万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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2話 万博聖杯戦争 2025 大阪・関西

 

万博聖杯戦争 2日目 昼

 

 

「ウチは監督役の照野 美琴(てるの みこと)や」

 

 

狼我の目の前で、スーツの女性はそう名乗った。

 

ここは大阪・関西万博、国連館。その控室。

狼我と、彼が呼び出してしまったらしい狂戦士(バーサーカー)は、昨晩のあの奇妙な召喚からほどなくして、ここまで連れてこられていた。

 

 

「もう、話を聞いてもええか?」

 

「ああ」

 

 

狼我はずっと緊張していたが、しかし奇妙な安心感もあった。一晩寝かせてくれただけでもかなりの温情だったし、朝には何やら菓子パンが出た。

少なくとも殺されることはなさそうだ。

しかし、ただで返してもらえるわけもないのだが。

 

ふと、横を見る。

己同様に、椅子に腰掛けているバーサーカー──太陽の塔を名乗った、奇妙な人型。それが背筋を伸ばして鎮座している。

 

明らかに奇妙なのはこの太陽の塔のはずだったが、美琴と名乗った女は真っ直ぐ、狼我の方を見つめていた。

 

 

「とりあえず、自己紹介頼むわ」

 

「基田 狼我」

 

「……そんだけ?」

 

 

単調に名乗れば、目線が険しくなる。

美琴の顔が少し近づいた。赤みがかったボブカットの茶髪、青色のインナーカラー、白目がちな瞳。どことなく香水めいた、清涼感のある匂いがした。

 

 

「2000年生まれ、24歳。無職」

 

 

仕方なく情報を補足する──彼に付け足せる、彼の情報は、その程度だった。

別に記憶喪失というわけではない。彼には何もないのである。少なくとも、彼の認識の中においては。

 

 

「なんでここに来たん? いや、予想はつくけれど」

 

 

尋問は続く。

何故ここに来たか? ……そうだった、カバンはどこに、

 

 

「スプレー缶にヘルメット。べつにジブンが初めてやないで? 万博に悪いことしようとするやつはようさんいるんや」

 

 

なるほど。

狼我のカバンは既に、美琴の足元に転がっていた。内部も確認されたようで、スプレー缶が覗いている。

狼我がやろうとした行動は、見透かされている。

 

 

「聞ぃたんは、なんでここに来たんか、ちゅうことや。なんでや?」

 

 

何故、ここに来たか。

即ちどうして、万博を害そうとしたのか。

 

そんなもの、狼我の答えはこれしかない。

 

 

「……ムカついた」

 

「何に?」

 

「……………………わからない」

 

 

そうとしか、答えようがなかった。

 

 

 

「はぁ……ま、ええわ、そこは」

 

 

深く溜息を吐いてから、美琴は不意に立ち上がった。気分転換とばかりに、その場でぐいと伸びをする。それから。

 

 

「ほな、そっちのサーヴァントについて聞こうか」

 

 

耳馴染みのない言葉を言う。

 

 

「サーヴァント……?」

 

「なんも知らんっちゅうわけやないやろ? 召喚したんやから」

 

 

美琴は軽めの口ぶりだが、そんなことを言われても、狼我にとっては何が何やら。

横にいるバーサーカーを見てみるが、助け舟を出してはくれないようで、ただ虚空を見つめている。

 

 

「ジブンが参加したのは万博聖杯戦争。万博会場にて行われる、5年分の国の趨勢を賭けた魔術儀式やねん」

 

 

万博聖杯戦争?

国の趨勢を賭けた魔術儀式?

 

 

「参加国として選抜された国がそれぞれ英霊(サーヴァント)を召喚し、万博会場を舞台として聖杯戦争を繰り広げる。要は英霊による試合や。で、優勝すれば──

 

 

知らない単語が積もっていく。

これ以上は不味い。本能的に、彼は察した。

 

 

「待ってほしい、待って──魔術って、なんの話だ?」

 

「────そこから知らんのかいな」

 

 

 

曰く。この世界には魔術がある。

 

曰く。魔術を使う者は今も社会の裏側に存在している。

 

曰く。万博すらも魔術儀式の対象である。

 

