アメリカ館のアーチャー、ニール・アームストロング。万博聖杯戦争において最も知名度補正を受けた、最強のサーヴァント。
それを確かに、彼らは打倒した。
コモンズDのライダー、プリンセス・イェネンガ。そしてそのマスター、ベンドレ・ウェドラオゴ。
コモンズAのセイバー、スンダラムルティ・スワミ。そしてそのマスター、サバラガムワ・ウダプッセワラ・キャンディ・ルフナ・ペレイラ。
バーサーカー、太陽の塔。そしてそのマスター、基田狼我。
後は、勝ち残った3騎のサーヴァントによる最終決戦。そうなるはずだった。
1つの異常が起こるまでは。
「ガンダムが──動いてる」
そう漏らしたのは誰だったか。大屋根リングの上で、狼我、バーサーカー、ライダーは立ち尽くす。
視線の先には、GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION。そしてその真横に跪くガンダム像。その像はパビリオンのアトラクションと連動したストーリーを持ち、暑い日にはミストを吹き出したりはするものの、決して稼働する機能は持たないもの。
だが今は。
金属の擦れる異音を放ち、その躯体を軋ませて。
動いている。重心を動かし──脚を伸ばして。
「そんな機能はない、よね?」
「当たり前だろ。あの像は置物だ。……そのはずだ」
「マスター、気をつけろ。ガンダムが──立ち上がるぞ」
どしん、と低音。ガンダムの姿がぐらつき、排気口からミストを放ち、立ち直り──直立。
機械の双眸が、紅にも似た閃光を放つ。
ガンダム大阪に立つ。
その顔は、既に狼我に向いていた。
『やあ狼我くん』
「その声──」
その声の主を、意外だとは思わなかった。
聞こえてきた声を知っている。それはGUNDAM NEXT FUTURE PAVILIONの監督役、井室 錬のもの。ガンダムを動かすのなら、なるほど彼だ。
しかしそれ以前の問題。何故、ガンダムが動いている?
「どういうことだ?」
『サプライズゲストの参戦だよ。この勝負、俺が貰おう』
狼我の疑問には、錬は答えない。ガンダムの顔は狼我を見据えたまま。
その顔を見て、不意に狼我に悪寒が走る。
「ッ、まさか!!」
『頭部バルカン!!』
直後。ガンダムの顔面が火を吹いた!!
「っきゃあ!?
「マスター、私の後ろに!!」
「ッ!!」
咄嗟にバーサーカーの背後に飛び込む狼我。すぐ横ではライダーが身を守っていて、狼我はその様を観察する。ライダーの構える皮に、ガンダムから放たれた物体が撃ちつけられて火花を散らす。
勢いは間違いなく、ガトリング掃射のそれだ。
頭部バルカン、錬の声はそう言っていた。ガンダム像に武装など積まれているはずはないのだが、まさか本当に?
弾丸の雨が、一旦止む。
『堪えるか、流石だな』
「テメェ、何考えてやがる!?」
バーサーカーの背中から顔だけ覗かせて、狼我はそう怒声を投げた。やはり、ガンダムから錬の声がする。どこかにスピーカーでも積まれているのだろう。
そして、錬の声は続けて。
『改めて、アーチャーの討伐に感謝する。だが、残り3騎でただ戦うのもいかがなものか、とね。思ったんだよ』
「──あぁ?」
『よってシナリオ変更だ。俺も参戦する……このガンダムで』
そんな、無茶苦茶を言い始めた。
『さあ……君は生き延びることができるか?』
「どこまでもふざけた男!!」
直後、再び頭部バルカンが火を吹く。狼我は慌ててバーサーカーの後ろに引き、伝わる衝撃に歯を食いしばる。なんだアイツは!!
