万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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真名判明

アイルランド館のキャスター
真名
小泉八雲

アイルランド系、ギリシャ生まれの随筆家、また日本研究家。
日本にて民話の蒐集を行い、『怪談』『知られぬ日本の面影』などの作品に纏め上げた。



13話 連作濁々ワンダーランド

 

吹雪はとうに消え去った!! 我が神がもたらす風は全てを吹き払う、そう、このあばら屋の屋根さえも!!

神の威光は尽くの地面を照らし、悪しきものを焼き尽くす!!

 

されども妖怪変化、なおも止まることはなし。確かに妖は夜に出ずことが多いが、しかして昼にもまた生きるもの。

折れた柱のその隙間、割れた床板のその隙間。恐れは新たな物語を生み、物語はまた形を持つ。

 

 

「クソ、アイツら好き勝手やりやがる!!」

 

 

狼我殿は舌打ちを1つ。現在立ち並ぶは雪女、そして人型の霊魂が5、6ほど。

相対するはランサー、人形3体を引き連れ、霊魂を蹴り、また殴る!! おお、たった今、ランサーの短槍が雪女を裂いた!! 忽ち消え去る雪女、見事なり!!

 

しかし、それだけ。無尽蔵に物語は沸き出ずる。

ランサーを見咎めて、霊魂はその形を変えた。赤と青が描き出すは、見るも醜き大蛙。

 

 

「次は蛙か!! 今度は、何の物語だ……?」

 

「指揮が疎かだ、基田狼我!! とにかく倒せばいいのだろう、次はどうする!!」

 

「悪いランサー!! まずアイツには迂闊に近づくな、全員距離を取って

 

 

しかし動き出すにはいささか遅い。

大蛙は口を大きく開き、手近にいた人形に齧りついた。一瞬のことだった。人形を腹まで咥えこんだ大蛙は、がく、がく、と顎を動かし、その土塊を噛み砕く。

 

 

「しまった!! 遠距離攻撃手段、何かないか!!」

 

「ならばこれがある」

 

 

ランサーの手には、投石機があった。大蛙の口から弾けた土器片を掴んで、放つものの、所詮はただの石礫。

 

否、ランサーが放つは眩き神秘の石礫!! それは怪異の皮膚へ突き刺さり、貫通!! そして我が神の威光、傷口の中まで照らし出し、太陽光が火を灯す!!

 

 

「凄いな、本当に火が出てる」

 

 

醜き大蛙は、炎をその身から上げながら崩れ落ちる。空気が抜けた紙風船のようにしぼんでしまう。

しかしその潰れた身体からは、今度は無数の蟹が出る。その甲羅には、人間の顔にも似た模様。いわゆる平家蟹と呼ばれる蟹である。

無数の平家蟹、ランサー目掛けて走り出す。それらは音を立てて鋏を鳴らし、一塊の波となって、一斉に襲いかかるのであった。

 

しかし!! その瞬間床板に開く亀裂!! 揺れる大地、砕ける地面!! 破壊された大地のその溝に、蟹はあえなく飲み込まれていく。これもまたシヴァ神の御業、オム・ナマ・シヴァヤ!! オム・ナマ・シヴァヤ!!

 

 

「シヴァ神、婚礼、花婿、スンダラル・テヴァラム」

 

「……器用なものですね。推理しているんですか? セイバーのことを」

 

「あー、悪い、つい」

 

 

マスターと狼我殿の視線が交わる。走る緊張、何とも気まずい。だがマスターも齢29の大人の女性、きっとここでも大人の対応を

 

 

「煩いですねセイバー!!」

 

 

これは失礼した。……筆が乗ってしまって。

 

 

「……まあ、これは仕方ないですね。彼の真名は、スンダラムルティ・スワミ。シヴァ教における聖詩人、シヴァ神の永遠の花婿」

 

「悪い、知らない」

 

「後で調べてください。日本語の資料があれば、ですが……本当はなるべく、言いたくなかったんですけど」

 

 

しかしそれにしても我がマスターは心配性だ。我の人生に、弱点なぞ1つもないというのに!!

