「この自治区の……外だと?」
「ああ、ここに居ても碌な目に遭わねぇ。だから言っそのこと出ていくのさ、こんな場所からな。」
ヘラリと笑いながら簡単に言ってのけるキヨ。
だが、それが簡単な話でない事などここで暮らしてきた少女達が分かっていないわけが無かった。
まず、これまで生きていて『この自治区の端』を観たことなどない。そして、仮にたどり着いたとして、先程の公権力による物資や人の略奪。そのような事をする学園が、果たして自分達を、住民を逃がすような真似をするだろうか。
その答えは考えるまでもないだろう。
しかし、このままでは直に捕まり、恐ろしい目に遭うこともまた、事実。受け入れるしかないと分かっていた。
「……待ってくれないか。」
「………」
これまで家族を率いてきた一人の少女を除いて。
「……もっと…もっと何か……お前ならこう…確かな道が思いつけるんじゃないか!?」
「……生徒会に連れて行かれたいのか?確かに、お前らみたいなガキは都合の良い戦力になる。言うことを聞いてれば運が悪くなけりゃ殺されないだろう。もし兵士として使えるならいい暮らしができるかもしれない。だがな―――」
キヨは一人を指差す。
「アツコ。お前だけは絶対に幸せになれない。」
「……私?」
「あぁ。これだけは断言できる。」
「………何故だ?」
「………」
サオリの問いに対し、キヨは沈黙する。その瞳には珍しくためらいの色が見えた。やがて数秒間目を瞑り、意を決したのか彼女は語り出す。
「『アリウス生徒会』。そしてそれを統括する『生徒会長』の座。それは代々世襲制だ。ソイツが卒業すれば親族やソイツのガキが次の生徒会長になる。」
「アリウスの歴代生徒会長、その血筋である『ロイアルブラッド』。その最後の生き残り。それがアツコだ。」
「「「!?」」」
「本来なら、俺達みたいなスラムのゴミ共とは天と地ほど住む世界が違う存在なんだよ………。『本来なら』な。」
「この辺に脱出できる地下通路がある。それを使ってアツコをここから出す。」
情報の濁流。苦楽を共にした家族が権力者の娘だったこと、自治区を脱出できる地下通路。
そして、それを知っている人間の存在。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
真っ先に声を上げたのはヒヨリだった。
「アツコちゃんが生徒会長の子供なら、今の生徒会にこんな事やめるように伝えれば「阿呆が」えっ?」
「数年前の内戦。そこで旧生徒会は敗戦した。……前生徒会長の処刑は、それはそれはひどい有様だった。そんな場所にアツコを連れて行くとどうなるかなんて考えるまでもない。アツコをそんな目に合わせるわけには行かない。だから―――」
キヨはアツコへ手を差し伸べる。そして
「【おいで】アツコ。」
「【分かった】。」
柔らかく、しかし意志のこもった声。アツコはその通りにキヨの手を取り、キヨの方へと歩いていく。
「アツコ!?」
「……!?わ、わからない…でも、【従わなきゃいけない気がしたの】」
「キヨ……お前一体何を!!」
明らかにアツコの意思を排した何かの意識が混入した行動。サオリは容疑者筆頭を睨む。
「【契約】。【秤アツコは俺と行動を共にする】俺とアツコの間にあるのはいわば一種の支配関係だ。俺がやろうとさえすれば、こんなことだってできるのさ。」
「さあどうする?『俺達』についていくか?それとも、アイツらの下に付くのか?」
「お前……!!」
少女達は失念していた。キヨはあくまでも自分達に『合わせてやっていた』だけであり、その手綱は常に握られていたと言うことを。
そして一方の女は知っていた。一人でも『家族』を縛ることができれば少女達に拒否する選択肢は無くなることを。
「荷物をまとめておけ。明日、日が昇ったら出発する。いいな?」
そう言い残すと踵を返し、キヨはこちらには目もくれず歩いていってしまう。
突如として始まったキヨとの生活。始めこそあまり良いとは言えなかった。しかし、少女達は彼女と少なくとも悪くはない関係が築けているように感じていた。だが、それは勘違いだったのだろうか。
自身の部屋へと戻っていくキヨの背を呆然と見つめた。
■□
自室へ着くとキヨは床に寝転ぶ。
契約、盟約、誓約。小難しい言い方はあるが色々あるがどんな言い方だろうと、約束事は人の体を鎖のように縛り付け、病の様に侵し、蝕む。
あぁ、よかった。この契約には【穴】があったから。アツコがそれに気が付かなくて助かった。
契約の内容は主要はこうだ。
秤アツコが俺についてくること。
対価はサオリ、ミサキ、ヒヨリに手を出さないこと。
サオリたちに手を出せば俺が罰を受ける。
この契約には【アツコが破った場合の罰則】が設定されていない。つまりこの契約はアツコにとってただ、【破ってはいけない気がする】だけ。
罰で完全に縛る?出来るわけがないだろう。
縛られる痛みは、よく知っているつもりだから。
「キヨ……」
聞き間違える筈がない声。
「………アツコ?」
「……荷物はまとめたのか?さっさとやれ。」
わざと素っ気なく突き放す。いくらアツコだろうとこれだけは譲れない。どんな事を言われようと私は絶対に譲らない。そう、絶対!絶対だ!
