とある艦娘の願い   作:渋谷千立

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初めまして、またはお久しぶりです。
気晴らしにホラー・ミステリー仕立ての艦これ二次創作を書いてみました。

「艦娘とは何か」──その根源に迫るお話です。

投稿は不定期になりますが、どうぞお付き合いいただければ幸いです。




残された手がかり

私は残された手がかりの意味を知るため、公文書館を訪れた。

古びた建物の重厚な扉を押し開けると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。

静寂に包まれた書庫には、過去の戦争記録や政府の極秘文書が整然と並んでいる。

棚の合間を縫い、目的の資料を求めて歩くうちに、坂巻氏が遺した暗号のような言葉が脳裏をよぎる。

「第二次世界大戦」──その一言が示す意味を、私は必死に探り始めた。

 

 

史料を閲覧するため、私は司書の女性に第二次世界大戦関連の資料の所在を尋ねた。

彼女は淡々とした声で答えた。

「戦争関連の資料は特別管理区域にあります。閲覧申請は適正に行われていると確認しました。」

表情は無表情で、まるで感情のない機械のように淡々とした口調が続く。

その声の冷たさに、思わず身震いがした。

「こちらの廊下を進み、三番目の扉をお使いください」

彼女の目は私を一切見ず、まるで命令をこなすだけの装置のようだった。

彼女は淡々とした声で答えた。

「戦争関連の資料は特別管理区域にあります。閲覧申請は適正に行われていると確認しました。」

無表情のまま、彼女の目は私をとらえ、じっと、無機質な瞳で見つめていた。

まるで感情を持たない機械のように、冷たい空気がその場を支配していた。

「こちらの廊下を進み、三番目の扉をお使いください」

彼女の視線は一瞬も逸れず、私は思わず息を呑んだ。

 

 

案内された部屋の扉を開けた瞬間、微かにかび臭い空気が鼻をついた。

足を一歩踏み入れると、空気が重く、湿気と古紙の混じったような独特の匂いがじわりと肺に広がる。

長年開かれていなかったのか、埃がうっすらと棚や机に積もっており、光の筋が舞い上がった塵を照らしていた。

古びた木製の書棚には、びっしりとファイルが並んでいる。だが、そのほとんどが色褪せており、背表紙には手書きの番号があるだけで、何の資料かは外からはわからない。

 

私は手近なファイルを一つ抜き取り、中を確認した。

だが、開いたそのページは、ほぼすべてが黒塗りだった。

文章の大半が太く無慈悲な墨で塗りつぶされ、残された数語だけでは、内容を読み取るにはあまりにも情報が欠けていた。

次のファイルも、その次も同様だった。

 

それらは確かに戦時中の記録だと感じられるものの、肝心な部分がことごとく隠されており、手がかりになるような情報は、何一つ見つからなかった。

 

 

私は次々とファイルをめくっていった。

だが、どの資料も同じだった。どのページも、まるで意図的に情報を消し去ったかのように、墨で塗りつぶされている。

かろうじて残された単語の断片は、意味を成すにはあまりにも少なく、ただ私の焦りを増幅させるだけだった。

 

視線が書面に集中できない。何かがおかしい。

どこかで誰かがこちらを見ている──そんな錯覚が、背中をじわじわと這い上がってくる。

資料室には私一人のはずなのに。

目を上げて辺りを見回しても、もちろん誰の姿もない。

だが、それでも、確かに感じるのだ。壁の向こうから、あるいは監視カメラの死角から、じっと観察されているような視線を。

 

喉が乾く。額に汗が滲む。

私は震える手で、次のファイルを引き抜いた。

 

──その時だった。

 

一枚の紙が、ふいに床に落ちた。

棚の隙間に挟まっていたのだろう。

何気なく拾い上げ、埃を払って広げる。

 

それは、他の文書と違い、ほんの数行ではあったが塗りつぶされていなかった。

書かれていたのは、無機質な文字列。

 

個体番号1:不適合

個体番号2:不適合

個体番号3:適合

 

それだけだった。

適合。不適合。それしか書かれていない。

ただ、それだけの文書。

 

だが私の心は凍りついた。

意味がわからない。しかし、直感が告げていた。

これは、ただの技術的な記録ではない──何か、取り返しのつかないものの痕跡だ、と。

 

 

私はしばらく、その紙片を見つめていた。

「個体番号」「不適合」「適合」──それが何を意味するのか、文脈も説明もなく、判断のしようがなかった。だが、直感は告げていた。これは、何かの選別。何かの…実験。

 

ふと、背後からわずかな気配を感じて振り返る。

だがそこには、誰もいなかった。

 

いや──違う。

さっきより、空気が静かすぎる。図書室の空調の微かな音すら、今は聞こえない。まるで時間そのものが止まったかのように。

 

私は足早にカバンへ文書をしまい、資料室を出ようとした。が、ドアノブに手をかけたそのとき──

 

「それ、持ち出し禁止ですよ」

 

背筋に氷柱を突き立てられたような声がした。

振り返ると、あの司書が立っていた。いつの間に。足音も気配も、何もなかった。

 

「……すみません、うっかりしていました。すぐに返します」

 

笑ってごまかそうとしたが、彼女の顔は微動だにしなかった。

無機質な目。まるで、こちらの心の動きをすべて見透かしているような視線。

 

「あなた、深く知ろうとしすぎです」

淡々と、まるで注意をするように。

 

「それは、好ましくないことを呼びます。……あなたにとっても、周囲にとっても」

 

まるで、あの少女と同じ言い回しだった。

私は身を強張らせながら、文書を司書へ返すふりをして──瞬間的に身を翻した。

 

無我夢中で資料室を飛び出す。

背後からの追跡は──ない。

だが、胸の中に残るあの言葉だけが、冷たく居座っていた。

 

「深く知ろうとしすぎです」

 

だが、もう遅い。私は知ってしまった。

「適合」という言葉が意味するものを、調べずにはいられない。

 

私はカフェの片隅でノートパソコンを開き、かつて艦娘計画に関わっていた研究者たちの名前を一人ずつ検索し始めた。

すると、ある名前が目に留まった。

 

「鷹見 瑞代(たかみ みずよ)」──かつて艦娘試作計画に関与していたが、2013年春、突如失踪。以後、行方不明。

 

艦娘が登場するより、わずかに前。

偶然にしては、できすぎている。

 

私は決めた。

次は、この「鷹見瑞代」の足跡を追う。

 




今回の話では、「あの少女」や「個体番号の資料」など、いくつかの伏線が顔を出しました。
坂巻氏の失踪、そして司書の女性……全てがどこかでつながっています。

すぐには答えが出ないかもしれませんが、少しずつ断片を拾っていく構成にしています。
それが積み重なったとき、ひとつの“輪郭”が浮かび上がるはずです。

次回も、どうかお楽しみに。

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