万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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真名判明

ペルー館のランサー
真名
シパン王

後にインカ文明へと繋がった文明、モチェ文化/モチェ王国の王の1人。
その黄金の墓所がほぼ無傷の状態で発見されたことは、20世紀における最大の考古学的発見の1つと呼ばれる。



15話 万博の祭神

 

「アンタは──岡本、太郎か?」

 

 

仮面と神像に囲まれた暗所──狼我はそこが太陽の塔『心の森』であることを知らない──その中で、狼我は1人の男と相対した。

狼我自身、ここが現実だとは思っていない。思えない。どこか肌に触れる空気の感触が曖昧で、夢と知りながら見る夢のよう。

男の姿は、狼我を見下ろして。問い掛けにこう答える。

 

 

「そうと言えるが、そうではない」

 

「どういうことだ」

 

「僕は太陽の塔が、1970年万博が見る夢だ。人から思われた姿に、切り取られた岡本太郎だ。こんなものは本物じゃない」

 

 

サーヴァントのマスターは、そのサーヴァントの過去を夢に見る、らしい。それは以前、バーサーカーから聞いたことがあった気がする。きっと今がそれだ。狼我はどこか納得する。

視線の先で、岡本太郎──岡本太郎のように見えるそれは動かない。あるいは動くことができないのか。

 

 

「だが、だからこそキミに語ろう」

 

 

それはただ、言葉をこう続ける。

 

 

「太陽の塔とは、大阪万博の神だ」

 

「……神?」

 

「そうだ。現代に神はいない。神がいなければ、それを祀るための祭りもまた存在しない」

 

 

その言葉を聞いて、狼我は視線を横に向ける。整列する神像も、仮面も、現代の科学文明においては忘れられてしまった遺物。捨て置かれた原始の記憶。人間が、放棄した神。

 

 

「万博という祭には、万博のための神が必要だった。だから僕は……西洋的でもない、日本的でもない、おおよそ全ての価値観を蹴飛ばす、ベラボーな神像をぶっ立てた」

 

「それが、太陽の塔」

 

「そうだ。万博という祭りの神格であり、同時に、万博が歌った進歩と調和をぶち抜くための神だった」

 

 

その言葉と共に。これが非現実だからだろうか、狼我の眼前に幾つかの風景が去来する。

賑わう人々、活気ある笑い声、空にそびえる大屋根。それは太陽の塔、あるいは1970年大阪万博の記憶。 

1970年の大阪万博は、『人類の進歩と調和』を謳っていた。科学文明の発展していく世の中にあって、人は未来をどう生きるかを、それを語る万博だった。未来の人類は空の上に生きるのだと、それを象徴する大屋根が造られた。

 

岡本太郎はそれに反対した。人類は進歩していないし、対立なき調和はまやかしだと。人間は根源を見つめ直すべきだと。それを語るものが、太陽の塔。

万博の象徴でありながら、万博に反対するもの。

 

 

「……だから、ハンパク」

 

「太陽の塔を召喚したんだ、キミにもそれなりのべらぼうな思いがあるんだろ?」

 

 

言葉は続く。狼我を見下ろして続く。

狼我はそれを聞きながら──視界が、霞み始めるのを感じる。

 

 

「ならその思いを。キミの純粋さを貫くことだ。キミ自身を見つめ直し、剥き出しにして、立ち向かえ」

 

「──っ」

 

 

少しずつ、息が詰まる。世界はぼやけ、その形は崩れ始める。

ああ、夢から覚めるのか。狼我は直感的に理解する。そういえば、これは溺れる波間で見た夢だ。長持ちするはずはない。それでも。

 

 

「太陽の塔は。キミのべらぼうさに応える」

 

 

崩れる世界で、岡本太郎だけは揺るがない。地面に突っ立って狼我を見ている。

狼我の視界は白く埋まって、肌の感覚もすでにない。ただ、聴覚だけはハッキリと。

 

 

「ああ、そうだ。折角僕が出張ってやったんだから、これくらいはサービスしないとな」

 

 

埋もれゆく狼我の脳内に。

岡本太郎は言葉を遺す。

 

 

「芸術は、爆発だ」

 

───

 

 

 

「押し流されるっ!!」

 

 

その声を上げたのは、ライダーだったか美琴だったか。とにかくその声が耳に届いて、狼我の意識は覚醒した。

 

 

