万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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16話 紅茶とセイバーと嘘と

 

万博聖杯戦争 8日目 昼

 

 

「おはようさん」

 

 

のそりと仮眠室から這い出た狼我を見て、美琴はそう声を掛けた。時刻は12時。狼我が叩き起こされなかったのは、彼女の温情だろうか。

 

 

「改めて、昨晩はお疲れさん。……二日酔いした?」

 

「……いいや」

 

 

首を振る。しかし数年越しに酒を口にした狼我は、明らかに体調悪めであった。……そうは言っても、多分、じきに治る。狼我は美琴の淹れたコーヒーを軽く口に含んで、飲み下した。

 

 

「ほな、作戦会議しよか」

 

 

狼我は頷いて、パイプ椅子に腰掛ける。

 

 

「サーヴァントは残り4人。バーサーカーとライダー、セイバー、そしてアーチャー」

 

 

美琴はそう言いながら、指折り数えた。昨晩の道頓堀での戦いでランサーとキャスターが倒されて、残りは4騎。7騎で始まった聖杯戦争だと思えば、今はある意味折り返し地点だ。

 

 

「ライダーとそのマスター、セイバーとそのマスターの望みはそれぞれ分かった」

 

「そうだな」

 

「だから次は、アーチャーや。アーチャーが、あとそのマスターが何を望んどるのか」

 

 

美琴はそう言った。彼女の言葉を受けて、狼我は1つ情報を思い出し。

 

 

「……アーチャーにマスターはいない」

 

 

そう、補足する。

 

 

「らしい。もう1人の監督役が言っていた」

 

「アイツか……」

 

 

それは一昨日、6日目の昼に聞いた情報だ。情報の出どころは GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION の監督役、錬。彼は、アーチャーにマスターはいないと、確かにそう言っていた。が、しかし。

 

 

「マスターがいないってのは、あり得ることなのか?」

 

「マスターは要石や。サーヴァントはマスターなしでは基本的に実体を維持できひん。マスターがおらんなんてことは、多分ない」

 

「でもわざわざ嘘をつくとも思えない」

 

 

それはそうだ、と美琴も頷く。

錬の発言を、狼我は思い返していた。彼は、アーチャーを他の参加者に倒させたがっている。だから多分、この情報は嘘ではない。何かのヒントであるはずで。

 

お互いに考え込んで、少しの沈黙があった。

答えの出せない問題を、考え込むのも仕方ない。狼我はコーヒーをまた一口飲んで、話題を変える。

 

 

「そういえば、セイバーの真名を聞いた。スンダラムルティ・スワミ。……らしい」

 

「へえ。……誰それ?」

 

「日本語の情報は見つからなかった。だから昨日の夜に、原文資料を探してみたんだが──

 

 

セイバー、スンダラムルティ・スワミ。

スンダラルとも呼称される、シヴァ教の聖詩人。シヴァ教というのはヒンドゥー教のうち、シヴァ神を最高神として崇める一派を指す言葉である。

スンダラムルティ・スワミはシヴァ教が盛んな南インドにて8世紀頃に活動した宗教家であり、聖地を巡礼し、その各地で詩を残した。この詩はテヴァラムと呼ばれる詩集に収められ、この詩集はシヴァ教の聖典の1つとなった。

彼の特徴として、崇拝する神であるシヴァ神とかなり親しい存在であったことが挙げられる。彼はシヴァ神に対して友人と呼び掛ける場面が多く、またシヴァ神最良の友(タンピラン・トラン)、あるいはシヴァ神の永遠の花婿とも称された。テヴァラムの中ではシヴァ神と物の貸し借りを行い、またシヴァ神へ生活支援を要請する様が描かれている。

 

 

「軽く調べただけでもこんな感じだ」

 

「キャラ濃いな……」

 

 

そこまで調べた上で、狼我にはまだ分かっていないことがあった。即ち、どの国がセイバーを召喚したのか。

 

 

「やっぱりセイバーはインドの出身だったが、でもインド……バーラト館には、セイバーの触媒は見当たらなかった」

 

 

