宇宙探索史『ISB2262-ACVI』   作:み。

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第1話

 

 

 ジャック・O率いる武装組織“バーテックス”の襲撃から、僅かに24時間後。

 

 数名のレイヴンと、ジャック・Oに賛同するテロリズム集団による同時多発攻撃は、攻撃開始から翌日の日の出を待たずして終結した。バーテックス首魁の投降による、組織の瓦解がその理由となる。

 

 バーテックスの瓦解後、アライアンスは人類文明を先導していく共同体としての声明を発表した。

 

「我々は、戦争の歴史を歩みすぎた。負の連鎖はここで断ち切り、新たなる未来にその歩を進めるべきである。そして我々が進むべき未来とは、宇宙である」

 

 社会は、未曾有の表明にざわめき、動揺した。宇宙開拓など、荒唐無稽な話だとしていたからだ。

 ………だが、優れた文明力を持っていた旧人類は、宇宙に要塞を建造し、文字通り地球外をすら人類の生活圏として確保出来ていたのだという。宇宙開拓とは、すなわちそれらを宙まで飛んで持ち帰ってくることにある。

 

 それが叶えば、旧時代の技術の発掘のみならず、豊富な資源を以て地球を、かつての豊かな姿に立て直すことさえできる。だから、その宇宙開発事業には多くの技術者が殺到した。救いのない地球を見限るように、宇宙に縋るように。

 

 

 

 二年後。

 

 

 

 

「シャトル発射用意、確認シーケンス終了。オールグリーン」

 

 管制官が最後のチェックを終える。全ての機能に何も異常がない事を、一週間も掛けて三、四度もの確認を繰り返したのだから間違いはなかった。

 

『ご苦労。全機、準備はいいか?』

 

 シャトル内で未踏の地を夢見て志願した数多のレイヴンが返答する。その多くは肯定的な答えだったし、残る答えも未知の世界に対する不安だけで、宇宙に対する、有り体で言えば冒険をすることに関しては胸が高鳴る思いでいっぱいだった。

 

 惑星探査の代表者となるレイヴン、エヴァンジェは、アライアンスを脱退し、資金を集め独立した宇宙開発事業に乗り込んだ第一人者でもある。

 それをアライアンスとの共同事業として提携に至った。

 

『宇宙か。人類の希望はそこにあるだろうか?』

 

『不安か、ジャック?』

 

『そうではない。ただ、人の革新が宇宙にあるのだとすれば、旧人類はどれほど素晴らしい存在だったのだろうかと考えていただけだ』

 

 それが皮肉なのは明らかだった。

 副官のジャックは、半年前にエヴァンジェがあるルートで雇用したAC乗りだ。AC乗りと評するのは、その身元がレイヴンではなく、作業用MTから発展した()()()姿()()()()()A()C()に搭乗していたからという理由に過ぎない。

 

『我々はいつでも行けます、隊長』

 

()()はよせ。…よし、では発進する。管制官、発射許可を』

 

「規定コース、クリア。タキシング許可」

 

 シャトルがゆっくりと、決められたコースを進んでいく。彼らが宇宙へ旅立つまで、もう十分も無い。

 

『こんなに巨大なシャトルを用意しないと行けないほど、宇宙は広いんだよな』

 

『当たり前だろ。世界が広いように、宇宙はその幾億倍も広いのさ』

 

 シャトル内技術職員の呟きが漏れ出る。あるいは、その聞き覚えのある声は、管制官と通信を繋げたままにしているだけの、ただの個人に宛てた言葉だろうか。

 

『さらばだ、地球。いずれ、私はこの星に帰ってくる』

 

 エヴァンジェの、最後の言葉だ。

 

『オラクルII、発射!』

 

『エンジン点火!』

 

『点火!』

 

 一瞬で膨大な量の燃料が消費され、そして凄まじい急加速と共に、シャトルは瞬く間に宇宙へと飛んでゆく。

 

「各員へ告ぐ。グッドラック!」

 

 管制官は立ち上がり、元上司に敬礼をした。見えなくなっても、その眼差しは上空へと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二年の時は、ACに更なる進歩をもたらした。一番の進化は宇宙空間への適応と、それに伴う機体強度の劇的な向上である。

 従来のAC用兵装ではもはや歯が立たず、より強化された火器が新たな兵器として搭載された。口径の肥大化、重量の増加など、デメリットを丸々呑み込んででも、武装強化は必要と言えた。

 

 そうしたACを多数搭載するスペースが、シャトルには確保されていた。オラクルIIと銘打たれた航行シャトルは、その大半を巨大な居住区としており、オラクルIIの規模は、全体で11.6キロメートルにも及ぶ。

 人が作り出した最大規模の建築物であり、飛翔物であり、文明の力である。

 

 宇宙圏までを六百基ものジェットエンジンで飛行し、無重力帯に入ったあとの軌道コントロールを無数のバーニアで修正しながら、慣性飛行で飛び続けるようにする事で、巨大な生活圏はまさに空飛ぶコロニーとなったのである。

 これは、三度に及ぶ飛行実験の成果物でもあった。

 

 

 

 エヴァンジェは、艦長として誇らしかった。

 かつて正義を僭称し、武力を振りまくことしか出来なかった私が、今こうして人類の希望の灯火となって空を飛んでいるのだ。

 胸にじんと込み上げるものがあった。感動と言い換えるべきか。熾烈な戦いを生き延びてきたエヴァンジェだからこそ、自らがその手で殺めた命に報いる事が出来ると、本気で信じていた。

 

 

 ()()()が来るまでは。

 

 

 

