トム・リドルが唯一友達になった子、口数が多すぎる。   作:八重歯

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01 「口の中にカンニングペーパーでも詰まってるの?」

 

イギリスのロンドン。第一次世界大戦が終わった──とはいえ、世界は大不況であり、貧困故に不満が爆発し内戦が起きそこかしこで犯罪を犯すものが後を立たず、路地裏でよく人が死んでいた。孤児院は親を亡くした子ども、親に捨てられた子ども、親が刑務所にいる子どもで溢れているにもかかわらず、残念な事に職員の数は足りず施設もまともなところは少なかった。

 

 そんな世界情勢の、とある孤児院にはトム・リドルという少年がいた。黒髪で黒目で顔はくすみひとつない白さできめ細やかな陶器を思わす肌。さらに大きなパッチリとした目に、つんと高い鼻。唇は小さく薄いが桃色で、手足はすらりと伸びている。つまり、一目見たら忘れないほどの美しい少年だ。まだ八歳程度でこの美しさだなんて、将来が楽しみだろう。──普通は。

 しかし、孤児院の職員や同じ孤児院で暮らす子ども達は皆リドルの見た目に全く関心がなかった。むしろその見目麗しい顔をできる限り見ないようにしていた。

 

 なるべく、リドルの視界に入らない。邪魔をしない。話しかけない。からかわない。それがこの孤児院で暮らす子ども達が物心ついた時に真っ先に学ぶことだ。何故なら、ここ数年リドルの周りで不気味なことが立て続けに起きているからだ。一分前まで普通だった子どもが急に発狂したり高熱でのたうちまわったりすることがあった。その側には、いつもリドルがいた。大体発狂する子は、リドルにとって何か腹立たしいことをしてしまっていた。リドルが何かした証拠は全くない。全くないが──本能的に、何かがおかしい、これは、自分たちとは違う何かだ。と、誰もがうっすらと思っていた。

 

 まさか悪魔付きか、神父を呼ぶべきかと職員は迷っていたが、孤児院に1人の子どもにかけるほどの余裕のある資金はなくお布施もできないのだ、無償で悪魔を祓ってはくれないだろう。苦肉の策で教会に連れて行き礼拝させたが、聖書の一節を読んでも讃美歌を聞いても、リドルは退屈そうな顔をするだけで苦しむことも内なる悪魔が暴れ狂う事もなかった。そんな簡単に払えない悪魔がついているのか、それともこの子どもが生まれ持っている性質なのか、職員にはどちらかわからないが、どちらにしろ最悪なのは間違いない。

 

 リドルの美しい顔はいつも無表情か、不服そうな影があった。笑顔なんて、誰も見たことが──いや、そういえばこの前蜘蛛の巣に引っかかる蝶々が羽をもがれてゆっくり体液を啜られているのを見て薄らと笑っていた気がする。──そんな不気味で残酷な笑顔しか、見たことがなかった。リドルはリドルで極力職員に話しかけず、子ども達とサッカーや鬼ごっこなんてしなかった。一番仲がいい子どもがいるわけもなく、母代わりに懐いている職員も、いない。

 リドルは基本的に通っているスクールが終わると孤児院には帰らず、門限近くまで図書館で本を読んで過ごしていた。普通なら八歳の子どもが一人で毎日図書館に通っていたら怪しまれ最悪補導されること間違いなしだが、幸か不幸か他人におせっかいをする余裕のある時代ではなかった。そのため、リドルは司書や周りの大人にちらちらと見られ可哀想なものを見る目で見られるだけで、声をかけられる事はなかった。

 リドルが孤児院暮らしだと知らずとも、貧相そうな汚れた服を着ていて、持っている鞄や靴は擦り切れて穴が空いている箇所があり、さらに毎日飽きもせず来るのだから、まあ家庭に問題がある子なんだろうな、と推測するのは簡単だった。

 

 もし本を売り捌いていれば出禁だったろうが、リドルは粗暴なことはせず、毎日静かに読書し、一冊借りては翌日返すを繰り返していた。まあ、模範的利用者とも言えるだろう。

 

 だからこそ、リドルは誰からも声をかけられなかった。もし、今まで生きてきた中でたった一人でもリドルの事を気にして不憫に思い──彼は初め恐ろしく拒絶するだろうが──甲斐甲斐しく世話を焼けば、リドルはここまで凍った心ではなかっただろう。初めて自分を見てくれた人に対して、酷く依存するだろうが。