「──あ」

 

 

身体は水流に押され続けていて、それでも自分が流されていないのはバーサーカーに手首を掴まれているからなのだと、数秒遅れて認識する。気管に水が流入し、呼吸もままならない。その中で。

バーサーカーと視線が交差する。──バーサーカーに瞳はないが、交錯したと認識する。

 

狼我の令呪が、熱を帯びる。

 

 

「令呪を以てバーサーカーに命ずる」

 

 

言葉が、口を衝いて出る。

令呪から赤い光と熱が溢れ出し、水流に抗って、バーサーカーへと届く。

 

 

「アンタが大阪万博の神だ、思い知らせてやれ!!」

 

 

その命令は。

 

酸欠の狼我が絞り出した、剥き出しの言葉だった。

 

 

「なんとも、べらぼーな命令だ──承った!!」

 

 

狼我を掴むバーサーカーの掌が、熱を帯びる。

 

 

「──太陽は、人間生命の根源だ。惜しみなく光と熱を降り注ぐ、神聖な核」

 

 

詠唱と共に。

バーサーカーを中心に、水が余さず蒸発していく。止まらぬ水流などまるで無視して、世界を切り取るように、球形の領域が広がっていく。それは狼我を、そしてやはり近くで水流を堪えていたサーヴァントを、人々を飲み込み、水流から解放する。

 

 

「この太陽の、燃え盛るエネルギーを、今こそこの地にもたらそう。何故ならば」

 

 

狼我は床に足をつく。そこは相変わらず室内でありながら、まるで太陽光を浴びているような、そんな感覚があった。守られていると、直感する。

 

 

「何故ならば、私こそが祭りの神格、大阪万博の神格!! 猛烈な祭りに応えし者として、永遠にそびえ立ってみせるとも!!」

 

 

バーサーカーの背中を仰ぐ。いつもそうするような、両手を広げた立ち姿。スケールは変わっていないはずのそれは、あまりにも大きく見えて。

それはきっと、万博の祭神としての権能の作用。

 

そびえ立つ太陽の塔は、決して倒されてはならない。そう感じた人々の、祈りが創る絶対防御。

 

 

「君も見上げろ、『太陽の塔・太陽の顔(たいようのとう たいようのかお)』!!」

 

 

完全に、展開が完了する。

ミャクミャクの水流は尚も荒れ狂い、しかしバーサーカーへは届かない。一滴たりとも、その領域は犯せない。

 

 

「これ……凄い、完全に、守ってる!!」

 

「大阪万博の神格──なるほど、神格というのは誤りではなさそうだ。今のバーサーカーは、我が神の神性にすら迫るものがある」

 

 

バーサーカーは展開された空間の中央にそびえ立ち、水の向こうのミャクミャクを見据えたまま。

 

まだ、その身体には、赤い熱が滾る。令呪の命令が残っている。

 

 

「そして続けて、もう一発だ」

 

 

バーサーカーは、尚も続ける。

 

 

「より豊かな生命の充実を、よりみのり多い自然の利用を、より好ましい生活の設計を、より深い相互の理解を」

 

 

全身に滾る令呪の熱が、バーサーカーの体表を伝い、その黄金の顔に集中する。

熱は電気に変質し、電気は光に、光は熱に。

 

 

「人は見上げる、思い描く。人はいずれ空の上に住み、そこは技術により実現されたユートピアであるのだと」

 

 

黄金の顔の、瞳が如く開いた穴。その双眸に、令呪のエネルギーが集約する。光は穴から溢れ出て、黄金の顔を眩く照らす。

 

 

「だがその程度の理想、その程度のユートピア──私は、既に貫いた!!」

 

 

それこそは、バーサーカーの苛烈な攻撃性の体現。人類の理想社会すらも貫く、既存概念の破壊者としての太陽の塔。大屋根を貫き、そこから黄金の顔を覗かせて、双眸から投光器で世界を照らした姿の昇華。

 

 

「人を苛む障壁を、人が抱いた理想すらも、貫くものが私である!!」

 

 

令呪を燃料とし、黄金の顔、その双眸より放つ(宝具)は。万物の中央を貫通する。それは2束に束ねられた太陽光線であり、あるいは目からビームとも言えるだろう。

標的は、荒れ狂う水流。そしてその先のミャクミャク。

 

詠唱、完了。

 

 