「未知の惑星を前に…これか…!!」

 

『──ロックされています!』

 

『レーザー照射を受けています! 対象は不明! 非常に巨大な構造物と推察!!』

 

「なんなのだ、あれは! 何が起こっている…!!」

 

「──エヴァンジェ!」

 

 ジャックが艦長室に駆けつける。報告を受けてきたのだろうが、このオラクルIIには、敵性物体に対する迎撃機能は存在しない。この場にいる人間にできることは、何も無かった。

 

『艦長! エヴァンジェ艦長! 敵機から飛翔物が発射されました! 着弾まで秒読みです!』

 

「持つか、この艦は…!」

 

『持ちます! …着弾! ダメージコントロール急げ!』

 

『開発区画に直撃しました! 作業員の待避急がせ!』

 

 11キロメートルにも及ぶ巨大船を、航行不能までには至らせずとも、その一区画を呆気なく破壊せしめる兵器。まるで、旧人類の扱ったという軌道衛星レーザー砲そのものだ。

 

『敵弾はエネルギー弾ではありません、実体弾です! ──二射目来ます!!』

 

「馬鹿な、早すぎる! 連装砲なのか!?」

 

『いえ、単装砲です! ──来た!』

 

『直撃コースです! コントロールを失っては惑星に墜落します!!』

 

 私達の希望が…象徴たるオラクル(神託)が……。

 

 墜ちる────

 

 

 

 

 飛んでくるレーザーをシールドでいなしながら、面白くもねえ武器でちまちまと敵を削る。敵がヴェスパーのどれかだかってのはさっき聞いてたが、その仰々しいナンバーがどこの誰のものだったかは忘れちまってた。

 

 だが、この生意気なカスを殺せるなら、面倒くせえ撃ち合いも楽しいってもんだ。

 

 …だのに。

 

『待機しろ、G5!』

 

『クソッ、なんだってんだよ、もう少しで生意気なあのクソどもを叩きのめせるってのに!』

 

『待機だと言ったぞ馬鹿者! 死にたいならそのまま戦闘継続しろ!』

 

 クソムカつくクソ親父の言葉だが、逆らえねえ。何より逆らおうとも思えなかった。普段叱責してくるクソうるさい言い方じゃねえ、どことなく焦りを思わせる口振りだったからだ。

 

『何が起こってやがる…ハッキリ説明しやがれ』

 

『それも含めて確認を取っている。そのまま待機しろ』

 

 見れば目の前のアーキバスACも、こっちを撃ってくるような気配は微塵もねえ。まるで何かを感じ取ったように、だ。

 

 何が起きてやがる…?

 

 ベリウスは、殆どが汚染されてたり寒かったり、かと思えば砂漠が広がってたり、とにかく人間が生きるのには適さねえ。それでも土着どもは必死に飢えた土地に噛み付いて生きてやがる。

 コーラルがあるからだ。

 

『いい加減、何が起こってるか知りてえもんだ』

 

 目の前のACもMTも動かねえしよ。

 だが、そんな暇な時間は一瞬で終わった。クソ親父が口を開いたからだ。

 

『イグアス、退避だ!! そのエリアから全力離脱しろ!!』

 

『あんだよ、一体何が───』

 

『お前のそのボケ倒した口を縫い付けるのは、後でいくらでもやってやる! 自殺願望が無いのなら命令を聞け!!』

 

『クソッ、うるせえ! なんなんだよ!!』

 

 目の前の機体も焦ったように飛び去る。並々ならない何かを感じた俺もまた、そこから全力で逃げた。後ろを鑑みる暇もねえ。どうせ派遣されたのは俺だけだ、気にかける雑魚もいやしねえが。

 

 

 

 

『───ぐおおっ!?』

 

 至近爆発でも食らったかと思うほどの衝撃。何が起こっているか確認する間もなく、バーニアを噴かせられず錐揉みのように回転しながら、剥き出しの岩壁に激突する。全身を強かに打ち付け、呻いた。肺の中の空気が、一瞬にして押し出される。

 

『っ……てぇ…!』

 

 思わず咳き込む。

 ──最悪だ、何が起きてるかすら分からねえ。

 とにかく今は何もできることはねえ。関節が捥げてまともに動かせなくなったヘッドブリンガーを見限るようにベイルアウトした。

 

 そして見た。

 

「…あんだ、ありゃ………」

 

 

 唖然とした。

 

 

 

 

 空が、落ちてきやがったのか?

 

 

 

 

 

 

 






 オラクルII

 エヴァンジェが多くの技術者とともに設計・試作した巨大船。全長11.6キロメートル。
 船とは言うものの、その有様は巨大な地層の塊、すなわちオービター(艦本体)と、その各部に無数の姿勢制御システムと初速を稼ぐためのアド・ブースタモジュール、外部燃料タンクを括り付けただけの粗末なものである。
 ただし、内部構造に関しては各ブロックによって独立した生活が可能なライフラインと生産区画が設定されており、各ブロックのみでの自給自足が想定されている。

 オラクルIIの仮想運用目的とは『自律兵器との戦闘を想定し、武装戦闘員及び兵器を搭載でき、未開拓宙域での生存を可能とする大規模居住船』である。
 その為、20にも及ぶ過剰なまでのAC搭載可能数を誇り、更にACパーツ生産が可能。艦には現地で採集した物資を活用するため、また鉱石を発掘するための採掘・解析メカニズムが存在する。



 これら、異常なまでに盛り込まれた機能群は、造艦にあたって如何なる状況をも想定しようとしたエヴァンジェ自身によって、彼の練った案を可能な限り採用したゆえである。
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