万博聖杯戦争において、サーヴァントの召喚に使われた触媒は展示されている。だから、バーラト館ではないどこかに、セイバー──スンダラムルティ・スワミの触媒があるはずだ。

 

 

「セイバーの触媒が見つかれば、そこがセイバー陣営の国ってことになる。だから俺は、セイバーの所属する国から調べようかと──

 

「スリランカや」

 

 

唐突に、推論を打ち切られた。

 

 

「……は?」

 

「スリランカや」

 

 

目の前の美琴は、目を丸くする狼我を前に、そう断言する。

 

 

「キャンディさんの名前が分かったから、調べといた。セイバー陣営はコモンズA、スリランカの所属や」

 

「アンタ……」

 

 

狼我は眉を顰めた。美琴の、昨日の言葉を思い返す。名乗るのを渋ったキャンディに対して、彼女は確かに、監督役として秘密の開示はしないと、その旨を話していたはずだ。それを──一切、何でもないように、破ってみせた。

 

 

「せやさかい、もうええやろ?」

 

「……そこまでして、アーチャーに拘るのか?」

 

「必要やからや」

 

 

美琴の声には迷いがない。心底から、自分の行動が、正しいものだと信じている。

 

 

「後は、アーチャーの望みや」

 

 

その姿が、声が、狼我は気に食わないと思った。嫌悪感がふつふつと湧き出てきて、無意識に足指を握り込んで。

彼は問う。

 

 

「俺の願いは、聞かないのか?」

 

 

狼我がそう言ってみれば。

今度は、美琴が目を丸くする番だった。

 

 

「…………あるんか?」

 

───

 

気分が良くない。狼我は結局米国パビリオンでの仕事を押し付けられて、国連館を出たところだった。

胃の底がむかつく感覚があった。美琴の態度もそうだったが、結局自分の願いを彼女に言えなかった、己に対する怒りもあった。

 

基田 狼我の、聖杯に懸ける願い。それは、万博を破壊することだ。最初からそうしたいと思ってここに来て、そうしたいと思って聖杯戦争に挑んだ。

だが、一昨日、米国パビリオンを守って以来。自分が何をしたいのか、彼自身、理解が及ばない。彼の中には矛盾があった。万博は嫌いで、しかし守った。守らなければならないと思う、そんな心があった。それが何故かも解らない。

 

米国パビリオンへ向けて、大屋根リングの下を歩く。すれ違う来場者の顔つきは誰も彼も晴れ晴れしていて、それが尚苛立たしい。

 

そんな、人混みの中で。

 

 

「やあ、狼我くん」

 

 

そんな声が、投げ掛けられた。

 

 

「アンタは」

 

 

狼我が声の元へ視線を向ければ、GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION の監督役、錬がそこにいた。そしてその隣にはランサーのマスター──昨晩まではランサーのマスターであった、アマウタもいる。2人で並んでベンチに座り、ペットボトルのジュースを飲んでいる。

狼我は少し考えてから、2人の元に歩み寄った。素直に米国パビリオンに向かうのも癪だ。

 

 

「コーヒーでも奢ろうか」

 

「要らない」

 

 

錬の誘いは断り、狼我はアマウタの隣、錬が居ない方の隣に座る。

 

 

「これからどうすんだ」

 

 

自然と、そう聞いていた。

聞かれたアマウタは如何にも不満げに唇を尖らせて、

 

 

「まけちゃったから、かえるよ」

 

 

そう返答する。彼女はその手のりんごジュースをまた一口飲んで、ペットボトルの蓋を閉める。

もうその手には、令呪はない。

 

 

「かちたかったな」

 

「……そうだろうな」

 

 

アマウタが何を思って聖杯戦争に参加したのか、その仔細を狼我は知り得ない。彼女は家族の為に金が入り用で、それを入手するためにペルー政府と何らかの取り決めを行い、自らランサーと共に戦いに身を投じた。──そして敗北したからには、彼女の望みは叶わない。狼我が理解しているのはその程度。

狼我は黙り込む。アマウタに何か聞きたかったが、しかし叶わない望みについて問うなど、それは残酷なことだと思った。

 

