宇宙探索史『ISB2262-ACVI』   作:み。

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第2話

 

 

 

 いくつも受けた報告のうち、まず驚いたのは、この惑星には空気があることだ。もっと言うなら、酸素・窒素・二酸化炭素・その他を含む大気内の成分の割合が、地球のそれと同じように人間が生活可能なものである事に驚かされた。

 

 しかも、墜ちた場所は市街の僻地だった。これは僥倖だった。

 多少短絡的な考え方になるが、それらは所々が老朽化著しく建築物としては些か耐久性に不安を抱かせるが、人工物であるという点が非常に喜ばしいことである。

 そこが人間の生存可能圏であるという証明となるからだ。

 

 これでこの惑星に生存する人類文明と交流でき、成果物を持ち帰ることが叶えば願ったりである。

 

 そこで先程受けた船体へのダメージの話になるのだが、オラクルIIの受けたダメージは、衛星砲からの直撃弾二発と落着時の衝撃という、規模だけなら相当の被害が予想されるものであった。

 しかしながら実際の損害としては生活用ブロックが直線上に複数個破壊されただけである。

 

 更に幸いなことに、被害規模の大きさに反して計上できるだけでも、二万三千人の乗組員のうち死傷者は三十二名、うち負傷者が十九名、行方不明者六名と、非常に軽微で済んでいる。

 これは奇跡と言うべきだろう。

 

 かくして、再度オラクルIIが飛び上がるには相応の前準備が必要となるものの、地球人類の代表者として、人が生きていける惑星に降り立ったのだ。

 

 

 

「エヴァンジェ」

 

 空いていた扉の隙間から顔を覗かせ、そのまま一人の男が入ってくる。かつては敵同士だったが、今は心を同じくする同志だ。

 

「ジャックか。先程の報告で、被害は間違いないか?」

 

「ああ。何度見ても目を疑うが」

 

 眼前で佇む壮年の男は言った。彼は思想を抜きにすれば、人の生き死にや損得勘定には相当クレバーな人間だ。だからこそ自分が死ぬことや相応の被害に見舞われる事も覚悟をして、被害確認に志願していた。

 そんな男が言うからには、やはり奇跡だろう。

 

 だが、課題はこれだけではない。

 資源惑星に辿り着くという第一段階を突破したのなら、惑星を探査するという第二段階に取り掛からねばならない。

 さしあたっては、惑星…仮にここを第二惑星と呼称するとして、第二惑星の地表に関して調査をしなくてはならない。外部カメラからの映像からは、地表を覆うメガストラクチャーが目立ち、地上よりも上空に住まなくてはならない何かしらの理由があると予想されている。

 

 また、この第二惑星と地球との彼我距離や位置関係はハッキリしていない。

 無論複数の複合計算機器を用いた暗算は常に行っていたが、不測の事態を受けてデータ破損が著しいのだといい、航行データのバックアップや、計器が最後に示した値などから位置を計算するまでには、数ヶ月近く掛かる可能性が高いそうだ。

 

 つまりやることは限られてくる。

 惑星探査だ。

 

 さて、実働部隊は誰を選定しようか───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『帥叔、あれは一体…』

 

『下手に動かすな、あれの中身に悟られでもしてみろ、何が起きるか分かったものではない』

 

 眼前に聳える、あまりにも巨大な岩石。小隕石とも呼ぶべきだろうそれは、グリッドが緩衝材となってか、地表への被害は最小限に抑えられはしたようだ。

 恐れるべきは、あの小隕石はどうやら自然物の中に人工物を内包しているというらしく、つまりあれ自体が企業の寄越してきた破壊兵器である可能性を否定し切れないのだ。

 

 単なる質量兵器であれば、アレ単体にはそれほど憂慮する必要は無くなる。

 だが、もしあの小隕石の中身が工場などの類であり、無人兵器を無造作に量産できるような機構を携えているなどと考えると身の毛がよだつ。

 