万博には夜の顔がある。即ち万博聖杯戦争。

5年毎に開催される万博の、その会場にて行われる魔術儀式。

あらゆる願いを叶える万能の願望器、聖杯──に、限りなく近しい魔術的アーティファクトを万博会場に顕現させ、その所有権を各国で争う儀式なのだという。

7つの国が参加権を獲得し、7人のマスターが、7体のサーヴァントを召喚する。サーヴァントの戦いに勝利した最後の1騎と、そのマスターは、聖杯によって願いを叶える権利を手にする──

 

 

「──諸々省略すれば、こんな説明になるやろ」

 

「……なるほど?」

 

「分かってるんだかわからへん顔やな」

 

 

一応理解したつもりだ。少なくとも、聖杯戦争なるものの意味くらいは。

しかしそうなると、いよいよ疑問も1つ。

選ばれた国の選ばれたマスターがサーヴァントを召喚するというのなら、それなら。

 

 

「なら、どうして俺がマスターに?」

 

「そらウチが聞きたいねん、なんでこないなことに……バーサーカーの召喚に心当たりは?」

 

 

首を振る。

 

 

「まあ無いわなあ」

 

 

んー、と美琴が頭を抱える。

ぶつぶつとしばらく何やら呟いていたが、内容は理解できなかった。右へ傾き、左へ傾き、不意に顔を上げて。

 

 

「普通なら警察に引き渡すところやけど、こうなってしもたらもうそうもいかへんし」

 

 

それから続けて。

 

 

「ジブンにはここで万博聖杯戦争に参加してもらうことにするから──せやな、とりあえず住み込みで働いてもらう」

 

「は?」

 

「仕事をしろっちゅうこっちゃ」

 

───

 

大阪・関西万博、東ゲート。

 

 

「はいただいまの時間、退出口は左側となっておりますー……」

 

 

警備員の制服に着替えさせられて、狼我は来場客の誘導を行なっていた。全く本意ではないが、拒否権はなかった。

 

客観的に見れば、悪いことばかりではない。というか救済措置だ。狼我の不法侵入は無かったことになり、万博内での寝食が一応保障され、最低賃金ながらも給料が出る。

対価は昼間の労働。そして、万博聖杯戦争への参加。それだけと言えば、それだけ。だからこそ狼我自身、不思議でならない。

 

どうして彼を、そのまま万博聖杯戦争に参加させたのか。恐らくは、そうではない選択肢もあったはずなのに。

 

 

「はいただいまの時間、退出口は左側となっておりますー……左側ですよー……」

 

 

どうしようもなく、仕事を続ける。

 

顔を上げれば、狼我の目の前を、何人も何人も行き交っている。

視界の左側には、公式ショップへ並ぶ人集り。右側には、パビリオンへと向かう人の群れ。遠くではミャクミャク像前で写真を撮らんとする行列もある。

 

こんなものが見たいわけじゃなかった。見たいわけはなかった。にこやかな親子連れが目の前を横切って、堪らず舌を噛む。

だが、どうしてこんなにも嫌なのか、彼自身言語化出来なかった。

 

 

「なんだってこんなことに……」

 

『マスター、聞こえるか?』

 

「うわぁっ!?」

 

 

苛立ちの隙間に声を挟まれたものだから、素っ頓狂な声を上げてしまった。

頭の中に声がする。バーサーカーの声のはずだ。

 

 

「なんだこれ?」

 

『念話、という魔術だ』

 

「念話ぁ?」

 

『口に出さなくてもいい、マスター。念じるんだ』

 

『……こうか?』

 

 

試しに頭の中で応答する。間違ってはいなかったようで、バーサーカーの肯定がまた頭の中に響いた。

 

 

『……これ魔術なの?』

 

『そうだ。サーヴァントとマスターは、魔力のパスで繋がっている。それを使った魔術だ』

 

『サーヴァントとマスター……』

 

 

照野の話を思い出す。

今、狼我はマスターで、バーサーカーがサーヴァントのはずだ。マスターがサーヴァントに指示し、聖杯戦争を戦わせる。

 

 

『なあ、太陽の塔。──お前、太陽の塔だったよな?』

 

『その通りだ。だが私のことは狂戦士(バーサーカー)と呼ぶ方が良い』

 

『そうなのか?』

 

『説明しよう。そうだな……聖杯戦争に召喚されるサーヴァントは主に7騎。それぞれ、剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)のクラスを持つ』

