万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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真名判明

イタリア館 逸れのバーサーカー
真名
アトラス

ギリシャ神話における、ティターン神族の一柱。
ティターン神族がゼウスらとの戦いに敗れた後には、世界の西の果てで天空を背負う役目を負わされたとされる。



25話 2300万人、あるいは1人のための願い

 

思考が追いつかなかった。

水柱が上がり、それが消え。さっきまで戦っていたはずのガンダムの姿は、もう見えない。

 

何が起きたのかは解る──ガンダムが沈んだ。

何故起きたのかも解る──もう1騎のバーサーカー、神霊アトラスの宝具によって。

 

だから、今狼我が呆然としているのは、その事実を信じたくないからだ。

それでも、事実だった。

 

 

「──ガンダムが墜ちた」

 

 

モニターを確認した。先程までガンダムからの映像を映していたそこには、今は砂嵐が走るばかり。マイクはどうやら生きているらしいが、聞こえるのはごぼごぼと水の音。

 

 

「……なあ、今、何が起こった?」

 

「大規模な空間の歪みが起きていました。大気がブレて、ヒビ割れのようなものも。……今はありませんが」

 

「宝具だと、言っていた。アトラスの宝具」

 

 

口々に話し、そうしながら天を仰ぐ。ガンダムをたった一撃で沈めた、アトラスの宝具。

何が起きたのか、突き止めなければ。狼我は思い出す。先の宝具の際、住持が何と言っていたかを。

 

──ヘラクレス。

 

 

「……ヘラクレス。ヘラクレス、アトラス……まさか?」

 

 

記憶を掘り起こす。狼我はそこまでギリシャ神話に造詣が深いわけではない。だが、多少は知っている部分もある。

アトラスとヘラクレスの間には、ある逸話がある。

 

 

「……アトラスは、ゼウスとの戦いの後に、罰として天空を背負う役割を負わされた。ファルネーゼのアトラスが天球儀を背負っているのも、その表現だ」

 

 

ぽつり、憶測を話す。

 

 

「だが──この天空は、他人に押し付けられるんだ」

 

「押し付ける……?」

 

「ヘラクレスは知ってるだろ。ギリシャ神話の英雄だ。こいつは神話においてアトラスと関わりがあった」

 

 

ギリシャ神話の英雄、ヘラクレス。

彼は数多くの冒険を行い、最終的には神に至ったとされるが。生前に成したとされる12の偉業のエピソードの1つに『ヘスペリデスの黄金の林檎』と呼ばれるものがある。

 

 

「アトラスの娘の1人が、黄金の林檎の成る木を管理してたんだ。それを求めたヘラクレスに、アトラスは自分の背負う天空を代わりに背負わせた。林檎を取ってくるからってな」

 

「天空を代わりに背負わせた……ヘラクレスに?」

 

「ああ。アトラスはそのままヘラクレスに天空を背負わせたかったらしいが、結局自分でまた天空を背負う羽目になった」

 

 

でも大事なことは、と狼我は続けて。

 

 

「アトラスは天空を他人に背負わせられる──押し付けられるってことだ」

 

「なら、あれはつまり……」

 

「天空を背負わせる、押し付ける──あるいはもっとシンプルに、天空を相手に落とす宝具。そういうことになる」

 

 

あくまで憶測だが、狼我の中には確認があった。仮想の大質量『天空』を相手に押し付ける宝具。そうであれば、ガンダムを沈めた一撃の説明がつく。

概念的な『天空』の重さが如何程かは、憶測のしようもないが。アトラスほどの巨神が苦痛に感じる重量であることは確かだろう。

 

 

「ガンダムが沈むのも、やむなしか」

 

 

再び、海の向こうのアトラスを見る。動きは無い……どうやら、ガンダムを沈めた際に発生した波で、身動きが取りづらいようだ。如何な巨神といえど、いや巨神であるからこそ、足場に影響を受けるのだろうか。

 

今しかない、と、ふと思った。

思って、狼我は美琴へ向き直る。

 

 

「なあ、船あるか」

 

「なんて?」

 

 

そう提案する。

 

 

