万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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断章 万博聖杯戦争 1970 大阪

 

───

──

 

 

想起する。

 

 

「約束しないか、アーチャー」

 

 

今でも覚えている。その景色、その声、その言葉。

 

 

「君と私のどちらが勝っても、同じことを願うんだ」

 

 

かつて己の目の前に立った、サーヴァント・ライダー。彼が放った言葉。

 

 

「同じことを願うんだ──『人類全ての科学の発展』を」

 

 

アーチャー──ニール・アームストロング。彼が

初めて万博聖杯戦争に参加したのは、1970年のことだった。

1970年、大阪万博を舞台とした万博聖杯戦争。

その時も、ニール・アームストロングはアーチャーとして参戦していた。しかし彼は特別だった。

 

アーチャーのマスターは、彼自身だった。

 

というのも、当時、ニール・アームストロングという人間はまだ存命だったからだ。アメリカ館は意図して、生きているニール・アームストロングに憑依させる形で、未来にて英霊化したサーヴァントのアームストロングを召喚した。

目的は単純、知名度補正の重ねがけだ。1970年大阪万博においても絶大だった、アメリカ館の知名度補正。アームストロングにアームストロングを憑依させることで、アメリカ館はその知名度補正を2乗することに成功したのである。

 

結果として、アーチャー、ニール・アームストロングの戦績は飛び抜けたものだった。

遭遇するサーヴァントの尽くを月の石で撃ち抜き、アーチャー討伐のための同盟すらも纏めて返り討ちにした。彼はアメリカ館の目論見通りに、優勝へと突き進んだ。

 

そして、最終戦。

アーチャーの前に立ったのは、ソ連館のライダー。

人類史上初めて有人宇宙飛行を達成した男、ユーリ・ガガーリンであった。

 

太陽の塔の眼前、展開された大屋根の更に屋根の上。

そこにアーチャーとライダーが立ち、遠くからはライダーのマスターが様子を伺う。それだけの戦場で。2騎のサーヴァントは最後の対話を行う。

 

 

「人類全ての、科学の発展?」

 

「だって、そうだろう? 国は違えど、僕らは同じ場所を目指した。なら、行き着く願いも同じでいい」

 

「……なるほど、それはいいね、ライダー」

 

「悔いのない戦いにしよう」

 

 

ライダー、ユーリ・ガガーリンのその言葉に、アーチャー、ニール・アームストロングは静かに頷き。

 

その直後、最終戦が幕を上げる。

 

 

「『ボストーク1号(パイェーハリ)』!!」

 

「『アポロ11号(シュート・フォア・ザ・ムーン)』!!」

 

 

対面する2騎は、それぞれ即座に宝具を行使。アーチャーはサターンVを召喚し、ライダーもまた自らの乗機、ボストーク1号を搭載したボストークロケットを召喚。

2つのロケットは空中で激突し、お互いを弾き、また激突し。ついには空中分解、炸裂と共に金属片を撒き散らす。が、サーヴァントは両者健在。

 

 

「やはり決着はつかない」

 

「ならば!!」

 

 

直後、アーチャーは作戦を切り替えた。自らの周囲に月の石を用意し、ライダーの居る一帯へと撃ち込む。ライダーは即座に戦闘機の翼を呼び出し、月の石を弾く。激しい衝突音、金属の翼は歪み、火花を散らし。

 

 

「その翼ごとっ──!!」

 

 

更に月の石の量を増やすアーチャー。魔力の全てをこの場で使い切る、それだけの勢いで以て、ライダーへ攻撃を浴びせ。

 

その、月の石の弾丸の一発が、狙いを逸れた。

 

その弾丸はライダーによる翼の盾の隙間をすり抜け。

遠くに控えていた、ライダーのマスターの方向へ。

 

 

「──マスター!!」

 

 

衝突音。

 

