万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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最終話 バンパク 生命の輝き

 

コモンズDのライダー、プリンセス・イェネンガ。

コモンズAのセイバー、スンダラムルティ・スワミ。

今、2騎はフューチャーライフゾーンにて相対し、それぞれ武器を構えている。

 

万博聖杯戦争に召喚されたサーヴァントは、もう彼女らしかいない。つまり、これが最終決戦だった。

 

セイバーが口火を切る。

 

 

「この戦いの勝者が全てを得る、わけではない」

 

 

構えた剣は切っ先までブレがなく、面持ちは神妙なれども自然体。立ち姿には乱れなく、その振舞いのまま、言葉を連ねる。

 

 

「だが残った奇跡の一欠片を掴み取り、それを活かそうと願うのならば──聖杯戦争の幕引きに、これ以上相応しい戦いもない」

 

 

それだけ言って、口を閉ざした。

互いに、互いを見据えて。それぞれに様子を伺い、瞬きの瞬間すら同時。

 

──誰が立てたか、カラ、と小石が転がる音。

 

 

「オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

鉄の槍(キブガ)!!」

 

 

次の瞬間。

 

ライダーが投擲した鉄の槍を、セイバーは光の剣で弾き落としていた。

即座に鉄の槍を呼び戻し、持ち直して。ライダーはセイバーへ駆け込み、その槍を突き出す。セイバーはそれを剣先で往なし、左の拳をライダーへ。ライダーは上体を反らして拳を躱し、勢いそのままセイバーを蹴る。

一連の攻防、その後また互いに距離を取り。

 

どちらともなく、真横へ走り始める。

真横──即ち、万博会場の内部へだ。

 

 

「っ、追っかけるぞ!!」

 

 

狼我、キャンディ、美琴もまた、それを追いかけ走り出す。

 

ライダー、セイバー。2騎の攻防は、移動しながらのものとなった。ライダーは白馬を呼び出してそれに跨り、セイバーは風を起こしてそれに乗る。

 

彼らは大屋根リングを潜り。

 

静けさの森を一足飛びに飛び越え。

 

アメリカ館前でまた得物を交え。

 

東ゲート前まで転げ出て。

 

方向を切り替えて、ポルトガル館前までもつれ込み。

 

ついにはいのちパークまで。

 

これまで戦ってきた、万博会場の方々で。2騎の影は跋扈する。

 

 

 

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「流石だ」

 

「当然!!」

 

 

剣と槍の衝突音。

打ち合って、また距離を取る。

 

戦況は拮抗していた。

今回の万博聖杯戦争に関して言えば、セイバーの方がシヴァ神の力を引き出せる分地力が高い。が、先のアトラス戦でもシヴァ神の力をフルに活用していたセイバーは、それによる疲弊を抱えている。ちょうどそれによって、2騎の間には戦力差がない。

ならば、少しでも回復の時間を稼ぐべきだ。セイバーは判断し、高らかに唱える。

 

 

「我が辿りし巡礼の旅路をここに!! オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

 

それと共に。ライダーの跨る白馬の立ち位置を中心にして、眩い光が漲った。

ライダーは咄嗟に飛び退いて──だが、その場から、動いていない。

 

 

「……まさか、これって!!」

 

 

ライダーは悟る。彼女の足下のそれは、対アーチャー戦の際にも展開された、セイバーの歩んできた道のり、無限の旅路。ただし今度は、外へと伸ばすものではなく──ライダーへ向けて、内向きに無限が広がっている。

セイバーとライダーはごく近い距離、いのちパークの両端にも満たない短距離の立ち位置にありながら。しかしその間に、無限の隙間が発生する。そしてそれは、他の全方位にしても同様。どれだけ動いても、無限を前にしては、動いていないのと同義。

ライダーの動きが、封じられた。

 

 

「っ、向こう側に、届かない!!」

 

 

ライダーは歯噛みし──その背後に、誰かが駆け寄ってくる足音を聞く。

振り向く。

 

狼我が、そこにいる。

 

 

「ローガくん!!」

 