 

 

 今日も今日とてリドルは本を読み、門限間近に立ち上がって本を一冊借りて、薄っぺらい鞄の中に入れた。もうすぐ厳しい冬が来るからか、うっすらと空が暗くなりはじめ、大通りだというのに閑散としている。ガス灯がぽつぽつとあるが、切れかけているものもありまるで世界が時々点滅しているようだった。

 リドルはコートも何も持っていなかったため、寒そうに腕を擦り身を縮こませながらゆっくりと歩いた。あの孤児院のところなんて本当なら帰りたくない。別に本が好きなわけではないが、ほかに暇つぶしのところがないから仕方がなく本を読んでるだけだ。学校も、何もかもつまらない。馬鹿ばかりだし。

 

 生まれ持って知能が高く天才だったリドルは幼いながらに、自分は他者とは違うのかもしれない、と漠然と感じていた。その稀有な知能はもちろんだが、彼にはそれ以上の特別な力があった。

 

 物心ついた頃、欲しいものが遠くにあり「ほしいな」と思った時にはそれが勝手に自分の方に引き寄せられていた。

 自分より年下の子どもがぎゃーぎゃーうるさく喧嘩しているのを見て「うるさいだまれ」と思えば、彼らは急に口の中に自分の手を突っ込み声どころか呼吸も詰まらせようとしていた。

窒息死目前の子ども達だったが、急に静かになった事に不思議に思った職員が現れ半狂乱になりながら腕を引っ張り子ども達はギリギリ死ななかった。

 生物図鑑を読んでいたリドルは、庭で子どもたちが隠れて世話をしていた猫を見つけた。「中身はどうなってるんだろう」そう思った瞬間、猫は道路に飛び出し、馬車に轢かれた。内臓を撒き散らして。

 

 そう、何故か望み通りにことが進んでいた。勿論叶えられない願いもあったが、人や動物を傷付けることに関してはかなりの確率で叶っていたのだ。それは願いや強い思い、もしくは感情の昂りで。

 初めは偶然だと思っていたリドルも、何度も続けば自分が願ったからだと気付く。自分には何か特別な力があると気づいたリドルは、それを誰にも言わなかった。──残念なことに、リドルは他者と信頼関係も、愛着関係も全く築けていなかった。

 

 

 リドルは、図書館から孤児院へ帰る時、毎日「帰りたくない」と思っていた。自分の中にある不可思議な力に頼って心の底から「帰りたくない」と願っていたが、この一年間全くその願いは叶えられなかった。

 

 いつものことだったが、リドルはわずかに残念に思いながら道を歩く。大通りの角に、今はもう廃れた紅茶屋があった。看板は色褪せ、窓辺のティーカップには埃が積もっていた。

 リドルはいつも通りにその紅茶屋を曲がり──はたと足を止めた。

 

 

「なんだ、これ」

 

 

 それは暴力的なまでの白。

 灰色の濡れた石畳の上に無秩序に広がるそれを見てリドルは目を瞬かせる。だが、すぐに肩にこもっていた力を抜いた。

 石畳をところどころ隠していたのは、何のことはない。大量の紙だ。きっとどこかの店のチラシだろう。チラシ配りが何かの原因でぶちまけ、拾うのが面倒だったに違いない。リドルは足元にあるそれを爪先が潰れ靴底がすり減ったブーツで踏みつけた。

 何気なく、その文を読み──リドルは片眉を上げ、鞄の肩紐がずれるのを押さえながらまだ汚れの少ない紙を屈んで拾い上げた。

 

 

『本日、謎解きの試練をここに開幕する。

与えられるは言葉の鍵、導くは知の光。

正答を掴んだ者には金貨一袋と、二つとない稀少なる秘具が贈られる。さあ、開け。知識の扉を。

 

 

そこは鉛より重く 名よりも長く 血よりも古い。

我が門は王を迎え また斬る。

我が壁は真実を閉じ 宝を隠し 亡霊を語る。

 

今はただ 目を向ける者の微笑みに囲まれて

鴉の数を数えながら 王座の影で黙するのみ。

 

──我の名を呼んだのなら、足で確かめに来るがいい』

 

 

