万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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真名判明

アメリカ館のアーチャー
真名
ニール・アームストロング

アメリカ合衆国の宇宙飛行士。
人類史上初めて月に着陸した有人宇宙船、アポロ11号の船長。1970年の万博聖杯戦争の優勝者でもある。



4話 コモンズDのライダー

 

万博聖杯戦争は、来場者が全て履け、一般スタッフが全員去った、その報告の放送より開始されるルールである。

もし、参加者がどこだかのパビリオンで働いていたとすれば──余程急げば別だろうが──基本的には、そのパビリオンで聖杯戦争の開始を迎えることになる。

 

つまり、こういうことが起こる。

 

 

『事務局より連絡。全来場客の退去、及び一般スタッフの退去が完了しました。本日の夜明け予定は4時45分、聖杯戦争を開始してください』

 

「……また……会ったな、モトダ ローガ」

 

「さっきぶりだな、オッサン」

 

 

万博聖杯戦争 3日目 夜

 

 

コモンズDを出た狼我は、もう1つの出口──日中は入り口として使われている方だ──から出てきた、ライダーのマスターと目が合った。一歩遅れて、ライダーも。

ベンドレ・ウェドラオゴ。ライダーのマスターの名前である。知っているのは、日中に会話をしたからだ。

 

 

「バーサーカー」

 

「ここにいる」

 

 

そうだとしても、敵は敵。狼我は囁き、霊体化を解いたバーサーカーがその真横で身構える。

ライダーは強い。……どのくらい強いか、まだ狼我は尺度を持っていないのだが、とりあえず一筋縄ではいかないに決まっている。

 

そんな狼我に向けて、ベンドレは。

 

 

「待て……ローガ。しよう……話を、しよう」

 

「何の話を」

 

「オマエの……望みの話を」

 

 

───

──

 

 

『俺は、万博を壊したい』

 

 

先の会話を思い返す。あの喫煙室での会話だ。

狼我は確かに、本心からそう言ったはずだ。その願いに対する返答は、真っ当な疑問。

 

 

『何故、万博を破壊する?』

 

『わからない。でも、そうしたいと思っている』

 

『……破壊衝動か? それとも使命感?』

 

『どちらも違う……よくわからない』

 

 

そうとしか、その疑問には答えられなかった。

狼我自身、深くは考えられない。万博のことを考えると、短絡的に嫌悪に直結してしまって、頭がそれで埋まってしまって、何故そうなのか、自分でも理解が及ばない。

 

ただ、嫌っている。

この上なく、嫌っている。

 

 

『わからないけど、壊したい、全部』

 

 

その衝動はきっと、万博が始まる前から。

開催されると決まった瞬間の、その前から。

きっと、何故か、あったはずだ。

 

 

『俺は聖杯戦争に勝って、万博を壊す』

 

 

そういう会話を、したはずだ。

 

 

──

───

 

 

「オレも……考えていた……オマエについて」

 

 

ベンドレはその場から動かず、身構えもせず、ただ狼我を見つめている。

ライダーは昨晩通りの服装に戻っていて、ベンドレの後ろに立っている。槍は持っている、が、動く気配はない。

 

 

「万博を壊す……それは、本当の願いじゃ……ないんじゃないか?」

 

「でも壊したい」

 

「それは……壊したいものは……本当に『万博』なのか?」

 

 

責めるような口調ではなかった。問い掛け、と言うにも弱い。ぽつり、ぽつりと、呟くように。

 

 

「『万博』が、本当に……憎いのか?」

 

「何が言いたい」

 

「それは…………」

 

「アタシ達、手を組めるんじゃないかってコト!!」

 

 

痺れを切らしたのだろう、ライダーの方が前に出る。

夜中の万博会場は静まりかえっていて、溌剌とした彼女の声は、抑えめな声量であって尚響いた。

 

 

「それはどういう、

 

「アタシ達には夢がある」

 

 

もう一歩前に出る。そして、語る。

 

 

「それは、アタシ達の祖国を豊かにすること」

 

 

祖国ときた。ならばつまり。

 

 

「……ブルキナファソか?」

 

 

問えば、彼女は頷いた。

ベンドレはブルキナファソから来ていたし、彼女もブルキナファソのブースで働いていたのだから、その答えは自明だった。

ライダーは続ける。

 

 