「証明しよう、『太陽の塔・黄金の顔(たいようのとう おうごんのかお)』!!」

 

 

投光。

 

ずあ、と水が焼ける音。

 

光が走り、水中を貫き、寸分違わずミャクミャクを捉え。

狼我はそこまでは目で追ったが、直後、視界が水煙で覆われる。

蒸発する水流、加熱された蒸気が狼我にも届き、それが止み。

 

狼我が目を開けば。

 

光線は、ミャクミャクから放たれる奔流を切り裂き、海を割ったが如く路を作っていた。立ち昇る蒸気の向こうに、ミャクミャクが身悶えしている姿が映る。

……決して、ミャクミャクが倒れたというわけではない。受けた熱に身悶えしながらも、貫かれた腹は既に埋まり、身体は再生しつつある。その体表は脈々と脈動し、傷を癒し、英気を増幅させる。

バーサーカー、太陽の塔が万博の神であるように。ミャクミャクさまという民話の神もまた万博のもの。バーサーカーでは、決着はつけられない。

 

だからこそ。

 

 

「道は拓いたぞ、ランサー!!」

 

 

バーサーカーの視線は、ランサーへと向かう。狼我も追って視線を向ける。ランサーはただ黙して頷き、数歩前に出て、少し姿勢を低く構えて。

 

その背中を見て、狼我は。

 

 

「ランサー」

 

 

狼我は、自分でも知らぬ間に呼び掛けていた。一瞬脚を止めたその背中に、何というべきか。

 

 

「本当に行くのか」

 

「民とは捧げる者であり、王もまた捧げる者。我々は、あの地に生まれた王と民は、皆その役目を果たして生きた」

 

 

ランサーは振り返らない。その瞳はきっと、ミャクミャクという標的を──己の果たすべき役割を、見据えている。

 

 

「今回は、王が捧げる側だ」

 

「……アンタ、良い王様だな」

 

「生意気を。貴様に言われるまでもない」

 

 

その直後には、もう既に。

ランサーの身体は切り開かれた路を駆け抜けて、既にミャクミャクの寸前に。その手の短槍を握り直して、勢いづけて下腹部に突き刺す。

 

 

「これこそは!! 贄の腹裂きし神聖錫杖!!」

 

 

そしてランサーは。

下腹部から首筋まで、下から切り上げ一直線に。

 

 

「『黄金錫杖(キュリ・ヴァラ)』!!」

 

 

ミャクミャクの腹を、掻っ捌いた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切り裂かれたミャクミャクが爆発する音は、何とも例えようがない、奇妙なものだった。しかし、粘度やら湿度やらを帯びた破裂音は、確かに。

ミャクミャクを倒したことを、その場の全員に確信させた。

 

 

「キャスターを、倒した!!」

 

 

誰かの口から、そんな喜びが漏れる。実際その通りであった。キャスターはミャクミャクへ全てを捧げきっており、ミャクミャクの破裂とともに脱落している。

だが誰もがそうという話ではない。ミャクミャクが弾け飛んだその爆心地には、ベンドレとアマウタ、そしてクラルサッハが倒れていた。いずれも外傷はなく、無事に生きている。……要は、救出は間に合ったということだ。

 

そして、それを成し遂げたランサーはといえば。

 

 

「…………おーさま」

 

 

既に、その身体には。弾けたミャクミャクの破片が弾丸として突き刺さり、穴が開いていた。1つではない、幾つもの穴。

霊核は、既に砕けている。……当然のことだ。

起き上がったアマウタが、ランサーを見て、それから目を伏せる。

 

 

「どうして。わたし、おーさまがかつなら」

 

「全く」

 

 

ランサーは、その身体に穴が空いていることなど、そしてそこから光の粒が溢れていることなど、全く気にも留めず。その手を伸ばして、アマウタを引き寄せた。

 

 

「生命の価値を踏み違えるな。巨万の富があろうとも、家族1人を帰せなければ、王の面子が潰れるではないか」

 

 

サーヴァントとしての形を保てずに崩壊していく、その最中にあって。尚も。

 

 

「……ごめんなさい」

 

「次はない。その生命の使いどきが来るまで、心して生きよ。これは王命である」

 

 

最期の一片が消え去るまで、王としての振る舞いを貫いた。

 

ランサー、消滅。

 

 

「……」

 

 