「ライダー!!」

 

 

狼我はライダーへ追いついて、足下を見て、即座に状況を直感した。衝動的に、声を上げる。右手の甲の令呪が光る。赤くエネルギーに火が点いて、溢れ出し。

 

 

「令呪を以て命ずる!!」

 

 

令呪から流出したエネルギーが、ライダー目掛けて飛んでいく。ライダーと、そして彼女の馬へ目掛けて。強く、速く、迷いなく。

 

命令する。

 

 

「無限を走破しろ、ライダー!!」

 

「────任せて!!」

 

 

その一声で。

白馬(ウェドラオゴ)は走り出す。

 

 

「走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ!!」

 

 

加速する。加速すれども、無限の距離に囲われている以上、その立ち位置は変わらない。だがそれでも、なお加速。その場で走りながらにして、残像がオーバーラップする。

セイバーが反射的に片目を細めた。無限の道を展開しているセイバーも、当然魔力を消費している。無限を維持すれど、内心は苦しく。

 

2騎共に、予感する。

 

この一撃が。すべてを決める。

 

 

「アタシは、アタシ達は!! きっと、どこまででも、走っていける!!」

 

 

加速、加速。加速。

無限の道を駆け続ける、ライダーの姿は既に残像に埋もれて見えなくなって。それでも更に加速する。ついにはまるで投げ放たれた槍のように、一直線の光と化して。

そして。

 

 

「『種馬疾走恋路(ウェドラオゴ)』!!」

 

 

瞬間。

 

拮抗が破れた。

 

一瞬のことだった。その刹那に、光の槍は無限の道を踏破し。その向こう、セイバーの身体すらも貫いて、静止する。

 

 

「…………見事。我の負けか」

 

「うん。…………アタシたちの勝ち」

 

 

セイバーの霊核は、この穿通で砕けていた。

 

致命傷を負ってなお、まだセイバーの自然体は崩れなかった。少しずつ崩壊していく肩を、なんでもないように回して。それからキャンディを見つけて、声を掛ける。

 

 

「すまないな、マスター。貴殿には苦労をかけた」

 

「別に構いません。私は仕事をしただけなので。ここまでの経費は、いずれ国に支払ってもらいますから、お気になさらず。……お疲れ様でした、セイバー」

 

「……敵わないな、マスターには」

 

 

セイバー、消滅。

 

残されたライダーは白馬を降りて、少しその場で息を整えて。それから狼我の方へ小走りに駆け寄って、右手を挙げた。

 

 

「ハイタッチ!!」

 

「おう」

 

 

軽い音。いい音がしたものだから、少し笑えた。

笑い顔のまま、狼我は何気なく脚元へ目をやり。

 

そこで、気がつく。

 

ライダーのその身体は、脚先から崩壊を始めていた。末端から粒子化し、急速に存在が崩れていく。

ライダー自身、狼我の態度で初めてそれに気づいたようで、己の脚を確認した。

 

 

「…………ライダー」

 

「んー、まあ無理したからね、アタシも。保たなかったか」

 

 

そう、にへらと笑ってみせる。

 

『無限』を『走破』するという矛盾。令呪のブーストだけでは、それを成すには足りなかった。ライダーは己の全てを注ぎ込んで、ようやくそれを成したのだ。

霊核は、既に摩耗の末に圧壊している。

 

 

「……悪い、ライダー」

 

「別に謝らなくてもいーよ。アタシも、こうなるかもとは思ってたし」

 

 

それに、と、続けて。

 

 

「願い、同じでしょ?」

 

「……そうだな」

 

 

ライダーは数歩、歩こうとして。……それを止めて、いのちパークの地面に座り込んだ。きっと、歩くことすらままならないのだろう。彼女の崩壊は既に、全身に及んでいる。全身が滲んで、崩れ始めて。

狼我も、ライダーのすぐ横に、腰を下ろす。

 

 

「あーあ──楽しかったね、ローガくん。色んなものを見て、美味しいものを食べた。アタシ、ここに来れて良かった」

 

「ああ。……楽しかったな」

 