「そう!! でもそのためには、沢山の障害がある。発展するための環境は整ってない、社会はまだ安定してない、何より世界の権利構造がアタシ達には優しくない!! ──だから壊すんだよ、聖杯の力で」

 

 

そこまで彼女は一息で言った。右手の拳を自然に握り締めて、きりりと震えているのが見えた。強い意志が、きっとそこにはある。

そして彼女は、握り込んだその拳を、ゆっくりと広げて。

 

 

「そうでしょ、マスター?」

 

「…………そうだ。そう……オレ達は……壊すためにここにいる。ブルキナファソの……壁を」

 

「なら、アナタと同じじゃない?」

 

 

広げて、狼我へ。差し伸ばす。

 

 

「もしも……オマエの本当の望みが、今の世界への……反感なら」

 

 

背後から、ベンドレが付け加える。

未だ言語化十分に出来ていない、狼我の望みが。本当の目的が。『破壊』の外にあるのなら。

 

 

「目的は同じと……言えなくもない……はずだ」

 

 

そう、言われても。

 

狼我は迷う。頷くべきか、どうなのか。

なにしろ彼自身、彼の望みを理解しきれていない。本当の目的、なんて言われても。

 

 

「難しく考えなくていい、マスター。要は同盟の誘い、ということだ」

 

「バーサーカー」

 

 

ぬう、と狼我の後ろから、バーサーカーが首を伸ばす。

……そう考えてしまって、良いのであれば。それなら確かにシンプルなのだが。そうだとしても。

 

 

「どうするマスター?」

 

「バーサーカーはどう思う」

 

「君に従う」

 

 

さて、どうするべきか。

 

望みの話は、一旦棚上げにする。単純に、ライダーと手を組むかどうか、それだけを考える。

……アーチャーの姿が、脳裏を過る。

聖杯戦争は、7体のサーヴァントによる戦いだ。しかしそうは言っても、各サーヴァントは単独で動くはず。同盟を組み、2対1で戦えるなら、バーサーカーだけで戦うよりも強いはず。そのはずだ。

 

……しかし。

ライダーを信用して、良いのかどうか。

 

 

「証拠が欲しい」

 

 

そんな単語が、口をついて出た。

本当にそれを求めているのかも、彼にはわからない。何をもって証拠とするのかも決められない。ただ直感で、そんな言葉を言っていた。

 

直後。

 

 

「イェネンガ」

 

 

単語が、返される。

ライダーの口からその一語。──それは名前。

 

 

「アタシの真名は、イェネンガ。プリンセス・イェネンガ」

 

 

真っ直ぐに、狼我を見つめている。

ぱっちりとした双眸が、その視線が、狼我を見つめている。

返せる返事は。

 

 

「……悪い、名乗られても、知らない」

 

「スマホあるでしょ!! 調べなよぉ!!」

 

───

 

コモンズDの中に戻って。

狼我はスマホを操作している。バーサーカーもライダーもベンドレも、それを背中越しに見つめている。

調べる対象は、プリンセス・イェネンガ。

 

 

「あった。在ブルキナファソ日本国大使館のサイト」

 

 

サイトを通読する。

 

プリンセス・イェネンガ。

ブルキナファソ建国伝説に語られる建国者、あるいは建国者の母である。

伝説に曰く。イェネンガは、現在で言うガーナ北部に存在したガンバガ王国の姫であった。美しい容姿を持ちながらも、騎馬隊を率いる優秀な戦士として活躍していた。

成長したイェネンガは、結婚し家庭を持つことを望んだ。だが国防の要となっていた彼女を手放すことをガンバガ王は拒否する。イェネンガは不満を抱えながらも、家から逃れることが出来なかった。

しかし、ある戦いの最中。イェネンガを乗せた彼女の愛馬が、突然戦闘を放棄し、彼女を乗せて疾走し始める。馬は超長距離を走り抜けた末、1人の男の小屋に辿り着く。イェネンガはそこで男と家庭を持ち、そこが王国となり、それが現在のブルキナファソへと繋がった──

 

 

「……合ってるか?」

 

「こんな風に話されてるんだ……大体合ってるけど」

 

 

どうやら合っているらしい。本人が頷いているのだからそうなのだろう。

まだスマホの画面に視線を落としながら、ベンドレがぼそりと呟く。

 

 

「……ライダー……オマエは、読めるのか、日本語……」

 

「オッサンは読めないのか」

 