1体のサーヴァントが消えていったその様を見て、狼我に言葉はない。それは美琴も、キャンディもそう。その場にいたものは、誰も口を開けなかった。

だからこそ、だろうか。

 

 

「やあ、クラルサッハ・マーフィー」

 

 

その言葉が、外から飛んできたことに、どこか狼我は納得していた。

声の方向を向けば、1人の男が立っている。狼我はその顔を知っている──GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION の監督役、井室 錬。

 

 

「……お前か」

 

「健闘を称えるよ、君のおかげで良い映像が撮れた。まあ、キャスターの魔術の中までは撮影できなかったのが残念だが」

 

 

錬は事も無げにクラルサッハに歩み寄り、その腕を引いて立ち上がらせた。そのまま肩を貸し、部屋の中を一瞥する。

もうクラルサッハには、令呪の痕跡も残っていない。

 

 

「これで終わりか」

 

「もちろんだ。また次の万博聖杯戦争への参加を期待するよ」

 

 

そう言いながら、錬は先ほどまでミャクミャクがあった場所に何かを見つけて、少し屈んで拾い上げる。

 

 

「聖杯も、俺が然るべき場所に戻しておこう」

 

 

多分、今拾い上げたものが、聖杯の素だ。今はアサシン、キャスター、そしてランサーの魂が入っていて、更にサーヴァントの魂が入れば、願望器としての機能を持つ。

 

錬は聖杯の素を持ったまま、クラルサッハと共に、部屋の出口へと歩いていく。それから、思いついたように、振り返って。

 

 

「照野さん」

 

「なんや」

 

「今回は、一般に神秘が漏洩しかねない異常事態だった」

 

「どの口が!! ジブンの手引きやろ!!」

 

 

美琴が反駁するが、錬は全く意に介さない。そのまま話を続けて、

 

 

「事態の収束に貢献したのはバーサーカー陣営だ。令呪まで切ってくれた、そうだろう」

 

「無視かい」

 

「君の分の予備令呪、あげるべきじゃないか」

 

 

そこまで言い切って、退室してしまった。

……人が居なくなった出口を、少しの間呆然と見つめて。それから、美琴は猛烈に顔を顰める。

 

 

「アイツほんま……」

 

「予備令呪ってなんだ」

 

「ウチら監督役も、一応令呪を持っとる。ウチとアイツで、それぞれ1画。こういうときに、補填できるようにな」

 

 

美琴はそう言って、右手の甲をひらひらと振る。今まで狼我は気付かなかった──あるいはそもそも隠していたのかもしれないが、今は確かにそこに、真円形状の令呪があった。

 

 

「はい手ェ出して」

 

「こうか?」

 

 

言われるがまま、狼我が右手を差し出せば、ガシリと美琴が握り返して。それからブツブツと、ちょっとした詠唱を呟けば。

……その詠唱の進行と共に、彼女の令呪が色を失い、狼我の令呪の欠けた1画が、再び赤色を取り戻す。

 

 

「ええ時代やね、こんだけで令呪が移譲できる」

 

 

美琴がそう言って、狼我の手を軽く払ったときには。既に、狼我の令呪は元の3画に回復していた。

 

 

「じゃ、とりあえず──片付けしよっか」

 

───

 

「ああ、つっかれた……」

 

 

改めて調べてみたが、結局のところ。この店は寂れた小料理店にクラルサッハが押し入り、店主らは拘束した上で無理やりキャスターが陣地を張った、そういう場所だったことが判明した。

店の原状回復を済ませ、店主らに忘却の暗示をかけ。『国連館御一行様』が外に出られたのは、午後7時になってのことだ。

そこに、もうランサーはいない。

 

大通りに出る。夜の道頓堀が、一行を出迎える。

全く今日は散々な1日だった。休戦して、会談をして、結果がこれとは、嬉しくない。

 

 

「ねえ、提案なんだけど」

 

 

ライダーが口を開く。彼女はまだ、今日を終わらせたくなかった。皆そうだった。

 

 

「もう1軒行かない? 今度は、会議とかナシで」

 

 

もう少しだけ、今夜は続く。

 




「サーヴァントは残り4体」

「アーチャーが何を望んどるのか」

「責任を持って、俺が送り届ける」

「すぐに……イギリス館に、来てくれ」

「貴殿らへの要求は1つ」

「何を考えてる?」


16話 紅茶とセイバーと嘘と


「貴殿らは嘘をついている」



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