万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

22 / 31
21話 想像以上の、万博を。

 

先程まで倒れ込むようにして寝入っていたソファーから身体を起こす。

知らない天井だ。そこはバンダイナムコプレゼンツ GUNDAM NEXT FUTURE PAVILIONのスタッフルームで、すぐ近くの椅子には錬が腰掛けていた。

 

 

「おはよう狼我くん」

 

 

そう言って、彼は側のテーブルを軽く小突く。

 

 

「まずは食事にしよう」

 

 

万博聖杯戦争 9日目 昼

 

 

促されるまま狼我は起き上がって、ひとまずトイレに行ってからテーブルに着いた。机の上にあるのは紙製の弁当箱。開けば、何かしらのサンドイッチと揚げ物が入っている。

 

 

「向かいで売っているカツサンドだ。口に合えば良いが」

 

「……いただきます」

 

 

咀嚼。

 

違和感。

 

 

「……これ本当にカツサンドか?」

 

「『植物生まれのかるカツバーガー』。肉ではなく、大豆と米から出来たカツだ。……大豆ミートは嫌いか?」

 

「別に嫌いじゃない。……先に言えよ」

 

 

なるほど。また一口。

大豆ミートだと思って食べれば、中々凄い。大豆ミート特有の薄さ、及び切なさを感じさせない食感の楽しさ。これは揚げ物の衣のパワーか、あるいは素材が凄いのか。肉ではない、が、どうして中々。

 

つられたのだろう、脇にいたらしいバーサーカーが実体化する。

 

 

「私の分はないだろうか」

 

「ポテトも付いてるぞバーサーカー、食うか」

 

「ポテトではあまり未来が感じられない……いや食べるが」

 

 

摘んで、咀嚼。感慨深げに頷く。

 

 

「む、このタイプのポテトか。ケンタッキーフライドチキンを思い出させるな」

 

「食ったことあるのかよ」

 

 

 

数分後。

食後のコーヒーを啜りながら、狼我は錬と向かい合った。

昨晩のことは覚えている。狼我の中の愛・地球博、セイバーとの同盟成立、アーチャーとの戦闘。そして、国連館の監督役、照野 美琴との対立。

 

美琴はアーチャーとの戦闘を避けるように脅し、狼我はそれに逆らった。国連館は狼我の後ろ盾であることを放棄し、代わりにGUNDAM NEXT FUTURE PAVILIONの監督役が狼我を引き取った。

つまりは、目の前にいるこの男だ。

 

井室 錬。GUNDAM NEXT FUTURE PAVILIONの監督役であり、この万博聖杯戦争を興業として魔術世界に配信する魔術使い。

 

 

「改めて、アンタの目的を確認したい」

 

 

狼我は問い掛ける。

 

 

「アンタは、俺達にアーチャーを倒させたい。それは、変わってないのか?」

 

「そうだな。前に話した通りだ」

 

「その理由は?」

 

 

問えば、錬は怪訝そうに目を細めた。分かり切ったことを聞くな、とでも言いたげだ。

 

 

「確認だ。なんでアンタは、俺達にアーチャーを倒させたい?」

 

「……アーチャーは強すぎるからだ」

 

 

それに続けて、整理するように彼は語る。

万博聖杯戦争は中継されている、いわゆるリアリティーショー的な側面を持つこと。

錬の役割はこの興業としての万博聖杯戦争を監督し、また面白くすること。

現在のアーチャーはその知名度補正も相まって強すぎること。

そして、アーチャーの順当な勝利では面白くないこと。

 

 

「……そもそも、その放送ってのは何なんだ。俺は見たことがない」

 

「それはもちろん、見せるはずがないだろう。誰がトゥルーマンにショーを見せる?」

 

 

どこか芝居がかった調子で錬は言う。それから狼我の顔を見て、少し考えてから肩を竦めた。

 

 

「……今のは言い方が悪かったな。謝るよ」

 

 

そう言われれば、狼我は自分で自分の表情が気になった。そんなに怒りを滲ませていたろうか。

まあそれはいい。問いかけを続ける。

 