「無理だ、ことばの読みまでは……日本語を、話すのも……やっとなんだ」

 

 

言われてみれば、普通のことか。

遠く離れたアフリカの国だ、日本語なんて触れる機会がまずないはず。筆記の習得まで、そう追いつけるものではないだろう。

……だがライダーは出来ているらしい。

 

 

「なんか、召喚されたら日本語話せるし読めるし、何となく今の時代のことも解るの。なんでかな」

 

「聖杯の影響だ」

 

 

その疑問に、バーサーカーが口を差し挟む。

 

 

「召喚されたサーヴァントは、聖杯によって必要な知識を与えられる」

 

「便利だな、聖杯」

 

 

よく出来ている。何でも願いが叶う聖杯だから、そういうことも出来るのだろうか。

……いや、よく考えたら聖杯ってモノも中々信じがたいというか、当然のようにそれがあるものと語られたから信じてしまっているが、やはり不思議だとか。狼我が黙して考えていると。

 

 

「……っていうか、バーサーカーの真名は何なの? そもそも人間?」

 

 

まじまじとバーサーカーの顔を見つめながら、ライダーが目を細める。

 

……人間ではないな。

 

 

「コイツは太陽の塔。大阪にある……なんて言えばいいんだ、あー、芸術? みたいな?」

 

「「ゴメン……全然知らない……」」

 

 

そんなやり取りを、コモンズDの片隅でしている4人だったが。

 

不意に、キン、と。

 

何やら金属を打ち合わせる音が、聞こえてきた。

続けて、また、キン、と。そう遠くはないどこかから。

 

 

「……外で誰ががやり合ってるね」

 

 

ライダーが呟く。どうやらそうらしい。

 

 

「……覗いてみる?」

 

───

 

「やってるねえ」

 

 

コモンズDを出て少しの、団体休憩所の影に身を潜めて。

狼我とベンドレ、バーサーカーとライダーは、音の方向を伺っていた。音源はいくつかのパビリオンが集まるゾーンの中央、いのちパークと呼ばれる広場。揃ってそこを覗き込む。

 

彼らの視界の先では、人影がいくつか。広場中央にいるのは、黒い人影、そして白い人影。黒い人影はその周辺に幾つかのぼんやりとした影を従え、静かに動きを伺っている。

狼我は、もうその立ち姿を知っている。

 

 

「サーヴァントが2体いる。片方はアサシンだ。見たことがある」

 

 

黒いアサシン。聖杯戦争に巻き込まれたあの晩に、ランサーと戦っていたアサシンだ。

 

 

「なら、もう片方……白い方は……なんだ?」

 

「武器を持ってる。セイバーかも」

 

 

かもしれない。確信はまだできない。

息を呑み、耳を傾ける。

 

 

「戦うしかないのだろうか、我々は?」

 

 

そんな問いかけが、されているところだった。

問いかけているのは白い方。アサシンに向けて声を投げ掛ける。

 

 

「問答無用」

 

 

だが、切り捨てられる。

彼と、その周囲の人影達は、その回答と共に散開し、白い人影を包囲。直後。

幾つかの人影が、同時に白い方へと飛び掛かる。

 

 

「お命頂戴する」

 

「然らば我とて容赦なく。オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

 

白い方はその掛け声と共に、握っていた武器を構え直し。

直後、その武器が光を帯びる。白く眩く輝く剣。その一振りで、飛び掛かった人影を、ばさりと纏めて斬り伏せた。

 

 

「やっぱり剣だ。セイバーだよアレ」

 

「らしいな。……光の剣か?」

 

 

狼我らは、声を潜めて考察する。

視線の先では白い人影──セイバーが剣を振り、その光の軌跡が、周囲を細く照らしていた。剣閃の合間に、セイバーの姿が浮かび上がる。白い衣装、花輪のような首飾り、浅い褐色の肌。とはいえ垣間見える程度、全身はまだ見えない。

 

 

「怯まぬか」

 

「無論。我が神の恩寵あればこそ、刃なぞ恐るるに足らず。オム・ナマ・シヴァヤ!!」

 

 

再び、掛け声。セイバーの声に呼応するように、一瞬光が空中で弾け。直後、何やら2つの長細い塊が上空に現れ、勢いよくアサシンへと襲いかかった。

咄嗟に槍で防衛し、セイバーから距離を取るアサシン。塊はまるで生きているかのように蠢き、アサシンへと追いすがる。

 

