訓練を受け、任務に就き、同じ戦場を見てきた。……だからわかる。あの子は、まだどこかで生きてる。呼びかければ、今でもきっと、応えてくれる気がする」

 

私は黙って彼女を見つめた。

 

その横顔には、静かで確かな祈りと、断ち切れない記憶の重みが滲んでいた。

 

 

 

 名簿の最後のページを閉じかけたそのとき、私は違和感を覚えた。ページの裏――紙の縁に、何かが重なっている。めくってみると、そこには薄く変色した一枚のメモが、裏表紙の内側に貼りつけられていた。

 

 そこには、手書きでこう記されていた。

 

試作群03号:所在不明

廃棄記録:未提出

備考:久遠廠 映像記録有(アクセス制限)

 

 「……久遠廠?」

 

 私はつぶやいた。御子柴は目を細めて言った。

 

 「そこは、かつて極秘の研究が行われていた防衛省直下の保管所だ。今は封鎖されているが、内部にはまだ機密指定の記録媒体が残っているらしい」

 

 「……行くしかない、ですね」

 

 「だが気をつけろ。そこに踏み込むってのは、国の奥底に眠る“闇”に触れるってことだ」

 

 私は黙って頷いた。そのとき、部屋の片隅で静かに立っていた彼女――あの艦娘が、静かに口を開いた。

 

 「試作03。彼女は、私の姉妹艦だ。今でも、どこかで生きていると感じている。だから……君がそれを追うなら、私も行く」

 

 「あなたも……?」

 

 「ああ。彼女はただの兵器ではなかった。人としての何かを、確かに持っていた。消されたその存在を、私たちは取り戻さねばならない」

 

 私は、深く息を吸い込んだ。迷いはある。だが、引き返す理由はもうなかった。

 

 

 

「本当に、03を探すつもりか」

 

「……ああ。彼女が生きているのなら、知りたい。なぜ隠され、なぜ消されたのかを」

 

艦娘は小さく息をつき、目を伏せた。

 

「久遠廠――あたしも、そこから生まれた」

 

「そこが、03のいた場所なのか?」

 

「そうだ。最初の艦娘たちは、“試作群”としてあそこで造られた。あたしたちは皆、そこで目を覚ました」

 

「……つまり、君たちは実験体だった」

 

「兵器としての完成度を測るための試作品。人格も感情も未成熟で、不安定だった。でも──03には、明確な“意志”があった」

 

「意志?」

 

「そう。彼女は、自分が何者かを最初から理解していた。私たちの中で、唯一」

 

記者は、言葉をなくす。

 

「じゃあ彼女は、自分が人間じゃないと知っていて、それでも……」

 

「ああ。それでも笑っていたよ。『私は、戦うために生まれた』ってね」

 

「まるで、自分の存在理由を受け入れていたように……」

 

「そうだ。だから、彼女は最初にいなくなった。誰よりも早く、私たちの前から姿を消した」

 

「久遠廠は、今も残ってるのか?」

 

「表向きは“解体済み”とされている。でも実際は、封鎖されたまま放置されてるだけだ。生きた証も、記録も──まだ、きっとそこにある」

 

「……そこへ行く覚悟はある」

 

「本当に? 今度は“向こう”も、黙ってはいない」

 

「それでも行く。03が、君たちが生きてきた意味を知りたい」

 

艦娘は静かに、しかし確かに頷いた。

 

「……案内する。過去に踏み込む覚悟があるのなら」

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今章では、いよいよ核心の一つである「03号」の存在、新たな施設が明らかになりました。
彼女は失われた存在なのか、それともなおどこかで息づいているのか――。
次回から、物語は国家が長らく秘匿してきた深層へと足を踏み入れていきます。
感想・評価など頂けましたら励みになります。今後の展開もぜひお楽しみに。
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