鐘声と軟風   作:ダンまちファン

10 / 10

短め
アイズをベルの位置に置き換えても良さそうと思った理由の八割は復讐姫です。二割はエアリアル。



10話 風精の舞踊

 

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは思わぬ危機に陥っていた。

 

 シル……彼女が出会った素敵な友人に財布を届ける最中でモンスターに襲われてしまったのだ。シルバーファング……だけではない。

 

 それは、見るもののセンスを疑うような極彩色の忌まわしい食虫植物型のモンスターだ。

 

 魔力に反応して、触手のように蔦を伸ばして襲って来る怪物に、アイズは苦戦を強いられていた。

 

 

 街中で戦うにはキツすぎる。そして、まともな武器すら持っていない。祭りだと油断して武器を置いてきたアイズはこういうこともあるんだと後悔していた。

 

 

 そこで、ヘスティアは秘密兵器を取り出した。

 

「すごい……すごい……! 振り回しても壊れない! 雑に扱っても平気な武器だ……!」

「ボクからの贈り物を雑に扱わないで欲しいな?」

「ヘスティア様」

 

 

 彼女が身と血を差し出して作ってもらった【ヘスティア・ソード】。アイズの手に凄く馴染む剣をウキウキと振り回してヘスティアに笑顔を向けた。

 

 

「行ってきます」

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 この騒動を収めてくると言うアイズをヘスティアは送り出す。そこには自分のプレゼントを喜んでもらえたという歓喜と君ならこの程度大丈夫だろうという信頼があった。

 

 

「帰りを楽しみに待っているねー!」

 

 

 

 彼女が飛び立っていく様を最後まで見届ける。辺りはどこもボロボロで避難しなければいけないだろう。運のいいことに怪我したものは誰もいないようだった。荒れて静かになった広間で、ヘスティアは自然と誰かの気配のする方を見た。

 

 

 

「で? さっきから見ている君は誰だい?」

「……はじめましてヘスティア様。無礼はどうかお許しを。私のことは……」

 

 

「【英雄の架け橋(テセウス)】とお呼び下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 踊る。

 

 踊る。

 

 風の妖精は踊る。

 

 

 実はアイズ・ヴァレンシュタインという少女は市街地戦が大得意だ。身軽な身体を活かして、四方八方から攻撃を行う一方的な攻撃(ヒット・アンド・アウェイ)は流れる水のように自然で凄まじい。

 

(斬れる)

 

 蔦を斬った。風を利用して足場にしていく。斬るものがここには沢山あり、自分の実力でも斬れるというのは大変ありがたい。

 

 

(斬った)

 

 

 花を斬った。アイズの剣は止まるところを知らない。花の化け物の剪定を繰り返していく。アイズには化け物の正しい剪定の仕方などわからないので全て斬り捨てる。

 

 

 

 黄金の髪を持つ少女は、軽やかに敵をなぎ倒していく。壁を登って高いところから広い視野で周囲を見渡し、効率的な殲滅戦を展開する。彼女は誰一人として周りの人を傷つけることを許さなかった。

 

「綺麗……」

 

 誰かが呟いた。

 

 怪物の暴れる危険な現場だというのに、まるで劇の演目のように美しい戦闘だと。

 

 レベル2の肉体速度は一般人にも見えはする。滑らかに脅威を切り裂く彼女は誰よりもこの場所で輝いていた。

 

「あの子、だれ?」

 

 あの剣士は一体誰だろう? 

 

 あの美しい剣を扱う彼女は誰だろう? 

 

 化け物を倒す姿に周囲を魅了される。

 

 ここは彼女の独壇場。邪魔するものはいなかった。

 

 例えいたとしても、

 

 

「消えて」

 

 

 彼女がすぐに切り刻む。漆黒の剣は緑に輝き、乙女の背を押す。もっと斬れ、もっと暴れろ。こんな機会は滅多にない。怪物を倒して、倒しまくれと叫んでいるような気がした。

 

 否だ。それは己の中の黒い自分だ。今はそんな自分はいらない。ヘスティア様から貰ったこの子に相応しくない姿を見せたくない。

 

 

 剣をどんどん慣らして最適化しながら、思い出すのは師匠の剣だ。

 

 今は城を斬れるような立派なものではないけれど。

 

 草花くらいなら練習中にといくらでも斬った。

 

 

「もう終わらせるね」

 

 アイズは剣を引っ込めて身体を取り出す準備をする。魔力の高まりに怪物共は大量に集まり獲物を完全に仕留める用意を整える。

 

 集まり、絡まり、より満開に咲き誇る花は凄まじい勢いで突っ込んできた。

 

「『目覚めよ(テンペスト)』」

 

 けれど関係ない。

 

 ここには彼女がいる。

 

 剣に風を集中させて、己の身から出てくる白と黒を束ねる。凄まじい魔力の奔流は怪物と押し合い、拮抗して、怪物が内側から朽ちていったことで決着がついた。

 

 

「すごいなぁ」

 

 

 その様子を全て見ていた仮面の冒険者は微笑む。自分の見惚れた自由な風の剣は確かに本物だったと喜んだ。

 

 今はまだ荒々しく、雑だけど磨けばもっと綺麗になる。

 

 冒険者の才能に恵まれた彼女の勇姿を特等席で見届けた。

 

「彼女の周辺には特に集まっていたみたいだけど……大丈夫そうだね」

 

