——ある日の東京の地下鉄の駅
普段は3分間隔で電車が来てホームが人に溢れるようなことはないようなこの駅で、今日は改札前に人が溢れかえっていた。
改札を閉鎖していたのだ。なんでも、今日の未明ごろから駅のホームで地鳴りがしているらしい。
今、改札前に押しかける通勤客たちに駅員たちが事情を説明している。
「ホームの安全が確認されるまで、今しばらくお待ちください。駅長が今様子を確認していますから。」
「ふざけんなよ!俺は今日大事な会議なんだよ!!遅れたらどうしてくれんだ!!」
「申し訳ありません。今しばらくお待ちください。」
などと言い合っていると駅長が走ってきた。この駅長はこの駅に勤め始めてもう30年になるベテランだ。部下からの信頼も厚い。
「大変だ!!…が地面から起き上がってきてる!!」
通勤客の喧騒でうまく聞き取れなかったのか駅員が聞き返した。
「なんですって?」
すると、今度は駅長は大きな声で怒鳴るように叫んだ。
「チンポだ!!チンポが地面から大きくなりながら起き上がってきてる!!」
「…は?」
駅員は困惑した。先ほどまで騒いでいた通勤客たちの間にも困惑の静寂が広がった。
「駅長、失礼ですが昨日酒でも呑みすぎたのでは?」
「本当だ!間違いない!動画も撮ってきてる!!」
駅長が動画を再生しながらスマホを駅員と通勤客の方に向けると、通勤客の間に再びざわめきが戻った。
「チンポよ…」「チンポだわ…」「チンポチンポ」「チン…」「チン…」
駅長が見せた動画に写っていたのは紛れもないチンポの一部だった。しかし、あまりにも大きすぎる。それは、地下鉄のレールの底でドクドクと脈打ち、少しずつ大きくなりながら、起き上がっていた。
それについて口々に騒ぎ合っていた通勤客の中の1人がふとこんなことを言った。
「これって、今も大きくなりながら起き上がろうとしてるんだよな…?…ってことはしばらくしたら地面を突き破って駅を壊しちゃうんじゃ…」
そう言った直後のことであった。改札の奥のホームの方で、まるで大きな鉄の塊を地面に落としたかのような音がした。
通勤客たちはたちまちパニックになった。
「うわあああああああああああ!!!!チンポに殺されりゅぅぅ〜〜〜〜〜!!!!」
押し合いへし合い通勤客たちは次々に駅から逃げて行った。
しばらくすると、地下鉄の駅は閉鎖され、警察を呼んで調査をすることになった。
「駅長さん、本当ですか?…その……ホームに巨大なチンポがいるというのは…?」
困惑を隠せないような様子で警官の1人が聞いた。
「まあ、信じられないのも無理はないでしょう。ですが、百聞は一見にしかず。まずは見てください。」
そういいながら駅長は警官たちをホームに案内した。
それは先ほどより巨大になり、既にレールを突き破っていた。そして、今やそれは天井にまで届き、天井を破らんとするかのようだった。
「チンポよ…」「チンポだわ…」「チンポチンポ」「チン…」「チン…」
いくら今まで異常な犯罪者などを相手してきた警官といえどもその反応は朝の通勤客と同じになるしかなかった。チンポを前にしたとき、人はその反応の選択肢を多くは持たないようだ。
だが、ひとしきり動揺した後の反応は違っていた。警官たちは、冷静さを取り戻した様子で状況を分析し始めた。
「しかし、これは非常にまずい。ひょっとすると、この駅が潰れるどころか周りのビルなども危ないのでは…。」
などと言っていると、チンポを押さえ込んだ天井がメリメリという音を立て始めた。
「…これはマズい!!すぐに上に連絡して対策をしてもらわないと、この辺り一帯でとんでもない被害が出るかもしれないぞ!!」
その後すぐに、駅の半径10kmは避難区域に指定され、警備線が張られた。また、万全を期して周囲一帯の空は警戒空域に指定された。
それから数時間後、駅周辺の一帯を見晴らすことができる高層ビルの会議室に、各界の専門家や官僚などから構成される対策会議のメンバーが集められた。
「えー、みなさん。本日はお集まりいただきありがとうございます。本日の会議の議長を務める田村です。この会議の議題は、今窓から見えている巨大不明物体の対応策についてです。これは前代未聞の事態です。みなさんの知恵を合わせて対応策を考えればと思います。」
「まず…あれはなんなんだ?」
「チンポですよ!見れば分かるでしょう!」
「まあ、そうか…」
流石の専門家たちも異常な事態に、まだ状況を飲み込めない様子ではあったが、なんとか会議は始められた。
「では、まずは現在までに起こったことについて整理します。例のチンポ…いや、ここでは『X』と呼称しましょうか。Xは今日の早朝に発見された巨大不明物体です。第一発見者は地下鉄櫻町駅の駅長、発見場所は櫻町駅一番線の線路下です。その後、Xは勃…いや、膨張しながら起き上がり、発見から15分後には線路を、3時間後には駅の天井を突き破り、その姿を地上に現しました。地上に姿を現してからもしばらくは膨張を続けていましたが、地上に姿を現してから2時間後、膨張は止まり、今では拍動だけが観測されています。地下鉄駅の直上は道路でしたが、Xが突き破ったときには既に通行規制を行なっていたため、人的被害は出ませんでした。」