 

『お前はバーサーカーなんだな? なんか、そんな感じしないけど』

 

『そういうバーサーカーもいる、というだけだ』

 

 

バーサーカーは狂戦士のクラス、大抵は大なり小なり狂気を抱えており、程度によっては言葉すら失っているのだと、続けて語る。

今回はそうでなくて良かったと、ぼんやり狼我は考えた。

 

 

『さて、この7騎のサーヴァントは、それぞれ世界史において活躍を残した存在。いわゆる英霊というものだ』

 

『太陽の塔も?』

 

『少なくとも、この大阪・関西万博においてはそうなるらしい。多分、特例だと思うが』

 

 

まあ……分からなくもない。納得できなくもない。

英雄とは言えないだろうが、日本において太陽の塔を知らない人間はまずいない。ましてや、大阪万博の中においては。

誰もが知っているなら、それはきっとある種の英雄の類と、言えなくもないのだろう。多分。狼我は自己解釈し、1人納得する。

 

 

『話を戻すが、サーヴァントは世界史に存在した偉人が多い。つまり、サーヴァントの名前が判れば、その人生について調べられることになる。何をしたかも、その弱点も』

 

『弱点もググれば出るってことか』

 

『そういうことだ。だから、サーヴァントはクラス名で呼称される』

 

『つまり、伏せられている名前を当てれば、戦いが有利に進むのか』

 

『そういうことだ』

 

 

伏せられた名前は、真名(しんめい)、と呼ぶらしい。

この真名を当てることが、ある種勝利への鍵になることもあると。そこも納得した。

 

バーサーカーの説明はわかりやすい。ひとまず、ここまで聞いた話は全て理解ができる。納得できる。

 

 

『……いや、お前、妙に詳しいな』

 

『まあ私にとっては、別に初めての聖杯戦争というわけでもないからね』

 

 

そうなのか。

いや、そういうものなのか?

なんだかおかしいような気もするが、知識のない狼我にはどう指摘すれば良いのかもわからない。

 

今できることは、ただ東ゲート前に立ち、人の誘導をすることだけだ。

何時この仕事は終わるだろうと、時計を見る。まだ、昼過ぎくらいでしかなかった。

 

22時の万博閉場まで、そして来場客が皆帰るまで、勤務は続く。

そして、勤務が終われば──

 

───

 

 

万博聖杯戦争 2日目 夜

 

 

退場していく何千人もの人間を見送って、狼我は深く深く溜息をついた。

やっと終わって、そして、始まる──万博聖杯戦争が。

 

 

『事務局より連絡。全来場客の退去、及び一般スタッフの退去が完了しました。本日の夜明け予定は4時45分、聖杯戦争を開始してください』

 

 

近くのスピーカーからの、美琴の声がそう告げた。念話でこれまで会話していたバーサーカーも、その声に呼ばれて実体化する。

 

万博聖杯戦争。そのルールを思い返す。

 

聖杯戦争は、万博閉場後から夜明けまで行う。

サーヴァント対サーヴァントでの戦闘である。

万博設備への攻撃、及びマスターやスタッフへの攻撃は禁止される。しかし偶発的にマスターへ攻撃してしまった場合は許される。

サーヴァントが1騎になるまで、毎晩聖杯戦争は執り行われる。

 

 

「バーサーカー」

 

「どうしたマスター」

 

 

バーサーカーを引き連れて、東ゲート前から大屋根リングへ向けて、狼我は歩いていた。昼間の間は気づかなかったが、こうして2人だけになると、万博会場はとても広い。

 

 

「実際のところ、戦闘ってどんな風に進むんだ? 試合、ってあいつは言ってたが」

 

「そこまで整ったものではないさ。敵のサーヴァントを発見したら攻撃し、相手も反撃する。いきなり始まるものだ、戦いは」

 

「じゃあ不意討ち上等、ってわけか。相手のサーヴァント、探したほうがいいのか?」

 

「確かにそうだ、が──

 

 

そこで、バーサーカーは動きを止めた。1秒静止、周囲を見回す。

 

 

「──もう遅そうだ。マスター、私の側に」

 

 

黄金の顔の視線の先では、もう既に。

 

大屋根リングの下をくぐって、1頭の白馬が1人を乗せて、こちらへと猛突している最中であった。

 

 

「伏せろマスター」

 

「どうするんだ」

 

「押し返す!!」

 

 

直後。

 

ドダドンッ!!

