アビドスの無能な生徒   作:一般通過色彩君

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全ての始まり

 朝起きて、跳ねた髪を整えたらおにぎり片手にアビドスへ向かう。こんな私でも受け入れてくれる暖かい学校である。そこに漬け込んでいる自分に嫌悪感を抱きつつ、甘えてしまうのは私の弱いところであり罪である。だからこそ先輩は──────

──────考えるのをやめて足を早める。今日は少し遅刻しそうだから。浮かぶたらればを振り払いつつ、今日も無能はアビドスへ歩き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

私、守柄辺ニエは基本的に何も出来ない無能である。

事務作業は得意ではないし頭も大して良くない。戦闘なんてもっての他だ。そんな私でも、ここは受け入れてくれる。

 

砂が舞う校舎へ入っていき、目的地のドアを開ける。

カラカラと乾いた音が響き元気な声が鮮明に聞こえてきた。

 

「おはようございます。ニエ先輩」

「ニエ先輩おはようございます。めずらしいですね、ホシノ先輩より遅いなんて」

 

この砂に覆われて、人もいないアビドスを選んでくれた愛おしい1年生。

 

「おはようございます、ニエ先輩☆ 昨日は夜更かししちゃいましたか?」

「ん、ニエ先輩はお寝坊さん」

 

自分のような先輩がいても、ついてきてくれた頼もしい2年生。

そして

 

「うへ、遅いよニエちゃーん。今日はおじさんのこと叱れないね?」

 

私が焦がれて、羨ましくて、妬んで、憎んで、私を引きとどまらせる存在の3年生

 

「.......おはよう、ございます」

 

私の目に映るすべてが輝くこの教室で、私は笑えているでしょうか。心配させていないでしょうか。

教えてください、先輩。こんな自分に存在意義を与えてくれた先輩。ぎこちないならまた、頬を引っ張ってください。

『笑顔はこうやって作るんだよ』って。

───私はどうすれば、あなたが愛したこの場所のためになるでしょうか。

 

 

 

 

アビドスは借金を背負っている。それも途方もない額の。

それを少しでも減らすために私はバイトをやっている。

今日は建設作業のバイトで働いていたのだが、ミスをしてしまった。

 

「お前さぁ、なんなの?さっきから問題ばかり起こしやがって」

「ご、ごめんなさい......」

「ごめんで済んだらヴァルキューレ要らねーんだよ!分かってんのか!?」

 

私の胸倉をつかみ大声で怒鳴り散らす。

最初は向き不向きがあるからと許されていたが、簡単な土木作業すらおぼつかないとなるとどんどん態度が悪化していった。

そして私の体力が尽きてフラフラになっている時につい、ペンキに足が当たってしまって建築物に思いっきりかけてしまい、このざまである。

 

「お前みたいな落ちぶれた奴にはわからないだろうけどよぉ、これ直すの何万かかると思ってんだ?あ?」

「........わからない、です」

「わからないじゃねぇんだよ、俺は何万かかるか聞いてんだよ。答えろ無能」

「........10万円?」

「25万だ。払えんの?今ここで」

「........ごめんなさい」

 

「ごめんなさいじゃねぇつってんだろ!?謝ればそれで全部解決なんて甘っちょろい考えは社会じゃ通用しねぇんだよ!.......はぁ、もういいわ」

 

おもむろにつかんでいた胸倉を離すと、私のお腹に蹴りを入れた

 

「......ゴフッ!?ゲホ、ゴホ、オェェ.......」

 

思わず後ろに倒れこんでしまい、その衝撃でポケットの中に入っていた財布を落としてしまう

 

「無駄に良い財布持ってんじゃねぇか。どれどれ.......」

「や、やめて......それは先輩が買ってくれた.......」

「誰もこんな汚れた財布なんか盗らねぇよ」

 

そのまま財布の中をあけると入っていたお金を抜き取って、投げ捨てるように財布をこちら渡した。

 

「今日のやらかしはこれで勘弁してやるから今日はもう帰れ。役立たずの無能に金渡せる余裕はないんでね」

 

そう言うと工事している建物の中へと進んでいった。

私は土で汚れてしまった財布を大切に握りしめて、今にも泣きだしたくなる弱い自分を押し殺してその場を去った。

 

 

 

 

 

 

残ったお金は900ちょっと。とてもじゃないけど生活していくには足りない。

生活費を確保するために、私は趣味であったカメラを売り払った。

古いカメラだったからあまり高い金額で売ることが出来なかったけど、多少の生活費は稼ぐことが出来た。

 

先輩が選んでくれた、とても大切なカメラだった。

 

 

 

次の日、私は別のバイトに出かけた。

飲食店のバイトだ。給金が高く久しぶりにちゃんとしたお金が貰えるとうきうきしていた。朝のうちは。

 

バイト先へいってみると明らかにキヴォトスの風営法に違反しているような店だった。お客さんの目がみんなギラギラしていて怖い。

店長からは客から何かされても抵抗しないように厳命されて、ここがとんでもない店だと気付いたときには、もう遅かった。

 

