「なんと!」
カルデア、紫式部が司書を務める図書館の片隅に、その男はいた。
「懐かしきは我が"から騒ぎ"!それも日本語訳とは。聖杯による知識というのも便利なもの。・・・・・・おお!読める!読める!」
「すみません・・・・・・図書館ではお静かに・・・・・・」
「おお!それは失礼。つい、自分の過去を垣間見たことに奮えてしまいましてな!」
「ですから大声は出さず・・・・・・」
「おっと、失敬。しかし、ここは本当に様々な書籍が揃っておられる。よもや多言語対応だとは」
「ああ、はい。職員の方々も多国籍ですから。それに、サーヴァントの皆さんも、いくら聖杯の知識があるとはいえ、母国語で書き取られる方もいらっしゃいますから」
「なるほど。それは納得する理由だ。しかし、こういってはなんですが、私の作品・・・・・・多すぎません?」
指差した棚に並ぶ本は、全て同じ原作者の本であった。
その著者の名は、ウィリアム・シェイクスピア。
「ええ、シェイクスピア様の作品と言えば、世界的に有名ですから。必然的に多くもなります」
「むぅ・・・・・・しかしわかりませんな。何故、このから騒ぎだけが本棚から飛び出ていたのです?」
「へ?」
自らの著作で構成された本棚の中から、シェイクスピアがから騒ぎを手に取ったのは、その一冊だけが奥まで差し込まれずに飛び出していたからだった。
「はわわ・・・・・・もしや、落ちていましたか?」
「いやあ、誰かの戻しが甘かったのだろう。床ではなく、しっかりと本棚から手に取ったとも」
「あのぉ・・・・・・」
「ん?」
「小町様」
「すみません。本を取りたくて」
「ああ!それは失敬」
小野小町は手に持っていた夏の夜の夢を本棚に戻し、ロミオとジュリエットを手に机に戻った。
「・・・・・・なるほど。彼女の戻しが甘かったようだ」
戻された夏の夜の夢は少し本棚から出ていた。
「しかし、時代を越え世代を越え・・・・・・国をも越えて読まれるとは。私も良い仕事をした」
「ええ。はい。シェイクスピア様がお書きになった物語は、今なお親しまれております。演劇の中では右に出る作品がないほどに。演じられ続けております。・・・・・・これは、私も人から聞いた程度なのですが、シェイクスピア様の物語は研究対象にもなっておられるようですよ?」
「そうかそうか!物語の書き手として、演者としてそれほど嬉しいことはあるまい!・・・・・・え?研究対象?」
「はい。英文学の世界では、立派な学問のようですよ?」