 剣筋があれだけ心を映し出すのかとベル・クラネルは驚嘆した。

 

 

 

 

 

「わぁ、派手にやったね!」

 

「っ! アーディさん」

 

 

 事態の収集のためにやってきたガネーシャ・ファミリアの使者はすでに終わった現場の惨状を見て驚いた。

 

 レベル2だと聞いていたけれど、ここまでやれるのかぁと仰天する。そんな彼女を見たアイズは怒られると勘違いしてその身を小さくする。

 

 

「あの、ごめんなさい? こんなにしちゃって」

「え? 何の話?」

「ん? ……ううん、気にしないで! 本当に気にしないでほしい!」

 

 

 街を壊し過ぎたことに呆れてたんじゃなかったのかと安堵するアイズの胸中など目の前の彼女には伝わらないだろう。自分の暴力を反省できる冒険者はこの街に少ないという悲しい現状を彼女は知らないのでアーディが怒ることなどないとわからなかったのだ。

 

 

「いやぁ、ありがとう! 困ってたんだよ。あちこちでいきなり襲い出したから手が回らなくて」

 

 

 ガネーシャ・ファミリアも多忙だ。特にアーディは怪物の調教を手伝いながらパトロールもしていた。有志の手伝いがあるのは大変助かる。 

 

 特にこのオラリオでは、【派閥】という仕組みのせいで簡単に手助けが行えない。余計なお世話が誰かのためになることが限りなく少ないため、こうして善良な行為を見ると嬉しくなってしまう。

 

 アーディは心の底から感謝をしていた。

 

「アイズのおかげで助かっちゃった」

「そんなに気にしないで。私もヘスティア様もやりたくてやったし」

 

 アイズからすれば巻き込まれた火の粉を払っただけでそんなに気にして欲しくなかった。アーディが普段から頑張っているのはさっきの慌てた様子からも想像できる。

 

 アイズにとってもアーディは好感を抱く人物だ。恩なんて感じて欲しくなかった。

 

「そう言われてもなぁ……」

「アーディ!」

「あ、リオン!」

 

 

 端正な顔を歪ませて、うんうん悩んでいるアーディの元に妖精(エルフ)が一人走ってきた。心配した様子で彼女を見ている。やがて悩んでいるから深刻そうな顔をしていると気付き、どこにも傷は無いことに安堵した。アーディは過保護だなぁと苦笑する。

 

 

「貴方が無事でよかった……! ん? 隣の貴方は」

「あぁ、紹介するよリオン! この子はアイズ。すっごい強いんだよ!」

「はい、こんにちは」

「こんにちは。リュー・リオンと言います。どうかよろしくお願いします」

 

 

 アイズはそう言って目の前のリューを観察する。この人も強い。動き方がオールラウンダーのそれだと見抜いた。彼女もアイズが観察していることは気付いているだろう。その観察を、構わないと流していた。

 

 アーディは嬉しそうに彼女のことを語り出した。

 

 

「リオンはアストレア・ファミリアのメンバーで私の親友なんだ。【豊穣の女主人】ってところでも働いているから偶に会いにいってあげて?」

 

 

 アイズがその事を聞いて、料理もできるのかぁと感心するのと同時に考えたのはシルのことだ。【豊穣の女主人】……まだ一度も行ったことはないけどシルのいる店の名前だ。なら彼女はシルの同僚なんだろう。

 

 アイズは猫人(キャットピープル)から押し付けられたシルの財布を懐から取り出してリオンさんにと押し付けた。

 

 

「へぇ、【豊穣の女主人】の……なら、はい」

「? これは」

「これは、シルの財布。私たちじゃシルを見つけられなかったから返しておいて欲しいです」

「なるほど、わかった。預かっておこう」

 

 リューは納得したようで、責任を持ってお渡ししますといい受け取った。彼女も私を観察する目を解いて向き合う。アストレアの眷族は相手の善悪を見抜く審美眼を持っているのだろう。アイズには向かって微笑んだ。

 

「貴方もシルの良き友人のようだ」

 

 

 リューはそれではと言って去っていった。彼女が正義感を暴走させて勝手にパトロールに来たことを思いだしたからだ。

 

 

 アーディもリオンが帰っていく様子を見届けた後、自分も戻らなきゃとアイズには背を向ける。

 

 

「じゃあね、アイズ! また絶対お礼させてね!」

「うん、楽しみにしてる」

 

 

 アイズも流石に彼女のお礼は受け取るべきだという空気くらい読める。彼女はアーディを見送ってこれからどうしようかという時に、安心する声がアイズの名前を呼んだ。

 

 

 

「アイズくーん!」

「っ! ヘスティア様っ!」

 

 ヘスティアは息を整えて、アイズを見た。

 

「やっと追いついたよぉ……」

「ヘスティア様」

「ん? 何だい、アイズ君」

 

 ヘスティアはきょとんとした顔でアイズが話すのを待っていた。アイズは手に持っている漆黒の剣を見せつけて笑う。

 

「今日、良い日でした。すっごく」

「そうか……ならボクも嬉しいよ」

 

 

 結構散々な目にあった気がするけれど、彼女がそう言うなら良かったんだとヘスティアは納得する。ヘスティアと同じ気分で嬉しいのか、アイズはヘスティアの手を握りホームへの帰路についた。

 





この作品だとリューを活躍させるのが難しいかも……
誰か、脳内に突如現れたフレイヤ・ファミリア入団リューif書いてくれないかなぁ……

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