「ェェェェェェェ!!!???」
むにゅううううう!!と言うとんでもない音と共に、顔に押し当てられた胸が俺を襲う。
「きゃっ…///」
うおっなんかすげえ可愛い声が聞こえたぞ…!!
そして柔らかな温もりが顔から消えるとそこには鬼気迫る女の子の顔がある。
「くそっ…ぅぅぅぅぅ…!!!死ねェェェェェェェ雑魚シンカぁぁぁぁぁ!!!!!!」
そうまるで憎悪を孕み、赤面した顔をして…なっ!?なにぃ!?
めちゃくちゃ胸がぶるん!とか音を立てて動いてやがる!?あんなの初めて見たぞ!?スライムが移動してる時並みに動いてんぞ…!?
その時、高速フル回転で俺のIQ五千万(※嘘)が弾き出した答えは一つ。
…まさかコレは…ノーブラ…だと!?
…スゥゥゥゥ…ノーブラダァァァァァァアアアァァァァァァァァァァァ‼︎
「シネ…?誰に向かって言ってるのですかこの乳は…」
そういうとドスの効いた声と共に片腕で折れた剣を持つ腕を握り締めて止めるミナミさんの声がする。
「ししょーから離れてください」
そう言い片腕でその女の子を路地裏にぶん投げるミナミさん。その際にドスんっ!!という音を立てて土煙を立てると「けほっ…こほっ…!」という咳払いの声がする。
「くそっ…この身体になってからか、まともに動けねえ…!」
「さて…どう痛めつけて欲しいです…?」と手をポキポキと鳴らすミナミさん。
「まっマテくださいミナミさん。そのおっぱ…その子の話を聞いてもいいんじゃないですか?」
「ししょー?何を言ってるんですか!?このクソビッ…乳しか栄養がいかずに脳がスッカスカな──」
ミナミさんは一度、そこで息を吸い込み、笑顔になった。
…え、笑顔?え、目に光が満ちてないんだけど怖。
「──ししょー、愛しています♡」
うん知らないし、興味もないねぃ。
ただ、安心したのも束の間、次の瞬間その笑顔のまま、声だけがドス黒く落ちる。
「この愚かな野蛮乳牛クソアマが…ししょーに触れるなんて百年早いんですよ死ね死ね死ねボケカスカス女が死ねぇぇぇ!!!!」
…言葉を選んだのかな…?それでもやっぱり死ぬほど口は悪いぞ?師匠泣いちゃうぞ?…いや師匠じゃねえんだけど…
「い…いや、俺の名前を知ってたりと色々不可思議なことが起きてるから事情を聞かないとわからないですし…ほら並々ならぬ事情があるかもしませんよ?」
「はい!♡♡♡ししょーの言う通りです!♡♡♡」
!!!!!!!!!!!!??????????????
怖いって!!こわいよぉ!!さっきから君は俺の一瞬で何を感じたの!?怖いって!!
そんな思いを抱えながら俺は路地裏にいる彼女の方を見る。
「えーっと…君はどうして僕の名前を知ってるのかな…?」
「…れ」
「えっ?」
「黙れ!黙れ!僕がどんな辛い目にあったか知らないだろぉぉぉ!!??」
「うん、知らないね。」
彼女は悲鳴をあげるかのように叫ぶ。小さくつぶやく彼女の声に聞き覚えがある。あの、聞く者をイラつかせる妙に鼻にかかった声だ。
「僕は自身の所属していたパーティから追放された!!」
「ソウスカ」
「そしてやれ、 『無名のクソ雑魚にぶっ飛ばされたみじんこ』とか! 『ただの雑魚』とか言われたんだぞ!?」
「カワイソウ…」
「挙句の果てには、腹いせにギャンブルしたら借金まで増えて…わかってるのか僕の人生をめちゃくちゃにして!?」
「それはお前のせいだろ。」
とは言えなんか聞いていると、このプライドの高さやら話し方やら聞いたことあるような気がしてきた…しかも、この怒鳴り方、間違いなく――
「…あの…失礼ですがどちら様でしょうか…?」
「は!?お前は僕の名前すら覚える価値のないカスだと言うのか!?」
「言ってないね」
「僕の名前はギーツだ!!ギーツ!!」
…そんな気はしたが…
…ただ、醜い化け物になってダフテルさんに殺されて死んだような…えと、目の前にいるこの子は…なんだ…?
