小鳥遊ホシノに恋をした。
いつか、この思いが届くことはあるのかな。
なかったら、いいな。
同期の病弱訳アリ少女が曇ったり曇らせたりするお話。
(超不定期更新)
ホシノちゃんとドロドロに百合してる小説が欲しかった。
見つけられなかった。
ちょっとだけ書いた。
夕暮れの光が、窓から細く差し込んでいた。砂に削られた街は静かに冷えていく。危ない人達はアビドスが暮れに近付いてくると、遭難を怖がってあんまり外に出ない。
今日のパトロールは早めに終わるかな。
終わるといいなぁ。
部屋の中に置かれた時計の音だけが、やけに大きく聞こえる。私はソファに座りながら、窓の外を眺めていた。
体調は悪くない。
朝から熱も低かったし、息苦しさも少なかった。立ち上がっただけで目眩がするような日もあるけれど、今日はそうじゃない。
だから少しだけ頑張ってみた。
台所に立って、ご飯を作って、お風呂まで沸かせてしまって……
「えへへ……まだかなぁ」
勿論、私よりの何倍も、何十倍も頑張ってるあの子の前で偉そうにはできないけれど。
あの子の為に行動できたことがただ嬉しい。
帰ってきたら喜んでくれるかな。最近、夜遅いから疲れてるだろうし、私が負担にならないようにしないといけない。
そんなことを考えていると。
玄関の扉が開く音がした。
「……戻ったよ、ウツロ」
聞き慣れた声。
低温で、それでいて安心する声に思わず顔が綻ぶ。
「おかえり。今日は早かったねぇ」
少しも息を切らしていない買い物袋を提げたホシノちゃんが部屋へ入ってくる。やっぱりホシノちゃんは凄いなぁ。毎日悪い人達と戦ってるのに、ホシノちゃんが怪我をしているところは1度も見たことがない。
私が同棲しているホシノちゃんは本当にすごい人だ。
私や先輩が二人がかりで頑張ってもできないことを、涼しい顔をしてやってのける。それを何でもないように振舞ってる姿はカッコイイし……本人に言ったら怒られちゃうからあまり言わないけど、可愛い。
ホシノちゃんを出迎えると、ほんの少しだけ表情が柔らかくなった。
その小さな変化を見つけるのが好きだった。
「うん。今日は早く終わったから」
「そっかぁ」
私はにこにこと笑いながら立ち上がる。
そして胸を張った。
「ふふ、ねぇ。なにか気づくことはある?」
「さぁ、なんだろうね」
わざとらしく聞いてみるが、ホシノちゃんはうわの空で装備を脱いでいく。ホシノちゃんに適当に扱われていると、仲良くなった気がしてつい頬が緩んでしまう。
絶対気付いてないな〜。
だから私は嬉しそうに両手を広げた。
「ふふ、ふふふ。見て見て、じゃーん」
テーブルの上。
並んだ料理。
簡単なものばかりだけど、それでも頑張って作った。あんまり長時間立ち上がることはできなくなったけど、今日みたいに調子が良い日なら私だって少しくらいは役に立てるのだ。
ホシノちゃんの目が少し見開かれる。
それだけで胸が温かくなった。
「今日はね? 少し体調が良かったから、毎日頑張ってくれてるホシノちゃんの為にお料理を作って――」
そこまで言ったところで。
ぐらりと視界が揺れた。
「あっ……うっ……」
足元がふらつく。
しまった。
思ったより疲れていたらしい。今日は調子が良いから、大丈夫だと思ったんだけどな。
「っ大丈夫!?」
気付いた時にはホシノちゃんが駆け寄っていた。
肩を支えられる。
近い。
お日様の良い匂いに混じって、火薬の匂いがする。
「だ、大丈夫だよ。そんなに心配しなくても――」
「心配するに決まってるでしょ!?」
強い声。
思わず目を丸くした。
ホシノちゃんは私の肩を掴んだまま、苦しそうな顔をしていた。
「ウツロは動けないんだから――!」
その言葉に、胸が少しだけ詰まる。
私は皆みたいには動けない。
走れないし、戦えないし。少し動いただけで息を切らすような、何の役にも立てない情けない存在。
最近軟弱具合が酷くなったけど、私の無能は昔から変わらない。
ユメ先輩がいた頃も。
今も。
「……ぁ、ぅ……っ……お願い、だから」
ホシノちゃんの声が震える。
「変なことしないでほしい。ご飯だって私が作るし。掃除も洗濯も、本当なら私が全部っ――……っ」
