万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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14話 ミャクミャクさまの民話

 

「──キャスターの術、破ったぜ」

 

 

意識を取り戻した、と言うべきだろうか。

あるいは夢から覚めたのか、あるいはふと前を向いただけなのか。とにかく、先程までキャスターの術中にいた狼我は、元々そうしていたように、あの聖杯問答の場に戻っていた。

バーサーカー達も、狼我ら同様にキャスターの魔術を突破したようだった。既に、元々そうであったように誰もが席についていて、そして部屋の片隅を見つめている。

 

部屋の片隅には──キャスターの姿と、そのマスター。キャスター曰く、クラルサッハ・マーフィーの姿がある。

 

 

「どうしてだ」

 

 

視線を向けられて、クラルサッハは舌打ちをし、小さく脚で床板を鳴らす。

 

 

「どうしてっ、及ばない!!」

 

 

それは、サーヴァント4体に直面し追い詰められた状況だから、というよりは、単に計画が上手くいかなかったこと自体への怒りであるように見て取れた。

 

 

「ミャクミャクは聖杯だった、それを使って、使いこなして、完璧に不意打ちだってした!! 何故勝てない!!」

 

 

キャスターは無言だ。己のマスターへ何かを言うわけでもなく、ただそこに立っている。

 

 

「勝ちを焦ったな、ジブンは」

 

 

口を開いたのは美琴だった。

 

 

「未完成の聖杯を使っても、ろくな魔力は得られへん。まだアサシンしか脱落していなかったんや、中身のないもんは使えんやろ」

 

 

聖杯を強奪し、使用したとしても。サーヴァント1騎から引き出せる魔力はたかが知れている。今、この時に仕掛けた時点で、クラルサッハはタイミングを読み違えていた。

 

 

「観念しいや」

 

「オマエが、仕切るな」

 

 

ベンドレが口を挟むと共に、席を立ち、一歩前へ出る。ライダーも併せて立ち上がり、槍を取り出しキャスターへ向けた。

セイバーも既に剣を手に取り、ランサーも同様に短槍を構え。バーサーカーも、何時でもキャスターへ飛びかかれるような、そんな体勢。

サーヴァント4体。その視線を、クラルサッハは一身に受けて。

 

しかしまだ、その野心は折れていない。

 

 

「ならば、ミャクミャクの力をより完璧に、100%引き出すまで」

 

 

右手を握り込み、ガン、と一撃胸を叩く。そして。

 

 

「キャスター、令呪だ。お前の中のミャクミャクを引きずり出せ、入れ替えだ」

 

 

早口に、その命令を吐き捨てる。握りこぶしから赤い光が滲み出て、雫が落ちるようにキャスターへと移る。

真横のキャスターはそれを受けて、俯き、小さく肩を落とす。

 

狼我は先程の、キャスターとの会話を思い返す。きっと彼にとっても、クラルサッハの命令に従うことは本意ではないはず。止めることはできないか、狼我は思案する。

もう遅い。

 

 

「早くやれ、キャスター!!」

 

「……ああ、お許しください、皆々様。私の望みは叶いませんが、こうして新しい物語を見つけることに、私は喜びを覚えずにいられない」

 

 

意外にも、そう言う口の端には笑みがあった。

キャスターは顔を上げ、しかし目を閉じ、軽く微笑み。遠い記憶を呼び戻すように、あるいは泥中から遺物を引き抜くように、己の額に指を当て。

 

 

「──怪談というものは。色も変え、形も変え、なおも息づく民のもの」

 

 

その言葉を聞いて、狼我は息を呑む。

これは──宝具の詠唱だ。

 

 

「させない、バーサーカー!!」

 

「承った」

 

 

直後、椅子を蹴るバーサーカー。鉄板の上を飛び越え、一歩の着地で更に床板を蹴り、その拳をキャスターの鳩尾へと突き立てる。

はずだった、が。

 

 

「書物においては語られずとも、人の心にあるならば、物語には果てはなし」

 

「拳が通らない──いや、押し返されている」

 

 

確かにその拳はキャスターを捉えた。しかしキャスターは身動ぎもせず、詠唱を続ける。バーサーカーは更に拳を押し込むが、ぐにりと弾かれる感覚を覚えて。不思議だ、サーヴァントとはいえ人間型の組成なら、このような弾かれ方はしないはず。

 

 

「この感触は──水圧か?」

 

 

直後。

 

 