 

「でも、しかたないね」

 

 

アマウタは地面に目を落としながら、呟く。いじけたように爪先で地面を蹴って、それから。

 

 

「がんばってね」

 

「……俺がか?」

 

「みんな。……わたしも」

 

 

そう言う彼女の声は、思いの外ハッキリとしたものだった。

狼我は昨日の、ランサーの戦いを思い出す。アマウタを救出した、1人の王の姿を思い出す。

 

 

「ちゃんと、いきなきゃね」

 

 

狼我は頷いた。それしか、今の彼には出来なかった。

かさりと、布が擦れる音がした。狼我が顔を上げればアマウタの向こう、錬がベンチを立っている。

 

 

「彼女は責任を持って、俺が送り届ける。家族の所まで」

 

「本当だろうな」

 

「疑うなよ。子どもが死んだらエンタメどころじゃないだろ?」

 

 

錬はそう肩を竦めて、それからわざとらしくスマートフォンを確認した。

 

 

「迎えの車がそろそろ来るんだ。失礼する」

 

「じゃあね」

 

 

歩き出す錬、そして追ってベンチを立つアマウタ。狼我もつられてベンチを立つが、後を追うのも違う気がして、歩き去る2人を見送った。

万博来場者の人々の群れに、2人の姿が紛れて、見えなくなっても、尚。それでも狼我は、そこに立っていた。

 

……背中に、気配を感じた。

 

 

「……ローガ」

 

 

声がして。

振り向いて、ベンドレの顔があって。

 

 

「うおっ」

 

 

狼我は思わず後退る。……それから気を取り直して、姿勢を整えた。誤魔化すように肩を回す。

 

 

「ベンドレのオッサン。いいのか、さっきランサーのマスターが──

 

 

狼我はそう伝えかけるが、ベンドレは首を横に振る。それから狼我に、こう告げた。

 

 

「すぐに……イギリス館に、来てくれ」

 

───

 

大阪・関西万博、英国パビリオン。

 

白いブロック状のフォルムが印象的なこのパビリオンでは、英国で生み出されたイノベーション、そしてこれから生み出されるイノベーションについて、多くのアニメーション映像を織り交ぜて紹介している。

……だが、今狼我が訪れたのは、その英国パビリオンのメインエントランスではない。その右手にある、英国パビリオンのレストランであった。常に30分待ちの列があるような人気の店ではあるのだが、ベンドレの案内もあって待ち時間なしで入室。

 

室内を見回せば……明るくモダンな雰囲気のレストランの、その一画に。セイバーと、そのマスターのキャンディが。既に座ってこちらを見ているのと、目が合った。

 

 

「……マジか」

 

 

セイバーが手招きし、テーブルの片隅をぽんと叩くのが見える。きっと座れということなのだろう。

狼我は促されるまま、おずおずと着席する。セイバーとキャンディ、ベンドレ、狼我。4人でテーブルを囲んだ形になった。そういえばライダーがいない……探してみれば、別の席からこちらを観察しているのが見える。

 

 

「貴殿はアレルギーはないか?」

 

「……いや、特に」

 

「なら良かった。給仕!!」

 

 

セイバーがその一声と共に右手を掲げれば、その様が可笑しかったのだろう、レストラン内のそこここからくすくすと笑い声が漏れて。それから、スタッフが皿を運んでくる。

出てきたのは、イングリッシュティーとスコーン。スコーンは2つあり、ジャムの小瓶と謎の容器が添えられている。

 

 

「我の奢りだ」

 

「……何を考えてる?」

 

「はは、単なるアフターヌーンティーの誘いだよ」

 

 

セイバーはそう言いながら、紙コップの紅茶を啜る。彼の元にも、そしてキャンディとベンドレの元にも、スコーンの皿が並べられて。

 

 

「ヌン茶をしばく、と言うのだろう? この時代では」

 

「まさかその知識も聖杯由来だって言わないよな?」

 

 