「また呼んでくれる?」

 

「機会があればな」

 

 

不意に、眩しい、と感じた。

それは当然のことで、東の方を向いてみれば、丁度朝日が昇ってきていた。

 

夜の万博は終わる。万博聖杯戦争は終わる。

そしてまた、昼の万博がやって来る。

 

また、ライダーの方を見た。差し込んでくる太陽光線すら、ライダーの身体には障るようで、既に彼女の身体はすっかり透けている。

それでも、満足げだった。

万博聖杯戦争は、彼女にとって、良いものだった。

 

ライダーの姿が、陽光に融ける。

 

 

「じゃあ、後は任せた!!」

 

「ああ。…………任された」

 

 

 

───

 

 

 

数日後。

 

大阪・関西万博、国連館前。

 

 

『狼我クン、列が乱れとる。直しい』

 

「はい皆さーん!! 1列に!! 乱さず並んでくださーい!!」

 

 

狼我は国連館の前にいた。ただ立っているのではない。国連館の制服に袖を通し、両手を伸ばして来場者の列を仕切っている。耳に着けたインカムからは、口煩く美琴の声。

 

 

『列並ばせるのもプロの技なんや。やっぱり狼我クンには早かったか?』

 

 

本当に口煩い。顔をしかめる。

 

 

『やっぱり乗るべきやなかったな、ジブンの提案には』

 

「うるさいな。くれてやっただろ、聖杯の使用権」

 

『ジブンがつこうた後の搾りカスをな? あれで許したったウチも優しいわ。……また列が乱れとる』

 

「はい皆さーん!!」

 

 

万博聖杯戦争が決着してから、狼我の処遇については一悶着あった。彼は元は不法侵入してきた不審者であるわけで、その処分を延期させていた万博聖杯戦争が終わった以上、改めて対応を整理する必要があったのだ。

 

が、結果として、彼はお咎めなしということになった。ついでに、狼我たっての希望で、特例で国連館の臨時スタッフの地位まで得ている。

それというのも、万博聖杯戦争の最中、そして神霊アトラスによる万博会場侵攻において、パビリオンの保護及びマスターらの保護に尽力し、結果として犠牲者ゼロに抑えた、その実績を評価されてのことだ。

 

──そう。犠牲者ゼロで収めた実績を、だ。

 

 

『と、休憩時間や狼我クン。そろそろ時間やろ』

 

「……そうだな」

 

『ウチは外せへんし──ちょっと気まずいから、代わりによろしゅう言うとって』

 

「しゃーねえな」

 

 

それだけ返して、持ち場を離れる。

 

 

 

十数分後。

 

大阪・関西万博、東ゲート。そのすぐ横にある、スタッフ用通用口。狼我はそこに立っていた。

すぐ横にはキャンディもいた。ここで集合する話だったからだ。……特に会話はなく、ただ立って。ただ、待っている。

 

待ち人は、すぐにやってきた。

 

 

「……待たせた、な」

 

 

ベンドレ・ウェドラオゴが。2人の前に現れた。

3人は少しの間、顔を突き合わせて黙り込んで。

 

 

「……少し歩きますか?」

 

「そうしよう」

 

 

 

無目的に歩くというのであれば、やはり大屋根リングが良い。3人は上手く会話を切り出せないまま、大屋根リング上へ昇るエスカレーターへ。

 

数日前。不完全なものとはいえ、聖杯を勝ち取った狼我は、聖杯へベンドレ・ウェドラオゴの回収を願った。海へ沈んだベンドレを、聖杯のリソースで強制的に海面まで引き上げさせたのだ。

──ただし、そこから先の回復については、ベンドレ自身の生命力によるものだった。彼もそれなりに生きる気力があったのだろう、とは救急医の談。

 

狼我は聖杯で助けたことについては、気を遣わせたくないと、ベンドレには伏せるように頼んでいた。実際美琴も伝えていない。が、ベンドレ自身は凡そ事情を察している。狼我の気遣いについても同様に。だから気まずい、とも言える。