「故に、この不思議な信仰も。必ずやこの日本の地に、存在したものなのである」

 

「っ──

 

 

ぶしゃあ、と。

キャスターの腹に穴が空く。青色の流れが弾け出る。水の奔流が腸より出できて、バーサーカーの拳をその肉体ごと跳ね飛ばす。

 

そして流れは渦を巻く。キャスターの体を飲み込み、泡立ち、膨らみ、形を得る。渦巻く波濤のぶつかる合間に、キャスターの声は滔々と。

 

宣言する。

 

 

「疑似宝具装丁──民話再演・ミャクミャクさま」

 

「……ジブン今何て言った!?」

 

 

渦巻く波が、弾けて。

 

キャスターの姿はもうそこにない。

 

青い身体。デフォルメされた身体は潤いを帯び、水を湛え、光を反射する。

顔──そう言うべきパーツもまた青く、その周囲は赤色の大粒、それが数珠繋ぎになった輪に囲われている。その中央には口が大きくぐぱりと開き、赤色の粒には5つの眼球が浮かび。

 

その姿は知っている。

きっと、日本中、誰もが知っている。

 

 

「…………嘘やろ」

 

「あれは──ミャクミャクだっ、完全に!!」

 

 

キャスターは既に、完全に、紛うことなく、ミャクミャクと化していた。

 

 

「バーサーカー、もう一撃だ!!」

 

「やってみよう」

 

 

水流に弾かれていたバーサーカーが、再びキャスター──ミャクミャクへと飛び掛かる。拳を振り抜き、再び鳩尾へ。体重を乗せたストレート。

ミャクミャクはそれを視界に捉えて、しかし動かない。

 

打ち込まれたストレートは。

ずぼりと、ミャクミャクの腹に飲み込まれる。

 

 

「なっ……腕が、貫通した」

 

「中身は!?」

 

「いや、無い。何も無い」

 

 

腕を抜き、飛び退くバーサーカー。再びミャクミャクの姿を見る。

バーサーカーの腕が貫通していた腹も、既に穴は埋まりかけ、微かに向こうが見えるのみ。しかしその事実が、ミャクミャクの異常性を物語る。

 

ミャクミャク。大阪・関西万博マスコット。

細胞と水から生まれたふしぎな生き物。その正体は不明。赤い部分は細胞、青い部分は清い水。いずれもその形は可変、あらゆる姿を取ることができ、今は人間を真似ている──そういう物語(設定)を持った生き物。

そこにいるのはミャクミャクで、それ以外ではありはしない。

 

 

「キャスターの身体は、どこにもない!!」

 

「いないって、なら、あのミャクミャクがキャスターを消化したってことか?」

 

「それよりは、概念的に取り込んだ、と見るべきでしょう」

 

 

狼我の横に並び立ったキャンディが、そう分析する。

 

 

「ミャクミャクという概念の中に、仕舞い込まれている」

 

 

改めて、狼我はミャクミャクを観察した。

ミャクミャク──そう呼んでいるが、きっと『いわゆる』ミャクミャクではない。キャスターが蒐集した、怪異として解釈されたミャクミャクの民話、そこから来たる歪なるミャクミャクだ。

それはぎょろりと目玉を動かし、周囲の景色を把握する。既に、腹の穴は埋まっている。

 

次の瞬間、ミャクミャクが動く。バーサーカー目掛けて、その腕を鞭のように伸ばし、しならせ、手を伸ばす。

 

 

「躱せっ、右だ!!」

 

「っ!!」

 

 

咄嗟に転げるバーサーカー。先ほどまで立っていた床は、ミャクミャクの一撃で凹んでいる。

 

 

「凄まじい力だ、どうするマスター?」

 

「下がれバーサーカー、殴っても意味がない」

 

「しかし、それならどうする?」

 

「ならば、焼き切るまで!!」

 

 

バーサーカーの問い掛けに、セイバーが割り込んだ。既にその手には光の剣を構え、その刀身には熱風が渦巻いている。その熱を、狼我はもう知っている。シヴァ神の炎。

 

 

「全て蒸発させてみせよう。オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

 

その一声で、空気が唸る。セイバー前方で空気が歪み、熱を帯びてミャクミャクへ吹き付ける。ミャクミャクは熱風をまともに受けて、壁へと向けて後退り。その姿勢を立て直そうとするが、上半身の形が崩れ、直らない。

 

 