「妹かな?」
「違う!!本物のギーツだ!信じてくれよ!!シンカぁぁぁぁぁ!!!!!!」
いやそんな俺の服をゆさゆさと揺らされても…
「わかった…信じよう」
「シンカ…!」
「その、おっぱいにかけてな」
「シンカぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「流石ですししょぉー!♡」
ギーツと名乗る女の子は俺の襟を掴んでブンブンと頭を振るのだった。
*
とりあえず俺はギーツ?をセイナの元に連れて行き見てもらっていた。
「ふーむ…女性に性別が転換ですか…」
「うぅ…どうして僕がこんな目に…」
そしてギーツ?はシクシクと泣いて顔を俯かせていると俺は気にせず「何かわかりますか?」とセイナに聞く。
「んー…彼…ではなくて…今は彼女ですかね。分かることは彼女が元々男の子っていうのは本当みたいです。」
「何故だ?」
「魔力の質…とでも言っておきます」
「質?」
「単純に男女の魔力の色が違うとだけ。」
「そうですか。」
「はい、そうです。」
「そう言えば、俺の楽しみにしていたプリンを食べたのはお前ですか?」
「はい、とても美味しかったですよ。」
「とりあえず後で屋上来いやください」
「笑う門には福来るですよ」
「意味わかんねえよですよ、ぶちのめますよ?」
とりあえず俺は話を戻すようにギーツに聞く。
「つか、なんであんな化け物になってたんだ?誰かに襲われたとかか?」
「なんでお前なんかに…!」
ギーツが俺に向かって襲いかかってこようと歯軋りして顔を向ける。なんか小型犬みてえ。
「でも、この禁呪は見たことありますよ」
「えっマジですか?」
「んーとですね」と俺が聞くとセイナが整理して説明してくれる。
「まず、ギーツさんにかけられたのは魔族に変換する魔法です。ただ、これは失敗作の魔法なので、人間などに使用した場合理性が無くなり遂には死に至ります。」
セイナは、椅子にさらに深く腰をかけ足を組む。
まぁ要約すると、ギーツには魔族になる魔法をかけられたと。
魔族になる魔法は、人間から種族変換は禁忌だし、出来ないからまず理性が崩壊する。
これは触れては行けないラインとして、宗教的な考えで言えば神からの天罰だと。
ただ、その天罰があったはずなのに何故生き残れたかと言えば、ギーツの中には強い殺意があったから。
そのため、理性というか思念体は残っていたらしく、そこからなんらかのバグを起こして、魂の複製と再生が可能だったとセイナは考察する。
えーと…要はつまり、魔族になる魔法で強制性別チェンジガチャ引いちゃったってことか?
「…でも、再生と性別が変わる禁呪とやらに何か関係はあるのか?」
「はい、まぁ要はバグの代償ですね。性別転換は」
「……なるほど」
…セイナの説明を聞いて俺は右から左へと情報が流れた。
とりあえず俺の脳内に残った情報はギーツは可愛いことと今日の晩御飯はチャハーンを食べようの2点だけだ。
…魔王様ってチャハーン作れんのかなぁ…
そう関係ないことを思っていると「それで…」とセイナは口を開く。
「この子はどういたしますか?」
「…」
うーん、ギーツは俺とクロを憎んで復讐されるかもしれない…
それを考えるとここに置いとくわけにもいかないしな…それになんか俺たちのせいで人生はちゃめちゃになったらしいし…
「ギーツ」
「…なんだよ」
「これ、やるよ。」
そうして俺は手切れ金を渡すとギーツは「は?」と怪訝な目をする。
「いや、なんか俺達のせいだってこれ以上恨まれるのは嫌だし…それに困ってるんだろ?だったら」
「っ…!舐めるなよ!シンカ!!」
そうしてまた鬼気迫る顔をするギーツは歯を食い縛る。
「これでも僕は元C級パーティのリーダーだ!僕にもプライドはある!!これ以上貴様のような下級な奴に世話されるわけにはいかない…!!」
「ギーツ…」
「そのお金はいらない…ただ礼は言っとくぞ…」とギーツは顔を逸らしお礼を述べる。
…いやうん、一つ言いたいことがあるなら…
ギーツ…そんなチラチラ見てかっこいいこと言っても説得力はなくなるぞ…?
するとセイナがギーツの後ろから「それでは…」と俺の手切れ金の入っている袋を取る。
「これは私から差し上げます」
「は、聞いてなかったのか…?僕はこれ以上…」
「私は貴方より高位な存在です」
「何を言って…」
「これは慈悲…と受け取ってください」
「っ…!うぷっ…!?」
そうして意図的にギーツを魔力酔いさせたセイナ。
性格悪…と内心思ったがセイナの顔は少し怖いように感じた。
ギーツは唇を噛み、手が震えていた。だが、それ以上に吐きそうな感覚が勝って吐いていた。
「…クソが…わかった、わかったよ…受け取る…」
「はい、それでいいんですよ。」
そうしてギーツは渋々、手切れ金を受け取り出ていく。
じゃ〜な〜ギーツ〜、もう二度とまた会う気しかしないし、面倒事とか持ってこなずに元気で頑張れよ〜と心のうちで独白する。
そして、ギーツの背を見届けた俺とセイナ。
セイナは、俺の方を見て疑問を口にする。
「シンカさん」
「なんですか?」
「どうして彼女にお金を?」
「…うーん、深い意味はないですけど…」
確かに…あんま考えてなかったな…
…んまぁ強いて言うなら
「後腐れがないように…?」
「…ふふっ、なんですかそれ」
コツン!
えっいた〜い、何今の?
セイナにスネを蹴られたんだけど…
*
シンカたちがアホなことをしている裏で、ある薄暗い空間にて、黒いローブを被った顔のわからない者たちが集まっていた。
「首尾は」
「上場でございます…」
「では」
「始めようか」
そして中央に立つ3人の影が、高らかに宣言する。
空間が重くなり、周りの床が崩れていく。
「破壊し」
「創生し」
「維持し」
「「「世界は生まれ変わる」」」
その言葉は空気が耳鳴りを伴って歪んだ。
耳にチリン…と音が鳴り、背丈が高く風鈴をつけた男は風鈴の音が途切れた瞬間、笑った。
口に機械のマスクをつけ、手にグローブをはめる女は、不潔そうな所に今すぐ帰りたいと苛立ちを覚えている仕草を取る。
目や鼻にかけて覆い隠す布で顔を括り手を合わせる女は、ずっと涙を流し祈りを捧げていた。
中央の円形の壇上には三柱が立つ。
そして続々と、足音もせず三柱を囲うように黒いローブを被った人達が影から大量に出てきて、魔法陣の光が影がじわりと伸びて包み込むのだった。
読了していただきありがとうございます。また次回もよろしくお願いします。