「船だよ。万博は海にこれだけ面してるんだ、メンテナンス用の船の1隻はあるだろ。アイツを拾いに行ってやる」

 

 

錬を拾いに行く、と狼我は言った。ガンダムが沈んだということは、コックピットにいた錬も沈んだということだ。彼とてガンダムを駆る選択をした以上、そうなる覚悟もあっただろうが、しかし。救命を、狼我は申し出た。

受けて、美琴は目を伏せた。口元は不満げに歪んている。……多分、シンプルに錬のことが嫌いだからだろう。

 

 

「……確かに、小型のボートなら用意があるはずや。でも操縦は?」

 

「アタシがやれる。ほら、ライダーだし。船の操縦も解っちゃうんだよね!!」

 

「オレも、出よう。船舶の……免許は、持っている」

 

 

ライダーとベンドレが名乗り出る。が、美琴は納得せず。

 

 

「ジブンらだけで出ても危ないやろ、あのサーヴァントは危険すぎる」

 

「ならば我々も共に向かおう。空から護衛する──オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

 

そして、割り込んだセイバーの一声で──象が、彼の傍らに現れた。白い象だ。全身を綺羅びやかに装飾している。

 

 

「それは……象か?」

 

「ただの象ではないぞ。空を飛べる」

 

 

曰く。元はセイバーがシヴァ神の元へ昇天する際に乗った、空飛ぶ白い象らしい。セイバーはひらりと象に飛び乗って、上から美琴を見下ろした。

 

 

「我とバーサーカーが空からボートを追う。それで、ましにはなるだろう?」

 

「まあそないに言うたら止めはせぇへんが……」

 

 

美琴は呟き、渋々とスマートフォンを弄る。程なく──たった数十秒ほどで。狼我らの目に見える範囲まで、小型のモーターボートが乗り付けてきた。操縦士が降りて、こちらに手を挙げるのが見える。

今からやることはシンプルだ。2手に別れて、あのアトラスの元まで向かう。

 

狼我はボートの方まで歩みかけて──ふと、バーサーカーへ振り向いた。

 

 

「ではマスター。私はこちらで向かう」

 

「分かった。……気ぃつけろよ」

 

「マスターこそ」

 

 

それだけ交わして、狼我はボートへと駆け出した。追ってライダー、ベンドレが走る。勢いそのまま、ボートの上に飛び乗って。ライダーが鍵を受け取った。

 

 

「ちょう待ちぃ!!」

 

 

投げ掛けられる美琴の声。狼我が顔を上げれば、何か機械が投げつけられる。キャッチして。

 

 

「っと……なんだこれ」

 

「ガンダムのマイクからの音声、そこから聞こえるはずや。一応持っとき」

 

「……わかった」

 

 

どうやらスピーカーのようだった。そのスピーカーを船の片隅に置いて、また岸辺を見る。美琴とキャンディがそこに立っていて──その後ろでは、丁度白い象が空に飛び上がるところだった。

セイバーと、その後ろにバーサーカーがいる。一瞬、その姿に視線が釘付けになって。

 

 

「じゃあマスター、ローガくん、しっかり捕まっててね、ぶっ飛ばすよ!!」

 

 

その言葉に、気を取り直す。その場に屈んで、手すりを掴んだ。

ぐい、と慣性を感じる。

モーターボートが、走り出す。

 

 

 

視界に映るアトラスの姿が、だんだんと大きくなる。近づいているのだから当然のことだ。

 

 

「今の速度なら、あと何分であそこに着く?」

 

「多分10分!! 体感だけど!!」

 

 

思ったより遠い。狼我は昼間に見た地図を思い返した。万博会場から神戸沖埋立処分場まではおよそ10km。幾らかは近いとしても、それなりの距離だ。

何かが出来ないか。狼我はモーターボートの中の備品を漁る。救命器具、双眼鏡、機械式のメガホン。狼我は咄嗟に双眼鏡を手に取った。

 

覗き込んで、アトラスの肩を見る。佐藤住持がそこにいる。

 

 

『ああ、おかわりが来たか、めんどいな』

 

 

──そんな声が、不意にした。

スピーカーからだ。

 