 

突撃してきた白馬の首を、バーサーカーが抑え込む!!

踏ん張った地面には小さくヒビが入り、白馬は苦しげに嘶きを上げ、その上の人影は目を見張る。

 

そして。

 

 

「はあああっ!!」

 

 

バーサーカーは突撃の勢いを殺しきり。

白馬をその乗り手ごと、見事押し返してみせた。

宙に投げ出され、たちまち姿を消す白馬。そして受け身を取る人影。

 

 

「誰だー、アンター!!」

 

 

狼我が声を掛ける。

人影は軽く衣服の裾を払い、苦笑いをしてみせた。

 

観察する。

それは女性のようだった。

黒い肌。縮れた黒髪、それを後ろで纏めた髪型。手に持っているのは槍だろうか。いわゆる、アフリカ系の人間のように見えた。

ああ、外国人だ。

 

そしてそれは狼我の姿を確認し、応える。

 

 

「アタシ? 騎兵(ライダー)だよ、見ての通り。そっちは……何それ?」

 

狂戦士(バーサーカー)。らしい」

 

「へー、素直に教えてくれるんだ」

 

 

流暢なものだ、と最初に思った。すらすらと日本語を喋る。サーヴァントとはそういうものなのだろうか。

サーヴァント・ライダー。騎兵の英霊。聖杯戦争の参加者の1人。つまりは、敵。

 

 

「っていうか珍しいね、マスターが堂々と姿を晒すなんて。マスターは隠れるもんだって聞いてるけど」

 

「……バーサーカー、そうなのか?」

 

「普段はそのようだ。いや、マスターの場合は、むしろ私の近くにいてくれたほうが安心かもしれないが」

 

 

言い方が曖昧だ。正しかったのかどうか。

しかし確かに、ライダーのマスターらしい人間は、狼我の位置からは見えなかった。あるいは遠くから念話をしているのか。

 

 

「で? やるの?」

 

 

狼我の思考を断ち切って、ライダーが問い掛ける。

 

 

「ここにいるなら、戦うってことでいいんでしょ?」

 

「マスター、どうする? 君の指示に従おう」

 

 

視線が2つ、狼我へ向いた。どちらも、彼を待っている。それは彼も分かっていて、だからこそ。

 

 

「……やるぞ、バーサーカー」

 

「承った」

 

 

交戦態勢。バーサーカーは低く身構え、狼我はその場から2歩下がる。視線の先ではライダーが、その手を軽く振り上げて。

 

 

「おいで!!」

 

 

その一声で、再び白い馬が現れた。白馬はどうやら金色の鞍をつけているようで、月の光を受けてきらめいている。

その上に、ライダーはひらりと跨って。

 

 

「やるよ愛馬!! まずはここで1人、景気づけ!!」

 

 

白馬の嘶き。

直後、それは駆け出して、バーサーカーへと一直線。

 

 

「来るぞ!!」

 

「分かっている」

 

 

衝突!! ライダーは馬諸共に突撃し、バーサーカーはそれをやはり受け止める。

馬に突撃を受け止めてなお、バーサーカーは揺らがない。強靭な体幹。それはバーサーカーが太陽の塔という建築物であるためだろうか。狼我にできるのは憶測が精々だ。

 

 

「それならっ!!」

 

 

押し退けられて、バーサーカーから距離を取るライダー。馬の上に跨ったまま、握っていた槍を振り上げて。

 

 

「また突撃が来るぞ」

 

「違うマスター、あのフォームは投げだ」

 

「槍投げ!?」

 

 

直後、投擲!!