 店かサーカスか何かのチラシだと思っていたが、書かれていたのは謎解き文だった。リドルは目を細めてその細い癖のある文字を何度かなぞる。確か謎解きが好きな上流階級の大人が暇を持て余してサークルや秘密クラブを立ち上げる際に、こういった紙をパブや裏通りの壁に貼ることはあると聞いた事がある。それが散らばったのか。

 

 

「金貨一袋……」

 

 

 リドルは謎解きに全く興味はなかったが、金貨一袋はかなり魅力的な報酬だった。二つとない稀少な秘具も、売れば良い金額になるだろう。

 リドルのいる孤児院は、裕福とは程遠く服は支給された物であり、擦り切れ破れても繕って着なければならないし欲しい本なんて買ってもらった事がない。金貨一袋、がどれだけ貰えるのかここに明言はされていないが、数十万はくだらないだろう。リドルは欲が滲む目を細め、書かれた文書をもう一度ゆっくりと読み、腕時計で時間を確認するとすぐに顔を上げ薄暗くなる街を早足で進んだ。

 

 

 早歩きで進む事十五分。リドルは息をかすかに弾ませながらそれを見上げ、「ここだ」そう呟き無骨な壁面に手をついた。

 どっしりとした灰色の石造り、苔むした壁面には何百という時の流れを感じさせる。塔というにはあまりに無愛想で、宮殿というには冷たいそれはロンドンのシンボルの一つであるロンドン塔だった。

 ここのどこだろうか。リドルは辺りを見渡し──遠くない場所に白い紙が壁面に貼られていることに気づく。近づけば、それはそこから等間隔で何十枚も貼られていた。リドルは小走りで駆け寄っていたがそれに近づくにつれ足を緩め、ついには不審物に近づくように慎重になった。

 

 こんな紙が許可なく貼っていたら大体剥がされるだろう。夕暮れで時間が遅いからだろうか?──いや、まさか、それが主催者の狙いなのか。守衛に剥がされるまでの、あくまで短時間。それならば開始を告げる紙は、もしや偶然ではなく意図してあの場所にばら撒かれた?

 

 リドルはその紙に触れることなく、目線の高さより高いそれを睨み上げて読んだ。

 

 

 

『私は時を抱いて眠る子ども

私はあなたの手に抱かれて眠る子ども

針は心臓を刺したまま

歩けども 進まぬ旅路

それでも捨てられぬのは なぜだろう

壊れているのに 価値がある

忘れたいのに 忘れられぬ

銀の牢に囚われた 君の夢

 

──さて、私は何?』

 

 

「……懐中時計」

 

 

 リドルは一度文を読んだだけで、熟考する事なく呟く。呟きながら、金貨一袋を期待していた気持ちが急激に萎み、やるせ無い怒りに近いものが湧いてくる。

 

 

「簡単すぎる」

 

 

 口の端を歪ませ、リドルはそう呟き辺りを見渡す。道路を挟んだ場所の奥、裏路地への入り口には貧困層に押し付けるように不法投棄の山があり、リドルは唇を強く結んでそれに近づいた。

 ごみの山の中に、ひび割れ歪んだ懐中時計があった。しかし、周りの薄汚れた壁には何も貼られていない。やはり、悪戯の類いだったのか、とリドルは舌打ちをし忌々しそうに懐中時計を摘み上げる。今にも沈みそうな赤い陽射しを浴びた鎖が鈍色に輝く中、リドルは乱暴な手つきで蓋を開けたが、新たな謎解き文は書かれていなかった。

 苛立ち投げ捨てようとした時、鎖が指に触れ──何かに反射したのか──奇妙に輝いた。投げようとした腕をゆっくりと下ろし、鎖を指で引っ張り顔を近づけた途端、リドルは僅かに息を飲んだ。

 

 

『鉄の骨に 革の背

二つの足を 四つにして進む

舌はなくとも 風と語り

翼はなくとも 地を飛ぶ

手綱も鞭もいらぬけど

漕がねば眠る 気まぐれな獣

魔法はなくても 魔法のように

時を縮める 旅の友

 

──朝を待ちわびる私は誰?』

 

 

 それは細かい字で鎖に書かれていた。いや、書かれていたというよりも、彫られていた、というほうが正しいだろう。

 こんな狭く細い場所にどうやって文章を掘ったのかリドルには分からなかったが、これがただの子供騙しの謎解きならば、ここまで手の込んだことはしないだろう。僅かにリドルの中で落ちていた期待感が顔をもたげ、リドルはすぐに駆け出した。