 既に半日に渡って偵察隊が派遣され、その陣頭指揮を帥叔フラットウェルが取っておられるが、動きを見せない小隕石を相手に、ベリウス方面軍内部では既に意見が二分している。

 内部の強行偵察を図るか、静観を続けるか。二極化した意見の対立だが、帥叔の鶴の一声でその是非が決まる。

 

 その危険性を測るため、()()の間で協議しておられるのだろう。

 

 

 

 不意に通信機にノイズが走る。

 

『聞こえるか』

 

『はっ、帥叔。聞こえております』

 

 寒冷地で冷え切ったMTの中で、粛々と答えた。

 

『インデックスを向かわせる。ダナムの指示を仰ぎ、内部を査察せよ。藪をつついて出るのが何なのかを確かめねばならん』

 

『ご指示、しかと賜りました。コーラルと共にあれ』

 

『コーラルと共にあれ』

 

 今ここに、小隕石の正体を探る有志が集る。

 

 

 

 

 半刻ほど待ち、指揮官が到着なされた。解放戦線内のACパイロットでも一目置かれている、インデックス=ダナム殿だ。

 

『皆、今回はよく集ってくれた。企業との戦線を抜けるのは同志達に偲びないが、帥叔たってのご希望だ。あの小隕石の正体を確かめるぞ』

 

『はっ!』

 

 ダナム殿のAC、バーンピカクスが前進する。弾頭の炸裂し、威力の高いバズーカ、速射が特長のバーストMG(マシンガン)、そして四連装の誘導ミサイルがその最たる特徴となる。

 重厚な装甲板をリベット打ちののち溶接した姿の雄々しい、悠然と立ち上がるBASHOは、 なんと帥父さえ使用なされるほどの、由緒正しきコア理論の体現。伝統ある戦士の憧れである。

 

 崩壊し、汚染水に塗れた市街地に紛れ、着々と小隕石に近付いていく。未知の存在であるが、五指の一人がいるのであれば、万が一の時は戦うことも可能だろう。

 ダナム殿は、ACを駆る勇者の一人、その選ばれた一人なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『復旧作業急げよ! 船体ダメージも何とか直さにゃならんのだからな!』

 

 作業員のメガホン越しの声が聞こえてくる。第二惑星に辿り着いて早々の仕事が復旧では、格好はつかない。しかし、人がまともに生活できたほどの資源が存在する星であれば、鉱脈を掘り当てられればいくらでも地球を潤わせられる。

 このオラクルIIがそのための橋頭堡である以上は、機能は可能な限り保たせる必要があった。

 

『隊長、失礼します』

 

 ノック音と共に、二人のパイロットが入ってくる。二人は元レイヴンであり、アライアンスに所属する戦力でもあった。だが今はこうしてオラクルIIの船員として参画している。彼らはもはやレイヴンではなく、この事業に従事する従業員であり、戦闘員だ。

 

「よく来てくれた。諸君ならこの一次探査に打ってつけの実力を持っていると確信している」

 

「はっ。このトロット、如何なる任務も熟す所存です」

「私も同じ思いです」

 

 トロット・S・スパー。アライアンス戦術部隊の副隊長を務めていた。私を盲信する男であり、実力もそこそこにある。尖兵として未知の世界に赴かせるには十分に足る男だ。

 もう一人はジャウザー。どちらかというとアライアンス本部との繋がりの強かった男だが、地球環境回復のための宇宙開拓事業の計画を知った際、賛同して着いてきた。

 

「君達のように与えられた任務を忠実にこなせる人材こそ、今のオラクルIIには必要だ。どうかそれを、他の者にも示して欲しい」

 

「はっ」

 

 かつん、と二人は踵を合わせて規則正しく敬礼をした。

 

「今次探査における最終目標は、現地住民の調査と対話と定める。可能なら好意的なリアクションを得たいものだが、万一にはあらゆる手段を取っても構わん」

 