言葉が途切れる。
私は思わず目を伏せた。
また迷惑かけちゃった。
最近はずっとそうだ。
ユメ先輩がいなくなってから、ホシノちゃんは私のことばかり気にしている。本当は自分だって苦しいはずなのに。
ダメダメな私が頑張っても、やっぱりダメな結果にしかならないのかもしれない。
あの時もそうだったみたいに。
「……ごめん、なさい」
自然と口から零れた。
「ホシノちゃんに何か返してあげたくて……」
だって。
本当に何も返せていないから。
「その、馬鹿でごめんね? 役立たずのくせに、思い上がって……またこうしてホシノちゃんに迷惑掛けて……」
「それはっ、違う」
即座に返ってきた。
ホシノちゃんは怒っていた。泣きそうな顔で何かに怯えるみたいに、唇を震わせて。
「役立たずなんかじゃない」
私に言うというより、自分に言い聞かせているみたいだった。
「ウツロが居てくれるだけで――」
そこで言葉が止まる。
何かを飲み込むみたいに。
苦しそうだ。苦しいと思う。
私のせいで。
……ごめんね。
「……私は満足してる」
静かな声だった。
ホシノちゃんは強すぎるんだ。自分の苦しみも、周りのことも抱えて、それでも何とか歩けてしまう。苦しいはずなのに、酷い現実に叫び出したいはずなのに。
傷付いたまま歩き続けられてしまう。
平気な顔をしてはいるけど、ホシノちゃんは深く傷付いたままだ。
ユメ先輩がいなくなってから、ずっと。
私はそれが堪らなく苦しい。
「……うん。わかってる」
私は頷いた。
「いつもありがとね、ホシノちゃん」
ホシノちゃんは何も言わなかった。
ただ少しだけ目を逸らした。
「……変な空気になっちゃったけど、食べてくれる? お風呂も沸かしてあるから、先にお風呂でも――」
「先に食べるよ」
即答だった。
「ウツロが作ってくれたんだから」
その言葉が嬉しくて。
思わず笑ってしまう。
「そ、そう?」
「うん」
「えへへ」
胸の奥が温かくなる。
「じゃあ、食べよっか」
そう言いながら席に着く。
向かいにはホシノちゃんがお行儀よく座っていて……
それはきっと、私にとっては幸せな光景だった。
だからだろうか。
ふと、思ってしまう。
もし。
もしもユメ先輩がここにいたら。
三人で笑えていたのかな、と。
そんな考えを振り払うように、私は首を横に振った。
駄目だ。
ホシノちゃんの前で悲しい顔はしたくない。私が苦しんだ分だけ、ホシノちゃんも苦しんでしまうのだから。
私は笑う。
ホシノちゃんは笑みを浮かべた私を見て、少しだけ首をコテンと傾げた。
……良い事なんてひとつもない、なんて考えていたら。きっとユメ先輩に怒られてしまう。
だから、こんな何気ない時間を大切にすべきなんだろう。
「はむっ……。お、美味しい……! 前食べた先輩のお弁当と、同じ味……」
「えへへ。実は先輩のお弁当は私が作ってたんだよ? 昔はもう少し元気で、お料理もできたんだから。えっへん」
目を丸くして、そしてどこか苦しそうに笑顔を浮かべるホシノちゃん。笑えないなら、笑わなくていいのに。無理しなくてもいいんだけどな。
――――あぁ、でも……やっぱり好きだなぁ。
私の料理を頬張るホシノちゃんの姿に、胸の中からふわふわと暖かい気持ちが溢れてくる。
ごめんね。私が居るせいで苦しいのはわかってる。本当なら早くホシノちゃんから離れるべきだってことも。
それでも。私はこの幸せな時間を手放せない。
「ごめんね。ホシノちゃん」
幸せだった、三人が揃っていた頃から本当に多くのことが変わってしまった。
でも、変わらないものもある。
心の底から笑ってくれている方が嬉しいけれど。
もはや変わってしまったことの方が多いくらいだけれど。
入学式の日からずっと、この思いだけは変わらない。
書き溜めはありません。プロットはちょこっとあります。
今はユメ先輩が亡くなって、数か月ほどが経ったくらい。
早くイチャイチャさせたい。自認悪い女なウツロちゃんに求められるがまま流されて後悔と罪悪感で頭ぐちゃぐちゃになってほしい^^ お互い心の中で泣いてたらもっとグッド。
ハピエン厨なので最後まで書けたとしたらハピエンになるでしょう。