万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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7話 マスター・基田狼我

 

万博聖杯戦争 5日目 昼

 

 

朝から、雨が降っていた。そこまで激しくはない、ぱらぱらとした雨。しかしどこから流されてきたのか、空は分厚い雲が覆う。すぐに止む雨とは思われなかった。

今もこうして、空間を覆う白いテントの天幕に、雨粒が当たる音が響いている。

 

ここは大阪・関西万博、関西パビリオン。

 

関西パビリオン。大阪・関西万博において、ホストである大阪以外の関西圏──即ち、奈良、兵庫、鳥取、徳島、和歌山、三重、滋賀、福井、京都。9つの県によるパビリオンである。

各県はそれぞれにブースを出店し、各県の魅力を発信する。例えば福井であれば恐竜化石に着目し、京都であれば和食を紹介する、といった形で。

 

そんな中を、狼我はのそのそと歩いていた。

一応警備員という名目だ。しかし来場者の合間を縫って、展示なんかを覗きながら、うろうろと歩く。

 

そうすることにも、目的があった。

狼我が足を止める。そこは関西パビリオン三重県ブースの出口横。

出口脇に立っているスタッフへ向けて。

 

 

「よお」

 

 

その目線の先には。

昨日話したばかりの、あの男。

即ち、アサシンのマスター。

 

 

「……へえ、君か」

 

「こっちから会いに来てやったぜ」

 

───

──

 

「証拠は揃った、行き先は決まってる」

 

 

少し前の話だ。

普段より短い仮眠から目を覚まして、狼我は3杯目のコーヒーに手を付けながら、飲みっぷりを眺める美琴にそう言った。

 

 

「お、また誰ぞの情報掴んだな? やるやん」

 

「アサシンのマスターだ。関西パビリオンにいる。行かせてくれ」

 

「かまへんで」

 

 

程なくして、美琴は関西パビリオンでの勤務許可を取り付ける。ついで、と関西パビリオンのスタッフ名簿まで用意したようで、ファイルを狼我に差し出した。

狼我は受け取る。その顔を、美琴は覗いて。

 

 

「……大丈夫か?」

 

「何がだ」

 

「その、ジブン、顔恐ろしいで」

 

 

そうかもしれない。

 

 

「悪くなるだろ、少しは」

 

 

昨晩の交戦を思い返す。あれは真っ直ぐに狼我らを狙った襲撃だった。恐らく昼間の時点から、アサシンのマスターは狼我の情報を握っていて、一連の行動はアサシン陣営の計画のうちだった。

手のひらの上だ。腹が立つ。だから動く。

 

 

「話を聞きに行く。それでいいんだろ」

 

「そらそうなんやけど……」

 

 

名簿を通読して、閉じる。顔写真はなかったが、推測は立った。

会いに行く。会って、話して、内容によっては、きっと──

 

 

「なあ、あまり早まらんでもええからな? 時間制限があるわけやあれへん」

 

「……どういう意味だ」

 

「……急いて相手のサーヴァント倒す必要はあれへんってことや」

 

「それを決めるのは、俺だ」

 

──

───

 

 

目の前に、それがいる。

アサシン陣営のマスター。何を思ったか狼我を脅した、日本のマスター。

彼は、狼我をじいと見て。

 

思いついたように、どこかから棒を取り出して、差し伸べた。

 

 

「羊羹食べる?」

 

 

彼の左腕に、何やら籠が提げられていることに、狼我はようやく気がついた。籠の中には大量の棒、否、ビニールのチューブ。中身は──羊羹だ。

狼我は無言で、それを受け取る。

 

 

「おっと、食べるならパビリオンの外でな」

 

 

対面する彼はそう言いながら、裏口を顎で指し示した。

 

───

 

関西パビリオン、裏口を抜けた先。まだ、ぱらぱらと雨が降っていた。

パビリオンの軒下に、2人は立っている。

 

 

「……美味いな」

 

「当然。井村屋の羊羹やでね」

 

 

チューブ入りの羊羹を吸いながら、狼我は軽く唸った。至って普通の、いつもの味の羊羹だが、それが美味い。

そも、『普通』とは日常が形作るもの。日常的に不味いものを食べはしないのだから、『普通』とは即ち美味なのだ。

 

