万博聖杯戦争 2025 大阪・関西   作:ナニトゾ

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真名判明

関西パビリオンのアサシン
真名
服部半蔵正成

徳川家康に仕えた武将、徳川十六神将に数えられる1人。
家康から預けられた忍軍『伊賀衆』を指揮しており、工作や探査を行った記録が残っている。



8話 アサシン天魔覆滅

 

朝から降っていた雨は、その雨足を淡々と早め、既に結構な勢いになっていた。湿気った風が万博会場の植木を揺らし、木の葉が散る。散った木の葉は夜闇に紛れて、瞬く間に見えなくなった。

時刻は午後10時20分。関西パビリオンを早めに抜け出た狼我は傘を差したまま、コモンズDの外で待つ。

 

程なくして傘がもう1つ。ベンドレだ。既に実体化したライダーが、同じ傘に入っていた。

目が合うなり、狼我は告げる。

 

 

「今夜、アサシンと戦闘になる」

 

「……何故、わかる」

 

「俺がそう決めたからだ」

 

 

端的に、それだけ。

ベンドレは少し考えて、何かがあったのだろうとは察する。詳細を聞くには時間がなかった。

 

 

「どうするオッサン」

 

「……何を?」

 

「俺はバーサーカーと一緒に出るつもりだ。ライダーと、オッサンは、どうする」

 

「……同盟だろう、オレ達は。オマエに同行する。……いいなライダー」

 

「まー、いいけどさー。急だよ? ローガくん」

 

 

そう言われるが。

狼我は返事が出来ず、目を逸らす。

それと重なるように。

 

 

『事務局より連絡。全来場客の退去、及び一般スタッフの退去が完了しました。本日の夜明け予定は4時45分、聖杯戦争を開始してください』

 

 

美琴のアナウンスが、雨音に混じって聞こえてくる。

 

 

「覚悟を決めろ」

 

 

万博聖杯戦争 5日目 夜

 

 

コモンズDを出て、アサシン陣営と遭遇するまで、そう時間は掛からなかった。

別に待ち合わせをしていたわけではない。ただ、関西パビリオンに向かおうと歩んだそのルート上。一昨日にはセイバーとアサシンが戦っていたいのちパークに、今日もアサシンが立っていたというだけの話。

そう、来ることは解っていたとばかりに、いのちパークの広場の中央に、アサシンとそのマスター──佐藤住持は立っていた。

 

狼我と、視線が交差する。

 

 

「来たかい」

 

 

それだけ呟いて、住持は数歩後ずさる。続いてアサシンも。まるで、こちらに来いと言うような手振り。

誘いに応じて、数歩踏み出す。

 

バーサーカー陣営──基田狼我と太陽の塔。

ライダー陣営──ベンドレ・ウェドラオゴとプリンセス・イェネンガ。

 

並び立つ。相対するは、

 

アサシン陣営──佐藤住持と服部半蔵正成。

 

雨が降っている。風が吹いている。

狼我は傘が一瞬風に取られて、鬱陶しくて傘を閉じた。雨粒が首筋を埋めていく。ベンドレは横目で狼我を見て、少し迷ってからやはり傘を閉じた。住持は雨合羽を着ているようだった。

 

今から、始まる。静かな確信があった。

 

 

「まずは感謝を」

 

 

バーサーカーが口火を切る。

 

 

「アサシンのサーヴァントは、元来暗殺を得意とするもの。しかし今、マスターの暗殺を図らず、こうして正面に立っていることに、感謝する」

 

「……律儀やんな。せやけど、僕は出来やんことしとらんだけや。感謝されることはあらへん」

 

 

聞き届けて、そこまで応えて。

住持は右手を意味深げに構え、手の甲を見せる。令呪を見せる。前に立つアサシンへ視線を向ける。

 

 

「始めよか」

 

 

そして令呪が、赤熱する。

 

 

「令呪を以て命ずる──忍の任を解く。槍の神髄をここに」

 

 

その言葉ともに。

右手の令呪から光が抜け出て、力が、アサシンに流入する。その四肢に染み渡る。

受けて、アサシンは。

 

 

「我が身既に鉄なり、我が心既に空なり──」

 

 

静かに、呟くようにそう言って、ゆっくりと槍を構え直す。同時に。

忍装束が変質する。

 