「あらゆる、と言いますと…やはりACを用いた?」

 

「不意討ちを受けて諸君が死んでしまってもつまらん。完全武装で行ってくれ」

 

 もし現地人がいるのなら、確かに交流を試みるのは大きな前進となるだろう。だがそれには我々に友好的であり、かつ協力関係を築けることが前提となる。

 友好的であるならいざ知らず、仮に敵対的であれば、貴重な人材、それもACによる戦闘に手馴れている者を失う訳にもいかなかった。

 

「了解しました。では、後ほど報告に上がります」

 

「いや、その必要は無い───」

 

 

 

 

 

 

 2機のACと4機のMT、合わせて6もの戦闘兵器が輸送ヘリコプターに揺られて市街地へと降下しようとしていた。

 

「隊長。こちらは間もなく市街地上空に到着します」

 

 トロットの乗るAC、バリオス・クサントスからの通信がオラクルIIへ向けて飛ばされる。

 受取人は船長エヴァンジェその人だ。

 

『概ね予定通りだな。手分けしての調査には危険が伴うだろう。定期連絡を怠るなよ』

 

「了解」

 

 今回、エヴァンジェはパイロットとしてでなく、交渉要員としての作戦参加に当たっている。すなわち、敵対的と思われる存在を見つけた場合、即座に交戦するのではなく彼に知らせろと伝えているのだ。

 MTの操縦員も彼に忠誠を誓う人物で構成されているし、我々もまたそういった理性的な判断ができる者としてこの場に立っている。

 

 ぐっ、と操縦桿を握る手に力が籠もる。未知の惑星での初任務。緊張を持たない方が無理というものだ。

 だが緊張に身を強ばらせて失敗するほど場馴れしていないわけもない。任務は任務、達成すべき目標であり、自分の感情の一つや二つで易々と成否を決めるものではない。

 

 

『作戦領域に到着。AC・MT投下と同時に離脱します』

 

 ヘリパイロットの通信に応じて機体を接続しておくジョイント部が外れ、一瞬の無重力を感じたと思えば、重力に引かれて地上へと落ちる。

 着地時の衝撃は到底相殺できるものではないが、それでもACは非常に優秀な脚部アブソーバーと降着用の姿勢制御プログラムが備わっている。

 適切な降着体勢を地上の様子から自動認識し、すぐさま戦闘に移行できるようになっているのだ。

 

 これに関しては、ACと同じプログラムを流用している各種軍用MTも同様である。尤も、不正に作られた民生MTに関してはその限りではないが。

 

『こちらMT-1、降下しました!』

『MT-2、同じく降下完了!』

 

『トロット・S・スパー、降下完了』

 

 先に降下を始めていたトロットの隊が市街地に入ったようだ。

 

『了解。トロットの隊は設定された地域の西区画を調査してくれ。ジャウザー隊は降下し次第東を頼む』

 

「ブリーフィング通りですね。了解です」

 

 モニター越しに、市街地の道路と思しき場所に広がる、何らかの黒い液体が近づいてきているのが見えた。

 それが画面全体に広がった時、大きな衝撃が私を襲った。ACの降着姿勢は膝を折り曲げる程度で済む軽度なものだが、脚部アブソーバーに関してはかなりヘビーな働きをしている。

 だが、ヘリパイロットが仕事をしたおかげで市街地に無事着地できた。ここからは我々の出番だ。

 

「ジャウザー、ヘブンズレイ現地に到着」

 

『MT-4、同じく到着』

『MT-3もだ』

 

 共に降りてきたのは、CR-MT85Bとする、高い安定性能と火力を両立させたクレスト社製の二脚MTだ。不意の攻撃にも最大限耐えうる可能性があり、かつ機動性を損なわず、反撃も可能という観点から選んだものだ。

 

「よし、では我が隊は東地区を探査します。私に続いて下さい」

『了解』

 

