最近彼女は代わった。前は派閥の女子に利用されるだけの彼女が、今では友達とわいわい盛り上がっている。だが、全く喜べない。それは彼女が本物ではないと知っているからだ。
彼女はいつから変貌したんだっけ…
…あのときには既に変わっていた。
そう…あのバカ王子が婚約破棄をした時…
会場の私たちは騒然していた。王子がいきなり婚約破棄の宣言をしたこと…ではない。いや、それも重大事件だがそうじゃない。そんなことよりも彼女の変貌ぶりだ。あんなに高慢だった彼女が別人のように変わっている。
「お言葉ですが、この婚約の意味について殿下はどう考えでしょうか?」
彼女はこの場面でこんな正しいことを言える人間じゃない。もっと感情的で愚かにも美しい女性だったはずだ。決して善人とは言えなくとも、確かな人間らしさがそこにはあった。でも今は、能面を被ったように顔色一つ変えず理路整然と反論している。おかしい…。
よく見ると端々に出る所作も違う。明らかに別人の癖。影武者と思おうにも、目の色までは誤魔化せない。だから…きっと、中身が違うのだ。
私が回想から戻った時には彼女は既に友達と別れていた。今は一人で机で本を読んでいる。どうやら彼女にはまだここでやることがあるらしい。手には小難しい本、おそらくは家の用事に関するものだ。
あれからの彼女は領地の経営にも関わっている。侯爵様は良く任せたなと思う。娘の変貌を見てどう思ったが大変気になるが、見なくともいい深淵を覗き込もうという勇気は私にはない。
「
時折、私たちには理解できない
引きこもり気味の令嬢が、留学してきた皇子が、人間の皮を被った化物に次々と籠絡される様子は恐ろしい。まるで腐爛した匂いに惹かれる虫のようで…。前よりも優しくなったなんて言ってる場合じゃない。このままでは、この国どころかこの世界の全てが彼女の爛れた魅力の前に陥落してしまうだろう。
さてと…もうそろそろ帰ろうか…。私は椅子を引いて出口へ向かう。
すると彼女も立ち上がって此方へと歩いてきた。足がすくむ。出口が同じなだけで私が目的でないと分かっているのに、あまりの恐怖に手が震える。
ああ…! 本を落としてしまった! どうか気づかれませんように!
深淵を湛えた眼を此方へと向けて…
ヒエッ…! ああ、神様お赦しください! どうか私めに御慈悲を!
た、助かった? どうやら落とした本を拾ってくれたようだ…
彼女は此方を見つめてニッコリとしている。怖い…
はっ… お、お礼を言わなくちゃ…
「ありがとうございます」
心の奥底まで見通しそうな眼差しが刺さる。
これは対価を渡せということなのだろうか…!?
「ふふ、そんなに緊張しなくともいいのに。 困ったら私を頼ってくださっていいのよ?」
絶対嘘だ。きっと恐ろしいナニカを考えてるに違いない。目を付けられたというのはこういうのを言うに違いない。
「い、いえ結構です。」
ああ、早くこの学園を卒業したい…。