がたんごとん、がたんごとん、電車が揺れる。
僕は荷物を荷台に持ち上げたようとした。
だがなかなか届かない。
ここまで苦労して持ってきたキャリーケースはとても重く、今年から高校生になるに
しては165cmと背が低い僕には少々荷が重い。
「文字通りって感じだな」
そう独り言を言ってもくだらないギャグを聞き返してくれる友人はいないし手を貸してくれる見知らぬ人もいない。
これだからこんなクソ田舎は嫌いなのだ。
ぽつぽつと座りながらもこちらに一瞥たりとも目を向けずに手に持っている電子機器に目と耳を奪われている奴らに対してため息を吐く。
うーんうーんと言いながら何度か背伸びをしたらついに届いた。
やっと腰を落ち着かせられると安心しながら四人用のボックスシートの席に座る。
突然だがボックスシートというものは通常のシートより何倍もいいと僕は思っている。
例えば…ドアが開いた時にくる風にイラっとしたことはないだろうか?エアコンが効
いていてちょうどいい温度の電車内に突如来る寒い風に起こされたことはないだろう
か?少なくとも僕はこの経験がある。そのほかにも4人グループなら目的地に着くまで楽しく話をしたりはできたりするだろう。ちなみにこの経験は僕にはない。
まあ一番のメリットはこれだろう。
「やっと出られる」
景色が良くみられる。
目に映るのは今まで僕が過ごしてきた街の景色。
GUも、スタバも、サイゼも、ゲーセンも、商店街も、何もかもない街。
今日、僕はこの町から出て県外の高校に行く。
親にはかなり反対されたがどうにか説得できた。学費が安い、ここを出たら就職に有利、個々の分野では下手な大学よりも質がいい教育を受けられる。そんなこと俺はかけらたりとも思っていないが耳障りだけはいい眉目秀麗な言葉を並べ何とかね。それもこれも全てはこんなクソ田舎から出るため。そう思えば親との話し合いにも、箸にも棒にもかからなかった偏差値からの受験勉強にも身が入るというものだ。
本当に感慨深い、そう思いながら窓枠に肘を乗せる。
ぽけーと外の景色を見ていると見覚えののある建物がいくつか見える。
あ、あそこの図書館...良く母さんと行っていたな。1回だけ借りてた本にカルピスをか
けてしまってそれを隠すために捨てたら死ぬほど怒られたっけ。
父さんが勤めてる市役所はあそこか。父さんの同僚にはよくしてもらってたな。家で飲み会をしてた時はウザ絡みされて心底鬱陶しかったが後日にゲームソフトを買ってくれたからトントンで許してあげたな。
中学は...あそこか。つい先日まで通ってたけどもう懐かしい 。山の上にあって登下校がすごいしんどいんだよな。小学校からの友達と部活帰りに顧問に対しての話題でよく愚痴ってたな。
手持ちのバックからペットボトルを取り出し、飲む。
無味無臭であるはずのただの炭酸がいつもより少ししょっぱい。
レモン味を買ったわけでもないのに。
気を紛らすようにスマホを見るとアルバムにあった写真が見えた。
タップしてみてみると小学校の時に遊んでた友達と撮った写真が出てきた。
懐かしいな。
よく空き地で遊んでたな。クリスマスに買ってもらったラジコンをその日に壊した
な。ゴムで縛ったデッキを持ち寄ってカードゲームしたな。学校帰りにアイスを買い
食いしていたな。みんなで集まって体育祭の打ち上げしたな。卒業ディズニーと称し
て遊びまくったな。
再度炭酸を飲む。
やっぱりいつもより塩辛い。
桜が舞い散る。外は風が強いのだろうか。
気になってもう一度外を見る。
自宅が見える。
庭に見える二つの人影。
人影がこの電車に気づいた。
両親だ。
手を振っている。
手が大きく弧を描いている。
遠くてよく見えない。
景色が滲んで見える。
だけど何故だろうかわかってしまう。
頑張れと言っているのがわかってしまう。
なんでだろうか。
親だからか。
トンネルが近い。
このトンネルを潜れば隣町。
しばらくはお別れ。
とめどなく目から汁が溢れてくる。
「楽しかったな」
考えれば15年を過ごした街。
「んじゃ」
いくら古臭くて、嫌いな街と言っても15年過ごした街。
ならこれぐらいはしてあげよう。
その程度の義理は僕にもある。
「またね」
手を振る。
少しの義理と感謝の思いを込めて。
トンネルに入る。
ゴーと音が反響する。
「まもなくー板野ー板野です」
アナウンスが聞こえる。
目的地まであと2時間。
「頑張るか」
これからも。
「頑張ったんだから」
これまでも。
「できるさ」
いつまでも。
がたんごとん、がたんごとん、列車は揺れる。