「そこの店員さん、ちょっと良い?」

「わ、私ですか.......?」

「そうそう、君みたいな幸薄そうな娘が僕はタイプなんだよ」

 

「.........んッ」

 

私のお尻に手を伸ばして優しく揉みしだいてくる。嬲るようにネチネチと.....。

 

「君の胸も実に素晴らしい。大きすぎず小さすぎない。僕の理想の胸だ」

「んむぅ!?....お、お客様?私は少々仕事がありますのでぇ......!?」

 

何が楽しいのか私の胸を揉みしだき、理由を付けて逃げようとしたところで私のアソコに指を滑らした。

 

「まぁまぁ、ちょっとぐらい良いじゃないか。ほら、横に座りなさい。君が一人いなくなったところで何も変わりはしないよ」

 

私は渋々横に座り、お客様の愛撫を受け続ける。

 

「んっ、ふぅ。んむぅ...........!」

 

「声を我慢しちゃって、いじらしいじゃないか」

 

ねちっこい愛撫は私からいやらしい声を出させようと躍起になるように時間が経つにつれ激しくなっていった。

 

30分ぐらい愛撫に耐えていると。

 

「.......もう我慢できなくなってきた。君、付いてきなさい」

 

お客様はそう言うと私の腰を抱きながらどこかへ歩いていった。

着いた場所は店の端っこにあるトイレ。そこの個室に無理やり入らされてしまう。

 

「え、あの、ここトイレ.........きゃっ」

 

ガチャリと個室の鍵を閉められ、私の純潔はあっけなく散って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、グスッ、ヒグッ」

 

悔しさと虚しさと無力感に苛まれて泣きそうになりながら、私はトイレを掃除して業務へと戻った。アソコの痛みと妊娠の恐怖に蝕まれながら。

 

 

 

給金はちゃんと払われ、一気に20万近く手に入れることが出来た。とても痛くて怖かったが、ここまで給料がいいならまたやるのもありかもしれない。そんなことを考えながらアビドスへ向かう。

 

「ただいま戻りました」

 

教室のドアを開けて中に入る。

いつものように明るい笑顔が輝く対策委員会がそこにはいた。

 

「おかえりなさい、ニエ先輩。バイトお疲れ様です☆」

「今日のバイトはすごく頑張って192000円も稼いできました」

「わ~すごいです!なんのバイトをしたんですか?」

「普通の飲食店ですが今日はとても調子が良くて、だいぶ色を付けて貰えました」

「すごいよニエちゃん。この調子でいけばすぐ返済できるね~。......でも」

 

ホシノさんの目が馴染みのる目つきに代わり

 

「無理、してないよね?」

 

「......ひどいですよホシノさん。無理なんかしなくても、私だってみんなのために稼げるんですよ?」

「......なら、いいよ。うへ、今日はお祝いだ~」

 

やはりホシノさんは鋭い。でも、私がみんなに必要とされるためには文字通り身を粉にして働かないと、だめなんです。私は無能だから。ホシノさんみたいにはなれないから。

みんなや先輩が必要としてくれるだけで、私は幸せなんです。

 

 

次の日のバイトは再び飲食店。ここはがっつり風俗店。

もう私は非処女、いちいち貞操なんて気にしてられない。そう振り切って私は接客をした。

けれどその覚悟を無駄にするかのように今日のこのバイトは軽い接客だけで終わってしまって、どこかほっとしたような空回りしたような気分になる。

 

次のバイトを探していると、全身黒ずくめの少し怖い大人から直接依頼をされた。何やら実験に付き合って欲しいらしい。

期間は一週間と長いけど報酬は約250万と破格だった。

私はバイトで一週間アビドスに戻れないということを連絡し、黒ずくめの男についていく。

 

 

 

 

そこで行われる実験は多彩で凄惨なものだった。

採血から始まり様々な投薬により快楽と幸福感に苛まれ、耳や目に直接音声や不思議な映像を流されて意識が虚になり、ヘイローを直接触られるような不気味な感覚を味わい続ける。

 

解放された時には息も絶え絶えで報酬を受け取った時に喜ぶ元気も無かった。

学校にいく前に少し休憩をしようと家に帰る。そして洗面台で気が付いた。

 

「……………え?」

 

耳と尻尾が生えている。

セリカさんのような黒い耳、ゆっくりと動く黒い尻尾。

恐る恐る触ると、むず痒いような感覚と共に現実を私に叩きつけた。

 

こんな姿で皆んなには会えない。皆さんに心配をかけさせる訳にはいかない。

パニックになった私はどうにかしようと耳や尻尾を隠そうとした。けれど、ついさっきまで無かったものを制御なんて出来る筈もなく上手く隠せない。

 

私は意を決して台所へ向かい、包丁を握る。

 

「フーッフーッ………!」

 

左手で耳を上に引っ張る。右手で耳の根本に刃を当てる。手が震える。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あァァァァァァ!!!!!」

 