 

 手の込んだ仕掛けにも関わらず問題文が簡単すぎるのが少々引っかかるところではあったが、リドルは大通りに出てぐるりと闇に包まれつつある街を見る。今までの傾向的に、そう遠くない場所にあるはずだ。

 遠くの教会が午後六時を告げる鐘を鳴らす。漣のような響きを聞き、リドルは「門限だ」と思ったがここであっさりと引き返すつもりはなかった。

 

 大丈夫だ。どうせ、孤児院の職員は僕が少し時間に遅れただけで大慌てで探すことなんてないんだから。──とリドルは冷静に判断し、街に新式の電灯がポツポツと白く光っていくのを見た。しかし、一箇所だけ接触不良なのか故障なのか──はたまた誰かが細工をしたのか──灯りのつかない電灯があり、その下にくたびれた自転車が立てかけてあった。

「あれだ」とリドルは直感し、駆け寄る。

 

 じっと見てもそれはどこにでもあるような壊れた自転車だった。チェーンは外れタイヤはどこかに行っている。ゴミとして朽ちていくのか、バラされて他の物に変わるのを待つだけの、そんな自転車だ。しかしよく見ればサドルの部分に薄く、何度も見た特徴的な細い文字がくるくると円を書くように文章を作っていた。リドルは読み難さに、製作者は心が歪んでいる。そう考えながら首を傾ける。

 

 

『最後の葉が裏返るとき

西の獅子が尾を振り 三たび鈍く咆哮する

瞳を閉じたシリウスは その瞬きすら止め

大地の心臓は 三分の一だけ跳ねる

 

鐘は鳴らぬ だが刻まれる

声なき時のうつろいに

六に到りし六の影 

門は開き 内と外は混ざりあう

 

 

硝子の果実に星を閉じ込め 指先ひとつで昼を呼ぶ。

壊せばただの破片 灯せば闇の王

 

あと一つ、あと一歩

黄金は汝のすぐそばに』

 

 

「これは……日時と……電球……」

 

 

 リドルは悩む事なく呟き、自転車の後ろに隠されるように置いてあった古びた電球を見下ろす。顔を上げれば、電灯の中はぽっかりと空洞で誰かが意図的に外しているのだとわかる。

 しゃがみ込み、電球を手に取る。何かまた刻まれているのかと思ったが、くすんだ電球はどこにも文章はなかった。「おかしい」とリドルは眉を寄せる。あの問題文には、日時とこの電球しか示されていない。日時が主催者のもとへ向かうタイムリミットだとして、主催者の居場所がわからなければ意味がない。

 

 

「十月三一日……今日、の……六時、六分……」

 

 

 リドルは腕時計をチラリと見る。長針は六時五分を指していて、あと数十秒でその時刻が訪れる。間に合わなかったのか、全てタチの悪い悪戯なのか──報酬を渡さないためなのか。

 リドルはからかわれたのだと感じ、胸の奥からカッとした怒りが込み上げ電球を強く掴んだまま手を振り上げる。

 

 

──その時、リドルの腕時計が六時六分を指した。

 

 

 瞬間、リドルは臍の裏側から引っ張られるような感覚に陥り、息を呑んだ瞬間にはぐるりと世界が回った。まさか、毒?何故?何か塗られていた?こんな、こんなところで僕は死ぬのか?

 

 視界が回る混乱の中そう考え、酷い眩暈に目を強く閉じ、ふらつく足に力をこめる。ぐわあんと脳を揺さぶられる感覚に、リドルは思わず「うっ」と呻き顔を蒼白にさせ口を押さえた。どさり、と鞄が手から落ちる。吐き気があったが、吐けない。

 毒なら吐かないといけない、経皮毒なら意味がないか?水を飲むべきか?いや、病院か?──リドルははあはあと荒い呼吸で目を開き、この強い嘔吐感をどうにかしようと、吐くために喉の奥に指を突っ込んだ。

 

 

「うっ、……」

 

 

 しかし、吐けなかった。

 いや、喉の奥から唾液が溢れ出てきて吐く気満々だったが、目の前に広がる光景に、馬鹿な子ども達のように口に手を突っ込んだまま停止した。

 さっきまでは確かに夜のロンドンに居た。

 しかし、今は誰かの部屋の中らしき場所にいて、窓の外は燦々とした太陽の光が差し込み、目の前にいるのは部屋の主だろう少年。

 少年とリドルは暫し、見つめあった。

 