布製の装束が令呪を受けて、金属の鎧を纏い始める。胴の装甲。肩の装甲。腰の装甲。覆い尽くすように、上書きするように。握っていた槍も、輝きを取り戻し。

 

 

「──天魔覆滅」

 

 

程なく、アサシンの変質が完了した。

 

狼我にとっては知る由もないが、魔術世界では霊基再臨と呼称される現象に近い。即ちサーヴァントの能力の上限を引き上げ、強化する行為。

アサシンの姿は、既に変貌している。忍の棟梁としての姿から、槍使いの猛将としての姿へと。

 

 

「調子は戻ったかい、アサシン」

 

「……」

 

「ん、ええ構えやね。上々ってとこか」

 

 

アサシンは動かない。しかしそれは単なる静止ではない。槍の切っ先を狼我らに向けて、動きを伺う臨戦態勢。降り注ぐ雨粒が、鎧に当たって散乱する。

その肩の向こうでは、住持が狼我を見ている。感情は伺いしれないが──狼我の動きを、待っている。

応えるように。

 

 

「俺は俺の望みを叶える。お前を倒す」

 

 

狼我は、その右手拳を握り込んでいた。アサシンの姿を見据えて、一言。

 

 

「バーサーカー」

 

「承った」

 

 

直後。

 

一気に踏み出すバーサーカー。勢いを付け、跳躍。飛び膝蹴りの構え。

アサシンは飛び退いて対応。バーサーカーの一撃を躱し、その勢いをそのままに、槍の穂先をバーサーカーへ。

突き刺す直前。

 

 

ヒョウの皮(ゴアグリーム)!!」

 

 

一言上がって、何かが穂先に割り込んだ。布状のそれが1枚、バーサーカーとの間に飛んできて、刺突が刺さるのを防ぐ。──それはヒョウの毛皮。

刺突が止まった、その一瞬で。

 

 

「跳ね飛ばす!!」

 

 

アサシンの真横から、白馬に乗ったライダーが突撃、衝突!! 馬脚は確かにアサシンの胴体を捉え、突撃の勢いで轢き転がす。

だが──確かに馬はアサシンを捉えたものの、アサシンは受け身を取り、すぐに立て直す。槍を長めに構え直し、ライダーの跨る白馬に一撃。

鋭い嘶き。首筋を貫かれた白馬は堪らず立ち上がり、そのまま姿を消す。飛び降りるライダー。

 

 

「っ、どうして!!」

 

 

バーサーカーを守ったヒョウの毛皮を羽織りながら、ライダーが顔を顰める。どうやら彼女のものだったらしい。彼女の視線の先、アサシンはまた姿勢を整えている。先程同様、待ちの姿勢。

ライダーは考える。カウンターをされるなら、カウンターの届かない攻撃なら通るはず。即ち遠距離攻撃、槍投げの一撃。

 

 

「なら、これで──

 

 

槍を、持ち直す。

 

刹那。

 

 

「隙あり」

 

「させない!!」

 

 

バチン、と、目の前で攻防。

 

即座に距離を詰めたアサシンの突きの一閃が、ライダーの肩を掠めている。目の前でバーサーカーが槍を掴んでいなければ、きっと胴を貫いていた。武器を持ち直すだけの、間隙の中での攻防。

 

バーサーカーは槍を掴んだまま、アサシンに蹴りを捩じ込む。しかしアサシンも空いた方の腕でそれを受け止め、身体を捻って引き剥がす。

大地を転げるバーサーカー。その身体をアサシンの視線が追い。

 

 

鉄の槍(キブガ)!!」

 

 

今度はアサシンの背後から、ライダーが己の槍を振り下ろす。察したアサシンは身を捩って回し蹴りの姿勢。槍の穂先を踵で受け止め、蹴り飛ばす。更に突きの追撃、今度はライダーが躱す。

驚くべきはアサシンの視野の広さか、精密な技術か、あるいは純粋な筋肉の馬力か。バーサーカーとライダーを相手取って、アサシンはまだ余力がある。

 

 

「ライダー……どうした……!!」

 

「ダメ、これ、アタシのパワーが足りてない!!」

 

 

ライダーが歯噛みした。彼女は後ずさりながらアサシンの槍を自らの槍で弾き、しかし攻勢には転じられず。

戦闘は出来ている。バーサーカーとの連携も出来ている。ライダーとて一流の戦士、技量としてはアサシンに引けを取ることはない。だが、もっと根本的なところで差が存在する。