セイバーが既にスコーンを手に取っているので、狼我も同様手を付けた。まずは2つに割って、そのまま一口。

ほんのりと甘い、ミルクの風味のするスコーンだ。温かく、ほろほろと崩れていくが、しかししっとりとした柔らかさもある。

狼我は咀嚼しながら、横目でベンドレを見た。彼もスコーンを口にしてはいるが、しかしその目はセイバーを凝視していた。セイバーはそれに応えるように、口を開く。

 

 

「昨晩も思ったが、この時代の食事はどれも美味い。あるいはニホンという国が特別なのか」

 

「……食事は不要と、聞いていたんだがな……サーヴァントには」

 

「まあそう言うな、貴殿のライダーも相当楽しんでいる」

 

「……だから、尚更そう思っている」

 

 

狼我は再びライダーの方を見るが、観察もそこそこに紅茶を飲み干しているところだった。見なかったことにする。

 

 

「だがしかし……全く無意味に、オレ達を呼び出すとも……考えられない」

 

「そうだな。確かに我とて無意味に貴殿らを呼び出したわけではない」

 

 

セイバーはそう言いながら、謎の白い容器を開けて、その中身をスコーンに塗り付けた。どうやら中身はクリームのようだ。

 

 

「貴殿らへの要求は1つ。昼間に交流の場を設けることだ。ちょうど、今しているように」

 

「交流?」

 

「それは……どうしてだ……?」

 

「我らは聖杯戦争では敵同士。しかし、聖杯戦争は夜しかない。そして、万博は昼の方が長いのだ」

 

 

語りながら、セイバーはクリームを塗りたくったスコーンの上に、更にジャムを塗り付ける。そして大きく口を開けて、一気に頬張った。しばらく咀嚼し、飲み下し。

 

 

「昼の間は仲良くしよう」

 

「……なるほど」

 

 

狼我もセイバーに倣って、まずは白い容器の蓋を開ける。蓋の文字曰く、これはクロテッドクリームという名前らしい。スコーンに軽く塗って、小さく一口。

あ、美味しい。

 

 

「呼ぶのは俺達だけなのか、セイバー?」

 

「本当はアーチャーも呼びたいところではあるが、見当たらなくてな。貴殿らも、彼を見かけたら誘ってほしい」

 

「……それは……する機会が、あれば、だな」

 

 

もう一口。クロテッドクリームは本当に美味しい。バターのようでありながら口当たりは軽く、爽やかな甘みを感じる。比率1:1になるほどの量をスコーンに塗りつけていただく。本当に美味しい。

なんだか身体に悪い気がするが、そのままでも舐めてみる。凄く美味しい。

 

 

「おっと、そのクリームとジャムは同時に塗るものだそうだ」

 

「そうなのか」

 

 

試してみる。……なるほどこれはいい。ジャムの華やかさを、クロテッドクリームが引き立てる。

気付いたら、スコーン1つ平らげてしまっていた。スコーン特有のどうも口に残るモサツキを、一気に紅茶で流し込む。渋みと華やかさが一気に口内と味蕾の感覚を押し流し、頭の中で快楽信号が弾ける感覚がある。とても美味しい。

 

……そうじゃない。

 

意識を口内から外界に引き戻す。バクバクとスコーンを食べるセイバーから視線をずらして、キャンディへ向けた。

彼女の元にもスコーンの皿はあるものの、手を付けているようには見えない。

 

 

「これはセイバーの提案か? アンタじゃなくて」

 

「私が望むわけはないでしょう。セイバーの望みです」

 

「だろうな」

 

 

キャンディは実に渋い顔をして、紅茶を一口。それから溜息を1つ、まるで見せつけるかのように吐き出した。

 

 

「本当に、セイバーはとんだゴキゲン男です。私の言うことは、まるで聞かない」

 

 

彼女はそう言いながら、右手を軽くひらつかせる。その手の甲に刻まれた令呪は、残り1画。

 

 

「今だって、聖杯戦争とは関係のない、趣味に付き合わされています。私にも私の仕事があるんですが」

 

「はは、マスターは働き過ぎだ。遊びのある人生こそ生き甲斐があるのだぞ」

 

 