 

「番組だってなら、セットがあるだろ」

 

「それが見たければ、下のパビリオンに行くことだな」

 

 

錬はそう言って、タン、と軽く足踏みをした。

そういえば、ここはGUNDAM NEXT FUTURE PAVILIONの2階だったか。

 

 

「バンダイナムコの全員が、魔術に精通してるわけじゃない。むしろ俺達、ほんの一握りが、監督役として万博聖杯戦争に関わっている。だから大々的なセットは組めない」

 

 

そう喋りながら、錬は席を立つ。軽く肩を回して、ドアの方へ。

 

 

「俺達のセットは、軌道エレベーターだ」

 

「……どういうことだ?」

 

「だから見せてやると言ったんだ、狼我くん」

 

 

 

錬に着いて歩いて、狼我はパビリオンの外へ出た。そのまま外周を回って、パビリオンの表へ。膝をついて天へ手を差し伸ばす、ガンダム像が目に入る。

錬は歩みを止めず、待機列の方向へ。近くにいたスタッフと1言2言言葉を交わし。そのまま、待機列に並んでしまった。手招きし、狼我を呼び寄せる。

 

 

「本来なら予約制なんだ。今回だけは、特別に案内してやる」

 

 

そう言ってから……何か思いついたようで、わざとらしく両腕を広げて。

 

 

「改めて。GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION へようこそ。凄いものを見せてやる」

 

───

 

「どうだった?」

 

「…………凄かった」

 

 

気の抜けた声を、狼我は漏らした。GUNDAM NEXT FUTURE PAVILIONのプログラムを見終えて、会場の外へ出ながらのことだ。ケチの1つでもつけてやろうか、などと最初は考えていたのだが、全くそんな思考など霧散していた。

瞬きするごとに、軌道エレベーターやスペースジャブローの光景、そしてガンダムとジオングの戦いが脳裏に過ぎる。別に狼我はガンダムの知識など大してないのだが、それでもあれは面白かった。

 

 

「確かに凄かった。昔行った、あれみたいだ。ディズニーランドの、スター・ツアーズ」

 

「…………それは、そうか、光栄だな」

 

「いや、違うな。スター・ツアーズより凄い。ウォークスルーだもんな、こう、ガンダムがバァーって動いてな」

 

「悪いが狼我くん、ディズニーの話は放映出来ないから控えてくれないか」

 

「これも撮影してるのかお前」

 

 

反射的に、狼我は周囲を見回す。カメラのようなものは見えないが、確か不可視の魔術を施した撮影用の使い魔がいるんだったか。全く、油断も隙もない、ふざけた男。

 

 

「っていうか、魔術師でもディズニーは怖いのかよ」

 

「またディズニーって言った……!!」

 

 

 

気を取り直して。

 

 

「それで? 俺はどうすればいい」

 

 

片膝を突いたガンダム像の真横を抜けて、狼我と錬は前方の大通りまで出た。狼我は再びガンダムと、パビリオンの方向へ向き直る。目に入るのは、待機列前に並ぶスタッフ達。

 

 

「今日はこのパビリオンで働けばいいのか?」

 

 

問えば、しばらく錬は目を丸くして黙り込んで、それから何かに思い至って苦笑した。

 

 

「ああ、昼間の話か。別に働いてもらう必要はない。君、働いてばかりで、ろくに昼の万博を見られていないだろう。散歩でもしたらどうだ」

 

「……それでいいのか?」

 

「狼我くんもまたゲストだ。俺達が迎えるべき、な」

 

 

……まあ、思い返せば。

狼我が各地のパビリオンで働いていたのも、結果的には、各陣営の情報を探るためという側面が大きかった。アーチャーを倒す、その1点のみが目的であれば、狼我を動員する理由もないということか。

 

錬に送り出されて、狼我は GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION から、大屋根リングの方向へ。

 

 

「しかし、困ったな」

 

 

誰へともなく、呟く。

今日は1日、暇になってしまう。

 

