トム・リドルが唯一友達になった子、口数が多すぎる。   作:八重歯

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04 「ってことは君の無作法は遺伝じゃなく自家製か。より悪質だね。で、なんだいMr.無作法。何か用?」

 窓から差し込む日差しは真夏のそれだった。強い日差しに窓辺に置いている魔法動物のミニチュアは慌てて影へ避難している。極彩色のサボテン達は水をくれと催促するためにうねうねと動いていたが、部屋の主であるフィンレイは全く気付かずベッドに寝転び枕に本を乗せ読んでいた。

 ベッドの上には人が寝るスペース分以外は本が乱雑に積み上げられている。脚を無意識にぱたり、と動かせばその振動で本の山が崩れ床に音を立てて落下した。が、それもいつものことでありフィンレイはちっとも気にしない。

 

 フィンレイ・ノエイン・ルクス・パーシバル・アマデウス・エルリック・トレヴェリアン・ウィンドルミアというのが彼の公式な名前だが、その長い名前を覚えているのはフィンレイ本人だけだ。彼の両親ですら正確には覚えていない。──それも昨日までは、と枕詞がつくが。

 

 ウィンドルミア家は魔法界の歴史ある純血魔法族だった。とはいえどこぞの純血一族のように政界にケチをつけたり、大きな顔でふんぞりかえり羨まれるのが当然とは思っていない。彼らとはまた違う信念を掲げているのだ。

 

 ウィンドルミア家の事を言葉を選ばずに端的に言うのであれば『鬼才、異常者、変態の集まり』だ。彼らは自分が心から愛する事象のみ研究し、とことん突き詰め真理を得ようとする。ウィンドルミア家は大体が何かのエキスパートであり、世界的発見をしたり、誰もが知る魔法を生み出していた。しかし、彼らは栄光や称賛には一切興味がなく、研究結果を発表する気は全く無い。それゆえに功績は大抵第三者に横取りされ我が物顔で使用されていたが、彼らは全く気にならなかった。

 

「自分のために研究しただけで、それが世界にとって利益になろうが世界を滅ぼそうが興味はない。手柄にしたいのならどうぞご勝手に。事後報告不要返品不可」と言ったのはウィンドルミア家の何代目当主だったか。

 世間的には知られていないウィンドルミア家。一部の人の間のみ、「やばい一族がいる」と知っている。それが彼らだった。

 

 例えば、フィンレイの祖父は魔法生物に恋をし、彼らの言葉を理解し共に紅茶を飲むためだけに生涯を費やし特定の魔法生物と会話ができる魔法器具を生み出した。

 例えば、フィンレイの父は死に夢を見て死を研究し、神秘部に強制連行されリンボへと続く鏡を生み出した。

 

 ウィンドルミア家の血が入っていない、彼らに嫁いだ者も大体そんな彼らを愛する変人であり、彼らに愛されたのだから知識も抜群なのは言うまでも無い。

 結果、ウィンドルミア家の者は知能指数が抜群に高く、魔力も膨大で、倫理観がやや欠けている自己中心的な狂人ばかりになってしまった。

 

 そんな一癖も二癖もある一族の子であるフィンレイは、今の所生涯をかけて研究したい、愛したい、と思える事はまだ出会っていない。それゆえに満遍なく学び、満遍なく理解していた。『これだ』と思う何かに出会う日を心待ちにして。

 

 数週間前からフィンレイが学んでいるのはマグルについて、であり、フィンレイはマグルについて他の魔法族よりも圧倒的に理解していた。マグルの歴史や、通貨、道具、電気、彼らの習性。はたまたどこの国が戦争しているかなど。その知識の量はマグル学のフクロウ試験やイモリ試験を受けたとしても満点を越える点数を叩き出せるほど。だからこそ、フィンレイはリドルにスムーズに魔法界の事を説明する事ができたのだ。

 

 

「んー。マグルが人狼に噛まれるとどうなるんだろ。そういや魔法界にしかない疫病あったよな。あれってなんでマグルにうつらないんだ?魔力に作用するかどうかの差?……調べよ」

 

 

 ぶつぶつと独り言を呟いていたフィンレイは勢いよく上体を起こすと今まで読んでいた『マグル界にある宗教について・完全版』という本を適当に放り投げ、本棚に近づく。『魔法界の魔法疾患一覧』の本を抜き出すと、すぐに開き、その場に胡座をかいて座り読み出した。

 

 その時、きい、と扉が開く音がした。その音は警戒するような、静かで緊張を孕んだものだったがフィンレイは顔を上げる事なく本を読む。

 扉を開けたのはリドルだった。リドルは孤児院の自室から、本当にフィンレイの部屋に繋がった事に内心で驚きつつも表情には出さなかった。薄く開いた扉の向こう側から部屋の中を確認し、フィンレイが本棚の前に座り読み読書に耽っているのを確認して──何故か、安堵してしまう。その事に気づいたリドルは眉を寄せ