 

 

「万全を期すためです。情報のアドバンテージを確保しておきたかったんですが」

 

 

しかし、連作というものはなんともやりづらい。異国の神をこうも持ち込まれると、私の話が潰れてしまう。ならばこうする他はありません。

再び冷たい風が吹き、空から一筋、何やら白くぼやりとしたものが降りてきます。

 

 

「っ、何か来た、上からだ、下がれランサー」

 

「見えている!!」

 

 

後ずさるランサー。降りてきた靄は地面に至り、積み上がり。人のような姿を形作り。

 

 

「──これでは勝負がつきません。腕尽くの手ですが、こうしましょう」

 

 

なんと。靄は変貌し、再びキャスターの姿が現れた。

しかも此度は、恐らく先程まで見えていたキャスターとは異なる。分身なれども分身でなし、この領域を支配する本物のキャスター!!

そのキャスターが、ランサーの目の前に現れ、どこからともなく取り出した刀を構え。

 

 

「剛僧『回龍』、ここに」

 

 

その発言をした刹那。

柱、屋根材、砕けた怪異。その全てより、赤青の粒が滲み出る。キャスターを覆い形を作る。

瞬く間に構築されるは和装の甲冑!!

 

 

「ミャクミャクの、鎧」

 

「次から次へと、器用なものだな、キャスター!!」

 

「参ります」

 

 

踏み込むキャスター!! 日本刀の一撃が振り抜かれ、それをランサーが受け止める!!

高らかに金属音が響き、ランサーは更に後退。今の一撃は、キャスターの細腕でありながら、異常な腕力としか言いようがない!!

 

 

「セイバー!! もういいでしょう!! 貴方も降りてきて、ランサーに加勢を!!」

 

 

む、そう言われては仕方ない。我としてもこのような振る舞いが出来るのはキャスターの空間に便乗してのこと、二度はない経験なのだが──

 

 

──しかし、必要とあればそうしよう、そう、マスターと我の勝利のために!!」

 

「はい、お疲れ様でしたセイバー。早く加勢を」

 

「人遣いが荒いマスターだ。待たせたなランサー!! オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

 

その一声と共に、再出現したセイバーは地面を蹴り、そのただ一度の踏み切りで、勢いよくキャスターへと斬り掛かった。

キャスターは咄嗟にランサーを蹴り飛ばしてセイバーの一撃を受け止め、ぐいと踏み込み弾き飛ばす。

 

戦いの場は文章の紙面上から3次元のあばら屋へ戻り、もう空からの声は聞こえない。

 

 

「やっと静かになった」

 

 

狼我の口から安堵が漏れた。

しかしそれにしても。交戦するサーヴァント達を見つめながらも、狼我は考える。

不思議なことは。

 

 

「どうしてキャスターがミャクミャクを使うのか、そしてどうしてキャスターはミャクミャクの力を使えているのか」

 

 

それが疑問。あまりにも不条理だ。何しろ、当たり前のことだが、小泉八雲とミャクミャクの間に関連はない。

なら何故?

 

 

「何故か、ならわかるで」

 

 

不意に、声がした。

 

狼我が振り向けば、部屋──今となっては部屋の残骸としか言いようがないが、その残骸となった部屋の片隅で、美琴が目を覚まして、狼我を見ていた。

 

 

「何故ミャクミャクを使うのか、ならな」

 

「アンタ、もう大丈夫なのか」

 

「うん。状況なら、見て分かったで」

 

 

そう呟き、続けて。

 

 

「ミャクミャクは、聖杯や」

 

「あ?」

 

 

そんなことを言う。

 

 

「狼我クンには言うてへんかったけど、万博聖杯戦争において、聖杯はマスコットの内部に設置される慣例があるんや。……今回は、東ゲート前のミャクミャク像がそれやった」

 

 

そういえば、聖杯の場所がどこなのか、前に聞いたことがあった。あの時は伏せられていたが、なるほど。

 

 

「なら、キャスターのマスターは、そのミャクミャク像から聖杯を持ち出して、使っているってことか?」

 

「多分な。無理やりミャクミャクからぶっこ抜いてきた聖杯やから、ミャクミャクの形が残ってるんやろ。……こないなことになるから、聖杯の場所は一応機密にしとるはずなんやけど……」

 

 

そう眉を顰める美琴。

狼我も考えてみるが……あえて、キャスターに機密を漏らしかねなない人物に、1人心当たりがある。

GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION の監督役、井室 錬。

 

 

「……まさか、アイツ、お漏らししたか?」

 

 

美琴も同じ結論に至ったらしい。

しかし、改めて考える。『何故』ミャクミャクであるか、の結論は出た。しかし、『どうやって』ミャクミャクを扱っているのか、それがわからない。

キャスターについて、改めて考え直す。小泉八雲。ラフカディオ・ハーン。その作品の特徴は。

 