「これが現在までに起こった出来事です。では、次に国立科学研究所の所長である山田教授から、Xの解析結果について教えていただきます。
田村議長の紹介に従い、いかにも学者然とした男が立ち上がった。
「ご紹介に預かりました、国立科学研究所所長の山田です。今回の件では、科学班を統括しております。」
「では、現在までにわかったことについて解説します。まず、Xの膨張についてですが、Xは発見から約3時間は一定の割合で膨張を続けていましたが、発見から約3時間後からその膨張の速度が徐々に上昇するという現象が見られました。また、膨張速度の上昇が開始したタイミングは避難指示発令のタイミングと符号していますが、その因果関係については未だ不明です。」
「次に、Xのサンプルの解析についてです。我々は地下鉄駅へ調査員を派遣し、そこでXのサンプルを採取しました。Xを構成している物質は非常に硬く、サンプルの採取には、ダイヤモンド製の採取具を必要としました。サンプルの解析を行ったところ、Xは複数の種類の細胞で構成されていることから、生物であるとわかりました。また、それらの細胞の構造は、人間を構成している細胞と非常に酷似しているということが分かっています。ここからは推察ですが、人間の感覚細胞や脳細胞と酷似する細胞があることから、Xは周囲の状況を把握することができる可能性もあります。私からの報告は以上です。」
会議室はしんと静まり返っていた。
Xはその見た目から、生物かもしれないとは皆が考えていたが、実際にそうであるということが科学的に示されたとなると、そのような巨大な生物がいま目の前にいるという事実にやはり圧倒されてしまうものだ。
しかし、会議が止まったままでは、被害がさらに広まってしまうかもしれない。田村議長が声をあげる。
「みなさん。これが今までで分かっている状況の概略です。それではこれから、具体的な対応策について話し合っていこうと思います。」
田村議長がそう言ったのを皮切りに活発な議論が始まった。
「やはり、自衛隊の出動でしょうか?」「しかし、アレに攻撃した際の周囲への影響は未知数だ。」
「生物なら、なんらかの毒を投与するというのはどうでしょう?」「もしその毒が周囲の土壌に流出したら、水道を介して毒が広まってしまうかもしれませんよ。それに、アレに毒が効くという保証もない。」
様々な案が議論されている中、不意に一人が手を挙げてこう言った。
「我々はやはりアレについてあまりにも知らなすぎる。実際にアレを間近で見たという者は数人しかいません。どうでしょう、サンプルを採取した際よりも大規模な調査隊を組織し、より詳細な分析を試みるというのは。」
皆が同意した。戦に勝つにはまず敵を知らねばならない。
すぐに分析のための調査隊が組織された。
分析後即座に対策を練るために会議のメンバーの全員が調査隊のメンバーとして参加し、そこに実際に分析を行う数百人の研究者が加わった。
調査拠点の場所は櫻町駅の直上にある道路に決められ、そこに大型のテントが設置された。
全員が一度に移動すると、仮に不測の事態による事故が起こった際に取り返しがつかないということから小さなグループに分かれて移動を行ったが、幸い誰一人事故に遭うことなく、無事にテントに集合することができた。
「これで全員揃いましたね。」
この調査隊でも、やはり田村がまとめ訳である。
「それでは、事前の予定通り、対策を練る会議メンバーはテントに残り、分析を行う研究メンバーは分析を開始してください。」
合図に従い、すぐに数百人の研究者が分析機器を持って、テントから出て行く。
チンポに大量の分析機器が貼り付けられる。
「拍動の回数は一分間に100回で、これはどの部位でも同じです。」
あらゆる分析結果はすぐに対策を練る会議メンバーたちに伝えられる。
「表面を傷つけたところ、人間の血に酷似した液体が流れてきました。」
「血圧分析を行ったところ、最高血圧が120Hg、最低血圧が80Hgと出ました。」
「表面と内部で細胞の構造が異なっています。」
様々な分析結果が淡々と伝えられる中、サイズ分析を行なっていた研究者が、慌てたようにテントに駆けつけ、大声で会議メンバーに伝えた。
「たっ、大変です!!チンポのサイズが変化し始めました!!」
「なにっ!?さっきまで止まっていた膨張がまた始まったのか!?」
会議メンバーの一人が尋ねる。
「逆です!!縮み始めました!!」
「なんだと!?」
会議メンバーたちが実際に確認しようとテントを飛び出す。
そこで会議メンバーたちが目にしたのは、予想だにしない光景だった。
「チンポが…縮んでいる。」
先程まで高層ビルのごとく聳え立っていたチンポが、みるみる縮んでいるのだ。
その速度は、膨張していたときの比ではなかった。
そこにいた人々にできるのは、どんどん縮んだチンポが地上から姿を消すのをただ眺めることだけだった。
「……消えた。…しかし、なぜ?」
会議メンバーの疑問に、分析メンバーの一人である生物学者が返した。
「アレは、おそらく感覚細胞によって周囲の状況を知覚できたのでしょう。そして、それによって自分が多くの人間にじっと見られているということを知覚した。」
「えっと…つまり…」
「恥ずかしくなって、勃起がおさまったんでしょう。」