自分自身に腹を立てながら扉を開き切り、部屋の中に入った。

 パタン、とわざと音を立て存在をアピールしたがフィンレイは顔を上げない。靴先で転がっていた羽ペンや何かの瓶を蹴りながら彼に近づいたが、それでも同じだった。ついにリドルの影がフィンレイに覆い被さったとき、フィンレイは「邪魔」と言うように手で払った。

 リドルの影がフィンレイの読書を妨げているのであろう。それはリドルもわかっていたが、快く引く気はなく、フィンレイの形のいい頭を見下ろしリドルは沈黙する。数十秒後、フィンレイは眉を寄せ怪訝な表情で顔を上げた。

 フィンレイは思考を邪魔される事が何よりも嫌いだ。苛立ちを隠さず、悪意のある嘲笑をした。

 

 

「言ったよね。非常識は脱いでこいって。──ああ、君の親は本を読んでる相手には率先して邪魔するべきって教えたんだ?それはごめんね、それなら君のせいじゃない。君の親に吠えメールを送るから住所教えてくれる?」

「父は知らない。母は僕を産んで死んだ」

 

 

 リドルは無表情で告げる。その言葉に感情はなく、強いて言うならばフィンレイの反応を楽しみにしている、そのくらいだろう。今までの人と同じく同情するのか蔑むのか、下に見る気なら手の中で強く握っている鍵のいく先はゴミ箱だ。

 

 フィンレイは片眉をあげ、下からリドルを睨み上げる。

 

 

「ふーん、じゃあ吠えメールは墓地に向けて出すことにするよ。墓地の場所教えてくれる?さすがに死者に酷い文句は言わない、くらいのマナーはあるから、文面はちょっと柔らかめにしておく。安心して?」

「……」

「ってことは君の無作法は遺伝じゃなく自家製か。より悪質だね。で、なんだいMr.無作法。何か用?」

 

 

 フィンレイの言葉は同情でも蔑みでもなかった。普通の人ならまず自分の失言に気付き、謝るか誤魔化すかのどちらかだろう。フィンレイはリドルが両親がいないと知った上でならば亡き母に苦言すると毒を吐き、そのままリドルを無作法と揶揄ったのだ。リドルはそう返されるとは思わず、今までの人とは違う反応に手にこめていた力を抜く。小さな鍵が手の中で転がったが、それは落ちる事なく再び柔く握られた。

 『違う反応』だった。それだけで、リドルは少しだけ肩が軽くなるのを感じたが、理由は分からなかった。

 

 

「魔法界の事を教えろ、フィンレイ・ノエイン・ルクス・パーシバル・アマデウス・エルリック・トレヴェリアン・ウィンドルミア」

 

 

 その長すぎる名を一息で言い切ったリドルの声は、無感情なようでいて、どこか試すようだった。フィンレイはぱちりと瞬きをし、読みかけのページに指を挟んだままリドルを見上げる。

 

 

「それ、魔法界を知るための便利な呪文じゃ無いからね。……ご覧の通り現在停職中。本、読みたいなら勝手に読んだら?」

 

 

 無愛想にそれだけ言うとフィンレイはすぐに視線をおろす。リドルは暫くの間、彼の琥珀色の瞳が紙上を縫うように動くのを見下ろしていたが、それ以上何も言わずに本棚へ向き直った。

 『魔法生物とその飼い方』『魔法薬学マニア編』『マグルの奇跡的な機器』『変身術と変化術』──その本の種類に偏りはなく、様々な分野の本が押し込められていた。リドルはゆっくりと歩き本の題名を読む。

 『闇の中の亡霊魔法』という本があり、何となく抜き出した途端、絶叫が響いた。

 抜き出した本はリドルの手の中でガタガタと暴れ、背表紙には大きな口が複数現れリドルの指を噛もうと歯を鳴らし叫ぶ。

 

 

「っ!?」

「……ああ!もう!うるさい!」

 

 

 フィンレイはその怒声と共に立ち上がり杖を振る。本はリドルの手を離れそのまま棚の上にある極彩色のサボテンへと突き進んだ。サボテンの長い針に勢いよく刺さった本は「ぎゃああ!」と断末魔を上げ、大人しくなった。

 

 部屋に静寂が戻ると、フィンレイは何も言わずに腰をおろしまた本を読む。

 ぺら、ぺらと時々本を捲るページの音だけが響く中、リドルはまだ、心臓の高鳴りが収まっていなかった。冷静を装ってはいたが、本が叫び声を上げるなどということは想定していなかった。だが、どこかでその予想外の混沌を「嫌いじゃない」と思ってしまった自分にも気づいていた。──本が叫び噛みつくなんてよっぽど魔法界らしい。

 

 リドルは一度大きく深呼吸をし、別の本を選ぶ。目に留まったのはなんの捻りもない『魔法史』と書かれただけの本であり、これなら大丈夫だろう、とゆっくりと本棚から引き抜いた。リドルの予想通りそれは噛みつくことも毒を撒き散らす事もなくお利口に手に収まり、無意識のうちに肩にこもっていた力が抜けた。

 リドルはあたりを見渡し、前回来た時に座っていた椅子を見つけそこに座ると表紙を開いた。

 

 

 

 

 

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