 

「今の声は」

 

 

確信する。浸水したマイクが、住持の声を拾ったのだろう。それならば、会話が出来るはず。狼我は咄嗟にメガホンを手に取り、電源を入れ。

言葉を飛ばす。

 

 

「佐藤住持ーっ!! 目的は何だーっ!!」

 

 

そして数秒待ち。

 

果たして、その言葉は届いたらしい。住持は聞こえた声に首を傾げ、呟く。

 

 

『……ああ、彼か、太陽の塔のマスターの。えーと──

 

「基田狼我だーっ!! 聞こえてるかーっ!!」

 

『うわ、僕の声聞こえとるんや。どっかにマイクでもあるのかな』

 

 

そう呟く住持の声が、スピーカーから聞こえてくる。狼我はメガホンを構えたまま、更に。

 

 

「お前の目的はーっ!! 関西の発展じゃなかったのかーっ!!」

 

『そんなわけあらへんやろ、もう仕事は終わったんやで』

 

 

問えば双眼鏡の向こうで、住持は首を振っていた。その口元には笑みがある……どことなく、にやついているようにすら見えた。そして。

 

 

『ま、別に僕は、最初から日本の発展はどうでもよかった。というか気に食わんよな、万博なんて勝手に決めて』

 

 

そんなことを言い始める。その呟きは狼我へ向けてのもの。住持は既に、近づいてくるモーターボートを──狼我の構える双眼鏡を、真っ直ぐに見つめ返していた。

 

 

『今の日本はもうあかん。君も知っての通りな。だから……派手に万博を壊したら、政権の1つはひっくり返せるやろう思てな』

 

 

そう滔々と語る住持。

だが、それに直面して。狼我には、ある予感があった。

 

 

「具体的に何がダメなんだーっ!!」

 

『チッ……色々や、色々。万博1つ取っても、ありえんほどのトラブルがあった。建設費用は爆増したし、パビリオンは未完成。メタンガス騒ぎだってあったな』

 

「別にそれはー!! 万博壊しても解決しないだろー!!」

 

『うるさいな。あんたに話しても判らんやろうよ』

 

 

ああ、やっぱり。

この悪意には、形がない。

 

怒るべき対象は、見つけようと思えば幾らでもある。それは事実だし、対策も必要だ。それは当然のことだ。

だが今、相対するこの男には、怒りをぶつけた先がない。根拠もなく、目的もなく、ただ今腹の中にある、言葉にすることが出来ない曖昧な感情──曖昧な悪意だけで動いている。

 

それは、万博聖杯戦争に参加する前の、狼我にだってきっとあったもの。

 

形のない悪意。

 

 

『とにかく万博を壊す、きっとスカッとするに──ハンパクって言うんやろ? こんなんを』

 

 

狼我は、何というべきか。逡巡して。

それから口を開く──その直前に。

 

 

「それは違う!!」

 

 

どこかから、大声が割り込んできた。

 

咄嗟に狼我は空を見仰ぐ。白象が飛んでいる。そしてその上では。

 

 

「うわビックリした、バーサーカーか」

 

 

バーサーカーが、大声を張り上げている。

 

 

「ハンパクとは!! 万博に拠らずに世界を良くしようと試みた者たちによる、創造的な行動だった!! ただ憂さ晴らしに破壊する、君の目的とはわけが違う!!」

 

『めんどくさい奴ら』

 

 

呆れたような、小声が漏れ聞こえた。

スピーカーの向こうから溜息が1つ。それから。

 

 

『……まあ、いちいち付き合うのも億劫や──ショートカットしよう。令呪をもって命ずるに』

 

 

狼我はまた双眼鏡を覗き込んだ。

見ればアトラスの上で、住持が右手の甲を掲げて。

 

 

『飛翔せよ、バーサーカー』

 

 

そう、命令する。

 

命令と共に、住持の令呪が──イタリア館のレニーから奪った令呪が輝いた。赤い光が滲み出て、アトラスへと染み渡る。浸透し、そのエネルギーは背中へと届き。

アトラスの身体が、変質する。

 