 三機のAC・MTが市街地を探査する。レーダーに何かしらの反応が無い限りは立ち止まる必要も無い。元より誰かしら対話可能な現地住民を探す事が主目的の任務であるから、やる事はエリア一帯の探索以上に人を探すことなのだが。

 

 

 

 また、しばらくは足音ばかりが響いていた。黒い液体は恐らく使い物にならなくなったオイルか工業廃棄水のようなもので、僅かな粘性を帯びているのが見て取れる。

 荒廃した様は住民など既にどこかに避難してしまった後なのではないかとさえ思わせ、まるで街にひとり寂しく取り残されたように感じて孤独感を覚えさせてくる。

 

『静かだな』

 

「実際、生活をする人はいるのでしょうか」

 

『どうなんでしょうね。この黒いのもなんだか分からないし、外気温計は摂氏-19を指してます』

 

 街というのは人が住み着いて初めて成り立つもの。乗り物は大事だが、それ以上に人の原初の交通手段は自らの足だ。

 

 この際限なく拡がっていくかのような黒い液体は、人が通るための道路さえ埋めつくしてしまう、ACの脚部関節までが浸かる程の水嵩だった。

 それでは人が生活する事などできない。

 

『随分寒いみたいだ』

 

「これで人がいないにせよ、この市街地を確保するのは我々に与えられた任務。仕事はやり遂げてこそです」

 

『わかってます、隊長』

 

 ACよりもずっと高い建物が並ぶあたりからは、昔はよく栄えた街だったのだろうと察せられる。オフィスビルと思われるものと、団地に見える複数連なった建物が確認できる。その通りには高速道路だろう、頑丈そうな支柱の上に建てられた道路が数本連なっている。

 

 ここは住宅地というよりも、オフィス街という印象を感じさせた。多く連なる団地も、どちらかと言えば社宅と呼ぶべきものだろう。

 一歩一歩を踏みしめる度に、足元に波紋が広がっていく。汚染されたのだろう街は放棄されているのか、索敵を繰り返しても人っ子ひとりいないと思わせる静寂ぶりだ。

 

『ジャウザー、そっちはどうだ?』

 

「駄目ですね。まるで影もありません」

 

 ゆっくりと歩き、建物の中や影に誰かがいないかと確かめてみるも、本当に誰も見当たらない。

 

『……ん?』

 

 MT-3からの音声が入る。

 

「どうしました?」

 

『少し待ってくれ…レーダーに反応がある。確認できるか?』

 

「見ましょう。どの方角にあります?」

 

『うん、待てよ……北東だな。330メートル』

 

 MT-3からの通信どおりにサブモニターからレーダーを確認する。確かにその方角に、ひとつかふたつ程の反応が確認できる。

 

『稼働状態にあるかは確認できないな…』

 

「直接確かめればいい話です。あなた方はトロットと隊長に共有を」

 

『了解』

 

 回線が一時遮断される。生体センサーの装着されていないこの機体では、反応とは即ち機械物である。それが自動車のようなものか、はたまたMTかACか、それ以上のものかはわからない。

 

『ジャウザー、エヴァンジェだ。もし相手が中立的だった場合、拡声器に接続してくれ』

 

 隊長からの通信が入る。

 

「わかっています」

 

 そのまま、未確認反応に接近する。100メートル前方だ。建物が見え、先程いくつも見かけた団地と同じものだ。

 

『トロット隊もこちらに向かうそうです。到着を待ちますか?』

 

「いえ、この程度の数なら必要ないでしょう。我々で確認してしまいます」

 

 団地の裏側に、それは必ずいる。レーダー反応がそれを指し示しているのだ。

 50メートル。40。35、30、25………。

 

 

『…チッ、バレてやがるぞ!』

 

『構わねえ、ぶっ叩きゃいい!』

 

 