……ライダーは、己のマスターを庇っていた。自らの身を、月の石の前に投げたのだ。

その一発で。ライダーの霊核は砕けていた。彼はその場に手を付き、立ち上がることも、言葉を残すことも叶わずに、崩れ落ちた。

 

 

「……ああ、しまったな」

 

 

ソ連館のライダー、ユーリ・ガガーリン、消滅。

アメリカ館のアーチャー、ニール・アームストロングにとっては、尊敬すべき同志であった。

 

───

 

「よくやった、ミスター・アームストロング」

 

 

アメリカ館は、勝者を可能な限り最大の歓待を以て迎え入れた。真夜中だというのに楽隊を動員し、酒の入ったグラスが手渡された。

彼はそのグラスを突き返し、出迎えの政府高官へ歩み寄る。

 

 

「君は既に我が国の誇りだったが、伝説をまた1つ増やすとは。……さて、後は聖杯の使用についてだが

 

「すまない、提案をしても?」

 

 

その言葉を遮るようにして、彼は提案した。聖杯の使い道の変更を。ソ連館のライダーとの約束の通りの、『人類全ての科学の発展』を。

しかし。

 

 

「ミスター・アームストロング。それはできない」

 

 

まあ、難色を示されることなんて、解りきった話だった。

 

 

「アメリカが獲得した聖杯だ、アメリカのために使う。最初からそういう話をしていただろう」

 

「……そうだったね」

 

「アメリカだ。我々の母国、そう、君の帰る場所でもある。我々の戦いは、アメリカのためでなければならない」

 

 

彼はそれ以上、この話を続けはしなかった。アメリカに生きる人間であるからには、これ以上の言及は好ましくない。

そして、彼らは支度を始める。……聖杯へ、願いを叶えさせる。その支度。

 

 

「もし、また僕を召喚しようと思うなら。その時は、人間のマスターは使わないでほしい」

 

 

身支度を整えながら、ニール・アームストロングはそう言った。政府高官は首を傾げる。

 

 

「しかし、それは可能なのか?」

 

「今は出来ないのなら、開発してほしい。人間以外にマスターをやらせる、そんな技術を」

 

「了解した。約束しよう、ミスター・アームストロング」

 

 

彼は頷く。

……マスターというものは、どうにも虚弱だ。先程ライダーを倒した時だって、マスターが居なければどうだったか。あんな勝ち方、負け方は、何とも嫌な心地がする。勝ちは勝ちだが、さして気分は晴れなかった。

 

 

 

そして。1970年の万博聖杯戦争の勝者、アーチャーにしてアーチャーのマスター、ニール・アームストロング。いよいよ彼は聖杯の前に立つ。

 

立って、少しばかり苦笑した。聖杯を勝ち取ったとはいえ、これでは実感がわかない──万博聖杯戦争の聖杯は、聖杯の形をしていない。

 

万博聖杯戦争において、聖杯は慣例としてマスコットの内部に設置される。

1970年大阪万博においては──巨大モニュメント『太陽の塔』こそが、聖杯であった。

 

 

「聖杯よ」

 

 

ニール・アームストロングは、太陽の塔を見仰ぐ。先程のライダーとの戦い、そしてそれ以前のあらゆる戦い。全て、太陽の塔は見てきたはずだ。

所詮は置物、物を語りはするまいが──さて、太陽の塔は、何を思ったものか。彼はそんなことを脳裏で考えて、己のセンチメンタルを自嘲した。

 

 

「勝者、アーチャーのマスター、ニール・アームストロングが乞い願う」

 

 

そして彼は、聖杯へ願う。

 

 

「『アメリカの科学技術の発展』を」

 

 

──

───

 

 

今見たものは、きっと走馬灯だ。

 

 

「──ああ」

 

 

バーサーカーの──太陽の塔の宝具の一撃は、その極光は、既にアーチャーの胴体を灼いていた。胸元には穴が開いていて、霊核は焼失している。

口から言葉が漏れている、と、アーチャーは感じているが。実際はそれすら出来てはいないのだろう。

 