大理石のような身体の、その背中から、軸が伸びる。伸びる軸は2本、両の肩辺りから生えて、外へと張り出し。その軸から、切片が幾つも生え出ずる。切片、切片、折り重なり、大きくなり。

それはまるで、

 

 

「あれは……アトラスに、翼が!!」

 

「嘘だろ……!?」

 

 

ボートの上からそれを見仰ぎ、狼我も、ライダーも、ベンドレも、皆表情を引き攣らせる。

アトラスに生えていくのは、巨大な両翼。

 

 

「そんなコトありえるの!? ムキムキのオジサンじゃんアレ!! 翼とか似合わないよ!!」

 

「……いや、東洋に伝来したアトラスは、翼ある姿で描写されることが複数度あったはずだ」

 

 

見る間、見る間に。アトラスの翼が成長してゆく。まだ未完成のようだが、既にその翼は巨大。

 

 

「極東も極東、日本でなら、アトラスは翼を生やしうる、そういうことなのか?」

 

「じゃあどうするの、ローガくん!?」

 

「それでも近づくしかない。いや、むしろ急げ。翼が出来上がる前に倒す!!」

 

「でももう全速力だよ!!」

 

「クソ、間に合わない!!」

 

 

狼我は歯噛みして、バーサーカーに念話を飛ばした。何か、今打てる手はないか。己の手の甲、残り1画の令呪を見やる。

 

 

『バーサーカー!! 黄金の顔、使えるか!!』

 

『まだだ、ここからでは狙いが定まらない、当たるかどうか──そして当たったとして、効くかどうか』

 

『そうだとしても──

 

 

だが、考える間に。

 

 

『有翼のアトラス、造形完了』

 

 

無慈悲に、無感動に。そんな声が、スピーカーから聞こえてしまった。

 

 

『さあ、バーサーカー。深いことは考えやんでええ。あんたも、自分の醜態に6時間の待ち列を作られてさぞ気分が悪いやろう──思うままに、万博を壊そう』

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

 

アトラス、咆哮!!

その吠え声はマイクなど介さずとも一帯へと響き渡り、外縁に展開された魔術秘匿の防壁すらも震撼させる。そして背中に生えた大理石の翼を、1つはためかせれば──それだけで、アトラスの脚は水面を離れた。もう1度。アトラスの身体が、水上へと上昇していく。

 

それを見て、狼我は1つ舌打ちをした。アトラスはただでさえ強すぎる、空まで飛ばれれば、いよいよ勝ち目がない。

 

3度目の羽ばたき。

アトラス、飛翔──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その、飛翔するアトラスの足首を。

 

機械の爪が、掴んだ。

 

 

「……ん?」

 

 

機械の爪。それは水中から伸びて、アトラスの右足首を挟み込み、飛び立つのを妨害している。

狼我はボートの上から目を凝らす。機械の爪、それはどうやら金属のアーム。否──マニピュレーターだ。

 

そのマニピュレーターの、持ち主は。

 

 

「──ガンダムだ!!」

 

 

水面、鳴動!!

 

2つ目のマニピュレーターがやはりアトラスの足首を掴み、再び水上まで引きずり込む。そして更に腕が伸びて、やはりアトラスの脚を掴み。

 

這い上がるようにして、ガンダムの姿が現れた。

 

一同水中に押し込まれて尚、その青白い輝きに濁りなし。水面はグラスフェザーの輝きに染め上げられて、ガンダムはアトラスを離さない。

 

 

「へえ、まだ平気なのか」

 

「平気な訳が無いだろう、馬鹿野郎!! このガンダムを建造するのに、予算が幾ら掛かったと思ってる!!」

 

 

ガンダムはアトラスの脚を掴み、腰を掴み、肩を掴み。這い上がりながら、光を放つ。

 

先の宝具の一撃で既に、その機体は致命傷を負っている。最早ガンダムに飛翔する能力はなく、稼働時間も長くはない。コクピットにも穴が空き、半ば浸水している状況。聖杯炉心も破損し、魔力を垂れ流している。

だが、それでも。

 

 

「だが万博には、もっと大きな予算が掛かってる!! 大きな予算が掛かっていて、大きな期待が掛かっていて、それに応えるために、どれだけの労力が支払われたか!!」

 