「よし、効いている!! 液体ならば風で吹き散らされるが道理です、セイバー、そのまま続けて!!」

 

「もちろんだとも!!」

 

 

尚も熱風を浴びせるセイバー。

ミャクミャクは藻掻いている。藻掻きながら、動けない。拳が通らないのなら、拳以外で戦えばいい。既に、誰もがそれを理解した。

 

 

「援護してやろう、セイバー」

 

 

ランサーが、セイバーの横に並び立つ。その前方には2体の人形。……ランサーの宝具、『捧げられし八人(ワカ・ラハーダ・ナカリイー)』の、最後の2体。

 

 

「かかれ、その生命、今が使いどきと知れ!!」

 

 

それが、ランサーの指示でミャクミャクへと突撃する。ミャクミャクは藻掻きながらも応戦し、その腕のひと払いで、やすやすと人形を粉砕し。

しかし、それがランサーの狙いだった。

砕けた人形の破片が、ミャクミャクの体内に蓄積する。土器の破片を含んだ水は濁り、ミャクミャクの体を重くする。

 

 

「あれは──そうか、あの人形の欠片をあえてミャクミャクに取り込ませて、体を重くしたのか」

 

 

動きを鈍くし、抵抗の勢いを鈍らせるミャクミャク。あいも変わらず熱風は吹き付け、水の身体の体積を削っていく。

 

 

「凄いな」

 

「わたしのはつあん」

 

 

アマウタが、少しだけ胸を張っているのが見えた。

それに、ベンドレが目を向けて。

 

 

「なら……オレも、負けていられない、な」

 

 

ライダーへと指示を出す。

 

 

「あの身体が……水で出来ているのなら。ライダー!! オマエなら、抑え込める!!」

 

「そういうことね!! 動きを止めるっ、ヒョウの皮(ゴアグリーム)!!」

 

 

指示を受けて、ライダーも声を上げた。彼女の一声でヒョウの皮が現れ、ミャクミャクへと纏わりつく。上へと覆い被さったそれは、熱を通し、水を通さぬ獣の毛皮。ミャクミャクを上から閉じ込め、抵抗の手段を完封する。

 

ミャクミャクの身体が、蒸発してゆく。

 

それを目の当たりにして。

 

 

「ああ、クソ、負ける、どうしてこうなっている!!」

 

 

だん、と。クラルサッハは1つ地団駄を踏んだ。彼は壁に身を寄せて、熱を受けて縮みゆくミャクミャクから目が離せない。

彼にとってはあり得ない筈の光景だ。タイミングを読み違えたとはいえ、ここまで総崩れになるとは思ってもみなかった。もうミャクミャクは、消滅まで秒読みだ。彼は歯噛みし、何度も舌打ちし。

 

 

「どうして!! どうして──

 

 

そして、1つの解決策に気がついた。

 

 

「──ああ。……魂の数が、足りないのか」

 

 

気づいてしまえば、簡単な解法だった。

 

小さく笑い声を漏らして、それから彼は歩き出す。ふらり、一歩ずつ、ミャクミャクへ。熱風を受け、その身を縮めゆくミャクミャクへ。

 

 

「キャスター──ミャクミャクさまよ。最後の令呪をくれてやる」

 

 

近づく。

その脚は少しずつ速くなる。

令呪の赤い光はクラルサッハの右腕に纏わりつき、彼はその手をミャクミャクへ。

セイバーの浴びせる熱風は彼にも吹き付け、瞬く間にその指を焦がし始めるが、しかし魔術師は止まれない。

 

 

「アンタ、危ねえぞ!!」

 

「知ったことか」

 

 

指を、伸ばして、触れる。

 

 

「ヒトのフリをやめろ。分別を捨てろ。目に付く魂、全部食え」

 

 

直後。

 

とぷん、と。

ミャクミャクの肌に波紋が立ち、何かが沈んだように震えた。

クラルサッハの姿は、もうどこにもない。この一瞬で──ミャクミャクの中に、沈んだのだ。

 

瞬間、膨れるミャクミャクの身体。人形の欠片も、ヒョウの皮も跳ね飛ばし、純粋な水が質量を増す。

液状のそれは一塊の珠と化し、脈打つように拍動し。その蠢きの度に、ざばり、波飛沫が溢れ出て。

 

 

「何が起きとる!?」

 

「本末転倒も良いところです!! あのマスターは、勝利したさに自らの魂を捧げました!!」

 

 

脈々。

 

