なお会話文だけとなっているので読む人を選ぶ作品であると思います。
ちなみにタイトルの読み方は『もんあみ』が正解
『あやあや』とか『あやや』じゃないぜ!
「こんにちは」
「また来たんですか」
「ええ、暇ですから」
「私は暇じゃないんですけどね」
「いいじゃないですか、妖怪達の生態や対処法の編纂なんて」
「よくありませんよ、後世の人たちに正しい歴史や対処法を伝えるのは私の大事な仕事ですから」
「意味あるんですかねぇ、人間達なんて歴史から学ぶことなんてないじゃないですか」
「そうじゃなくても、私はこのお仕事が好きですから」
「まあ、あなたがいいならいいんですけどね」
「ところで何しに来たんですか?」
「ですから暇なんですって」
「それじゃあこれでも読みます?」
「幻想郷縁起ですか……妖怪がよんでもなぁ」
「あなたの項目はわりと最初の方にありますよ」
「あやや、それはどうしてまた」
「どうしてって私が初めて会った妖怪があなただからですよ」
「そうでしたっけ?」
「そうですよ」
「…………」
「…………」
「うわ、危険度:高で人間友好度:低」
「あれ、違ってます?」
「本当にこうならあなたとっくに食べられてますよ」
「あら怖い」
「……本当に食べちゃいますよ」
「すいません」
「わかればいいんですよ」
「あや、こんなところで出会うなんて珍しいですね」
「私はあなたがここにいることが驚きですけどね」
「ネタ集めですよ」
「わざわざ人里まで?」
「妖怪の山なんて変化ありませんから」
「そうなんですか」
「ところで美味しそうなお団子ですね、一口くださいよ」
「いいですよ」
「それじゃあ遠慮なく……」
「えいっ」
「ああ、くそ、やってくれましたねこの女」
「あは、引っ掛かりましたね……ぱくっ」
「まったくひねくれているというかなんというか」
「誉め言葉ですね」
「無い胸張らなくていいですよ……私にも一皿お願いします」
「私も一皿おかわりを」
「太りますよ」
「痩せ細って消えちゃうよりいいじゃないですか」
「また変な理屈を」
「屁理屈だって理屈ですよ」
「しかしあなたが家から出られたなんて意外ですね」
「あの家でしか生きられないと思ってました?」
「少なくともとんでもない出不精だとは」
「それは正解」
「否定しないのね」
「私外って嫌いですから」
「引き籠りめ」
「うるさいですよ健康優良不良少女」
「なんですかそれ」
「いえ、罵倒されたので言い返してやろうかと」
「よく一瞬でそんな言葉出てきましたね」
「誉めていいんですよ」
「はいはい、すごいすごい」
「そうでしょうそうでしょう」
「いちいち癇に障る小娘ですね」
「きゃ~、おそわれる~」
「ちょっと、あまり人里でそういうこと言わないでくださいよ」
「してやったりです」
「本当にかないませんね」
「おや、今日の編纂作業はいいんですか」
「ええ、もうほとんど終わったので」
「今日の分が?」
「生きてる間にやるべきことが」
「なんとも年老いた言葉ですね」
「魂の年齢はほとんど同い年ですからね」
「そういえば転生してるんでしたね」
「ええ、先代達の記憶はあやふやですが」
「次のあなたも私を覚えてるんですかね?」
「知識としては覚えてると思いますよ」
「どういう風に?」
「お人好しで人間に友好的な鴉天狗」
「あなた私のことそう思ってたんですね」
「うっかり口が滑りました」
「まったく口の減らない娘ですね、そんなに滑る口なら食べて差し上げましょうか?」
「ご遠慮します」
「お久し振りです」
「久し振りって程でしたっけ?」
「一年は充分久し振りですよ」
「もうそんなに経ちましたっけ」
「もうそんなに経ったんですよ」
「それは失敬」
「…………」
「…………」
「文さん」
「なんですか?阿弥」
「私はそろそろ転生のための準備を始めることになります」
「そうですか」
「なのでまたしばらく会えません」
「しばらくってどれくらいですか?」
「そうですね、短く見積もっても二、三年は」
「それは随分と長いですね」
「あなたからしたら一瞬に等しいでしょう?」
「まあね」
「ねぇ文」
「なんですか?」
「いえ、なんでもないです」
「なんですか気になりますね……というか今しれっと呼び捨てにしましたね」
「おっと失礼」
「それでは阿弥」
「ええ、文」
「「また今度」」
「嗚呼、何をしようか」
「東西南北異常なし」
「ついでにネタもなし」
「暇だー」
「…………」
「せめて会話相手が欲しいかな」
「阿弥の儀式の準備が終わるのっていつだっけ」
「まだまだ先かー」
「…………」
「暇だー」
「…………」
「久し振り」
「うん、久し振り」
「閻魔はどうでした?」
「悪い人では無さそうです」
「それはよかった」
「…………」
「…………」
「そうだ、文」
「なんですか?」
「これ、完成した幻想郷縁起の見本です」