ブチブチブチと筋繊維が切れる音がやけに響く。

ポトリ、と赤黒い耳が地面に落ちて小さな赤色の水たまりを作る。

 

痛い、熱い、苦しい。

目からとめどなく涙が溢れる。

それでも間髪入れずにもう片方の耳に刃を当てる。

揺らぎそうになる心が迷う隙を与える前にもう一度耳に刃を入れていく。

 

先ほどと同じように筋繊維が切れる音がして、ポトリと落ちた。

 

「うあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ………い゛だ い゛、い゛だ い゛よぉ………」

 

泣き言を叫びながら血を止める為に耳があった場所を布で押さえて多少の止血をした後、頭に包帯を巻く。

 

血塗れになった水場を水で少し流した後、包丁を持ったまま風呂場へ向かう。

服を脱ぎ裸になり、鏡に背を向ける。

尾てい骨には黒い尻尾が生えており、下にだらんと垂れ下がっていた。

耳と同じ要領で尻尾を伸ばすように引っ張り、根本へゆっくりと刃を下ろす。

 

尻尾は神経の塊らしい。ふとそんな話を思い出した。

だからだろうか、耳よりも刃が触れている感覚がより鮮明に思える。

そんな事を思った所で、もう止まれない。

触れていた刃に、力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

酷く痛む頭と尻を抑えつつ、血がついてしまった顔と手を洗って対策室へ向かう。

自分はきっと浮ついた顔をしているだろう。何せこんな大金を稼いだのは初めてだからだ。

246万をもってここまで来るのは少々怖くもあったが、何事もなくアビドスヘ着くことができてうれしい限りである。

だからこそ私は、私を苛み続ける痛みにだって耐えられるのだ。

 

「皆さん。ただいま戻りました」

 

「お~。おかえりニエちゃ.....ん....?」

 

みんなが私を見て固まっている。

何故だろうか。もしかして私がもってきたアタッシュケースに驚いているのだろうか

 

「みなさん見てください、私頑張ってこんなに稼いできました!これで今月の利子はなんとかなると思います。これで少し余裕ができたと思うので皆さんで焼き肉とか水族館とか行ってきてください!それから......」

 

「......ねぇニエちゃん。その頭に巻いてる包帯、何?ファッションだったら趣味悪いからやめといたほうが良いとおじさんは思うな」

 

「この包帯ですか?ちょっと仕事でケガしちゃっただけですよ。気にしなくても大丈夫です。そんなことよりもほら、見てくださいよこのお金の量!私が今まで足引っ張てきちゃった分取り返そうと必死で、頑張って.......!」

 

「ッッツ!!」

 

「........落ち着いて、シロコちゃん」

 

シロコさんが怒っているような苦しいような表情で立ち上がろうとした時、ホシノさんがそれを止めた。

 

「な、何かまた余計なことしちゃいましたか.....?ごめんなさい、私役立たずで......」

 

「いや、大丈夫だよ。頑張ったね、アビドスのためにたくさんお金を用意してくれて。───ありがとう、ニエちゃん」

 

私の手を優しく握って、『ありがとう』といってくれた。それだけで憧れた背中に少しでも近づけたのだと思えた。

 

「うへ、ニエちゃん今日はもう休んでいいよ。疲れたでしょ?家でゆっくり休んでまた明日元気な姿をおじさんにみせてほしいな」

 

「あ、はい。分かりました。それでは皆さんお先に失礼します」

 

「うん。また明日~」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「.......ホシノ先輩」

 

「わかってるよ。明日、ちょっと皆でニエちゃんのこと尾行してみようか」

 

ニエが巻いていた包帯にはかなり血が滲んでいて、かなり最近ということが明白だった。

手や顔は少し湿っていたし、何かを洗い流したのだろう。

昔からニエはどこか危ない雰囲気があった。けれども単独行動を許していたのは本人の強い望みからだった。

『私は戦闘も事務もできないから、せめてその代わりに色々な単発バイトなどでお金を稼ぎたいです』

かなり不安だけど戦闘とかに入ってこられるよりかはマシだと信じて送り出したが、さすがに我慢の限界だ。

 

「うへ、異論はないみたいだし明日の予定はニエちゃんの尾行にしよう。何かあった時のために、戦闘の準備は忘れずにね」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

『ねぇ、ニエちゃん。私はどうして死んだの?』

 

先輩が問いかける。

 

『私、ニエちゃんに沢山よくしてあげたよね?』

 

先輩が問いかける。

 

『なのに、何も返してくれないの?』

 

先輩が問いかける。

 

『やっぱり、ニエちゃんはこのアビドスには─────────』

 

 

『──────────一番、要らない子だよ』

 

 

 

 

 

 

ベットから飛び起きる。

気持ち悪い寝汗と吐き気が私を苛む。

最悪の寝起き。

けれど、それでも私は止まらない。止まっては、いけない。

時計を確認して、私は次のバイトの準備をする。

 

 

無能な私が出来る、せめてもの存在理由だから。

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