 その建物から飛び出てきた存在…レーダー反応の正体はACが2機。うち1機は二脚型、もう片方はタンク型だ。当然のように銃を構えているが、全て見た事のないものばかりだ。武装もACフレームも。

 

「ACです、見た事のない機体です! 隊長、拡声器に繋げます!」

 

 機器接続をAC外部に設置されたスピーカーに繋げ、そのオーナーをエヴァンジェに譲渡する。

 

『感謝する。 ───「聞こえるか! 私はオラクルII艦長エヴァンジェである。どうか我々の話を聞いてほしい。ACに搭乗したままで構わん」』

 

『な…んだ、こいつら?』

 

『なんだなんだ……どうなってやがる?』

 

 ACは動きを止め、傾聴する動きだ。どうやら困惑しているか、大人しく聞く気があるかのどちらかのようだ。

 

「オラクルIIは、地球から飛んだ船である。この惑星の現地に生きる者達に協力を要請したいのだ。どうか我々の話を聞き、我々に協力してほしい」

 

『何言ってんだこいつ。土着共と仲良くしてえなら、地獄で楽しくやってな!』

 

 敵のACの1機が手持ちのライフルらしき銃を構えたかと思うと、それを向けて放ってきた。言葉から必ず攻撃してくるとは思っていたが、咄嗟の動きで回避するには僅かに反応が遅く、左腕に着弾してしまう。

 タンク型の放ったショットガンはそれよりも遅く発射された為、回避自体は出来たが、後方にいたMT-4に大半が命中してしまう。

 

『うわぁっ!』

『隊長!』

 

「くっ…艦長、彼らに友好の意思はありません! 抗戦しますか!?」

 

『……わかった。お前達が無事に帰れるよう、今から支援を出す。トロットと合流して撤退するか場を繋いでくれ!』

 

「了解しました! 各々、気張ってくださいね!」

 

『り、了解!』

『気張りな、やるぞ!』

 

 機体を垂直に飛び上がらせ、上からタンク型に射撃を加える。見た目に相応の鈍重さらしく、避ける気配は微塵もない。MTが放つ援護射撃のバズーカもものともしない頑丈さのようだ。

 

『そんなみみっちい弾で、キャノンヘッドをぶち抜けるかってんだよ!』

 

 タンクからの反撃が飛んでくる。二連装のグレネードランチャーだろう、曳航を描いて飛ぶ低速弾に当たるわけも無く、機体のEN残量をケアしつつも左右に揺れ弾丸の間をすり抜ける。

 

『飛んでばかりじゃねえぞ!』

 

 タンク型が友軍MTの方に向かっていく中、二脚型は変わらずこちらを攻めてくる。ライフルとマシンガンによる弾幕の形成を避ける事は難しい。

 ジグザグ飛行で敵弾を可能な限り逸らしつつ、ミサイルをロックオンして射撃し、回避挙動を強要させる。双発ミサイルは左右から挟み込むような起動を描き、そのままACに刺さらんと飛翔した。

 

『! っぶねえ!』

 

「何!? なんだ、あの挙動は!?」

 

 横方向への()()()

 パイロットへの負担を全く考えていないとでもいうのか、その特異な回避によってミサイルは両方とも回避される。

 反撃にと撃ち込まれた四連ミサイルは、同時発射数こそこちらのミサイルよりは優れているようだが、誘導は甘い。機体制動によって切り返し回避を行う。

 

『なんだ、ACに乗ってんのにクイックブーストもしやがらねえ。舐めてやがんのか!』

 

 向こうのパイロットは憤っている様子だが、苛烈な攻めの為に反応している暇は無い。そのまま肩部スラッグガンを向け放つ。

 

『うおっ! …っと、散弾か。鬱陶しい!』

 

 だが、スラッグガンの殆どは敵機が肩から繰り出すエネルギータイプと思しきシールドデバイスに防がれた。どうやらAC関連の技術に関しては向こうの方が数段上手のようだ。そのまま飛んできたマシンガンに直撃し、防御用装甲に弾痕を刻まれる。