「なんで私に」
「私が死んでから読んでくださいね」
「今ここで読んでやりましょうか」
「…………」
「ああ、こら、無言で叩くな」
「わかってくれればいいんですよ」
「…………」
「…………」
「ところでこれが読めるのっていつ頃になるんですかね」
「さぁ?とりあえずあと一年はかからないかと」
「あら、意外とすぐですね」
「今二十八歳ですからね、なかなかの長寿ですよ」
「それはおめでとうございます」
「…………」
「…………」
「寂しくなるとか言ってくれないんですね」
「言うと思ってました?」
「もしこれが美しい物語なら」
「ところがどっこい、これが現実です」
「手厳しいですね」
「…………」
「…………」
「寂しくなりますね」
「あ、言うんだ」
「そりゃ、人間とはいえ友人が一人居なくなれば寂しくもなりますよ」
「私達って友人だったんですね」
「違うんですか?」
「初めて知りました」
「この女は……」
「あはは」
「本当に変わりませんね」
「…………」
「…………」
「楽しかったですよ」
「なにがですか?」
「あなたとの日々ですよ」
「まさかあなたからそんな言葉を聞けるとは思いませんでした」
「私だって人間です、楽しいと思うことは楽しいですよ」
「それを口に出したことに驚いてるんですよ」
「感情は口にしたり表に出さないと伝わらないんですよ」
「だったらあなたも笑顔以外の表情も作ってみたらどうです?」
「これは私の『あいでんてぃてぃー』ですから」
「なんですかそれ」
「個性って意味の外国の言葉らしいですよ」
「そうなんですか」
「そうなんです」
「…………」
「…………」
「それじゃあ私はそろそろ」
「そうですか」
「阿弥」
「文」
「「また明日」」
「あや、また会いましたね」
「そうですね、昨日ぶりです」
「ここ数日よく会いますね」
「あなたが毎日会いに来てるんでしょう?」
「あなたが毎日散歩してるからでしょうが」
「まったくおかしな話ですね」
「あはは」
「また笑う」
「笑顔は人を元気にする原動力ですよ」
「あなたの笑顔は仮面みたいなんですよ」
「あ、ひどい」
「毎日毎日、妖怪が目の前にいても笑顔なんてどうかしてますよ」
「そりゃ怖いですよ、文にかかれば私なんていっしゅんでボコボコですし」
「だったらもっと怖がってくれれば張り合いがあるのに」
「ふふん、これが力なき私にできる小さな抵抗です」
「あなた本当に人間?」
「そう聞かれるとわかりませんね」
「え、わからないんだ」
「ええ、だって普通は転生なんてしないし、前世の記憶も引き継がない」
「まあそうね」
「じゃあ、私って」
「…………」
「稗田阿弥ってなんですか?」
「それは……」
「いえ、なんなのかはわかってます。稗田阿礼の生まれ変わりの八代目で、幻想郷縁起の編纂者です」
「阿弥……」
「でも、それを終えたとたんに疑問が溢れてきたんです。私って、なんなのでしょうか」
「…………」
「私が編纂した本はそこにあります、でも、稗田阿弥は何処にもありません、終わってみれば私は空っぽでした。私っていったい私の意思で何をしたんでしょうね」
「阿弥」
「……失礼、少し口が滑りました」
「もうずいぶんガタが来てますね」
「寿命間近ですからね」
「食べてあげましょうか」
「どうしてそうなるんですか」
「いつ死ぬかわからなくて怖いから不安になってそんなことを考えてるんでしょう。だったら私があなたを食べてすぐに終わらせてさしあげますよ」
「怖いこと言うなぁ。また不安の種が増えた」
「笑顔のくせに」
「これ以外の表情忘れちゃいました」
「なんと不幸な」
「私を食べると不幸が移りますよ」
「じゃあ食べるのやめましょうか」
「勝った」
「負けた」
「「あはは」」
「それじゃあ文」
「うん、阿弥」
「「さようなら」」
「あやや……」
「ん?」
「あや、失礼。阿礼乙女の九代目で?」
「あ、はいそうですよ。すいません、先代のことを呼ばれたのかと思いまして」
「いやはや、先代様とは似ても似つかないですね。ああ、悪い意味じゃなく」
「先代をご存じなんですか?」
「ええ、ちょっとだけ」
「あ、もしかして文さんですか?」
「私をご存じで?」
「先代の残した手帳に書いてありました」
「ほうほうなんと?」
「『お人好しで人間に友好的な鴉天狗』」
「本当にそう書いてあったのか……」
「他にも日記とかにあなたのこと色々書いてましたよ」
「私でも心が折れそうなので聞くのはやめておきましょうか」
「ああ、あと言伝ても預かってますよ、文章ですが」
「なんですか?」
「えっとですね『文、次の私ともよろしくね』だそうですよ」
「あの女……それは卑怯ですよまったく……」
当時の人里と言うとまだ妖怪達は出入りが容易じゃなかったと思ったからこそ文を起用してみた。
出会いは書かなかったんや無い……書けなかったんや(ドヤ