約束するって、言ったのに。
氷陰さん主催「ホラー祭2025」参加作品です。
どうぞよろしくお願いします。
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
──あと少しではあるんだけどさ、ずっと待ってるのも退屈だろうし、思い出話でも聞いてくれないか? 大丈夫だよ、これくらい話しながらでもできるさ。
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
僕と君が付き合いだしてから、二年と少しか。
告白したのは僕からだったね。あの時は色々理由を並べた記憶があるけど、実のところは一目惚れでさ。ひとつ下で人気者の君と普通な僕じゃとても釣り合わないと思ってたから、玉砕覚悟で臨んであっさりOKされて逆に驚いたよ。
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
初めてデートしたのは一週間くらい経ってから、映画館だったよね。なんとか君を楽しませたくて、柄にもなく恋愛映画を観に行った。でも僕ときたら緊張しすぎて寝ちゃっててさ、覚えてる? 劇場出てから君に怒られたんだ。あの時買ったパンフレット、今でも家に置いてあるんだ。
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
えっと、キ…キスをしたのは三回目のデートだったっけ。人気はないけど景色のいいところで……って考えてたら、テレビで紹介されてたせいで大盛況。でも雰囲気に任せて……恥ずかしいから、次行っていい?
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
あいつと、その彼女と遊園地でWデートしたのは覚えてる? 四人でジェットコースターに乗って、メリーゴーランドに乗って、お化け屋敷に入って、最後には観覧車。こう話すとなんてテンプレートなデートをしてたんだろうね。それでも楽しかったなぁ……なんで、こうなったんだろうね。
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
ごめん、黙りすぎた。えっと、次は……ああ、海に行ったことかな。
かちっ。かちっ。
夏だから海。これも大概テンプレートだけどさ、今思い返すと海に行ったのって何年振りのことだったんだろう。幼い頃に行った記憶はあるんだけど、それ以降は遠くの景色くらいでしか海を見てなかったなって。住んでる地域が関係あるのかな。
思い出話だったね。やっぱり海となると……水着……だよね。いやほら、僕だって男だし、彼女の水着は気になるよ。実際その、すごくいいもの見れたなって。変態みたいだね、はは。
……また行きたいなぁ……暑くなってきたし。
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
君の誕生日パーティーもしたね。君は人気者だから、てっきり友達とお祝いすると思ってたんだけど、二人きりでって言ってくれたのは嬉しかった。ほら、ちゃんと彼氏だって認められた気がしてさ。
あの時は得意料理みたいに振る舞ったメニュー、実は猛練習してたんだ。だからもう飽きるくらい食べてたんだけど、君が喜んでくれたので報われたね。
プレゼントもずっと飾ってくれてたんだね。埃、被ってるけど。
かちっ。かちっ。
最初のクリスマス……風邪をひいた君を看病して終わったね。家に行った時は驚いたよ。サンタの仮装した病人が出迎えてくるとは思わなかったから。病人は大人しくしてろーって、初めて君に怒ったなぁ。結局僕も風邪ひいたからおあいこかな?
かちっ。かちっ。
春には初めて泊まりの旅行にいったね。あの時は……本当に僕が悪かった。今思えばあからさまに誘導されてたのに、僕が鈍過ぎた。いや、うっすらわかってたけど、弱気になって避けててんだと思う。ごめんね。
そうだ、今度の海は泊まりにしよう。海の見える旅館を探してさ。
かちっ。
それでしばらく──半月くらい会わなくなって、あの時はもう終わったと思ったね。毎日色んな人に相談してさぁ、まだ一年も経ってないのに別れたくないーって。情けないよね。
その間、君は何してた?
かちっ。
みんなが助けてくれて、何とか話し合う場を設けてくれて……というか、僕がひたすら怒られてただけだったけど、やっと仲直りしてさ。ちょうど一年記念日だって気づいて、勢いのままノープランで出かけたね。
思い出した? その時、君が、『約束しよう』って言ったんだ。
かちっ。
『これからどうなっても、ずっとお互いを想い合って、ずっと一緒にいよう』って、ゆびきりもしたね。
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
かちっ。
だから僕は、ずっとそれを守ってきたつもりだよ。
かちっ。
それから、また色々なことがあったね。
プールにで出くわした同級生にからかわれたり、夜中に虫が出て駆けつけたり、秋の登山で君を背負って歩いたり、猫を飼うか話し合ったり、クリスマスにバッグを買ってあげたり、炬燵でうとうとしながら年を越したり、去年は行けなかった花見に行ったり。そこで偶然ご両親に会って、お義父さんに詰められたり。
かちっ。
かちっ。
かちっ。
君があいつと浮気していたり。
かちっ。
教えてもらったんだ。
かちっ。
君があいつに誘われたことも。君があいつと会う回数が増えたことも。君があいつに相談するようになったことも。君があいつと手を繋いだことも。君があいつに告白されたことも。君があいつとキスをしたことも。君があいつと寝たことも。君があいつと話すために僕の電話を無視したことも。君があいつとの子を堕ろしたことも。君を慰めるのが僕じゃなくなっていたことも。
かちっ。
君があいつといる時間が、僕といるよりも長くなっていたことも。
かちっ。
君にとって僕が、ただ一人から二番目以下に成り下がっていたことも。
かちっ。
僕がどれだけ君を想っていても、君は僕を想わなくなっていたことも。
かちっ。
全部、知ってしまったんだ。
かちっ。
とても、とても悲しかった。言葉で言い表せないほどに。
かちっ。
なんで?
かちっ。
約束、したのに。
かちっ。
嘘だったんだね。
かちっ。かちっ。
でもいいんだ。
かちっ。かちっ。かちっ。
君が僕を裏切っていても、僕は君を許すから。
かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。かちっ。
かちっ。
さっきも言ったよね? 『ずっとお互いを想い合って、ずっと一緒にいよう』。あと、ゆびきり。
かちっ。
……ああ、そっちは忘れてたんだ。じゃあ、もう一度。
「ゆーびきーりげーんまーん」
かちっ。
「うそついーたーらはーりせーんぼーんのーますっ」
かちっ。
「ゆびきった」
かちっ。
……これで、千本。
縫い針が千本。これから君に飲んでもらう。
君と手を繋ぐのが好きだったから、指は切らない。一万回も殴ったら間違いなく死ぬだろうから、拳万もしない。
でも、針なら大丈夫そうじゃないか。誤飲事故も結構あって、手術で取り出せたんだって。
かちゃかちゃ、かちゃり。
漏斗も用意したからさ、これで流し込めば少しは飲みやすくなるよ。 ……なんて、薬みたいな言い方だね。
ほら口開けて、開けて。開けろ。
全部教えてくれたあいつみたいに、君の口を裂きたくないんだ。
がぽっ。
これでよし。全部飲んだら縄は解いて、病院に行こう。
針を全部取ってもらって、そうしたら今度は海に行こう。きっとやり直せるさ。今度こそ本当の約束だ。
じゃあ、入れるね。大丈夫、すぐに終わるから。
頑張ろう。
ざざざざざざざさざざざざざざざざざざざざざざさざざざざざざざざ…………
あ。
やっぱり、うそつきだ。
ありがとうございました。