 

「今のは何だ? 何か、ゴツゴツしたものを召喚したようだ」

 

「出てきたとき、セイバーがなんか呪文言ってなかったか?」

 

「……そう……だったか……?」

 

「なんだっけ、言ってたとは思うけど、なんだっけ」

 

 

遠巻きで見ている狼我らの視線の先で。

 

セイバーが直接、アサシンに斬りかかる。呼び出した2つの物体と共に、連撃を試みる。

しかし対するアサシンも、手際よい槍捌きで迫りくる塊を跳ね除ける。弾き、また弾き、一撃たりとも寄せ付けない。技巧の面では、アサシンが上回っているということだろうか。

光の剣の閃きの間に、アサシンの姿が浮かび上がる。──和服めいた装束を垣間見る。足袋を履いている。

あれは、日本のサーヴァントか?

まだ判らない。確信が持てない。

 

 

「っていうかさ、あの2つって、トカゲ、いや、ワニじゃない?」

 

「ワニ? なんでだ」

 

 

また剣閃が光る。合間に映る姿はコブが整列しているようで、言われてみれば確かにワニのような気もする。狼我には遠すぎて、やはり判別は出来ないが。

 

 

「あり得なくはない。ワニを従えた逸話か、あるいはワニに関連する逸話があれば、英霊として行使できる可能性がある」

 

 

バーサーカーが補足する。結びつきがあれば使える、そういうものか、サーヴァントは。

 

 

「でもよく見えない、もっと近づかないと」

 

 

狼我はぐるりと周囲を見回す。身を隠すのに丁度よい物体がないか。

……あった。もう少し広場に近いところに、何台かキッチンカーが並んでいる。あそこならもう少し、様子が見えるかもしれない。

 

互いに目配せをし、団体休憩所の陰から飛び出る。

距離はそこまで遠くない。まずは狼我を筆頭に、勢いをつけて陰から陰へ。

1歩。1歩。1歩。

 

なんか踏んだ。

 

 

「うわっ」

 

 

狼我は芝生の上に転倒!! 大声が出そうなのを噛み殺す。

何だ、今俺は何を踏んだ、ぐにりとした感覚のある柔らかいものだった、まるで──人間の太ももか何かのような。

 

振り向けば、そこには。

 

 

「貴方っ、誰、いつの間に!?」

 

 

誰か、知らない人間がいる。

 

オレンジに近い褐色の肌、軽くウェーブしたロングの黒髪。それから成人女性であることは違いない。

地に着いた右手の甲に、赤いラインが刻まれている。

ここに、人間がいるということは。

 

 

「まさか、オマエ、マスターか」

 

 

後から追いついてきたベンドレが、そんなことを言う。既に状況を理解しているらしい。

 

 

「まっずい……!!」

 

 

直後。

女性はその場を転げてて、広場の方へと走り去る。狼我がそれを追おうと立ち上がった時点で──既に、彼女の姿はなく。

そして同時に、広場で戦っていたはずのセイバーとアサシンも消えている。

 

 

「……逃げたか」

 

「セイバーもアサシンもいなくなった」

 

「どっちかがあの人を守りに行ったんじゃない?」

 

 

打って変わって静まり返った道に立ち尽くして、誰もいない広場を見つめる。

 

今何が起きたのか、全て理解するには情報が足りない。セイバーが誰か。アサシンが誰か。今の女性は誰か。

狼我は何をしたいのかすらも。

 

 

「一瞬だが、右手の甲に令呪が見えた。彼女はどうやらマスターだったらしい。恐らくはセイバーか、アサシンか、そのどちらかの」

 

「バーサーカー、令呪って何だ?」

 

「契約しているサーヴァントに対して、3回まで強制的に命令を下すことができる印だ。サーヴァントを強化したり、サーヴァントの動きを止めることに使う。……そうか、知らなかったか」

 

「確かになんかあるとは思ってたが、そういうことか、これ」

 

「マスター。後で改めて勉強しよう」

 

 

狼我はまだ、判らないことだらけだ。

 





「誰がどのサーヴァントを召喚したか、調べてほしい」

「どうしてあんたが知らないんだよ」

「恐らくは……セイバーのマスターだ」

「なんか探し物でもあるのかい?」

「俺が潜入する」

「どうする? この勝負、降りてもええに?」


5話 関西弁の嘲弄


「バーサーカー、僕にくれやんか」



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