ベンドレは、どう話を切り出したものかと、しばらく思案して。それから、

 

 

「まだ、働いているのか。……国連で」

 

「まあな。もうしばらく、万博にいるよ。……これからのことを、ここで考えたい」

 

 

狼我はそう返す。ベンドレがどう思っているかは別として、国連自体は真っ当な組織だと、狼我は思っている。万博聖杯戦争で敵対したのだって、国連館なりの理屈があったとは理解している。

だからまあ、しばらくは。国連の視点を学びたいと、狼我は考えていた。その先についても、いずれ決まろう。

 

また、会話が止まってしまった。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

エスカレーターを降りて右折し、大屋根リングの上の段へ歩く。歩いて、歩いて、一番高いところまで。そうしながら、ぽつりと。

 

 

「これは、今回の万博聖杯戦争についての、私の……思い付きのような仮説です。本気にはしないでほしいのですが」

 

 

キャンディが、そんなことを切り出した。続けて語る。

 

 

「魔術世界には、『抑止力』という考え方があります」

 

「抑止力?」

 

「諸々の難しい説明は省きます。この世界を守ろうとする世界の意思、それが抑止力。その程度の理解で構いません」

 

 

そんなことを言いながら、更にリングの上の方へ。行き交う来場者の間を抜ければ、海風が頬を撫ぜた。

 

 

「抑止力は、世界を守るために様々な方法で世界へ干渉してきた、とされています。自らの尖兵を世界へ送り込んだり、危険な領域を丸ごと消滅させたり、といった方法を取ることもありますが──」

 

 

そこまで言って、キャンディは脚を止める。丁度、リングの最上部の辺りだった。左手には海が広がっていて、ボートが何隻か浮かんでいる。それを一瞥してから、彼女は狼我へ向き直って、そうして。

 

 

「──最も多いとされる干渉のパターンは、その場にいた人間を後押しして、無自覚に世界を救わせることです」

 

 

そんなことを言う。

 

狼我は何と返すべきか逡巡して。

 

 

「……俺と、バーサーカーが、そうだったってことか?」

 

「本気にしないでと言ったでしょう。別に抑止力なんて持ち出さなくても、今回の聖杯戦争で起こった出来事は、全て魔術的に説明がつきます」

 

 

狼我の返答に、キャンディはそう肩を竦めた。自分で言っておいて、と、狼我は目を細めるが。

 

 

「……それでも貴方を見ていると、そんな気がする。それだけの話なんです」

 

 

そう言われれば、大して悪い気もしない。

後ろで会話を聞いていた、ベンドレが口を差し挟む。

 

 

「なら──そうだとして、何故、この万博に?」

 

「そんなもの、答えは1つでしょう」

 

 

キャンディは、2人から視線を外し、海とは反対側へ目を向ける。狼我も、ベンドレも、それに続けば。

広がっているものは、万博だ。

大阪・関西万博の、その会場。多くの人々が、行き交う世界。この世界のどこにも属さない、万博という場所。

 

 

「この万博を起点にして、世界が変わっていくからですよ」

 

 

また海風が頬を撫ぜた。

数秒、黙して。あの万博聖杯戦争のことを思い出す。いつか、この記憶も薄れるだろうが。それでもあの日々に意味があったと、確信している。

 

 

「……推論に推論を重ねすぎましたね。ポエムを読むのはセイバーの仕事です」

 

 

キャンディはそう話を切り上げて、踵を返す。元来た坂道を数歩降りて、それから狼我とベンドレへ。

 

 

「休憩にしては長くなりましたね。私はコモンズAに帰りますが、貴方達は?」

 

「オレも帰ろう。客が増える時間帯だ」

 

 

歩き去る2人の背を見て、狼我もまた歩き始めた。

もうここにはバーサーカーはおらず、全てのサーヴァントはおらず、万博聖杯戦争はとうに終わった。だが今、狼我は寂しいとは思っていない。

 

きっと、万博が終わったって、寂しくはない。

何故なら狼我は。

 

 

この世界を、いつか万博にするからだ。

 




万博聖杯戦争 閉幕



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