 

「そうか──キャスター、小泉八雲は自ら小説を書いた作家じゃない、日本の民話を蒐集し、世界へ送り出した英霊だ。なら、もしそれが、かつて蒐集した民話に限らないのだとしたら?」

 

 

美琴に目を向ける。美琴はその視線に気づいて、狼我の発言が問い掛けであると理解する。考える。

 

 

「ミャクミャクが民話? いや、ミャクミャクは単にマスコットであって──

 

 

そこまで言って、言い淀んで。

美琴は思案する。ミャクミャクというキャラクターにとって、民話、物語、それに類するものは、本当に何もなかったか?

 

 

「──ちゃうな、確かに、公開したての頃は、なんやネットの連中がふざけて、やれ因習村のミャクミャクさまだ、と。いや、それだけで?」

 

「……理解しました、キャスターにとっては、きっとそれだけで十分だったんですね」

 

 

美琴の呟きを聞いていたのだろう、横で話を聞いていたキャンディが、口を差し挟む。

彼女の目は目の前で戦うセイバーとランサー、そしてキャスターを捉えたまま、しかし答えを見いだしていた。

 

 

「キャスターは個人の語る小規模民話を蒐集してきた。ならば、複数人の語りで生まれた小さな幻想(フォークロア)でも、行使するには十分だった」

 

「キャスターは、ミャクミャクさまという最新の民話を経由して、聖杯のリソースを引きずり出した。そういうことか」

 

 

辿り着いた、それが答え。

キャスターには、ミャクミャクという存在を活用する性能があり。ミャクミャクという存在は、聖杯と直結していた。逆に、キャスターが今聖杯を扱うためには、ミャクミャクという形を経なければならなかった。

今起きている事情の回答は、それだ。これをどこまで錬が手引きしたかは、わからないが。

 

 

「しかし!! 相手が悪かった!!」

 

 

セイバーの叫びが上がり、狼我の思考を裂く。

再び視線を前に向ければ、今も戦闘の真っ最中。

 

 

「神の恩寵を受けし我が身と、異邦より来たりし黄金の王!! 敵うものなど、いようものか!!」

 

「王を後に置くとはなんたる驕りか!! しかし赦す、今はキャスターを誅伐せん!!」

 

 

連撃、次ぐ連撃。

セイバーが振るう光の剣、そしてランサーが振るう黄金短槍。剣戟はいずれもキャスターの鎧を掠め、一撃が触れるごとに火花が散る。キャスターを覆う赤青の粒が、少しずつ、しかし確かに砕け散る。

 

 

「なんという強さか。鬼神のようだ、しかし。『幽霊滝の伝説』」

 

 

キャスターはその場を飛び退き、代わりに地面を突き破って、巨大な腕が現れる。やはり赤青の粒で構成された奇怪な腕、それはぐにりと折れ曲がり、セイバー目掛けて迫りくる。

セイバーは、その掌底をしかと見つめて。

 

 

「ならば!! 我が神よ、我が触れるものすべからく黄金となしたまえ、オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

 

助走をつけ、衝突!! 掴みに来る腕を殴り付けた。

瞬間、腕はたちまち変質を開始する。赤青の色は失われ、金色に書き換わる。動きを止め、ただの金塊へと変貌し。

 

 

「そして黄金ならば王のもの!! 神官王の威光にひれ伏すがよい!!」

 

 

そして割り込んだランサーが、一括と共に腕を破砕!! 折り取った金塊を振り回し、キャスター目掛けて投げ付けた。

キャスターは怯むことはなく、金塊を一刀の元に斬り伏せる。が、しかし。

 

視界が金塊に奪われた一瞬で、勝負は決まっていた。

 

 

「併せよセイバー!!」

 

「いいだろう!!」

 

 

両断された金塊の向こうに、キャスターは見る。

既に大きく振りかぶられた光の剣、黄金の槍。

それは同時に、全く同時に。

 

キャスターの身体を、破断した!!

 




「どうしてっ、及ばない!!」

「ジブン今何て言った!?」

「本末転倒も良いところです!!」

「道を切り開くって、言われても!!」

「……魂の数が、足りないのか」

「疑似宝具装丁──民話再演・ミャクミャクさま」


14話 ミャクミャクさまの民話


「アンタは──岡本、太郎か?」



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