 

アトラスにしがみつき、錬は吠える。その声もまた、マイクなど通さずとも、ボートの上の狼我の耳まで、直接届いていた。

アトラスの肩の上では、住持が苛立たしげに指示を出す。

 

 

「話にならん、飛ぶにアトラス。ガンダムは振り落とす」

 

「■■■■■■■■」

 

 

1つ、再び羽ばたくアトラス。その羽ばたき1つで海面は震え、アトラスの身体は浮き上がり。しかし、ガンダムはまだ諦めていない。

 

 

「万博は、俺達の仕事(努力)で出来ている!! 貴様の身勝手な諦念に、立ち入る余地はどこにもない!! 立ち入らせて、なるものかッ!!」

 

 

その叫びに、呼応するように。

ガンダムの背、グラスフェザーが眩く光る。

 

光を放ち──分解する。その翼を構成する太陽光パネルユニットが、1つずつその結合を解除し、アトラスとガンダムを取り囲むように周回する。その全てに、青白く極光が満ちる。

 

 

「令呪装填ッ!! 真名建造、疑似宝具展開ッ!!」

 

 

極光、極光、極光、極光。

 

総計22のユニットが、今。

 

 

「『ガンダム跳躍再帰性輝煌群(未来へ繋ぐグラスフェザー)』!! コイツを食らって、堕ちろアトラス!!」

 

 

極大光線を、解き放つ!!

 

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

 

照射!!

 

苦悶するアトラス。その全身、余す所なく、グラスフェザーのビームが襲う。その光こそは神霊の肌すら焼く人類の未来。オールレンジから撃ち込まれる光の柱が、アトラスを捉えている。

そして同時に、アトラスにしがみつくガンダムすらも、その光線を浴びていた。

 

 

「アイツ、自分ごとアトラスを!?」

 

 

ボートの上、見上げながら狼我は驚愕する。

アトラスを焼くグラスフェザーの光線は、ガンダム自身も巻き込んで、苛烈な攻撃を浴びせていた。

アトラス、堪えかねて着水。──しかし意地があるのだろうか、ビームの束を浴びながら、ガンダムに掴まれた体勢のままで、再び羽ばたき、身体を浮かし。なるほど神霊、流石にタフだ。

 

そこに、セイバーとバーサーカーの乗った白象が、追い付いてくる。

 

 

「錬殿!!」

 

 

セイバーの声が、ガンダムへ届く。ガンダムはアトラスに掴みかかったまま、その首だけをセイバーへ向けて。

 

 

「我らもお手伝いしよう!!」

 

「なら──2本目のビームサーベルだ!! 持っていけ、セイバー!!」

 

 

直後、中空に光が瞬き、機械の塊が現れる。

それは一瞬、ただの棒のように見えて、しかし柄だと理解する。ガンダムが振るう、ビームサーベルの柄。当然スケールもガンダムサイズ、人が振るうにはあまりにも巨大な得物。

 

そしてそれを視認して、セイバーは迷わず空中に身を投げた。全身に風を纏い、その風に乗って、ビームサーベルへ接近。右腕を差し伸ばし。

 

 

「引き受けた──我が神よ、その手を貸し給え!! オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

 

その一声で。

 

セイバーの前方、巨大な掌が顕現した。それこそはシヴァの掌、それが、ビームサーベルを掴み取る。

刀身、展開。

 

セイバーの動きと共に、光の剣──ビームサーベルが、その眩き刀身を振り上げて。

 

 

「異邦の神よ!! その翼、裁ち落とす!!」

 

 

一閃!!

 

シヴァの振り抜くビームサーベルが、アトラスの右の翼を。根元からバッサリと、切り払った!!

 

 

「■■■■■!!」

 

「っちぃっ!! バーサーカー、後ろだ!!」

 

「遅い!!」

 

 

そして切り払った勢いをそのままに、セイバーはビームサーベル諸共アトラスの後方へ。そのままその身体を空中で捻り──左の翼も、下から上に切り刎ねた!!