脈打ち。

 

次の瞬間。

 

 

「アハハッ」

 

 

脈々蠢く水の珠より、甲高く笑い声が上がって。

 

ばしゅ、と。

 

何か、波の弾ける音が立った。

水の珠から、一瞬水流の柱が伸びて、すぐに引っ込んだ。それだけだった。

 

再び、部屋を見回す。

 

人が減っている。

 

……ベンドレがいない。アマウタも、やはりいない。

 

 

「マスター!!」

 

 

ライダーが声を上げる。狼我の耳にそれが届いて、一瞬遅れて理解する。

今の、今の一瞬で。

ミャクミャクは、あの2人を取り込んだ。

 

 

「ライダー、オッサンはどうなった!!」

 

「えっと……うん、魔力のパスはある、まだ生きてる、でもすっごく嫌な感じがする!!」

 

 

どうやったのか。……恐らく、先ほど伸ばした水流の柱。あれは腕のようなもので、それで手近にいた人間を取り込んだ。

何故それをしたのか、は、きっとクラルサッハを取り込んだせいだろう。彼の令呪の命令は、『目に付く魂を全部食え』だった。

 

 

「ランサー、アンタのマスターは!!」

 

 

振り向いて問うが、ランサーは答えない。ただ口元には怒りが滲む。

 

 

「ミャクミャクにやられたか?」

 

「…………痴れ者め、マスターは、王を庇った」

 

「あ?」

 

「王へ目掛けて飛んできた、彼奴の腕に。自ら飛びつきおった」

 

 

それだけ言って、黙り込む。彼のマスターを呑んだ水塊を睨みながらも、何かを考えているようで。

 

ランサーの視線を追って、再び水の珠へ目を向ける。渦巻くそれは、再び歪む。形をとる。ミャクミャクの姿に再び変わる。

姿は先ほどと同じはずなのに、どこか悍ましさが増したような感覚があった。空気が重い。ミャクミャクの足元で水が跳ねていて、狼我はそれを見るだけでぞわりとした感覚を覚える。視認するだけで、身が竦む。ある種、それは畏怖とも言えた。

これが、日本最新の民話の怪異、ミャクミャクさま。

 

 

「今あそこにいるミャクミャクは──アサシンとキャスター、それから3人のマスター。5つの魂を取り込んどる!!」

 

「魂5つ分の、ミャクミャク」

 

 

聖杯は、確か。サーヴァントの魂を溜め込むほどに、魔力を蓄積して叶えられる規模が増大するんだったか。サーヴァントと人間の魂のサイズが同じとも思えないが、しかし魂であることに違いはあるまい。

多少なりとも、いや明確に、ミャクミャクは強化されている。

 

 

「バーサーカー、呑まれた奴ら、引き抜けるか!!」

 

「違うマスター、恐らくそういう次元にない。先程キャスターの身体が消えていたように、既に、彼らの身体も消えている」

 

「ならどうすれば助かる!!」

 

 

バーサーカーの背中に身を隠し、ミャクミャクの様子を伺いながら、狼我は考える。

ミャクミャクに取り込まれたベンドレ達を、助ける必要があった。それは人道的な意味でもあったが、実利もある。ミャクミャクが魂を取り込んで強化されたなら、逆に──魂を引き抜ければ、弱くなるはず。

 

 

「それならば、王の出番だ」

 

 

すぐ側に、ランサーが立っていた。その手に持った短槍を弄びながら、狼我をじっと見ている。

 

 

「ランサー」

 

「辿り着くまでの道を作れ、基田狼我」

 

 

じっと、狼我を見据えている。彼の瞳に迷いはない。だがそう言われても、やり方がわからない。そう指示する意図も。

 

 

「道を切り開くって、言われても!! 第一そうしたところで──

 

 

そうしたところで、何ができる。

 

……そうだ。ランサーに出来ることは、何か?