それでも考えるのは、1970年のあの日のこと。

 

 

「だから僕は、今度こそ」

 

 

不本意な形でライダーを倒してしまったあの日のこと。叶わなかった約束のこと。

 

 

「君ともう一度、競いたかった」

 

 

そして、今回叶わない、願いのこと。

 

 

「もう一度、ソビエト連邦が欲しかった」

 

 

誰にも口にはしなかったが。それが、アーチャーの願いだった。

 

 

「アメリカの、僕達のライバルで、戦友で」

 

 

あの頃のソビエト連邦をもう一度。そして、あの頃のアメリカをもう一度。反目して、それでも高め合った、刺激的で建設的で、楽しかった時代をもう一度。

 

 

「上手く行かないこともあるかもしれないけれど。それでも僕らは上手くやれるって、信じてるんだ」

 

 

叶わない願いだ。

 

全身の感覚が無くなっていく。霊核を失えば、サーヴァントの身体はもう保たない。己の身体がどこまで霧散したのかも、最早アーチャーには判断がつかなかった。

だがそれでも。

 

 

「悔しいな」

 

 

その意思は、決して燃え尽きることはない。

 

 

「…………次こそは勝つ」

 

───

 

大屋根リングの上から、狼我は見ていた。バーサーカーの一撃がロケットを貫き、アーチャーを貫き。全てが空中で崩壊して、消え去るのを。

バーサーカーとライダーが数歩狼我に歩み寄り、頷く。

 

 

「……倒したのか」

 

「そのようだ。良い指示だった、マスター」

 

「俺は声を出しただけだ」

 

 

狼我は己の右手を見た。刻まれていた3画の令呪も、今では残り1画だ。しかし逆に言えば、それだけで、万博聖杯戦争最強の敵を倒せた、そういうことになる。

 

 

「ライダーのおかげだ」

 

「どーいたしまして!!」

 

 

ライダーはそう笑って、狼我の肩をバシバシと叩く。テンションが高い。

 

だが当然ながら、これで戦いが終わり、という話ではない。

 

 

「それで。残ってるサーヴァントは?」

 

「私達──バーサーカーとライダー。そして……セイバーだ」

 

 

そう、まだセイバーがいる。アーチャーを倒すまでの同盟である以上、セイバーとはこれでまた袂を分かつことになる。

……そしてセイバーを倒せば、ライダーが敵になる。

 

聖杯戦争は、最後の1騎になるまで、終わらない戦いだ。

 

 

「どうするバーサーカー? 今から仕掛けるか?」

 

「……不意討ちということか?」

 

「えー、ちょっとヤダ──あ、マスターから念話。10分トイレ休憩して仕切り直さないかって。それでいい?」

 

「……なら10分後に仕掛けるか?」

 

「不意討ちではないな。いや、私はその方がよいと思うが」

 

 

大屋根リングの上に居座って、そんなことを話す狼我ら。

 

──不意に。

 

何やら、重い音を聞いた。

 

 

「……何、今の?」

 

 

重い音。重い、何かが軋む音。

また音がする。重くて、金属が擦れるような音。

音源は、遠くない。

 

 

「……バーサーカー」

 

「確認しよう」

 

 

それだけ会話をして、音源の方向へ走る。

音は止まない。重い音。ぎちり、じじじ、がしゃん。

 

どしん。

 

 

「──は?」

 

 

走る狼我の脚が、止まる。

 

視線は一点に釘付けになっていた。

見つめているのは西ゲートの方角、大屋根リングとも距離が近い、あるパビリオン。

 

 

「どういうことだ……?」

 

 

GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION。

 

 

ガンダム像が、動いている。

 




「ガンダムが──動いてる」

「そんな機能はない、よね?」

「聖杯が乗っ取られた!?」

「この勝負、俺が貰おう」

「大きいよ、どうする!?」

「どこまでもふざけた男!!」


23話 ガンダム大阪に立つ


「君は生き延びることができるか?」



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