 

 

『隊長! トロット隊が合流した!』

 

『くっ…ダメだ、もう持ちません、撤退します!』

 

『逃がすかよ!』

 

 MT-4が戦線から離脱しようとする。

 タンク型がそれを阻止すべくその手に持つ大口径砲を放とうとするが、横から飛んできた二発のレーザーキャノンの直撃によって気を逸らされ、そちらに向かざるを得なくなった。

 

『チィ! テメェ、隠れてやがったな!』

 

『そういった状況で伏兵を想定できない貴様らに非がある。機体は高性能だが中身は愚鈍なようだな』

 

『舐めてんじゃねえ!』

 

 四脚のACが建物の屋上からタンク型へ挑発をする。

 

「遅かったですね!」

 

『これでも飛ばしてきた。そこそこ貰っているようだが、まだやれるか?』

 

 トロット・S・スパーの心配を、鼻で笑い飛ばす。

 

「舐めないでください、こんな連中には負けません!」

 

 ACの損傷具合からして、交戦可能な余裕はもうさほどないが、それでも今ここで意地を張り続けなければ、MTパイロット達に被害が出る。

 

『撃て! 隊長たちを援護しろ!』

 

 バズーカが二脚型とタンク型に殺到するが、二脚型はシールドで受け、タンク型は持ち前の装甲で耐えたらしく、目立った損傷は少ない。

 

『なんだ、あのACは…!? 硬すぎる…』

 

「なので私達も難儀しているんです。トロット、あなたの火力が鍵ですよ」

 

『任せろ、なんとかする』

 

 リニアキャノンを構え、市街地を利用した撹乱を行うバリオス・クサントス。こちらも主力となるエネルギーマシンガンを点射しつつタンク型の周囲を旋回するよう動く。そうすれば、旋回性能に劣るタンクから撃たれること無く倒せるのだ。

 

 だが、コア部分がなんの事も無いように180度回転してショットガンとグレネードを発射してくる。散弾によって動きを止められ、グレネードの直撃を受ける。

 幸いにしてエネルギーの弾丸は飛んでこなかった為に貫通するような事態は防げたが、それでもあの規模の爆発をまともに受けてしまっては、機体も無茶を言わせられなくなる。

 

『大丈夫か? 被弾しすぎだぞ』

 

「いえ…すみません。腕をやられました」

 

 ブレードを保持する左腕を破壊されてしまい、動きが制限されてしまう。

 何より驚異的なのは、あのタンク型は上半身を自在に旋回させることで死角を無くすことに成功していることだ。

 これでは、軽装甲型のACがタンク型に勝つ為の旋回戦術が封じられるも同然だ。

 

「ですが…退くわけには!」

 

 ショットガンは見たところ再装填中。グレネードはしばらく動かせないとなれば、残る脅威は両肩の兵装だ。連装型と思しき何かは詳細がわからないが、片方は連装グレネードランチャーである事はわかっている。

 なら、弾頭発射のタイミングさえ掴めば、攻撃の隙間を縫って接近できる。スラッグガンを至近距離でねじ込めば、装甲を凹ませて動作系に異常を与えることはできる。

 

「やるしかありませんか…!」

 

 ENマシンガンを連射し、注意を惹き付けつつも接近する。

 

『死にてえか!ならこいつでも喰らいな!』

 

 やはり来る。

 連装型の方はミサイルだ。グレネードランチャーが予想通り二発、ミサイルが二基放たれ、まっすぐこちらに来る。

 グレネードを回避し、ミサイルを引きつける。弾頭が裂け、内部から八基ものミサイル子弾が姿を見せる。分裂ミサイルだったのか、そう思う間も無く切り返し機動で回避をする。

