ついヒロ!!   作:雀鉄砲

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17話 メンヘラ

 さーてあはははのは〜!セイナがダンボールを使ったことでもうダンボールに入ってて〜みたいなことはもうないだろう!あーはっはっ!

 

 そう俺は理解してスキップをかますと何度も苦しめられた路地裏があった。

 

「まぁ?今の俺は無敵だから?ダンボールなんてあるわけ…」

 

 そこにはダンボールと死んだ目をしているクソデカリボンをした女がいた。

 

 …俺も同時に死んだ目をしたのだった。

 

 

「死にたい…」

 

 これが彼女の口癖らしい。

 なんか立ち去ろうとしたら、とんでもない力で逃げようとする俺の服をむしってきたので酒屋で話を聞くことになった。

 

 どうでもいいが、俺のお気に入りだった服を弁償して欲しい。まぁどうでもいいが。

 

「死にたい…」

「…」

「死にたくなりました…」

「…」

「死にた「ダァァァ!!もううるせえな!名前くらい名乗れよ!」

「ダフテルです…死にたいです…でもオムライス食べてから死にたいです…」

 

 …なんか俺も死にたくなってきたな…死のうかな…

 

 と行かん行かん…彼女のペースに飲まれるな…俺!

 

「死にたい…」

「…どうしてだ?もしかして…追放でもされたか…?」

「…」

 

 ビクッと身体を震わせるダフテルさん。

 …とりあえずビンゴか…と思っているとダブテルさんは身体をワナワナと震わせ手を振り上げた途端、

 

 ドゴォォォン!!!!!!

 

 そんな大きな音と共に地上から500メートルくらいが陥没したのだった。

 …なるほど今回は馬鹿力チート野郎ね、なるほど。

 

「私!!リーダーとして頑張ったんですよ!!なのにどうして追放されるんですか!? 『君の力は無能すぎるからいらない』ってどういう意味ですか!?あの浮かれち○ぽ、次あったら粉々の粉微塵にしてモンスターの餌食にしてやりますよ!あーもーー!!!死にたいです!!」

 

 うわぁぁぁぁぁん!!と泣き出すダフテルさん。

 …多分今泣きたいのは、この酒屋の店主さんじゃないかな…って泣き声うるっせぇな!!

 

 そのあと俺は、貯金プラス借金して酒屋に弁償額を渡した…

 とりあえず、ダフテルさんは…

 

 うん!放置でいいな!

 

 

 次の日の朝、布団が重…うん!知ってたよ!クソが!

 

 涎を垂らして上で眠っているダフテルさんがいたのだった。

 

 …それでなんで俺は半裸なの?服は?

 

 

「うぅ…!あなたは命の恩人デスゥ!ありがとうございますぅ!こんな死にたいしか言わないこんな筋肉しかないメンヘラを引き取ってくれてありがとうございますぅ〜…!!」

「うるせぇ!!引き取るも何も決めてねえし、第一メンヘラって自覚あるなら直せや!!」

 

 …側から見たらDV彼氏とその被害者の彼女に見えるのかな…と何故かめちゃくちゃ冷静だった俺は、クロ達を待っていた。

 どうせ、至る所に監視用の魔道具が置いてあるんだから早くきてくれ〜と俺は手を振りSOSを出す。

 

 …気のせいか?なんか監視用の魔道具増えてる気がする…

 

 そして5分くらいしたらドアからコンコン、とノックをして「やっほ、来たよ」とクロが呑気な声を出して入ってくる。

 

「…私、お邪魔?」

「えっ?」

 

 …あの、ダフテルさん、男のまたぐらに顔を埋めて腰に腕を回すのはどうかと思うよ…ってメキメキって僕の腰なってる!!痛い!痛い!たっ!助けてぇ!クロ様ぁ!!

 

 

 何とか一息ついた俺は命の危機を感じたのでダフテルさんをクロの方にソファーに座らせて話をする。

 

 クロはお茶を出すと何故か俺の方のソファーに座るとくっ付いてくる。

 

 いやクロさん?何でこっちに来てわざわざくっ付くの?