 

翼を失い、アトラス墜落。大質量を受けて大阪湾は鳴動し、海面に荒く波が立つ。

 

だが……アトラスは翼を失くしたものの、それだけだ。付け足されたものをまた失ったにすぎず、それは決して弱体化を意味しない。現に、アトラスは既に海上で姿勢を立て直し、未だ己を掴むガンダムの、その肩を掴み返している。肩の上でも住持がその身体を払い、怒りを顔に露わにし。

 

 

「ああ、うざこい!! バーサーカー、こいつを潰せ!!」

 

「■■■■■■■■■■■!!」

 

 

その、怒りに呼応するように。

 

アトラスは咆哮と共に、ガンダムの胸元の青い部分、丁度コックピットのあるそこに手を添えて──力任せに、ちぎり取る。

 

 

「なあっ──!!」

 

 

その勢いに抗えず、錬の身体が宙に投げ出されたのが見えた。

 

 

「ライダー!!」

 

「解ってる!!」

 

 

ライダーの駆るボートはずっと、海上を走り続けていた。収まらぬ荒波の間を縫って、走り続けて──とうとう、錬の身体の真下へと。

そしてライダーは軽く跳躍し、落下する錬の身体を受け止めた。船上へ着地。

 

 

「ナイスキャッチだ、ライダー」

 

「どーも。ギリギリ間に合ったね」

 

 

ライダーは軽く、狼我とそれだけ交わして。錬の身体を横たえる。

 

……その身体は、今のアトラスの一撃で、酷く打ち付けられたようだった。全身には青痣が滲み、多分骨も何本か折れている。命に別状はなさそうだが、外傷は酷い。

それでも、まだ意識があった。

 

 

「……ガンダムは!!」

 

 

無理矢理に、身体を起こし。錬はアトラスと、ガンダムを仰ぎ見る。

 

ガンダムは。

アトラスに胸元を、コックピットを抉られて。

 

──それでも、まだ、アトラスにしがみついている。千切れて落ちそうな下半身も、まだ足掻いている。周囲から浴びせるグラスフェザーのビームも、途絶えていない。

 

ガンダムは、パイロットを失ってなお、アトラスに抗っている。

 

それが信じられないと、錬は目を見開いて。

それから納得したようで、笑いが漏れ出る。

 

 

「──そうか。そうだ、サーヴァントだからな。俺が居らずとも、戦えるのか、はは」

 

 

切れた口元から血を流しながらも、その唇は歓喜に振れた。

 

 

「……頑張れ、ガンダムッ!! ははっ、頑張れーッ!! 」

 

「おいアンタ、血ぃ吹いてんぞ、安静にしろ」

 

「画面の前の視聴者諸君もッ、ガンダムを応援しろ!! 頑張れーッ!! ガンダァームッ!!」

 

「くそ、アンタこんな時まで仕事かよ!!」

 

 

立ち上がらんばかりの錬を、狼我は無理矢理横たえて。それからライダーを見た。早いところ、錬を陸地に上げたい。……若干精神にも異常を来しているようなので、尚更だ。

 

 

「ライダー、陸地まで!!」

 

「解ってる、飛ばすよ!!」

 

 

ボート急旋回。180度回頭し、再び万博会場へ向かう。会場に着けば救護室だってある。錬を運び込めれば重症化はしまい。

 

だが、アトラスの上、住持がそれを見咎める。

 

 

「■■■■■■■!!」

 

「逃がさん、あんたら全員、この海に沈め!!」

 

 

その声と共に、アトラスが右脚を水上まで振り上げ、振り下ろし。足踏み1つで水面が弾ける。ライダーの駆るボートも煽りを受け、水面に跳ね上げられて。

 

運が悪かった。

 

ここまでの戦いで海底が割れていたのか、あるいは元々そこにあったのか。海のそこから生えていた、岩の塊に──ボートが叩きつけられた。

船底への想定外の衝撃。ボートの底部は易易と潰れ、穴が空き、裂ける。

 

 

「なっ──船が!!」

 

 

そうなれば、浸水が始まるのは必然のこと。沈没まで、猶予はない。

 

 

「マスター、どうしよう!!」

 