 

ひゅん、風を切る音。長い槍は夜に紛れて宙を走り、真っ直ぐにバーサーカーへと飛んでいく。バーサーカーは真向かいに立って、その軌道を見極めて。

 

動きはせず。両手を広げて仁王立ち。

 

 

「バーサーカーッ!?」

 

 

顔面で──顔面といっても胸の顔面だが──飛んでくる槍を受け止めた。

バーサーカー、やはり動じない。顔面に刺さった槍を引き抜き、観察する。ぼろり、いくつか白い破片がこぼれた。

 

 

「この槍は……鉄製か? シンプルだが、強い力を感じる」

 

「バーサーカー? 痛くなかったのか?」

 

「……やはりこれはアフリカの民藝か、美しい……シンプルな姿に力強さと知恵を感じる……」

 

「なあバーサーカー? え、そういうの好きなのかバーサーカー?」

 

 

槍を覗き込む2人の向こうで、ライダーは苦笑して。

 

 

「褒めてくれんのは嬉しいけど、ねっ!! 鉄の槍(キブガ)!!」

 

 

その一声。招くように彼女か手を手繰れば、鉄の槍はバーサーカーの手から抜け出て、真っ直ぐに、ライダーの方へと惹き付けられる。

 

 

「ああっ、取り返された!!」

 

「当然だよ!! だってこれはアタシ達の槍。この槍を持つ資格があるのはアタシ達だ」

 

 

構え直し。今度は低く持つ。投げのフォームではない──であれば、次こそ突進が来る。

 

 

「その傷痕、今度は抉る!! 走って愛馬!!」

 

 

強く嘶き。地面を蹴る音。だか、だか、だかりと、槍先が迫る。

 

 

「バーサーカー、次はどうする!!」

 

「もちろん受け止める。私の胸元狙いなら、動きだって読みやすい。弾くとも」

 

 

バーサーカーは動かない。しかし正しいのかどうか。

狼我はもどかしい。だって、さっき明らかに塊が胸から溢れていた。同じところを突かれたら? 流石に建築物だ、粉砕とはいかないだろうが、だからといって──彼を不安にさせるだけの気迫を、彼は、バーサーカーの肩越しに感じている。感じていても、具体的には言語化できない。

 

 

「いや、なあ、バーサーカー

 

 

もう遅い。

ライダーはもうすぐそこ。馬の体躯をミサイルに、槍の穂先をその弾頭に。

 

 

着弾、5秒前。

 

 

狼我は言葉にならない曖昧さを胸に抱えて。

見ていることしか出来なかった。

 

 

着弾、3秒前。

 

 

バーサーカーが、受け止めようと力を込める。地面に再び亀裂が走る。

 

 

そして、着弾──

 

 

その寸前に。

 

超高速で。

何か、塊が突き抜けていった。

 

 

「……は?」

 

 

バーサーカーとライダーの、接近したその隙間を縫うように。一筋、何かが走ったのが分かった。

残像と、遅れて届いた音だけがその証明だ。

走っていったその先を見ても、白い粒がいくつか見えるだけだ。

 

ライダーは既にその身を翻し、バーサーカーから距離を取っていた。

バーサーカーは夜空を見上げて、何かを探しているようだった。

 

一体、何が起きた?

 

 

「──来るぞ!!」

 

 

バーサーカーの声がする。

 

1秒遅れて。

 

何か、狼我の頬を掠めた。

遠くに着弾する音がした。

風を切る音が幾つか。

視界をすり抜ける残像が幾つか。

 

 

「不味い、マスターは私の後ろに!!」

 

 

その声で、今掠めたのも先の塊と同じものだとようやく気づく。

狼我はバーサーカーの背中に身を寄せて、考える。そうだった、これは一対一の戦いではなく、7体のサーヴァントによる乱戦だった。きっとこの攻撃も、誰か他のサーヴァントによるもの。

 

 

「アーチャー!! そうか、今回も彼か!!」

 

「知っているのか、バーサーカー!!」

 

「とにかく今は逃げたほうが良い」

 

 

ライダーの方を見る。……もう、その姿はなかった。一足先に撤退したらしい。こちらも、早く逃げなければ。

 

 

「気をつけろ、降ってくるのは月の石だ!!」

 

 

そんな言葉を聞きながら。

狼我はそれでも宇宙(そら)を見る。

満月の近く、微かに見える星の狭間に。

それは浮かんでいる。

 

白い姿がぼんやりと、佇むように。

宇宙飛行士が、そこにいる。

 





「あれなんなんだよ!!」

「1970年の万博聖杯戦争優勝者。真名を──」

「知名度という力」

「どうしてアナタがここに!?」

「ここで戦うのは本意じゃない」

「君の望みはなんだ」


3話 国連館の浪人


「俺は、万博を壊したい」



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