 

「……」

「……」

「……よだれ、出てるよ」

「──っ!」

 

 

 自分よりも幾らか高いその声にリドルは反射的に飛び上がり口から手を抜いた。唾液の線がふわりととび、床をぱたたと汚す。少年はちらりとそれを目で追い肩をすくめた。

 

 

「口の中にカンニングペーパーでも詰まってるの?」

「は……」

「なんだいその顔。まあいいや、謎解きは手強かった?それとも紅茶が冷める前にはもう解けてた?」

「な──何?」

「とりあえず、クリアおめでとう!」

 

 

 リドルは珍しく──否、生まれて初めて酷く混乱し狼狽していたが、それをちっとも気にせず目の前の少年は馬鹿でかいクラッカーを机の上からひょいと取り、太い紐を「おりゃー!」と気合を込めながら引っ張った。

 

 目の前で大砲が鳴った。

 視界が白くなり高い耳鳴りがキィィンと反響する。クラッカーの中からは万国旗やミラーテープ、小鳥、うさぎ、お菓子、猫、シャボン玉、金貨──など色とりどりの理解できないものが飛び出し部屋の中を跳ね回り、リドルの頭の上にひよこがぽすんと乗った。リドルが何よりも欲していた金貨がブーツの上で跳ねたが、リドルは白く点滅する目を何度も瞬かせ薄く口を開き──何も言えなかった。

 

 

「ぴよ」

「おや、君が停止してるからお洒落な止まり木だと思われてるよ。それとも将来不死鳥の止まり木になるための訓練中?」

「……」

「……おーい。君と僕とで時間の流れが違うのか、もしかして言葉通じてない?君って火星出身?まいったなー火星語は知らないや。マーピープル語ならギリオッケーだったのに」

 

 

 沈黙が耐えられないのかぺらぺらと絶えず話す少年は、肩口までの絹のようなプラチナブロンドを左手で耳の後ろにかき上げた。丸い琥珀色の瞳にやや不健康そうな白い肌。小首を傾げ人を馬鹿にするような目線をしていたが、それすらも妙に様になるまさに珍しい程の美形だが、口から出る言葉はまた類を見ない種類の毒だった。

 

 リドルは数秒かけて混乱を解き、冷静になる。ふう、と鼻から長く息を吐きゆっくり瞬きをし、頭の上で寛いでいるひよこをむんずと掴み──ひよこが「ぴよっ」と鳴いた──少年に向けて投げた。

 

 

「うわ!暴れ柳の止まり木だったのか!」

 

 

 少年はなんとかひよこをキャッチすると、そっと机の上に乗せた。

 

 

「ここは、どこだ。なんだ、そのクラッカー、なんで生き物がそんなにたくさん出てくる」

「どこって。君、僕が作った謎解きしたんでしょ?これはふつーにゾンコで売ってるやつ」

「謎解き……は、した。でも、急に、視界が回って、場所が変わって……」

「あ。ポートキー初体験?初めてが刺激的でごめんね。マグルのコーヒーカップっていうやつ参考に作り直したからいつもより多く回したんだ」

「ポートキー?」

「え?ポートキー知らないとか、付き添い姿現しと煙突飛行ネットワークオンリーで暮らしてたの?過保護で狭い世界だねー」

「付き添い姿現し?……なんの言葉だ」

「はあ?」

 

 

 少年は怪訝な顔をして「何言ってんの」と言いながら無遠慮にリドルに近づく。リドルは鋭い目で少年を睨み、半歩ほど身を引いたが強く拒絶する事はない。──直感したのだ、今何か自分にはわからない事が起こっていて、さらにこれを逃してはならないと。

 

 少年はいとも簡単にリドルが手に持ったままだった電球をするりと手に取ると、爪の先でトントンと叩きながら「だからこれは──」と言いかけて、口を開いたまま止まった。めんどくさそうに半開きだった目はみるみるうちに大きくなり、「まさか」と吐息混じりに囁く。

 

 

「君、マグル?」

「マグル、って、なんだ?」

「……マーリン!」

 

 

 リドルの言葉に少年は両手を上げ、「証拠隠滅!」と叫びながら手を振り下ろし電球を叩き割った。

 

 

 

 

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