───

 

暇な1日、にはならなかった。当然のことだ、万博のコンテンツは、到底1日で見切れるものではない。

 

そこここに置かれた彫刻を巡り歩いた。

空飛ぶクルマの脇を観察した。

ブラジル館のインスタレーションを10分以上眺めた。

工芸作品、夜の地球の周りを3周した。

ステージでやっていたショーを遠くから観劇した。

コモンズAのスリランカブースに行って、セイバーとキャンディに一泡吹かせてやった。

コーヒーをテイクアウトして、大屋根リングを宛てもなく一周した。

 

予約もないので、ただ入れそうなパビリオンに入りつつ辺りをふらつくだけの1日になってしまったが、それでも価値があったと思う。万博は見るものが一杯あって、普通に楽しい。色眼鏡を外した今は、そう思えた。

楽しかったし、懐かしさもあった。かつての愛・地球博も、多分、きっとこうだったのだ。

 

ただ、そうしながらも、こうも思う。

 

 

「万博って、なんなんだろうな」

 

『……それは私に言ったのか?』

 

 

呟きに、念話が答えた。

 

 

『ああ、いや、独り言だ』

 

 

バーサーカーにそう返す。

 

そこはいのちパークの中央。一通り万博会場を歩いて、結局行き着いたのはそこだった。アサシンとの戦闘然り、昨晩のアーチャーとの戦闘然り、何かとここで戦っていた気がするが──万博開場中とあっては、人々が賑やかに行き交う、万博の広場だ。

 

 

『今日1日、霊体化してマスターに同行していた。マスターは楽しそうに見えたのだが』

 

『いや、楽しかった。それは本当だ』

 

 

実際満喫した。なるほど、これだけの人がやって来ることにも納得できる。だが、それでも。

 

 

『万博は……やっぱり、真実じゃない』

 

『またそれか、マスター?』

 

『昨日の話をする気はねえ。だが……万博は未来の話をしている。今は未来じゃねえし、万博みたいな未来が来るとは限らない』

 

 

その考えは、やはり狼我の中にはあった。

万博は理想を語る場だが、それが本当になるとは限らない。叶えられなかった理想は、ある種の詐欺とも捉えられよう。

万博は嘘をつく。捨てた考えだが、全くの誤りとは言えない。

 

 

『俺は……さっき見た空飛ぶクルマが、本当に普及するとは思えねえ。あれを作った人間が、どこまで本気だったのかも、俺には解らねえ。万博が語る未来は、信用できるものじゃねえ』

 

 

その口調はどことなく、自らを嘲るようでもあった。

 

 

『……結局は、たかが万博だ。万博が世界を変えられるなんて、そんな話はどこにもない』

 

『それは違う、マスター』

 

 

割り込んで、バーサーカーは。

 

 

『缶コーヒーも、無線の電話も、動く歩道も、1970年の大阪万博から広まったものだ。ケンタッキーフライドチキンだって、日本の1号店は大阪万博だった』

 

『55年前とは事情が違うだろ』

 

『そうだろうか? これがあれば良い、という希望と自信。そこに差はないだろう。それに──

 

 

その念話を断ち切るように、不意にアナウンスが一帯に流れた。

どうやら、今からドローンショーをやるらしい。

 

 

「もう9時か」

 

 

狼我はそう呟く。

そのアナウンス自体は、彼は何度も聞いていた。それは午後9時頃に始まるドローンショープログラム、『One World, One Planet.』の開始を告げるもの。正式にはドローンショー以外にもプロジェクションマッピングなどを並行してやっているのだが、やはり目玉はドローンショーだ。

そして、このショーが終われば来場者を帰らせるフェーズに入るので、狼我は1つの目印として、このイベントを覚えていたのである。

 

だが、しかし。その何れの時も、狼我はドローンショーを見ていない。何しろ働いていたのだ、見る暇が無い。

 

今日は違う。

 

狼我はいのちパークに立ち尽くして、ただ、空を見ている。

 