スペックの差。即ち、万博聖杯戦争においては知名度補正。関西パビリオンは、常に予約で埋まる人気パビリオンであるが故。出力できる地力に、埋められない差が生まれているのだ。

 

ライダーは、後ずさり、後ずさり、カツン、と。

踵が、何かに触れた感覚があった。

背後を見る隙はないが、しかし、きっと何かの柱に触れた。

追い込まれている。

 

 

「バーサーカー!! 詰められるか!!」

 

 

狼我の言葉に応じて、バーサーカーが再び地面を蹴る。アサシンへ距離を詰めようとして、しかし、振り回される槍の切っ先に近づけない。

日本の槍とはそういうもの。一方的にリーチを確保し、周囲を近づけず、制圧するもの。槍投げを想定するライダーの槍とは属性が異なる。そういう意味では、いのちパークはアサシンにとって地の利があった。柱で囲われたこの広場は、ライダーが馬で走るには狭すぎる。

 

 

「駄目だマスター、アサシンは格段に、厄介になった!!」

 

「チッ、なんてことしやがった」

 

「まあな。アサシン──服部半蔵はそもそも忍者やのうて1人の武将。こっちの方が本職や」

 

 

言う間にも。

背中をいのちパークの柱に封じられたライダーは、その場でアサシンの槍を捌く。いや、捌ききれない。槍を弾き落とされ、拾い上げることは叶わず、姿勢を崩し、退避は叶わず。

 

アサシンの双眸は、ライダーの霊核(しんぞう)を捉えていて。

 

 

「お命頂戴する」

 

 

槍の穂先が定まり。

それを見ている狼我は息を呑み。

 

直後。

 

 

 

ズガ、と。

轟音。

 

何かが起きた。

 

視界が真っ白に染まる。耳の中が轟音で埋まる。衝撃波すらも感じて後退する。誰もがそうだった。

何かが起きた──何かが落ちた。

 

狼我の視界が、少しずつ回復する。耳鳴りの向こうに音が聞こえ始める。

 

目の前で、バーサーカーが立っている。

アサシンも、ライダーも、それを見ている。否、発生した衝撃を前に立ち尽くしている。

 

ようやく状況が見えてくる。

 

落雷だ。

 

バーサーカーに、雷が落ちた。寸分違わず、頭の部分、黄金の顔の鼻先に。

雨が降っていたのだ、雷が落ちること自体は不思議ではない、でもどうして今、バーサーカーに?

 

 

「そうか──避雷針!!」

 

 

刹那。

バーサーカーが電光と共に大地を蹴り、アサシンへ接近。槍の護りが止まった隙を突き、掌底を押し当て。

 

 

「『雷光の空間』!!」

 

 

閃光!!

 

まずは一筋、光が走る。宣言と共に光が走る。

バーサーカーの手の触れた先、アサシンの皮膚の表面で。

光が、光が、光が走る。

弾けるそれは全て雷光。バーサーカーの頭に落ちた、雷そのもの。何千キロワットものエネルギーが、バーサーカー越しに押し付けられる。

 

狼我は後に知ることであるが。

1970年の大阪万博、そのパビリオン『太陽の塔』には、いくつかの展示ゾーンが存在した。例えば、生命誕生のその前、物質だけが存在していた世界を表す『カオスの道』。あるいは、DNAの二重らせんなど、生命を形作るものを表す『いのちの空間』。他にもいくつかあるのだが。

 

『雷光の空間』というものがあった。それは物質だけの世界に降り注いだ雷。化学反応を誘発させ、生命のはじまりへと導いた光。稲妻が、常に太陽の塔の内部にはあったのである。

 

ならばこそ。

太陽の塔に雷が落ちたのならば。

それを、太陽の塔が扱えない道理はない!!