 

 そして上品にお皿とカップを持ち、香りを堪能したあと静かに飲むダフテルさん。

 

「…とりあえず…落ち着きましたか?ダフテルさん。」

「…はい」

「何故ここに居るんですか?」

「気づいたらここに…なんか償わないといけないと思ってあなたを夜中ずっと探していて匂いと髪の毛と足跡と魔力のマーキングをあなたにつけて…着けて来ました…」

「……」

 

 思ったよりやべえの来たな…どうすんだこれ…

 何故か俺は他人事のように思っているとクロが裾を引っ張り「償わないと…って?」と聞いてくる。

 

 そして俺は酒屋に行ったこと、ダフテルさんが酒屋の床をぶち抜いたこと、それで俺の有り金と借金して何とか話をつけたことを素直に話すとクロは「ふーん?」と眉をひそめる。

 

「つまり無一文、私達のヒモ、なるつもりなんだ?」

 

 …言い方よ…と思ったがぐうの音も出ないので飲み込むしかなかった。

 

「悪いと思ってるよ…パーティメンバーでもない俺がこんな節操ないことしてるって…」

「えっ」

「えっ」

 

 …なんか誤解があるようだから俺は淡々と説明する。

 

「いやだから…今のお前は幸せだろ?だったらいつ追放してもというかされても構わないというか…」

「…」

 

 …あれ、なんか俺おかしなこと言ってるか…?と思ったがクロは表情が沈んでいき顔を俯かせる。

 

「…死にたい」

 

 クロさん!?

 

「あーん!私話に置いて行かれて私いらない子です!どうせ私なんか力しかない借金メンヘラ女です〜!」

 

 わんわんと泣き出すダフテルさん。

 

「死にたい…」

「死にたいです…」

「死にたい…」

「死にたいです…」

 

 …死にたい…

 

「みんな殺して私も死にます…」と拳を振り上げるダフテルさん…

 あー…やべえ本当に死…って待て待て待て待て!!

 

「そこまでですよ〜」とダフテルさんを透明のバリアに閉じ込めると同時にドアの方向から声がする。

 

 セイナが杖を構えていると「やれやれ…」と首を横に振る。

 

「全く…シンカさん!」と俺はセイナにコツンと杖で軽く小突かれると「まずクロちゃんに謝ってくださいね」と俺は注意される。

 

「なんで」

「なんでもです〜それくらい気付いてくださいこのヒモクソニートさん。謝らないと養ってあげませんよ〜」

 

 …いや養わなくてもらってもいいんだが…と俺はそう思いながらクロに振り向く。

 

 そこで俺はハッと気付く。彼女の瞳に僅かに涙が出ていた。そこで無神経にも追放という言葉がどれだけ重いかに気づく。

 

 …くそっ!

 

「ちょっ、シンカさん!?」

 

 俺は自分の頬をぶん殴り自分を戒める。

 

 身をもって知ってるだろ…追放されるのがどんなけ悲しいか…

 自分の無力さを突きつけられ、どうすればよかったのかという虚構が身体を包むことを。俺がその側に回るとか烏滸がましすぎるだろうが…

 

 ふぅ…と息を吐きクロに土下座する。

 

「ごめん、改めて言わせて欲しい。お前を幸せにして追放させる…お前が幸せだって言うまで俺頑張るから」

 

 俺は顔を上げずクロにひたすら地に頭を擦り付ける。クロは何も言わない…まぁこれで追放されても一興か…と思ったが後ろからセイナの「おやおやおや〜クロちゃん…」と言う声が聞こえる。

 

 なんだ…?と思った俺は顔を上げた瞬間

 

 バリン!!と謎の音、何かが割られる音がする。

 

「うぅ…バリア割っちゃいました…」

「…うっそ…」

 

 セイナがバリアを割られたことを信じられないと言う表情を浮かべる。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!なんか割りたくなってしまって…」

「いやいいんですけど……あなたどこかで…」

 

 と、セイナがダフテルさんの顔を覗き込み顔をしかめると「あぁぁぁぁぁ!!」と思いついたように声を荒げる。

 

「思い出しました!あなたS級パーティ、剛拳にいた団長さんですよね!?」

「ほえっ?なんで私を知って…というかそう言うあなたはS級パーティ、賢者の…」

「あれ〜!?でもなんか雰囲気が前とは違って…」

 

 …なんかあそこでコネクトがあるらしく2人は話に花を咲かせていた。

 