上空に1つ、明かりが灯った。

明かりが灯り、それが連なり、光の線を空に描き。

それら全てが、ドローンだ。

 

 

「……へぇ」

 

 

その呟きは、溜息にも似ていた。

 

頭上遥かで光の粒が線を描き、線が交差し、輪になって。そして、空に人の形を作る。

 

 

「凄いな」

 

 

ふと、気になって横を見た。

 

家族連れがいた。ベビーカーの中の、4歳ほどの子供が、どこか呆然と空を見ていた。

 

 

『マスターもそうだったように』

 

 

バーサーカーからの念話が聞こえる。

 

 

『美しいものを見た、と記憶していること。面白いものがあった、と感じたこと。そこに価値があると、私は思う』

 

『……俺は覚えてはいなかった』

 

『かもしれないな。だが、何を見たかは、忘れてもいいんだ。それでも、見たんだという実感に価値があるし、それが、いつかの未来を変えるものになる。マスターが、万博に心動かされて生きてきたように』

 

 

狼我は空を見仰いだまま、耳だけは念話に傾けていた。視線の先では、ドローンが作った人の形が空中に横たわり、それが蝶へと姿を変え。

 

 

『ここで同じ夢を見た、何万人もの人間が。一緒に頑張れば、きっと……100年後には、何かは成果が出るだろう』

 

『出るかな』

 

『もちろん。世界を万博にするんだろう、マスターは』

 

 

その言葉には、返事はしない。

 

この世界を万博にしたい。それが、狼我の根底にある衝動だ。万博が正しくて、万博のようでない世界の方が誤りだ。それが、今まで抑え込んでいて、昨晩直視した狼我の衝動。

ただ悲しいかな、どうすればそう出来るのか、全くピンときていない。万博が語る理想は、現実との隔たりが大きすぎる。

 

 

『マスターには、これからの未来がある。いずれ答えを見つけられれば、迷わずそれをやる。それでいい』

 

『……そうか』

 

 

まだ、身仰いでいる。

空に瞬くドローンの光。

 

闇夜に現れ、消え、また現れ。その度に個々の色は鮮やかに代わり、光の点は寄り集まって、今は虚空に樹を作っている。

それはまるで、宇宙に瞬く星を繋いだ星座のよう。

 

 

「宇宙なあ」

 

 

狼我は自分で、自分自身の思考を咀嚼した。

今でこそのんびりと空を眺めていられるが、また数時間もすれば、きっとアーチャーとの戦いだ。あれとの戦いは、宇宙を埋め尽くす星が降ってくるようなもの。どう戦うべきか、いや、下手を打つと流れ弾で死にかねないとすら思う。

 

そこまで、思考をしたところで。

 

 

「──あれ」

 

 

脳裏にゾワリとした違和感が走った。

 

気がつく。そういえば、何かがおかしい。

アメリカ館のアーチャー、ニール・アームストロング。1970年万博聖杯戦争の優勝者。人類史上初の月面着陸を成した宇宙飛行士。今回の万博聖杯戦争においても最強を誇るサーヴァント。

 

だが、おかしい。今にしてみれば、どこかに違和感があるはずだ。

何かがおかしい。その違和感を言語化しようと、記憶の中を掻き分けて。昨晩の、アーチャーとの戦闘を思い出す。

 

 

「──あっ」

 

 

ふと、思い至った。

 

思い至れば、身体は勝手に動いていた。まだドローンショーの最中だが、狼我の身体は右を向き、歩き出す。

 

 

『マスター?』

 

「ガンダムのとこに戻る。……この際だ、あいつにも利用されて貰う」

 




「アーチャーを撃ち落とす」

「あれが、アーチャーのマスター……!?」

「大屋根リングだ、上に登る!!」

「だって、だってアーチャーなら」

「僕の望みを決めつけないでほしい」

「ここに来て、ヤツをブチ抜け!!」


22話 Four Servants, Iron Desier.


「『アポロ11号(シュート・フォア・ザ・ムーン)』」



【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。