 しかししつこく食らいついてくるミサイルに背後を突かれる。幸いにも二発、三発しか食いつかなかったらしく、損傷は軽度だ。

 

「捕まえましたよ!」

 

 もたれかかるようにタンク型と密着する。そのコア部と思しき部位の上部から、スラッグガンを直接撃ち込む。

 

『ぐおおっ!? テメェ…離れやがれ!』

 

 かと思うと、急速に後ろに加速する。

 いや、このタンク型自体に高出力のブースト機能が備わっているのか。そのまま速度で振り払われ、汚染水に背中から着水する。

 

「クッ…!」

 

 その姿勢のままブースタを全力で噴かせて後ろへあとずさりしながら、エネルギーの枯渇を無視してマシンガンを撃つ。

 

『やかましい! …チッ、貫通しやがった!』

 

『ヴォルタ!』

 

 少し離れた場所で戦闘していたバリオス・クサントスの合流と共に、シールドを構えた二脚型がライフルとミサイルを撃ち込んでくる。それをなんとか建物に擦り付けてやり過ごした。

 

「はぁ…はぁっ…」

 

『大丈夫…じゃなさそうだな。下がっていろ』

 

「すみません…」

 

 ブースタ移動によって後退する。

 

『てめぇら…オラクルIIって言ったか。あのでけぇ隕石がてめぇらの船なのか?』

 

『ようやく話を聞く気になったか。隊長の艦は君達との友好を望んでいる。多数の内部職員も同じ思いだ。無論我々も。どうか武器を収めて話をしないか?』

 

『………ヴォルタ、帰るぞ。なんもかもあのクソ親父に報告しなきゃなんねえ』

『…おう、そうだな……』

 

『待て、私はまだ話を──』

 

 AC2機はそのまま背を向けて逃げ帰っていく。

 

『勝ったと勘違いすんじゃねえぞ! まずはてめぇらの処遇を決めてからだ!』

 

 二脚型からの捨て台詞と共に、戦闘は終結した。

 かなり無茶な動きをしたせいか、冷や汗以上に息切れをしてしまっていた。戦闘中だというのに、目の前に夢中になりすぎて呼吸を忘れていたのか、私は。

 

『よく生き残ったな』

 

『! …ジャックか』

 

 味方の増援ACが遅れて到着する。重量二脚に巡航型オーバード・ブーストを搭載した軽量コア、特徴的なハイレーザーライフルを装備したそのACは、かつてのアークのナンバー2を飾った男のACだった。

 

「今更、来たんですね…」

 

『見てわかるだろうが、鈍重な機でね。通信は聞いていた、随分と手ごわい相手とやり合ったようだな』

 

「ええ、中々にヘビーでしたよ」

 

 軽口を返す。

 

『ガンカメラ映像から敵機の情報を精査したい。任務は中断だというエヴァンジェの判断だ。帰投するぞ』

 

 ジャックの指示で我々は帰路に着いた。

 

 今回出会った敵、不可解な点が多い。姿そのものは我々のよく知るACタイプのそれだが、機能や武装にあまりに隔絶したというべき隔たりがある。技術格差…と言うべきなのか。

 

『考えている事はわかる。私もレーザーをあの盾で防がれた時、一瞬唖然とした』

 

「…そうですよね。やはり、かなり脅威です」

 

 タンク型の重装甲もそうだ。

 過剰なまでの防御装甲は、まるでAC相手ではなく、何か別の大型の存在と戦うための装甲なのではないかと邪推させるほどのインパクトがあった。

 

「とにかく、考えるのは今度にしましょう。疲れました」

 

『私もだな。MTパイロットに被害が無いのが幸いだった』

 

 後方を走行するMTは、隊内で雑談をしている。戦闘は初めてだっただの、手強かっただの、他愛もない内容だ。

 

 やがて迎えのヘリが来ると、それに乗り込んでしばらくの間休んだ。次起きる時は、報告の時だろう。

 

 

 

 

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