 S級パーティ…なんか、こんなぽんぽん追放されて大丈夫なのかな…?いやなんか勇者が異世界から召喚されたとかいうし大丈夫なのかなぁ…

 

 そうして俺は2人のお花畑帽子化け物とクソデカリボンメンヘラ化け物の2体が会話に花を咲かせているのを静かに見ていたのだった。

 

 こつん、と俺の背中に頭が預けられるのを感じると「ん、何も聞かないで」とクロの声がする。

 

「まだわたしを捨てないで…」

「……」

 

 彼女の言葉はどこか年相応な少女の言葉。

 

 俺は返答に困りながらも内心、さて、俺の人生どうなっちまうんだよ…と俺は自分の人生について耽り、二つ返事で答えた。

 

 

 ー蘇芳咲良視点ー

 

 今日はいつに増しても、夜が深いように感じた。

 

 城の裏庭。誰も寄り付かない、荒れた訓練場。

 

 月は陰り、風はなく、静寂がしんしんと降り積もっていた。

 

「――ッ、ハッ、……ッ、ハッ!!」

 

 髪を結い上げ、魔力を圧縮し、ただひたすらに斬る。振る。構える。

 

 握る木刀には血が滲み滴っていたが、もはや痛みは感じなくなっていた。

 

 みんなには秘密で、私はここで鍛えていた。誰にも知られず、誰にも見られずに。

 

(もっと強く……もっと、もっと……)

 

 刃を振るうたび、思い出される。

 圭は、才能が凄まじくスキル、剣聖と賢者、更に勇者などを身につけて、みんなから慕われながら段々と力をつけていく。

 

 それに対して私はなにもなかった。ただ、スキル剣聖があるだけ。

 十分凄いらしいが、私にとって圭と比較してそう思えなかった。

 

 圭の背中。笑う仲間たち。あそこにあるのは元の世界に置いてきた私と"お母さん"だったあたたかいものがあるように思った。

 

 未だに、何故私たちは召喚されたのはわからない。だからもう自分には、いつになるかわからない。だから、もう届かないと分かっていた。

 

 ――だから、力を。代わりにそれを。

 

 

 

「……努力は、報われるといいね」

 

 

 

 その声は、風もなく響いた。

 

 振り返ると、そこには黒いローブの人物が立っていた。

 顔は見えない。フードの奥は闇に沈んでいる。

 

「……誰?」

 

「誰でもない。けれど、今の君の望みくらいなら――聞いてあげられるかも…?」

 

 ローブの人物は、静かに手を差し出す。

 その手は白く、人間のものだった。けれど、異様に冷たい気配を纏っていた。

 

「君、強くなりたいんだろう?手に入れたい物のために、誰にも負けないくらい。

 何も奪われないくらい。誰かを傷つけても、壊しても…」

 

「……うるさい」

 

 私は吐き捨てる。が、その手は震えていた。

 

 言葉を続けられなかった。何も言い返せなかった。

 

 なぜなら、それが全部、本心だったからように感じるからだ。

 

 

 

「君のその心の中にある刃は、“宿り”がある。母への想い、君の怒り、痛み、哀しみ。

 それを、ちゃんと目覚めさせてあげるよ」

 

「…………」

 

「ただし、代償は必要だ。もしかしたら、君の何かが壊れるかもしれないけどね。

 君の心は失われるかもしれない」

 

 

 

 私は、ほんの少しだけ迷った。

 

 圭や良くしてくれる人たちのこと。

 

 けれど。

 

 母の顔が脳裏によぎり、

 

 ――すぐに、頷いた。

 

 

 

「……いらない。届くのなら、そんなの」

 

「いい子だ」

 

 黒ローブの人物は笑ったようだった。

 

 そして、私の胸にそっと触れた瞬間――

 

 空気が変わった。

 

 月が一瞬だけ赤く染まり、

 咲良の背に、黒い魔紋が浮かび上がる。

 

「んっ…」

 

 彼女の目から、ゆっくりと光が失われていった。

 

「…あはぁ…♡」

 

 その場に残ったのは、狂気と力を孕んだ新しい“魔”だけだった。

 

 私の、暴走はこの夜から始まった。

 




 読了していただきありがとうございます。また次回もよろしくお願いします。
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