 

ライダーは咄嗟に船内を見る。ベンドレ、狼我、横たわる錬。船内にいる人間は3人。ライダー自身は霊体化すれば、船の沈没などなんとでもなるのだが、生身の人間は別だ。

大阪湾の最中に投げ出されれば、溺れて死ぬ。

 

 

「ベンドレのオッサン、救命器具のライフジャケットならあったはずだ。人数分が足りるかは解らないが」

 

「あの、アトラスの前で……水上に、浮かぶのか?」

 

「それは……」

 

 

狼我は口籠る。ライフジャケットは、確かに使えない。だがそれならどうすれば?

互いに、互いの顔を見合わせ。

 

口火を切ったのは、ベンドレだった。

 

 

「……令呪をもって、ライダーに命ずる」

 

 

その右手の甲、令呪が赤く光を放ち。

 

 

「宝具を使って、海の上を走れ」

 

 

その言葉とともに、エネルギーがライダーへと移譲される。呼応するように現れる白馬。白馬は見せつけるようにタカタカとその場で足踏みし──その蹄は、水面を踏みつけている。

令呪の効能だ。海の上を、今は走れる。ライダーは確信して、即座に白馬に飛び乗った。

 

 

「わかった、やってみる、マスター!!」

 

「ローガ。……そこの怪我人を、ライダーの後ろに。で、オマエが、後ろから支えてやれ」

 

「わかった。おいアンタ、少し動かすぞ」

 

 

ベンドレの指示で狼我も動く。錬を抱き上げ、ライダーの後ろに。そして狼我自身も錬の後ろに飛び乗った。3人乗りの体勢。その姿勢が安定したのを確認して、ライダーは振り向き。

 

 

「マスターも!!」

 

 

ベンドレへ、手を伸ばす。

 

その手を、ベンドレは見て。

……しかし、何もしなかった。

 

 

「オレは……いい。そこに、4人は乗らないだろ。馬がかわいそうだ」

 

「でもマスター!!」

 

 

瞬間、ガタリ、と大きな音。ボートが大きく傾いた。浸水まで、もう間がない。

 

 

「マスター!!」

 

「オッサン!!」

 

「早く、行け」

 

 

ベンドレは動かない。

ライダーはベンドレと、狼我と、錬と。そしてまだ距離の近いアトラスを、それぞれ見やって。

 

そうして、決断した。

 

 

「……後で迎えに来る!! 待っててマスター!!」

 

 

直後、ライダーは海上へと駆け出した。

令呪はきっちりと効力を発揮しているようで、海の上をも真っ直ぐに、走り去っていくのが見える。白馬の駆ける1歩1歩で水飛沫が立つ。……加速さえした。宝具だろうか。

 

それを、ベンドレは。

沈みゆくボートから、見送っている。

 

 

「…………」

 

 

ライダーは、迎えに来ると言ったが。……彼女には悪いと思いつつ、彼は期待はしていない。間に合うことは、きっとないだろう。別にそれで構わなかった。

足元が、海水に浸る。瞬く間に、膝まで。こうなれば、じきに全て沈むだろう。

 

 

「…………嘘、か」

 

 

セイバーに言われた言葉を、ふと思い出した。

嘘をついている、と言われたが。実際のところ、ベンドレはそれに納得していた。自覚があった。

 

己の望みは、本当は、祖国を救うことなどではない。

本当は──

 

波間に揺れる視界の遠く。ライダーが走り去っていくのが、まだ微かに見える。ベンドレの肺には既に水が入って、意識は朦朧、世界が滲む。

それでも視線はまだ、ライダーを見つめていた。沈みながらも、外さない。その背中、旅立つ背中、己を置いて進む背中。

 

 

ああ、ずっと知りたかったんだ。

 

娘を送り出すとは、こういう気持ちか。

 




「マスターとのパスが……切れた」

「黄金の顔では倒せまい」

「上陸まであと何分!?」

「あらゆる生命は、皆尊厳に満ちていた」

「マスター、最後の確認だ」

「万博を、どうする?」


26話 地底の太陽・生命の樹


「やっちまえ、バーサーカー!!」



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