 

 

「ああ、そういうことか」

 

 

狼我は、そこで理解した。

ランサーの意図と、その能力を。

 

 

「ランサー。アンタの真名は、解ってる。今朝調べてきた」

 

「ほう?」

 

「昨日の戦いで聞こえてた言葉、ワカ・ラハーダ。あれは、ペルーの遺跡だろ。だから行ってきた、ペルー館に」

 

 

狼我は既に。ランサーの真名を知っている。

ランサー。黄金を身に纏い、短槍を振るい、生贄の人形を操る、神官王。その真名は。

 

 

「アンタの真名はシパン王。ペルーにかつて存在し、黄金の墓所が発見されたことで考古学的に重要視された、モチェ王国の王の1人」

 

 

真名、シパン王。あるいは、セニョール・デ・シパン。後にインカ文明へと繋がることとなった文明、モチェ文化/モチェ王国を支配した1人。

 

 

「その槍は──生贄の腹を裂き、内臓を抜き出す儀式のためのもの。だから──

 

「そう、私こそ神官王。故に、王はまた腹を裂く」

 

 

その手に持つは黄金の短槍。権力の象徴にして儀礼の祭具。その切っ先はかつて、何人もの生贄を神へと捧げ続けていた。

 

 

「これもまた我が宝具。王は宝具を解放する。腹を裂くことにかけて、王以上のサーヴァントはいない」

 

 

だから、腹を裂く。

腹を裂いて、中身を取り出す。その行為の象徴、概念がランサーの槍の正体だ。

ミャクミャクが概念的に、人間を中に取り込んだのなら。概念的に、中身を取り出せるはずだ。

 

その刃が届くなら、だが。

 

 

「大きい波がくる、気をつけろ!!」

 

 

バーサーカーが声を上げる。狼我が再びミャクミャクへ目を向ければ、その腹の中で泡が暴れているのが見えた。あれは『溜め』か。じきに強い一撃が来る。

 

気づいてしまえば、バーサーカーに言われるまでもない。狼我はバーサーカーの背後で身を屈め、頭を守る。視界の端で、バーサーカーの姿を見る。バーサーカーはいつもそうするように、両手を広げて胸を張り。

 

 

「アハハハハッ」

 

 

また、甲高い笑い声。

 

ミャクミャクの腹がはち切れる。水の柱が暴れ出す。まるでのたうつ蛇のよう。その柱は束となり、うねり、纏まり、バーサーカーの胸元へ。

 

衝突。

 

 

みしり、と、音がした。

 

 

バーサーカーの上体が仰け反る。狼我はバーサーカーの背を仰ぎ、その背に、確かに──ヒビが入るのを目の当たりにし。

 

 

「すまない、まさか、勢いが、ここまでとは──

 

 

バーサーカーの護りを抜けて、水の流れは狼我へ届く。狼我の脚へ、腕へ、胸へ、あるいは頸まで。

 

狼我は思い出す。

 

ああ、そういえば。

万博聖杯戦争においては、万博内で知名度がある方が強いんだったか。

 

なら、ミャクミャクに勝てないのは、当然か。

 

 

「っあ────

 

 

どぼん、視界が青に埋まる。水流が狼我を突き飛ばす。

掬い上げられる。足先が地面から剥がされ、狼我の身体が浮き上がる。気道に水が入り、視界が明滅し、肺が締め付けられる感覚。

 

意識が。

 

落ちる。

 

───

 

 

 

狼我が次に目を開いたとき、そこは既に先程までの部屋ではなかった。

暗いと思った。暗くて、静かだ。

 

 

「ここは」

 

 

顔を上げて、息を呑んだ。

目の前に1つ、何やら仮面があったからだ。鮮やかに彩色された面、丸い瞳が狼我を見つめ返す。日本のそれとは異なる、異国の仮面。

それは1つだけではない。周囲を見回せば、幾つもある。幾つもの仮面、幾つもの神像、幾つもの道具。

周囲全てが、それだった。

 

 

「……博物館か、それとも美術館か」

 

 

狼我は気づいていないが、ここは1970年、太陽の塔の地下に存在した『心の森』。人間の知恵、祈り、交流の結晶によって形作られた、原初の文明を語る森。

狼我は林立する神像の間を抜けて、床にあった階段の上、小高くなった舞台を見上げ。

 

そこに、1人の人影を見る。

 

 

「誰だ、アンタ」

 

 

見上げた先に、誰かがいる。

男だった。初老の男、日本人の男だ。

丸顔で、髪形はオールバック。その顔を、狼我はどこかで見たことがある。

 

 

「アンタは──岡本、太郎か?」

 




「令呪を以てバーサーカーに命ずる」

「なんとも、べらぼーな命令だ」

「道は拓いたぞ、ランサー!!」

「太陽の塔・太陽の顔!!」

「民とは捧げる者であり、王もまた捧げる者」

「太陽の塔とは、大阪万博の神だ」


15話 万博の祭神


「芸術は、爆発だ」



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