しかし今は、そんなことを考える暇すらない。幾らバーサーカーとはいえ、ガトリングの弾の前に晒し続けるのは危険だろう。一刻が惜しい。
同じことをライダーも考えたようで、一瞬視線が交差する。互いに頷いて。
「この勢い、キリがない!! 飛び降りるよローガくん!!」
「仕方ない、マスター、こちらへ」
「ああクソ、バーサーカー、着地任せた!!」
直後、狼我は迷いなく、大屋根の内側へ駆けた。落下防止の柵を飛び越え、空中に身を投げる。
一瞬の浮遊。
そしてバーサーカーが追い付いてきて、狼我の身体を抱き寄せる。
直後、着地。
追ってライダーも着地する。そしてそこには、既にセイバーと、キャンディ、ベンドレ、そして美琴も駆け付けていた。
「アンタら──」
「無事か、ローガ」
「……今のところはな」
既に状況は伝わっているのだろう。ベンドレの視線は大屋根リングの向こう側、こちらを伺うガンダムを向いている。
大屋根リングの下部分は、ガンダムで潜るには狭いはずだ。少しばかりの時間は稼げる。
狼我はひとまず状況を整理しようと、切り出しかけて。
しかしその言葉を遮って、美琴が口を開いた。
「……大変や」
彼女はスマートフォンで何やら地図を確認しながら、顔全体を冷や汗に浸して、目を剥いている。
「今、倒されたアーチャーの魔力の流れを確認したんやけど……魔力の行き先が、変わっとる。元の通りのミャクミャク像やない」
震える言葉、震える指で。
「あのガンダムや」
それを、指差した。
「聖杯の機能を持っとるのが、あのガンダムになっとる」
その言葉に。狼我の理解は、すぐには追いつかなかった。
整理する。
万博聖杯戦争は、聖杯を奪い合うマスターとサーヴァントによる戦いだ。
聖杯はサーヴァントの魂を蓄積することで、願いを叶える願望器としての力を得る。
万博聖杯戦争において、聖杯の機能は慣例としてマスコットが持つ。そして今回は、東ゲートのミャクミャク像がその役割を担っていた。
だが今、その機能がガンダム像にある。
「なら……それが、意味するところは……」
「……つまり、聖杯が乗っ取られた!?」
きっと、そういうことだ。
一昨日のキャスターとの戦闘を想起する。あの時は、キャスターのマスターが聖杯を奪って、キャスターの強化に使用していた。それと同じことを、今は錬が行っている。
思い返せば、あの戦いの後、錬が聖杯を回収していた。
……あのタイミングで聖杯を盗んだらしい。
「下がれ!! ……ガンダムが、大屋根リングを、潜ってきた!!」
ベンドレの警告で、狼我の意識は引き戻される。数歩後退。聞こえた言葉の通り、ガンダムは大屋根リングの柱の間、ゲート状になった空白地帯を潜り抜け、いかにも邪魔そうにエスカレーターの隙間に這い出て、立ち上がり。
『やあ、飛び入り参加失礼する』
相変わらずの錬の声。ガンダムの巨躯が一同を見下ろす。
「ジブンは全く、何のつもりや!!」
『言っただろう、万博聖杯戦争に参戦する。サーヴァント・ガンダム、RX-78F00/E のマスターとして』
「はああああーっ!?」
美琴の声量に、思わず狼我は身を竦ませる。しかし気になるのは錬の発言。即ち──
「サーヴァント──ガンダム!?」
「あり得ません。聖杯戦争にそんなクラスは存在しない」
キャンディはそう断じるが、錬が割り込み訂正する。
『造ったんだよ。ガンダム像を軸として、聖杯に焚べられたアーチャーの宇宙のエッセンスで存在を強化。聖杯を炉心に据えた機動戦士、否、機動聖杯ガンダム』
そんな声と共に、ガンダム像は見せつけるように手脚を駆動させる。既に金属が軋む音は聞こえない。仮初のサーヴァントとして──稼働する物体として、成立し終えたのだろう。
「ジブンはっ、監督役の役目を忘れたんか!?」
『忘れていないさ。最大の敵を倒した後に、小競り合いで決着、では面白みに欠ける。だから──この場で君達を全滅させて、俺が勝つ』
その方が面白い、と。錬の声は言ってのけた。
一瞬、ガンダム像の動きが止まる。
それを見て、狼我は無意識に身構えた。
攻撃が来る。
『御託に尺を取りすぎた。性能は実際の戦いでお見せしよう』
「っ、来る!!」
『頭部バルカン!!』
狼我はまた、バーサーカーの背後に飛び込んだ。美琴とキャンディ、ベンドレもそれに続き、身を屈めて頭を守る。
バーサーカーの背中越しに、着弾の衝撃。数発、数十発、叩き込まれて……不意に止む。
『……弾切れか』
サーヴァントでも弾切れはするらしい。
一瞬の猶予で、狼我、ベンドレ、キャンディはセルビア館の陰に飛び込んだ。飛び込んで、慌てた様子でキャンディが弾除けの魔術を用意する。これで流れ弾だけは避けられるが、しかしそれだけだ。
ガンダムに対抗する、手立てを考えなければ。
狼我は再び表へ目を向ける。ガンダムと対面する、バーサーカー、ライダー、セイバー。美琴はどこかにいなくなっていた。
「不味いな。機銃掃射は、私でも堪える」
「それにアレ大きいよ、どうする!?」
「ならばこうしよう。オム・ナマ・シヴァヤ!!」
3騎は一瞬顔を見合わせて、直後、セイバーがその剣をガンダムへ向けた。それと共に、一筋の風。それが束となり、重なり合って暴風となり、ガンダムへ吹き付ける。
真正面から風圧を受け、数歩、よろけるガンダム。だが。
『それなら、コイツだ』
錬のその声と同時にガンダムは大地に踏ん張り、その右腕を天に掲げ。
