万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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27話 この夢の続きを

 

狼我は、団体休憩所に立ち尽くして、海を見ていた。

バーサーカー・太陽の塔が、その存在と引き換えに創り出した生命の樹。それがアトラスを穿ち、打倒し──輝きと共に消えていくのを、全て見ていた。その輝きを焼き付けたくて、目が離せなくて。……消え失せたその後でも、まだ見ていた。

 

何分経っただろうか。

セイバーが回収した住持諸共に帰投し、住持が回収されていくのを、背後から聞こえる音では聞いていた。多分、10分は経っていただろう。

 

じり、と肌に熱を感じた。右手の甲だ。

刻まれていた令呪が、滲み始めている。

……サーヴァントを失ったのだから、当然のことだった。

 

 

「狼我クン」

 

 

呼ばれる声がした。狼我が振り向けば、美琴が手招きしている。そして彼女を囲むように、ライダー、セイバー、キャンディが、ベンチに腰掛けていた。

狼我も手近なベンチに腰を下ろす。

 

 

「残念なお知らせや」

 

 

美琴は続けて、語り始める。

 

 

「聖杯についてや。……ガンダムに搭載されていた聖杯炉心やけど、アトラスとの戦いで大破し、注がれとった皆のサーヴァントの魔力は流出した」

 

「……」

 

「アトラス、及び太陽の塔の魔力も、本来それを回収する聖杯がなかったために既に消失。聖杯戦争に参加したサーヴァント、6騎分全ての魔力が失われた」

 

「……そうか」

 

 

不思議な話ではなかった。聖杯を積み込んだガンダムが、あれだけの崩壊を見せたのだから。ならば積まれた聖杯も同じこと。

 

だが──万博聖杯戦争とは、あらゆる願いを叶える聖杯を万博会場に顕現させ、その所有権を争う儀式。

勝利した最後の1騎とそのマスターは、聖杯によって願いを叶える権利を手にするが。……それは、倒れたサーヴァントの魔力が、聖杯に蓄積するという前提ありきの現象だ。

 

そしてその前提が崩れたならば。

 

 

「万博聖杯戦争は、ノーゲームや」

 

 

もう、願いは叶わない。

 

 

「堪忍な。予備の聖杯は起動したけど、間に合わへんかった」

 

 

美琴はそこまで言って、黙ってしまった。

狼我も、なんと言えば良いか分からなかった。キャンディとセイバーも、口を結んで目を伏せている。

そして、ライダーは。

 

 

「じゃあ……これで、もうおしまい?」 

 

 

その姿すらも、既に薄れ始めていた。

 

万博聖杯戦争が、終わる。勝者なしに終わる。

ライダーはマスターという楔を失い消滅する。

セイバーは勝ち残るが、その願いは叶わない。

狼我は右手の甲の令呪に目を落とす。1画のみを残したそれは、結びついたバーサーカーを喪った以上、存在を維持できはしない。

それぞれに、思いを巡らせて。

 

……そして、狼我はベンドレのことを考えた。

ベンドレ・ウェドラオゴ。ライダーのマスター。狼我らを庇って海へと沈んだ、あの同盟者のことを。

 

右手の指を、強く握った。滲んで消えそうな令呪を、掴み留める、そのように。

 

 

「……やることがある。やれることが、まだある」

 

 

呟く。顔を上げて、美琴を見る。

 

 

「なあ、アンタ」

 

 

問い掛ける。

 

 

「マスターのいないサーヴァントが1人、令呪を腐らせたマスターが1人。──契約出来ねぇか?」

 

「出来なくはないな、でも意味がない」

 

 

それを聞いても、美琴は目を伏せたまま。

サーヴァントとマスターの再契約自体は、実際不可能なことではない。だがそうまでして継戦する意味がない。

 

 

「聖杯は、もう元のようには使われへん。ジブンの願いは叶わへん」

 

「解らないだろ」

 

 

その諦念に、狼我は食って掛かる。無意識にベンチを立ち、数歩歩み出て。まだ右の拳を握っている。令呪はまだ残っている。

視線を、ライダーへ向けて。

 

 

「……少しでも聖杯に魔力があれば。人を1人救うくらいの奇跡は、起こせるかもしれねぇ」

 

「ローガくん──!!」

 

「契約するぞ、ライダー。万博聖杯戦争は、俺達が勝つ」

 

 

そこまで意思を示してしまえば。

仕方ない、と美琴は笑う。そして小声で、何というべきかを狼我へ伝え。それを、狼我はなぞり始めた。

 

 

「──告げる」

 

 

詠唱する。

 

 

「汝の身は我の下に、我が命運(いのち)は汝の剣に」

 

 

その言葉と共に。地面に青白く光が走り、円を描く。狼我とライダーの間で火花が散って、魔力のラインが結ばれる。

 

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば───

 

 

そこまで言って、狼我は小さく息を吸って。

眼前のライダーの、瞳を見据えて。

 

 

「俺に従え!! ならばこの命運(いのち)、汝が身に預けよう!!」

 

騎兵(ライダー)の名に懸け、誓いを受ける!!アタシのマスターとして、認めてあげる、ローガくん!!」

 

 

ライダーがその手を狼我へ伸ばして、狼我はその手を握り返した。互いに互いの手を取って、タシ、と軽い音。2人を囲う魔力の光は、その瞬間に輝きを増し。

 

契約成立。薄れていたサーヴァントも、滲んでいた令呪も、その存在を再確立し。

そして。ライダーとそのマスターは、セイバーとそのマスターへ、向き直る。

 

 

「待たせたな、セイバー!!」

 

「アタシ達と、勝負しよう!!」

 

 

その言葉を聞き届けて、セイバーはベンチから立ち上がった。そして、追ってキャンディも。

 

 

「はは、そうでなくては──良いだろう、受けて立とう!!」

 

 

その顔には笑みがあり、同様に戦意があった。セイバーは団体休憩所の外へと歩き出しながら、軽くその両腕を広げて、相変わらずの調子で語る。

 

 

「我もまた勝利を望むもの!! 考えてみれば、少しでも魔力があれば、我の現界の延長は叶おう。サーヴァントの身体を維持し、我が神の教えを衆生へ広める、それが我が望み!!」

 

 

そこまで言って、ふとセイバーはキャンディへ向き直り。

 

 

「……案ずるな、マスター。聖杯の魔力の半分はマスターへ譲るとも」

 

「律儀ですね。わざわざ疑いはしません、セイバー」

 

 

狼我とライダーも、同様に団体休憩所の外へ出る。開けたところまで出て、向かい合って。

 

数秒、沈黙。覚悟を決める。

 

 

「やるぞ、ライダー」

 

「うん!!」

 

 

コモンズAのセイバー、スンダラムルティ・スワミ。そしてそのマスター、サバラガムワ・ウダプッセワラ・キャンディ・ルフナ・ペレイラ。

 

コモンズDのライダー、プリンセス・イェネンガ。そしてそのマスター、基田狼我。

 

相対する。

最後まで、望みを懸けて。

 

万博聖杯戦争 2025 大阪・関西。

最後の戦いが、開幕する。

 




「この戦いの勝者が全てを得る」

「わけではない」

「だが残った奇跡の一欠片を掴み取り」

「それを活かそうと願うのならば」

「聖杯戦争の幕引きに」

「これ以上相応しい戦いもない」


最終話 バンパク 生命の輝き


「じゃあ、後は任せた!!」



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