 

 

「はああああっ!!」

 

「っが、な──」

 

 

通電、通電、通電!! アサシンは踏ん張り、目を見張り。生物が元来想定していない落雷のエネルギーを受けてなお、意識を保ったまま。だがしかし。

持っていた槍を、取り落とす。

 

カラン、軽い音。

 

 

「今だ、ライダー!!」

 

「わかってる、マスター!! 令呪ちょうだい!!」

 

 

閃光のその向こう側で。体勢を立て直していたライダーが、既に白馬に跨っている。適切に距離を取り、槍を構えて、指示を待つ。

ベンドレの声が、届く。

 

 

「……令呪をもって、ライダーに命ずる……」

 

 

剥き出しの右手。ベンドレに刻まれた令呪を構成する3つの赤、その1つが、光とともに熱を帯びる。

令呪、即ちマスターの絶対的命令権。スペック差をも逆転させ得る、エネルギーの塊。それが。

 

 

「ブルキナファソの力を示せ」

 

「任せて!!」

 

 

言葉ともに流入する。ライダーの握る槍、その先端へと。ライダーは白馬に跨ったまま、槍を投げる姿勢で構え。

 

 

「我が父、ネデガ王より賜りし、我らが王威。即ち、金の鞍。鉄の槍。ヒョウの皮。ここに揃い、故に!!」

 

 

詠唱。それと共に、彼女が所持する3つの物品が光り輝く。白馬に着いた金の鞍。今構えている鉄の槍。肩に羽織ったヒョウの皮。それは全て宝具。

聖杯戦争において、ライダーというクラスは宝具を多く持ち込む傾向にある。しかし彼女の場合は特別だ。

 

 

「故に我こそ正統王(モロ・ナーバ)!! 三位一体の王権に、今もなお陰りなし!!」

 

 

彼女の持ち込んだ宝具の1つは、3つで1つの複合宝具。3つが揃うことで、王の威光を証明するもの。正統なる王の身体を、理想的な状態へ強化する宝具。

今、ブルキナファソ建国女王のその槍が──アサシンに狙いを定め。

 

 

「バーサーカー!!」

 

「解っている」

 

 

バーサーカー、とん、と軽くアサシンを突き飛ばし、その場を退避。

アサシンは未だ雷に打たれ続けており、身動きはままならず。

 

ライダーは既に、その手の槍の軌道を見定めた。

 

 

「我が敵、尽く沈め──『王統示すは三つの威光(ソンドレヤンガ・キブガ・ゴアグリーム)』!!」

 

 

投擲──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──貫通!!

 

一瞬の残像と、着弾の音があって。

 

その瞬間に勝負は着いていた。

アサシンの胴体には空洞が開き、その先に鉄の槍が突き立っている。霊核(しんぞう)を貫く一撃だったことは、言うまでもない。

 

 

「やった!!」

 

 

ライダーの口から喜びが漏れる。

しかしアサシンも、まだ体が動くようで。踵を返し、1歩、1歩。住持へ歩み寄る。

 

 

「……主殿」

 

「お疲れさま。これで仕事は終いや。ようやってくれたに、感謝しとる」

 

「…………これにて、御免」

 

 

その会話だけは、アサシンの意地だった。

最後の力を使い果たし、その身は立ったまま、光の粒に分解される。雨粒が、削るようにその身を打ち付け。程なくして、アサシンの身体は崩壊する。

 

アサシンが、敗北した。

 

その消滅を見送って、住持は顔を上げる。視線の先には狼我とバーサーカー。既に彼の右手からは、手裏剣型の令呪の痕跡は消えつつある。

 

 

「いやあ、派手にやられたなぁ。やっぱり強いや、バーサーカー」

 

「……運が良かっただけだ、俺は。雷が落ちなけりゃ負けていた」

 

 

少し、沈黙が流れた。遠くの方で、また雷の音がした。

この雨はきっと、明日の朝には止むだろう。

 

 

「じゃ、僕の仕事もこれで終わりか」

 

 

住持はそう言い、狼我らに背を向ける。歩き出す背中は、負けたにしては真っ直ぐで。

その背中に、狼我は呼び掛ける。

 

 

「これからどうするんだ」

 

「決まっとるやろう、県庁に報告や」

 

 

背中は止まらず、遠のくばかり。遠のいて、遠のいて、どこかの角で曲がって、見えなくなって。

 

これで、まずは1人。

 




「なんで勝手にアサシンを倒した?」

「文句言われる筋合いはねえ」

「アーチャーについて調べて」

「アーチャーにマスターはいない」

「あんたがもう1人の監督役か」

「もっと面白い展開を」


9話 バンダイナムコの聖杯興業


「監督役からのありがたい指令(ミッション)だ。アーチャーを討伐しろ」



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