 

「井村屋はあずきバーの会社ね」

 

「……そうなのか」

 

 

きっと、横にこいつがいなければ、もっと美味しかったろうに。

狼我は最後の一欠けまで羊羹を吸い上げて、ビニールゴミをポケットに押し込んだ。

 

 

「ごちそうさま」

 

 

そう言いながらも、周囲に視線を一瞬飛ばす。

……人の気配はない。

 

 

「バーサーカー、いいか」

 

「アサシン、もうええに」

 

 

呟いたのは同時だった。

霊体化が解除される。狼我の後ろにはバーサーカーが現れ、そして真向かいにはアサシンが現れた。

 

 

「じゃあ、答え合わせや」

 

 

軽く両手を広げて、男は問い掛ける。

 

 

「答えが見つかったで、ここに来たんやろう?」

 

「……そうだな」

 

 

答え。……ここにいるのが何者か。

アサシンが何者か。そしてこの男が何者か。

それを、既に狼我は突き止めた。

 

 

「アサシンの真名は──服部半蔵正成。徳川家康に仕えた武将にして、伊賀忍軍の棟梁」

 

「ほう?」

 

「それからお前はそのマスター。関西パビリオンスタッフにして三重県から派遣された魔術師、佐藤住持(さとうじゅうじ)

 

 

そうだろう、と、回答する。

目の前の男は、わざとらしく口笛を吹いて、にやりと笑う。脇に控えたアサシンは、微動だにせず。

 

 

「正解や」

 

 

そして男は、その右手を覆っていた手袋を脱いで。

そこには狼我と同じように、赤色の痣。手裏剣型の令呪がある。既に、それを構成する3画のうちの2画は、力を失くしたように黒ずんでいた。

 

彼こそはアサシンのマスター、関西パビリオンのマスター。佐藤住持。

 

 

「よう判ったな?」

 

「アサシンが忍者だと判れば、そこから先は簡単だった。槍使いの忍者として伝わっている服部半蔵は、三重県伊賀市の伊賀忍者の棟梁だったと伝わっている。そしてお前の言った通り触媒が──伊賀忍者の手裏剣が、パビリオンに展示されていた」

 

 

そこまで推理できていたからこそ、ここに来た。問いただすために。

 

 

「一応、確認だ。何のために聖杯戦争に参加している」

 

「それ聞く意味あるん? どうせ勝者は1人やに」

 

「……」

 

「ま、ええに。僕にも願いがある。関西圏の発展や」

 

「……本当に?」

 

「まあ、それ願うのが僕の仕事やでね」

 

 

目つきが険しくなったのが、狼我自身認識できた。

こいつは信用できない。直感が告げる。

意識が研ぎ澄まされるような感覚があって、余計に雨音が強く聞こえた。

 

 

「で、バーサーカーくれるんか? どや?」

 

「やるわけないだろ」

 

「そっか。あんたが自分で戦いたいってことなら、手ぇ組むってことでもええに」

 

「お断りだ」

 

 

頭の中に、美琴の顔が過る。きっと彼女は、アサシンとバーサーカーの交戦を望んでいない。言葉は濁していたが、顔を見ればそのくらい解る。

だが。

 

 

「これは日本のためになる願いなのになぁ。そやかて信用できやん?」

 

「……お前のことは信用できない。信用しない」

 

 

その言葉には嘘がある。何か、本心を隠している。

 

 

「俺は、(たくら)む奴は嫌いだ。つまりお前だ」

 

 

昔から。ずっと昔から。狼我はそうだった。

嘘。偽り。誤魔化し。取り繕い。全ての欺瞞を嫌悪している。

怒りがあり、それが頭の中を整え、結論を弾き出す。何故怒るのかは解らないが、やるべきことは解っている。

 

 

「俺がお前を倒す」

 

 

雨の勢いが、少しずつ強くなる。

 




「令呪を以て命ずる」

「覚悟を決めろ」

「我が身既に鉄なり」

「ダメ、パワーが足りてない!!」

「我が心既に空なり」

「俺は俺の望みを叶える。お前を倒す」


8話 アサシン天魔覆滅


「忍の任を解く。槍の神髄をここに」



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