「……私は昔、すごく温かい所で暮らしてた事を覚えてるの。」
一歩、アツコがこちらに近づく。
「そりゃあお前はお姫様みたいなものだからな。こうやってクソみたいな生活してる方がおかしいのさ。」
「……さっきキヨは悪そうに振る舞ってたけど、私達の事を考えていてくれたよね。」
また一歩、アツコが近づく。キヨは思わず息を飲む。
「……お前はそう思ったんだな。」
「特に覚えている人がいるの。一人は紫の髪をしてて、赤い目をしてた。……多分、私のお母さん。」
「………」
「もう一人。その人も赤い目をしてて、凄く、優しかった。」
「ねぇ、キヨ―――」
彼女が反応するよりもずっと早く近づき、その顔を自身の胸へ埋める。身体を抱え、先程の言葉の続きを決して紡がせないように、その腕で固定する。
「―――」
「アツコ。その先は、言っちゃダメだ。」
「俺は、『一目惚れした女を渡さないようにしているだけ』なんだ。そうなんだよ。」
アツコが、何かを話したそうにし、身体を私から離そうとするしかしそれを封じるため、さらに身体を抱き寄せる。
「それだけなんだ。本当にそれだけなんだよ。頼む。」
「そうで、在らせてくれ。」
そう言い終えるとアツコは遂に抵抗をやめた。私はその頭を日が沈むまで撫で続けた。
■■
「起きろ。」
夜も更けてくる頃、サオリはキヨに起こされる。
キヨはついて来いと言うだけでそれ以上何も言わず、今朝の件を思い出したサオリはついていく事しか出来なかった。
やがて少し街から外れ開けた場所に出る。そこまで行って遂にキヨが口を開いた。
「お前にはこれまで稽古をつけてやった。俺は教えるのが上手くないが、俺なりにやったつもりだ。」
キヨが何かをサオリへ投げる。いつか彼女が投げ渡したナイフだ。
「どれだけになったか見てやる。卒業試験だ。」
何を言ったのか分からなかった。言葉の意味は分かる。しかし、最後の言葉を彼女から聞くとは思わなかったサオリは大きく困惑した。
『卒業』。その言葉は、まるで。
「あぁ、そういや言ってなかったな。」
「俺とアツコの契約はアツコを外に出すまでだ。そっからは自分で生きろ。俺はここに残るからな。」
「………は?」
キヨはまるでどうでもいい事のように刀を身体の周りで弄んでいる。
「いや、待ってくれ。どうしてだ?理解が……」
「理由が知りたきゃ俺を満足させろ。」
キヨが急接近し、地面が割れるような踏み込みで突きを繰り出す。サオリは咄嗟にナイフで軌道を逸らしたが、肩のほんの僅かに掠った箇所からじわりと赤い線が広がる。
「―――っ」
もしまともに受けたらと考え、恐怖で全身の毛が逆立ち、冷や汗が噴き出す。
「よくやった。」
互いに飛び退き、目を見据えて構える。
キヨの目は玩具を見つけた時のような狂気の目ではなく、取るに足らない相手を前にしたような軽蔑の目でもなかった。
目の前の相手を『敵』と認めて見据え、堂々と隙のない立ち方をし、低い声で言った。
「やろうか。」
今後の流れはどうしたほうがいいでしょうか
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寄り道無くブルアカ本編に行ってほしい
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少し寄り道もとい日常回がほしい