セイバーはそう笑って、キャンディのスコーンに手を伸ばす。……流石に見咎めたのだろう、キャンディは咄嗟にセイバーの手を払って、ようやくスコーンに手をつけた。また笑うセイバー。

 

しかし、聖杯戦争とは無関係な趣味、とまで言われてしまうと、それはそれで引っ掛かる。

 

 

「俺はてっきり、アーチャーを倒すために同盟を組もうって話かと思ったんだが」

 

「同盟? それは必要ない」

 

 

一応、狼我は憶測を口にしてみるが、セイバーはすぐさま否定する。

 

 

「何故なら我こそはシヴァ神最高の友(タンピラン・トラン)。我には常に我が神の加護があり、故に一人でもアーチャーと戦えよう」

 

「神。……シヴァ神か」

 

「昨日の戦いでは、貴殿のバーサーカーも神性の発露を見せていたが、あれは一時的なもの。我が神シヴァ神には及ぶまいよ」

 

 

相当な自信。そしてそれは無根拠というわけではない。狼我も昨日、セイバーの実力は目にしている。恐らくは、セイバーは自らの歩んだ旅路の逸話、そしてシヴァ神の権能の一部すらも、自在に引き出して戦うことが出来るのだ。弱いはずはない。

 

 

「じゃあこれは、本当にただの趣味」

 

「全くの趣味だ。各地を行脚し、人々と交流し、こうして迷える者を導く。全て、我のライフワークというものだ」

 

 

……また、引っ掛かる。

その口振りではまるで、狼我が迷いを抱えているとでも言うようで。

 

 

「迷える者だとも。何しろ、貴殿らは嘘をついている」

 

「……なんの話だ」

 

「わからないか? 否、わからないこともあるか。人の心は、自らのそれであっても度し難いもの」

 

 

閉口する。自覚がある、わけではない。だが否定の言葉も出てこなかった。

 

 

「人が嘘をつく時。そこには必ず、恐れがある。そして神の教えとは、恐れを払うためにあるものだ」

 

 

そう、セイバーは断言して。それから少しの間、テーブルには沈黙があった。何を言うべきか、どう言うべきか。狼我には判断がつかなくて、黙するしかなかったのだ。それはきっとベンドレも同様のはずだった。

 

 

「折角の紅茶が冷めてしまったな、話が弾み過ぎた」

 

 

不意にそう言って、セイバーはぐいと紙コップの中身を飲み干した。彼はキャンディに目配せし、席を立つ。同様に、キャンディも。

 

 

「どこ行くんだ?」

 

「この後は GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION の予約を取っていてな」

 

「アイツの所かよ」

 

「そう言うな、もう2周したが、あれは良いものだ。貴殿も一度は体験してみると良い」

 

「リピーターかよ」

 

 

なるほど、随分と楽しんでいるらしい。そして恐らく、キャンディはずっとセイバーに連れ回されている。彼女は昨日からどこか疲れたような顔を浮かべていたが、そういうことか。狼我は勝手に納得する。

 

 

「では、お互いに明日があればまた会おう」

 

 

既に立ち上がったセイバーが、そんなことを言った。

 

 

「明日があれば、なんだな」

 

「当然。夜が来れば、我々はまた敵になる。しかし我々は、憎いから戦い合うわけではない」

 

 

そう言いながら、玄関へと歩き出す。彼は去り際に振り向いて、

 

 

「昼でも、夜でも。また会うことを楽しみにしている」

 

 

そして、キャンディ共々退室した。

 

狼我はそれを見送って、ぐびと紅茶を飲み干した。楽しみにしている、なんて言われはしたが、なんとも気乗りがしない。

横のベンドレと、視線が交差する。

……お互いに、何か、嘘をついている。狼我自身は、それが何かも解らないのだが、それでも。

 

心臓の上に、まるで重石を乗せられたような。そんな心地だった。

 




「俺に嘘なんかない」

「マスターなら来てないよ」

「人のことを、知ったふうに」

「令呪を以てバーサーカーに命じる!!」

「落ち着けマスター!!」

「貴殿は恐れている」


17話 ゼノフォビア


「外国人を、恐れている」



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