その指先で、光が弾ける。光の機械が組み上がる──実体化する。その姿を、狼我は知っている。
「あれは、グラスフェザー装備!!」
空に実体化する、白と青の光を纏った機械の翼。それを狼我は、ちょうど今日見ていた。
GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION。ガンダム像も配置されていたそれは、22世紀の未来を舞台としたパビリオンだ。
来場者は夢洲ターミナルから軌道エレベーターで宇宙拠点スペースジャブローへ行き、そこで無人モビルスーツ、MSN-X17 ジオング タイプMAに襲われる。そこから来場者達を救い出すものがガンダム──RX-78F00/E ガンダム。そしてそのガンダムの主武装こそが、EX-001 グラスフェザーであった。
グラスフェザーは太陽光パネル、蓄圧器、マニピュレーターで構成された補助ユニット。本来平和利用のために作られたユニットだが、武装としての機能をも持つ。太陽光パネルのユニットは独立可動し盾になり、そして攻撃機能もある。
要するに。
「ビームが来るぞっ!!」
そう言った瞬間には、もう遅い。
グラスフェザーはガンダムの背に合体し。それを構成する、青白い太陽光パネルの全てが。
眩く発光。
『グラスフェザー、ビーム発射!!』
数にして総計22本。ガンダムの背負うグラスフェザー、そこから放つ高火力ビームが、サーヴァント3騎目掛けて、解き放たれ。
極光が、世界を塗り潰す──
「我が神よ、一帯の大気を黄金の鏡と成し、来たる光線を反射し給え、オム・ナマ・シヴァヤ!!」
その、光を受ける直前に、セイバーが動いた。
叫びと共に剣を振り上げ、その切っ先で円を描く。大気は即座に硬質化、黄金の塊へと変質し、それは横へ展延し、ガンダムの放つ光に直面し。
反射。
鏡の角度の問題だろう。ビームは方向が逸れて真上へ反射。極光の塊は遥か空まで解き放たれて──上空の雲に穴すら開けた。
それ程の一撃を、セイバーは防いだ。
が、直後。セイバーはがくりと、糸が切れたように膝をついた。意識はあるものの、指先には力が入っていない。黄金の鏡も、既に霧散している。
「セイバー!! 無茶のし過ぎです、アーチャーとの連戦なのに!! 下がりなさい、セイバー!!」
シヴァ神の力の使い過ぎだ。思えば、アーチャーとの戦闘の時点で、セイバーは集中的に攻撃されていた。無理が祟ったらしい。
セイバーは首を振り、その姿が掻き消える──霊体化する。
「今までとは戦いのスケールが違う……!!」
狼我は、思わずにはいられない。立ち塞がる巨大なガンダム、昼間はただ、凄いだけの物だったそれが、今は恐ろしい。
「どうするマスター!!」
「取り敢えず脚だけでも潰す!?」
バーサーカーとライダーの声。
「セイバーの回復には時間が必要です。この一晩を凌がないと」
「オレの令呪が必要か、ローガ」
キャンディとベンドレの声。
「解らねぇ、どうすればこの状況を……」
考える。考えるが、答えは出ない。
狼我は自分の手の甲を見た。令呪は残り1画だ。これを使うとして、それは必殺の一撃か、もしくはそれに繋がる一手、それに使わなければならない。
だが今の、グラスフェザーを装備したガンダムを相手取って、そこに至るビジョンが解らない。
考える時間すらも惜しい。グラスフェザーはまたビームを撃てる。一刻も早く判断しなければ。
考えて。考えて。考えあぐねて。
その時だった。
全く、意識の埒外から。
異様な轟音が、耳に届いた。
「……あぁ?」
轟音だ。どぼちゃん、あるいは、どばしゃん。水が弾ける音の類いだと、狼我は感じる。だが明らかに大きい、大きすぎる音。
再び陰から顔を覗かせて、絶句。
巨大な水柱が、地平線上に立っていた。
「──は?」
とにかく巨大な水柱だ。それだけは解った。何しろ万博会場の、それもただの地面、かつ大屋根リング越しだというのに、その姿が見えたのだ。高さにして何百メートル級、当然ながら異常であった。
「何が起きた?」
「万博会場の、外か。何かが、沖合で……何だ、凄い衝撃だった」
「これもテメェの仕業か!!」
『……いや、あれは俺じゃない』
ガンダムすらも首を振る。
正体不明の怪現象、万博の外に立った超超巨大な水柱。狼我は訳が分からないこと自体には、魔術に触れたここ数日で、何度だって対面してきた。だが──今回は、まるで、謂れがない。
このタイミングで、何故、あんな現象が?
「解らない、だが……これは、只事ではない」
「海底火山の噴火? ……いえ、あるはずない。だって大阪港でしょう、整備された港です」
「爆発か……あるいは、隕石?」
ベンドレとキャンディも、口々に考察し。
直後、近隣のスピーカーから、アナウンスが入る。
『中止や、中止!! 異常事態発生!!』
美琴の声だった。
必死の声色で、叫んでいる。
『万博聖杯戦争を中断する!! 全員、戦闘を止めぇや!!』
「あれはサーヴァントだ」
「ボクの令呪が盗まれたんだ!!」
「アンタ、その声、まさか」
「もう1人のバーサーカー」
「そんなことが、出来るやつが?」
「俺がガンダムで出る」
24話 西の果てのイレギュラー
「サーヴァント・ガンダム!! 出撃する!!」
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